EP.06 勇者とは戦いたくない -side Arc-
「ははは……大した事ねぇな」
黒髪で中分にしており耳が隠れるくらいの長さの男が下卑た笑いをし、先に布陣していた俺の仲間を火炙りにして嬲っていた。
俺は司令室で状況確認していたから、遅れて来てしまった。
「流石蓮司さんだ」
取り巻きらしき黒髪でボウズ頭の男が、レンジと呼ばれた男を褒め称える。恐らくこいつらは勇者なのだろう。
勇者レンジって奴の能力は炎を操れる事のようだ。魔法名破棄で魔法を繰り出せるようなものなので、侮れない。
ただ、能力をひけらかすのは愚の極み。所詮は召喚されたばかりと言う事だろう……。
ちなみに仲間は燃え盛り、服がなくなっているが命はあるようだ。やはり人殺しを忌避しているのだろう……。
「次はお前だ女。ははは……服を燃やしてやるよ」
下卑た笑いを深める。
人殺しを忌避しているが、女を辱める事は忌避していないのか。最低のクズだな。
「待て! 俺が相手になってやるよ」
そう言って止めに入る。
流石に目の前で裸体を晒されるのを黙って見てるのは忍びないからな。
「何だ? ヒーロー気取りっすか?」
黒髪ボウズ頭がそう言いだす。
他にも取り巻きらしき奴がいるが、こっちは黒髪で長髪。長さは首の辺りまである。
更にもう一人 、こっちも勇者なのか?
一人 だけ金髪で髪に目に掛からない程度の長さでそのまま垂らしている奴がいる。
「ひぃろぉ? 知らん言葉だ」
「英語が通じないないんっすか、バカが。勇者って意味っすよ」
英語?
お前達の世界の言葉なんて知る訳ないだろ。バカはお前だ。
って勇者って……、
「それお前らの事だろ? えっと、ひぃろぉ?」
「あ……」
アホだ。
「お前は黙ってろ。どっちがバカか分かりゃ知れん」
「すいやせん、蓮司さん」
「じゃあ今の言葉に合わせてやるか。勇者気取りのおマヌケさん。相手してやるよ」
炎使いの勇者レンジがそう言うや否や、掌に炎を展開する。
「ははは……本物の勇者の力を見せてやるよ」
その炎を飛ばして来る。まだ能力に目覚めて浅いのだろう。下位火炎並みの威力しかない
「<下位火炎魔法>」
それなら此方は下位火炎魔法を放ち相殺させる。
「なん……だと? おいお前! 今何をしたーっ!?」
勇者レンジが激高し出す。何をしたって……、
「下位火炎魔法を使っただけだけど?」
「お前も炎の能力を手に入れたのか? って事は勇者気取りではなく、勇者そのものか?」
「は? 何言ってるんだ? この世界には魔法があるんだぞ。そんな常識も知らんのか?」
「生意気なー。こっちは四人いるんだぞ。人数差で勝てると思ってるのか」
まぁ確かに他の勇者らしき奴らやデビルス兵は俺の同僚達と戦っているし俺一人 しかいない。だがな……、
「いいや、あと二人いる」
そう言って振り返ると後ろから遅れて二人の同僚がやって来た。
「ちっ! 増えやがった」
「蓮司さん、俺が相手するっす」
「じゃあ僕も」
そう言って取り巻きらしきボウズと長髪が同僚に向かって行った。これで一対二。
まぁ四人相手でも、まだ能力を使いこなせていない時点で問題ないけどな。
「おい、さっきのが俺の実力だと思ってるのか?」
勇者レンジが何か勇んでるな。
下位火炎魔法クラス以上の事ができるのか? なら中位?
