EP.05 勇者の噂なんて聞きたくない -side Arc-
翌朝、北の砦の一室のベッドで目覚める。奪還したは良いが、いつまた取り返されるか分からない。よって暫く滞在する事になる。
また状況を見てカルラ城を取り返す為に動かないといけない。このままだとゼフィラク城に帰れそうにないな。
尤も故郷のメーラク村じゃないと帰った気がしないので問題ないけど……。
「すーすー」
隣で寝息を立ててる裸の女は同じ騎士団に所属するリースだ。
緑髪で戦いやすいように耳に掛からない程度に切り揃えている。
騎士団に入った頃、敵兵を殺しまくった。それこそ何人、何十人と。不快だった。
一人殺しただけで、そう感じるのだから何十人と殺して行くと気が狂いそうだった。
そこで女を抱けば幾分マシになった。このリースも似たようもので、今でも体だけの関係が続いている。
「ん~」
リースの頬を撫でると身じろぎして、やがて目を覚めた。
「んんふは~~おはよ。アーク」
口を手で隠し大きな欠伸をすると俺に声を掛けて来た。
「ああ。おはよ」
そう答えながら手が、ついつい手がリースの女性らしいふくらみに向かう。
Cくらいで、大して大きくはないが……。
「ちょっと! 朝から何してるんだい?」
「いたっ!」
リースに手の甲をつねられる。
「少しだけだから」
「少しだけで止まれるの?」
「止まれなかったらその時はその時だ。嫌か?」
「もう好きにしな」
渋々だがお許しが出ので、硬くなったとこを転がす。
「変な声出ちゃうから、いきなり先っぽは止めて」
「いつも聞かれているし今更だろ」
そう言いつつ激しくして行く。
「もうおしまい!」
リースの言葉に怒気が孕みだした。やり過ぎたようだ。
リースはもうおしまいと言うのを態度でも示し、裸体を隠しもせず立ち上がった。
「その気になっちゃうから?」
「バカな事言ってないで、あんたも着替えな」
リースは身支度を始める。
俺も裸だし、同じく身支度を始めた。
今日いきなり北の砦を奪い返しに来るとは思えないが、念の為に準備は入念に行う。準備を済ますと別々に部屋を出る。
他の兵に知られないようにする為ではない。そもそも他の兵から俺達の関係はバレている。
なら、何故別々に出るかと言えば、結局俺達は都合の良い関係なのだ。
ベッドでしか語り合わず、それ以外では、ただの同僚だ。
先にリースが出て、その後、俺が出ると食堂に向かった。当然ながらリースが先に来ており座って朝食を摂っている。
俺も離れたとこに座る。俺達の関係は淡泊であり、作戦で同じチームにでもならないと話す事は滅多にない。
だが、部屋は暗黙の了解のように同じとこ使い寝るようにしていた。
さて、結果から言えば攻めて来なかった。不穏な事に二週間何も起こらなかったのだ。
こっちからカルラ城に攻めると言う話もあったが、この砦に攻めて来たとこを叩き戦力が削がれたとこを攻め込むと言う話に落ち着いていた。
あまりに静か過ぎるので、罠を張って待ち構えてるのでないかと予想されたからだ。
なので、師匠との訓練以外は、のんびり北の砦で過ごせた。夜は当然、都合の良い女であるリースを貪り尽くす。
リースも俺と同じく不安に感じてるのが分かる。故に毎日体を許してるのだろう。
「ねぇ……大丈夫かな?」
一度致した後、続けてついばむように口付けをしていたら、リースの口から遂に不安が漏れた。
二週間経って遂に言ったのだ。
「何が?」
予想はついているが、違っていたら恥ずかしいし一応聞いてみる。
「二週間何もないんだよ? やっぱりカルラ城に攻め込むべきでは?」
「攻め込むべきと此方に思わせ罠を張っている、と言う話になったのでは?」
「そうなんだけど……ちょっと不穏な噂を聞いっちゃってさ」
「噂?」
「勇者召喚されたんだって」
「なん……だと?」
デビルスの奴らどこまで腐っているんだ。
勇者召喚は帰す事が出来ないって事で禁忌とされた。それをやるとはますます許せんな。
それに勇者達は、一度に呼べるの人数は多いし何かしらの能力が得られ、一件強力そうに思える。
だが、平和な時代に生きてた人達だけはあり人殺しを忌避してる。結果、役に立つの数人しか残らないと言う。
昔、勇者召喚をし人数ばっかいて役に立たないので、最初は肉壁として使い、生き残ったのを重宝したらしい。
となるとこの二週間はデビルスから、その肉壁を連れて来ているのではないだろうか?
