EP.03 やりたくて始めた訳ではない -side Arc-
「アーク、起きたか? 行くぞ」
「了解」
懐かしい夢から覚めた俺に声を掛けて来たのは同僚であり友でもあるメーストルだ。
ゼフィラク城から三日掛けて北の砦近くまで来ていた。今から襲撃を掛け、ゼフィラク国の砦を奪還する予定だ。
「良く寝れたか?」
「ああ。懐かしい夢も見れた」
「そいつは重畳。じゃあ行くか」
北の砦まで目と鼻の先。当然、北の砦を奪った連中も此方に気付いている。
此方を迎え撃つべく布陣していた。
やりたくて始めた訳ではない。だが、俺はこんな事をやっている。
もう五年は続く戦争だが、いつまでも膠着状態ではいられない。
今日こそ北の砦を取り返す。そういき込んで剣を抜き仲間達と共に駆け込んだ。
「全軍突撃ーっ!」
指揮官が叫ぶ。
それに合わせて俺は加速した。
プッシューンっ! と、先頭にいた敵兵を勢いを殺さずそのまま斬り伏せる。
そうして始まった何度目になるかわからない北の砦奪還戦。
籠城してる連中に仕掛けるなら三倍の兵力がいると言う。
しかし三倍いれば良いと言う訳ではない。作戦や三倍以上の兵力がいる場合もある。そんな単純な話ではないと言う事だ。
現に、此処を奪還しようとして五年掛かっていた。
俺は次々に斬り伏せる。立ちはだかる敵を斬って突き進んだ。俺の剣はスピード主体。師匠の剣は速く、未だに一本取れない。
そんな師匠に鍛えて貰ったので俺もそれなりに速い。何より俺の剣は曲線を描く。
同じ速さでも直線より曲線のが目で追うのが困難。俺を捕らえれる奴はいない。
カーンっ! そう思っていたら、剣でパディして来た奴がいた。
俺はバックステップを踏む。
「<下位炎系魔法>」
下位炎系魔法を唱えて剣に炎を帯びさせる。
「火炎斬っ!!」
師匠直伝の魔法剣の斬撃飛ばし解き放つ。
「ぐおぉぉぉ……」
先程俺の剣を防いだ敵兵が燃え上がる。
師匠はこの炎の斬撃を最強の生物である竜を形作って操る炎竜剣を使う。半人前の俺には炎の斬撃を飛ばすのが精一杯。
それでも敵兵を倒せたので更に突き進む。仲間達が次々に倒れるが、構っていたら俺が殺られる。
それにこれは戦争だ。構う余裕があるなら一歩でも前へ突き進む。
やがて砦に突入した……。
「侵入者め! 此処までだ」
斧を構える敵兵が立ちはだかる。斧なら重く動きが鈍くなるのは道理。
スピード主体の俺の剣技ならいける。そう思い上段から斬り掛かった。
「遅い!」
しかし躱された。
まだだ! 返しの刃で下段から斬り掛かる。
「おっとぉ!」
カーンっ!
斧で往なされてしまう。防ぐのではなく受け流されたのだ。
こいつやるな。俺はバックステップを踏む。
師匠なら連続で斬り掛かるのだろうけど、俺の曲線の剣技は上段からと返しの刃で下段からの二段しかできない。
「<下位炎系魔法>」
下位炎系魔法で剣を燃やす。
「火炎斬っ!」
「旋風旋っ!」
俺の十八番である火炎斬を闘気技で防いで来た。
下段から斧を振り上げる事で発生する竜巻が奴の闘気技のようだ。
だが、そうなる事も予測出来ていた。師匠に散々言われているからな。中には魔法剣を防ぐ強者がいる。
そう言う相手でも焦らず冷静に対処しろと口を酸っぱくして言われていた。
故に竜巻と火炎がぶつかって煙が上がり、視界が悪い中、俺は突っ込んだ。視界が悪くても気配で相手の位置が大体わかる。
プッシューンっ!
