EP.19 君の笑顔が一番の報酬 (三)
アークと名乗る男の崖を降りる手並みには思わず感嘆してしまう。
ここに来た時、エドワードはどっかの冒険家ではないのだぞと思ってしまったが、その冒険家ですらロッククライミングで降りて行くだろう
なのにアークは、10cmくらいしか飛び出ていない足場を使い降りたのだ。
エドワードは感心し、驚き、それと同時に既視感を覚える。その後の投擲の正確さもそうだ。
そしてローズバトラーの蔦での攻撃を事前に察知。
ここまで来ると確信に変わる。アークは彼だと……。
しかし、今はそれを追求している場合ではない。
「こいつはローズバトラー!?……厄介な!」
とエドワードは吐き捨てるように言う。
「ローズバトラー?」
アークが聞き返して来るがその刹那……、
ヒューン! ヒューン! ヒューン!
次から次へと蔦の攻撃が飛んで来た。私達はそれを躱すが次から次へと飛んで来る。
「フッ…」
アークが消える。いやそう見える速さで動いた。次に瞬間、蔦が何本か切断されていた。
おそらく両手に持つ短剣で蔦を一瞬で斬り裂いたのだろう。
良い動きではあるが……、
「無駄だ!」
このローズバトラーには、そんな攻撃通用しない。
「な、何!?」
アークが驚く。
無理もない、なんせ斬られて切断面から即座に再生するのだから。そしてこのモンスターは、ラフラカとの決戦後に現れるようになった。それ故にアークは知らない。
ヒューン! ヒューン! ヒューン!
再び蔦による攻撃。蔦は10本は、あるので連続攻撃が激しい。
「こいつは斬られても直ぐ再生する」
「倒し方は?」
アークが聞いてくる。
「本体にある核を砕けば倒せるがこの状態では懐へ行けない」
蔦による攻撃を躱し続けながら私達は会話を続ける。
「だったら、俺が一気に蔦を全て処理する。お前は再生する前にトドメを刺せ!」
アークが無茶な事を。
「そんな事できるのか?」
エドワードの問いに行動で答えるかのように懐に手を入れ、何かをローズバトラーに投げ込んだ。
シュシュシュシュシュシュ……っ!!
風を切る音が響く。取り出したのは手裏剣か?
否 木を鋭利に加工したものだ。形はバラバラで歪だが、アークの投擲技術があれば余りある。
スバスバスバーンっと斬り咲かれる音が洞窟に木霊すると蔦が一辺に落ちた。
「ならっ!」
見惚れている場合ではないな。そう思いエドワードは背中に抱えていたチェーンソーを掴み構える。
勿論これもフィックスの科学作り出したものだ。対魔物用に仕上げている。
そしてエドワードは蔦が再生する一瞬の隙を付き……、
ジュィィィィィィっ!!
チェンソーを核があるドテっ腹に刺し込んだ。核さえ潰せば……!
「ごぉぉぉぉぉ……っ!」
ローズバトラーが断末魔の叫びと共に崩れ落ち灰に変わる。これで依頼は完了だろう。
洞窟から魔物が溢れる場合、大抵ボスモンスターを倒せば済む。だが念の為に他に魔物がいないか調べつつ洞窟を脱出した。
「依頼完了だ……ところでアークはこれからどうするんだ?」
エドワードは、何気無く聞いてみた。
「……次の依頼をするまでだ」
「ならエド城に行きな」
エドだからってエドワードの城ではない。東にある城であり、この地域の領主に当たる城だ。つまりこの辺はエド領ってわけだ。
「エド城?」
「ああ、あそこで今、傭兵を探してるらしい」
「だが移動手段が……」
確かにラフラカが引き起こしたカタストロフィで大陸が分断され、船も出ていなかった。
だが今は違う。アークが彼なら知らなくて当然。エドワードの勘では彼はしばらく動けない程の大怪我だったのだろう。
「それなら心配ない。ニールの東にエド城に向けた橋が架けられたんだ」
「……そうか。なら行ってみる」
そういった話をしてると港町ニールに着いていた。
「直ぐに向かうなら私が依頼金を立て替えておこう。いくらだ?」
「……40000Gだったが前金で10000G貰ってる」
「なら30000Gだな」
エドワードは懐からお金を出しアークに渡す。
「……世話になった」
というとアークは東に向けて歩き出した。
「またなダーク」
「……気付いていたのか?」
アークの灰色の双眸が揺れる。何故気付いたんだ、と雄弁に語っている眼差しだ。
「昔、共に戦った仲間だろ?」
エドワードが軽くウインクした。
「フッ…」
アークが微笑を漏らす。
「あの後、ダークがいないのに気付いてみんな心配していたんだぞ。だが無事で良かった」
「……」
アークは何も答えない。
「あまり生きていた事が好ましくないようだな」
「ああ……あの時、俺は死を選んだ。だが生きながらえてしまった」
「まあ、お前の命だから私がとやかく言う資格はない。あえて言うなら、せっかく生きながら得た命だ。何か意味があったんじゃないか? それを探すのも悪くない。そう思わないか?」
「ああ…そうだな」
「それに今のお前はアークだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「……ああ」
「じゃ、気を付けてな」
「……ああ」
こうしてエドワード達は別れた。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「魔物退治して来た」
アークと別れたエドワードは酒場に報告をしに来た
「本当ですか? エドワードさん」
給仕の女が顔をはずます。
「ああ」
「そいつは助かったぜ。じゃあ報酬だ」
とバーテンダーがお金を差し出してくる。
「では有難く……あれ? 報酬は40000Gと聞いていたんだけど多くないです?」
「60000Gだ。ほら」
酒場に張られた報酬60000Gと書かれたチラシを指差す。ダークは、最初に言った通りの分配にしていた。
ったく相変わらず変なとこ律儀なんだから。エドワードは胸中ごちってしまう。
「にしても、あのナイフ投げのにーちゃんは、やっぱトンズラしたな」
バーテンダーがぼやく。それダークだよな? エドワードは内心首を傾げる。
「いえ、違いますよ。彼は私と一緒に討伐したんです。それと彼から前金の話は聞いてます。私が報酬は立て替えたので10000Gはお返しします」
「おーそうか。顔を見せずにいっちまったのか」
「彼、急いでいたので」
「ん? 待てよ? お前さんさっき報酬は40000Gじゃないのかって聞いてきたよな? って事はふっかけられたか?」
「いえ、最初彼と組む時に言って来たのです。2/3貰うと……それで私は報酬は全て君にあげると言ったのですが、彼は律儀に40000Gと言って来たのですよ」
仲間だしな。これくらいのフォローをしないと、とエドワード思った。
「それ、お前さんのが律儀じゃねぇか? 報酬いらないって……ま、良いや。なんにせよ、これで安心だ」
バーテンダーが飽きれた眼差しで見て来た。エドワードは別に目当ての報酬があったから律儀でも何でもないんだがなと肩を竦めてしまう。
「エドワードさん、依頼を受けて頂きありがとうございました」
給仕の女が花が咲いたような満面な笑みで頭を垂れる。
「いえいえ、レディの美しいお顔が霞むとなれば」
「まあまたエドワードさんったら。ところで何故報酬をいらないと?」
「君の笑顔が一番の報酬だからさ」
そうエドワードは最初から給仕の女の笑った顔が見たかっただけだったのだ。
それが私に取って一番の報酬さ、と言わんばかりに……。