EP.02 勇者召喚される事になりました
俺は何故か中坊と戦っている。
と、言っても模擬戦なので殺し合いではない。
「オラ! どうした? どうした? オッサン」
木剣を振るう中坊。
流石は十五歳。怖い物知らずにも程がある。
黒髪で中分にしており耳が隠れるくらいの長さだ。
俺の方はと言うもののナターシャもエーコもいないので、どうしよう? と言う感じだ。
ぶっちゃけ状況に着いて行けない。
「オラ!」
中坊が木剣を振り下ろす。
俺はそれを必死に受け止める。が、本来の俺なら、あっさり勝つ程、お粗末な剣だ。
それが例え不得意な剣を持たされていたとしてもだ。
「オッサンだけあって雑魚だな」
いや、オッサンと雑魚は結び付かないと思うけどな。
そもそも俺は二十八歳だが、中身は二十二歳だ。オッサンって程の歳でもないと思うけどな。
尤も元の世界では十五歳は中学生、二十二歳は大学生。それだけ見れば十分大きな差だ。
だが、オッサン呼ばわりされる歳では断じてない筈だ。まあこの肉体は二十八歳なのだから仕方無いのかもしれないけど。
「オラ! まだまだー!」
中坊が剣を振り回す。
それも自分のが強者と思い込んでいるから始末におえない。
勝とうと思えば即勝てるが、その気にならない。罵詈雑言を受けても気にならない。
理由は、先程言った通り、第一にナターシャ達がいなくてやる気がないからだ。第二に状況に着いていけない。なのであまんじて攻撃を受け続けた。
「これで終いだ!」
俺の木剣が、中坊の木剣で弾き飛ばされる。そして俺の首で剣先を向ける。
「オッサン、俺の勝ちだ。ほんと雑魚だな」
一言余計だ。
と、思ったが口に出して言わない。この手の者はタチが悪そうだからな。
中坊と言えば、ちょっと力を手に入れれば調子に乗り出す歳だ。俺も通った道だしな。
十九歳の頃に俺も異世界転移し、ゲーム感覚でいたしな。人の事は言えない。
「つまんねぇ。もっと俺の力を試せる奴はいないかね」
そう言って中坊……蓮司は踵を返す。次の相手を探しに行ったようだ。
「おい、オッサン。今度は俺が相手してやるよ」
今度は別の奴がやって来た。名前は確か……剛毅だったな。
波〇拳を飛ばしそうな名前だ。いや、じっさい飛ばすんだよな……。
剛毅は黒髪で刈り上げにしている。
こいつも蓮司も弱いもんを甚振って、自分の強さを誇示したいってのが透けて見える。
でも、分かっていても勝つ気は起きない。まったくどうしてこうなった?
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「突然の事に皆、驚いているだろう……」
突然知らないとこに転移された仲、朗々と語り掛けて来た者がいた。
この中では異質な存在。豪華な、まるで法王のような服を着こむ頭は白髪。
歳は六十は超えてそうな高齢な人。
「皆、勇者召喚により呼び出されたのです!」
はっ!? え? 何? 頭が混乱する。
えっと、勇者召喚?
「おいおい、勇者って何だよ?」
「これ誘拐じゃね? 許されると思っているのか?」
「ふざけんな!」
「家に返せ」
口々に騒ぐ。当然だろう。いきなり召喚されれば不安に思うだろう。
「いきなり召喚したのは申し訳なく思う」
法王っぽい服を着た者が頭を下げる。
「そもそもお前誰だよ?」
俺もそう思った。
「私はハルファス。この国の法王をやっている。此処はこの国、デビルスの聖堂」
本当に法王だったか。
つか、悪魔と同じ名前かよ。
「色々不満はあるでしょうが、この世界は危機に瀕してます。どうかお力添えを」
再び法王が頭を下げる。
「お力添えと言うが俺達に戦う力なんてないぞ」
まあ見るからに中坊だしな。
と言うか、何で俺は中坊に混ざっているんだ? 歳を考えて俺だけが浮いてるな。
それにナターシャとエーコがいないし、武装も置いて来たので丸腰だ。マジどうしよう。
「貴方方は平和に暮らしていた筈です。故に魂が疲弊しておらず、この世界に呼ばれた時に戦う力が魂に刻まれた筈」
何言ってるんだ?
