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EP.04 何の感慨も無い -side Arc-

 仕留めた獲物は村に配り一部そのまま持ち帰る毎日の繰り返しだ。毎日同じ事の繰り返しで退屈だなーと、いつも思っていた。

 しかし、俺が二十歳になったある日、様子が違った。


「あれは……?」


 いつものように狩りに行っていたら、村から煙が上がるのに気付いた。

 捕らえた獲物を放り出し慌てて村に戻った。

 村のあちこちで火の手が上がっている。一体何が起きてるのだ?

 やがてシトリーがおろおろしているのが目に入り声を掛ける。


「シトリー、何が起きている?」

「分からないよー。突然武装した人達が攻めて来たのー」

「どっちから来たか分かるか?」

「たぶん北ー」

「そうか……じゃあ逃げるぞ」


 そう言うや否やシトリーの手を引きゼフィラク国を目指して走り出す。


挿絵(By みてみん)


 此処はカルラ国の領土で、武装した連中は、後で知ったがデビルス兵だ。そのデビルス兵が北から来たって事はカルラ城は陥とされたって事だろう……。

 俺達は必至に走り続けた。気付けば後ろからデビルス兵が追って来てる。捕まる訳には行かない。

 だから必死に逃げたのだが、そのせいで俺は気付いていなかった。シトリーの体力は限界だった事に……。


「きゃ!」


 シトリーが足をもつれさせて転んでしまう。


「シトリーっ!」


 叫んで駆け寄ろうとするが遅かった。

 追って来たデビルス兵が剣を振り下ろしシトリーが斬り咲かれていた。


「あ、ーク」


 そうして息を引き取った。一瞬の事だ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 俺は叫び狩りでいつも持ち出す短剣を抜きデタラメに振り回す。


 グサっ!


 それによりシトリーを殺したデビルス兵の一人を突き刺す。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 それでも俺は止まらず剣を振り回す。

 シトリーを殺された怒り、悲しみ、自分が初めて殺してしまった嫌悪感。色んな感情がごちゃ混ぜになり、訳分かんなくなっていたが、ただただ短剣を振り回す。


「ちっ! 鬱陶しい」


 カーンっ!


 そんな剣じゃ通用しなくデビルス兵に弾かれ短剣を手放してしまう。


「よくも仲間を殺ってくれたな。死ねや」


 デビルス兵に剣を振り下ろされる。ああ、これで俺も死ぬんだ。

 思えば何が退屈だなーだ。平穏が一番じゃないか。俺は何を贅沢言っていたんだ。

 望んだ刺激はこんなじゃねぇ。


 プッシューンっ!


 デビルス兵の刃が届く前にデビルス兵が斬られていた。斬ったのは紅い長髪の男。

 血で染めたような紅い剣を持っている。その剣の返しの刃で次のデビルス兵を斬る。

 はっきり言って見えない。それくらい速い。

 何人かいたデビルス兵は、そのたった一人 の男に皆殺しにされていた……。

 その男の名はゼフィロス。ゼフィラク国で雇われている傭兵で、たまたま通り掛かったらしい。

 俺はその人に弟子にしてくれと頼み込んだ。

 村を襲った、何より幼馴染のシトリーを殺したデビルス国が許せない。復讐してやりたいが俺には力がない。だから、ひたすら頼み込んだ。

 その甲斐あって、渋々弟子にしてくれた。

 その後、デビルスに復讐してやるにはゼフィラク国の騎士団に入るのが手っ取り早いと考え、入団した……。


 五年掛かったが北の砦を奪還し、やっとデビルスに復讐できる第一歩を踏んだ。まだまだ先が長い。

 そう考えると何の感慨も沸く事はなかった……。


「アーク、無事か?」


 砦を奪還して直ぐに師匠に声を掛けられた。師匠は別働隊で戦っていたのだ。

 当然ながら無傷。流石だ。

 それに引き換え、俺はあっちこっちにいつ付いたのか無数の斬り傷があった。


「はい。ゼフィロスさんも無事で何よりです」

「ああ……では、行くぞ」


 師匠は口数が少ない。

 最初は何を考えているのかまったく分からかった。今なら、少し分かる。師匠は、たぶん鍛錬に行くぞと言ってるのだ。

 しかし、容赦がないな~。砦を制圧した直ぐだぞ。俺も疲弊している。

 だが、そう言う時こそ鍛えると体が全回復した時に、より強靭な力が手に入るとか。とまぁそんな訳で師匠の後を追い北の砦の中庭に出た。

 そこで向かい合う。それも訓練用の木剣ではなく真剣だ。マジで容赦がない。


「まずは、小手調べだ」


 そう言って師匠が消える。

 これはそれだけ速いと言う訳ではない。

 意識外からの攻撃、つまり死角から攻撃を仕掛けて来ているのだ。未だ俺にはこれが出来ない。

 しかし、いくら死角を突こうが、散々師匠の揉まれた俺は気配で分かる。


 ギーンっ!