「やり辛いな」
俺はポツリ呟いてしまう。
「やっぱ特殊な能力が厄介だから?」
「いや、人殺しを忌避としてる連中と殺り合うのがだ。それに初期は肉壁として扱うらしいから余計に、な」
「そうね。昔の人はそう言う扱いをしたって聞く……でも現代でもやるかな?」
「デビルスだぞ?」
「あ……」
リースも俺も溜息を溢し黙り込んでしまう。
あの国は何を考えているのか分からない。何故カルラ城を陥としたのか未だに不明だ。
大陸制覇を目論んでいるのか? それなら経済面や政治面で制覇すれば良いだろ、と思う。
戦争なんて馬鹿らしいのを五年も続けて何になる? あ~堂々巡りだな。
たまにこれを考えてしまうが、いつも堂々巡りで辟易としてしまう。
そんな事を考えるよりも……。
いや、今だけは余計な事全て忘れてやる事があるだろ。
と言うか、そもそも余計な事を考えないようにする為に俺等は、都合の良い関係を続けているのだから。
俺はリースの女性らしいふくらみに手を伸ばす。
「考えても仕方ないだろ? 考えないで済むように俺がいるんだ。違うか?」
「……そうね」
「にしても小さいよな」
「プチっ!」
いやいや、切れる擬音を口で言うか?
「ふん!」
枕でぶん殴られた。
「その小さいので愉しんでるの誰よ?」
めっちゃ怒気を孕んでるな。
「そうそう。そうやって余計な事は今だけは忘れようぜ」
「そうね。ただ私が戦死したらどうするのかしらね? 次の相手はいるのかな~?」
うわ! 仕返しと言わんばかりに悪戯な笑みで問い掛けて来た。
「そうならないように生きてくれよ? 近くにいるなら何が何でも助けてやるから」
「ふふふ……期待してる」
リースが柔らく笑う。
うんうん。その調子で考え過ぎないようにしないとね。ただ……さっきの言葉は不吉だから止めて欲しかったな。
そんな訳で、そこから三回は致して二人で眠りにつく。
そうして次の日、デビルスが攻めて来た。
起き抜けに攻めて来られ、慌てて身支度を行い司令室に向かう。
「厄介な事になった」
司令官が唸るように声を絞り出す。
「勇者どもが来た……勇者召喚の噂は、本当だったか」
「司令、それでどうしますか?」
同僚が問い掛ける。
「殺るしかないだろ。人数が多いって事は呼ばれたばかり。恐らく肉壁として用意したのだろう。生き残った少数じゃなく良かったと言うべきか」
勇者の中に生き残る数人がいる。
生き残ってしまい、他の仲間が死んだ事でビビって逃げ出す連中は問題ない。
しかし、それでも戦う勇者達は手に入れた力を使いこなし始め厄介な相手となる。
故に少数じゃなく良かったと指揮官は言ってるのだ。それに生き残った少数は人殺しの覚悟が出来ている。
いや、元々ネジが飛んでる奴って可能性もあるが。
「恐らく戦いを忌避していますぞ」
同僚の声が上がる。正にその通りだ。
「うむ……それでもやるしかない。あんな横暴を働いたデビルスを打ち倒さなければならない。故に心は痛むが向かって来る者は倒せ!」
「「「「はっ!」」」」
一斉に応えた。
「では出陣るぞ! せっかく北の砦を奪還できたのだ。死守するぞ」
「「「「はっ!」」」」
こうして俺達は勇者達と戦う事になった……。