どっちにしても俺の敵ではないな。
「我が炎に抱かれて死ね」
うわっ! 格好良い事言ってるつもりなのか?痛すぎるぞ。
勇者レンジは、そう言うや否や両掌から炎を出し始めた。
それを連続発射。掌から解き放ったと思ったら次の炎が掌に装填され次々に発射させたのだ。
「オラオラ……」
俺は対処する為にバックステップを踏み距離を取る。
<雷をも焼き尽くす爆炎となりて我に力を与え賜え……中位火炎魔法>
短縮魔法名で中位火炎魔法を繰り出す。
師匠は雷系も扱えるが俺には扱えない。しかし、師匠にも扱えない中位火炎魔法を俺は扱える。火炎の才があると言われた。
訓練すれば上位も扱えるかもしれないとも。尤も師匠の真似をして魔法剣を極めたいので興味はないが。
「なんだそれはーーー!?」
勇者レンジが繰り出した全ての炎が、二回りは大きい俺の炎に吞み込まれて行く。
そして、そのまま勇者レンジを襲い、勇者レンジはへたり込み尻餅を付く。
「はっ!」
「マーク?」
しかし、マークと呼ばれた者が、俺の中位火炎魔法を斬り咲く。
「なるほど。そっちは魔法剣か」
魔法名破棄していたし、こいつも勇者なのかもな。
その勇者マークの持つ大剣に氷が纏っていた。
「はぁ……っ!!」
そのまま勇者マークは俺に向かって突進して来た。そして、振るう斬撃を俺は躱す。
剣の腕はお粗末だが、あれはヤバイ。恐らく掠っただけで、俺の体は凍り付くだろう。
勇者レンジより良い能力を持っているな。
なのに何で勇者レンジなんかの取り巻きっぽい事をやっているのだ?
いや、一緒にいただけで取り巻きとは限らないか。
「はっ!」
勇者マークが次々に斬撃を繰り出す。
と言うよりも剣に振られてるな。剣を振ってる感じではない。そんなんで良く大剣を使うよな。普通の剣にしろよ。
だが、だからこそ、どんな動きをするか予想出来ないからタチが悪い。
例えばまともに剣を振れないから安心していたら、躓いてつんのめり、そのまま俺の方へ来たりとか。
訓練された兵ならまずあり得ない事。だからこそ、ある意味怖い
「<下位火炎魔法>」
よってこっちも魔法剣を繰り出す。
剣に炎を帯びさせ勇者マークの剣を防ぐ。
「なっ! 炎を飛ばす能力だけでなく魔法剣扱える能力得ているのか? チートじゃねぇか?」
後ろで勇者がレンジがそう叫ぶと同時に勇者マークが下がる。
ちぃと? また意味の分からん事を……。
まぁともかく下がったなら炎の斬撃を飛ばすだけだ。
「<火炎斬っ!>」
「えっ! 何で飛ばせるんだよ?」
「俺に任せろ」
今度は勇者レンジが前に飛び出て炎を掌から出し飛ばす。
そんなチンケな炎で相殺できると思ってるのか?
「ぐはっ!」
予想通りと言うかなんと言うか。
勇者レンジの腹部を炎の斬撃で斬り咲く。だが、浅いな。多少は相殺されたか。
「よくも蓮司を……ユーに出来るって事はミーにも出来る筈だ!」
みぃ? ゆぅ? 頼むから異世界の言葉を使わないでくれよ。
今度は勇者マークが前に出る。そして氷ではなく、今度は炎を剣に纏わせている。
それを振るい炎の斬撃を飛ばす。俺の真似をしたか。だが、所詮は付け焼刃。
「はっ!」
魔法剣をするまでもなく斬り咲いた。
「ば、バケモノーーっ!!」
そう叫んだ勇者レンジに勇者マークが肩を貸し逃げて始めた。
俺が化物なら師匠は、どうなるんだよ?
それはともかく追い掛けて始末するか。今後成長されると面倒だ。
「逃がすか!」
しかし、追い掛けようとしたとこをデビルス兵二人が阻む。
「ちっ!」
その二人をあっさり倒すが今更追い掛けても自陣を大きく離れる事になる。
独断専行をする訳にはいかないからな。いつの間にか同僚が相手にしていた勇者も撤退したようだ。