 結果、師匠の剣を受ける。

 この死角に突く動きは、気配察知に長けた者なら通じない。しかし、それはあくまで初撃。

 それ以降は小手先の業ではなく実力が示される。

 とは言うものの俺に出来ない事なので、受ける側として知っておくべきものでしかない。


 カーンっ! キーンっ! カーンっ!


 師匠の攻撃を次々に防ぐ。

 まるで鉄火場のように火花を散らす。

 剣戟がいつまでも続くのではないかと、もし見てる者がいればそう思わせるだろう。実際何十合と打ち合っている。

 いや、正確には師匠の剣を全て防いでる。つまり防戦一方なのだ。


「はぁはぁ……」


 次第に俺の息が切れ始める。

 最初の一合は、単純な一撃を振るっただけ。

 しかし、それ以降は速い剣技、それでいて見極めるのが困難な曲線を描く剣線。その起動を読み防ぐのは至難の業。

 故に全て防いではいるが、疲弊してるのは此方だ。


「フッ……少しは成長したな」


 師匠が薄っすら笑う。


「なら、もう一段階上げるぞ」


 師匠がそう言うや否や剣筋が恐ろしく速くなった。

 上段から斬り下ろされるのが分かり、なんとか防ごうとした。


 カツっ!


 ショボい音を鳴らし起動をズラし、なんとか受け流した感じだ。いや、防ごうとしてこの結果なのだから、俺もまだまだだ。

 そして返しの刃、左に流れた師匠の剣が戻って来た。それは蛇が俺の剣に巻き付くような感じで、俺の剣を弾き飛ばした。

 曲線の剣技を高めれば、蛇のように絡み付いたと思わせられる。なんとも恐ろしい剣技。

 俺もゼフィロスさんを師匠にしてる以上、そう出来るようにしたい。そう思いながら、弾かれた剣を拾い正眼で構えた。


「もう一本お願いします」


 そもそも師匠の速さ付いて行くのは無理だろう……。

 師匠は片手持ちだが、俺は両手持ちだ。最初は師匠を真似て片手持ちをしたが、師匠に止めろと言われてしまう。

 片手持ちなら速い剣線を繰り出せるし変則的な業も繰り出せる。しかし、素人には向かない。安定性がないのだ。

 よって、師匠に最初に教えられたのは、両手で確り持ち、どんな重い一撃が来て耐える事。

 そして、耐え続ければ必ず隙が出来る。そこを突く。それが出来れば強者とも渡り合えると言われた。

 故に俺はそれを忠実に守り、両手でガッシリ掴み構えた。


「<下位稲妻魔法(ライ)>」


 師匠が下位稲妻魔法(ライ)を使った。靁鳳の太刀か。なら……、


「<下位火炎魔法(ファイ)>」


 下位火炎魔法(ファイ)を唱えた。

 残念ながら俺には雷系の資質がなかったのか火炎しか魔法が使えない。


「<靁鳳の太刀>よ」

「<火炎斬>」


 師匠は雷系の魔法剣を『靁鳳の太刀よ』と、呼ぶ。

 その靁鳳の太刀が此方向かって飛び、同じく俺の炎の斬撃が師匠に向かって飛ぶ。

 そして、お互いの魔法剣がぶつかった。しかし、師匠のが優れていたのだろう。俺の火炎斬を食い破る。

 俺は火炎斬を出したばかりで、剣を振り下ろしたとこで硬直しており当たってしまう。

 しかし火炎斬で威力は抑えられているので、ダメージはほとんどない。

 よし! それなら雷と炎がぶるかり煙が上がって視界が悪い中に突っ込み追撃を掛ける。

 そう思って剣を振り上げるが……、


「くっ!」


 火炎斬で威力が削がれ直撃ではなかったとは言え、雷系だ。多少の痺れがある。

 その隙を師匠が見逃す筈がない。予想通り師匠が突っ込んで来て軽々と俺の剣を弾き飛ばした。

 それをまた拾いに行き正眼で構える。


「もう一本お願いします」


 再び簡単にあしらわれる


「もう一本お願いします」


 何度やっても同じだ。


「もう一本お願いします」


 それでもだ。

 それでも正眼で構える。再び簡単に剣を弾かれてしまう。


「もう一本お願いします」


 こうして繰り返し師匠に挑んだ。

 北の砦を早朝襲撃し、昼過ぎに奪還した。その後に暗闇が支配し、空に満天の星が広がる頃まで、俺は師匠に挑み続けた……。

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