「な、なんだと……」
斧を持つ敵兵は、そのまま物を言わずの骸となった。
よし! 次行くぞ。と、いき込んだは良いが隣で戦っていたメーストルが倒れ出す。
「おい! メーストル?」
「すまねぇ、アーク。やらっちた」
腹をざっくり斬られているようでもう助からないだろう……。
マジかよ。この軍に入った時の同期で友と言える存在だったのに……。
「メーストルーーーっ!!」
ちくっしょー! 俺はまた守れなかったのか。
またなのかよ……。また……。ちくっしょー!
戦場では良い奴から死んで行く……。
俺の中で怒り、悲しみ、憎悪が激しく絡み合う。
「うぉぉぉぉぉ!」
気付くと叫びながらメーストルを殺った奴を斬り倒した。
やりたくて始めた訳ではない。好きで始めた訳ではない。それでもやらなきゃと言う想いに駆られた。
故に俺はゼフィラク国の騎士団に所属して、この長く続く戦争に身を投じている。
いつの日にかデビルス国を陥としたい。
俺から友や大切な人を奪って行くデビルスが許せない……っ!!
五年掛かったが遂に北の砦を奪還した。しかし、何の感慨も沸かない。
同じ騎士団の仲間達は喜びで涙する者もいたが、俺はそうする気になれない。まだまだ先は長い。
祖国のカルラ城を奪還しデビルス国を陥とす。これは復讐だ。
友や大切な人を奪ったデビルスへの。
始まりはあの日……、
▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「アーク、起きてー。朝だよー」
体を揺さぶられ次第に意識が覚醒した。
「やぁシトリー。おはよ」
まだ眠い眼を擦りながら起き上がる。
「おはよー。アーク」
俺は、十五歳の元服した歳に両親を亡くす。不慮の事故だ。
それから毎日幼馴染のシトリーが家に通い起こしてくれたり、ご飯を用意してくれたり、掃除してくれたりと家の事をしてくれていた。
「ご飯出来てるよー。直ぐ食べるでしょー?」
「ああ」
そう答えテーブルに着く。朝食はパンとスープ。
質素だが、小さな村だから仕方ない。ちなみにこの村はメークラ村と言う。
俺はスープをスプーンで掬い口に運んだ。
「美味い。シトリーの料理は最高だな」
「褒めても何もでないよー」
そう言いながらデザートのバナナを出してくれた。
質素だが、シトリーが作ると格別に上手く感じる。
「ところで今日はどうするんだ?」
「アークが狩りに言ったら一旦帰るよー。その後、戻って来て掃除だねー」
「もう通い妻だな」
ニヤリと悪い笑みを向ける。
「ば、バカな事言ってないでー、早く食べちゃいなよー」
顔を赤くしそっぽ向く。
「もういっそう此処に暮らせば良いのに」
「な、何言ってるのよー。わたし達夫婦とかじゃないんだよー」
「じゃあ嫁に来るか?」
「朝食の時に言う事じゃないでしょー」
更に顔が赤くなり耳まで真っ赤だ。
俺は幼馴染として親愛の気持ちはあるが、異性として向ける愛情はない。
ただ村と言う閉じられた空間で、嫁を選ぶなら気心知れたシトリーが良いと思ってる。
その考えを見抜かれた上でなのか、色よい返事はくれず毎回躱される。残念だ。
「ほらさっさと食べてー。片付けられないでしょー」
あまりしつこく言うとご機嫌を損ねるので、さっさと食べてしまう。
「じゃあ狩りに行って来るな」
「いってらっしゃーい」
そうして俺は近くの森に狩りに行く。
『第七章 EP.14 ある訳がない物語 -side Ark-』このサブタイトルをいつものと変えた理由その②
もう一人のアークとスペルを変えたかったからです
他にも理由がありますが、それはまたおいおい