「魂とか意味不明なんですけど~」
女子が声を上げた。
「目を瞑り、集中してください。自分にどんな力を得たか感じられる筈です」
そう言うとみんな、言われた通りにした。
勿論俺も同じ事をしたが……………………全然分からん。
「おーこれはすげー」
そう声を上げた奴は掌から炎を出した。
異世界転移特典だな。
その炎を出した奴を皮切りに全員何かしら能力を発動させていた。
ある者は風を起こし、ある者は空を飛び、またある者は武器を具現化していた。
にしても異世界転移特典は魂の力によるものか。
良いな~。俺には何もないわ。それにやっぱナターシャとエーコがいないから心細い。
そうして法王に説明し始めた。
この大陸では魔王がおり、それを倒すのに力を貸して欲しいそうだ。
この国の名前はデビルスって言ってなかった? 名前から言ってこの国が魔王の居城じゃねぇか。
で、それに対抗した力を持ってるから全員勇者だと、ほざき始めた。
そんな事より帰り方を教えろよ。そう思ったが、もはやそう声を上げる者はいない。
皆、得た力に浮かれている。ありていに言えば調子こき始めていた。
黙って静観しているのが1/3に、残りは力を得て全能になったつもりなのか、やってやろうと言う空気になっている。流石は中坊。
そうして城の訓練場に案内されて、訓練を始め出した。
人それぞれ得た力によって、または好みで木剣、木槍、木斧、木短剣等を渡され模擬戦等を開始したり、能力を操る練習をしたり様々だ。
俺は何も力を得られなかったので、正直にそれを言うと身体能力が上がったのかもしれないと言われ、オーソドックスな木剣を渡される。
いや、マジで何の能力にも目覚めていないのだけどな。
それに小刀が得意と言うのは簡単だけど、様子を見たいし止めた。
また、俺と同じように申告してる者もいたが、目覚めた能力が本当に分からないのか、隠してるのか不明だ。
と言うわけで今に至ると言うわけだ。
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「おいおい……話にならないぞ」
剛毅と名乗った奴の木槍が振るわれる。
俺は防戦一方だ。
と言うか槍なんだから突きをしろよ。エドやユキ、それにユグドラシル大陸のサラを見てるから余計にそう思う。
力任せに振るっているだけだ。
「クスクス……なーにあれ?」
「一人オッサンが混ざってるのは意味不明だし~、実力も大した事ないね~」
「ハハハ……そう言ってあげるなよ。オッサンが可哀想じゃん」
女子たちの笑い声が聞こえる。所詮素人しかいないのだな。あの槍捌きを見て何も思わないのかね。
いくら女子中学生に笑われても、俺にはナターシャがいるから気にならないな。
「気道拳」
剛毅が気を練った気弾のようなものを飛ばす。
波〇拳そっくり力……これが剛毅が得た力だ。
避けようと思えば簡単に避けられるなのだが、今後この国が何をするのか様子を見たい。
それに何度も言うがナターシャ達がいないと、やる気が出ない。そう言うわ訳で傷を負わない角度になるよう調整し木剣で防ぐ。
バキっ!
木剣が砕け散る。がダメージは皆無。
「所詮はオッサンか。俺の気道拳に反応できないとはな」
いや、反応してたやろ。
木剣でガードしてたのに、何言ってるんだ? コイツは。
「木剣を失ったし俺の勝ちだな。じゃあ他の奴でも相手するか」
そう言って踵を返す。
そんなに自分より弱い(と思い込んでいる)相手を倒して、力を誇示したいのかね?
ぶっちゃけ素手でも、あれは倒せるな。そう思ったが口に出さず後ろに下がった。
「ねぇ……アークさんでしたね。苗字はないのですか?」
訓練に参加せず様子を見ていた女子中学生に声を掛けられた。
手には木薙刀を持っていた。
他のみんなと同じように黒髪で、肩の下辺りまであり、ポニーテールにしている。
顔を整っておりキリっとした目付きだ。
「アローラ。アーク=アローラだ」
そんなものはないのだが、恰好付かないのでアローラと名乗った。
プリズンでも良かったのだが、なんとなく恥ずかしい。
「じゃあアローラさん。私は笹山 沙耶です。宜しくお願いします」
沙耶と名乗った者が頭を下げる。礼儀正しいな。しかも綺麗なお辞儀だ。漫画ならバッグに『凛』とか出そうなくらい。
てか、普通に名を呼ぶのね。他の奴らはオッサンって馬鹿にしているのに……。
「笹山さん、アークで良い。敬語もいらない」
「じゃあ……えっとアークさん。私も沙耶って呼んで」
「わかった。宜しくな」
「それでアークさんは、全力を出してないよね?」
「えっ?」
気付く奴がいると思わなかった。
「私は薙刀術を嗜んでいるので分かるよ。肉付きもバランスが良いように見えるし、足捌きから言っても普段から武術をやってるのが分かるよ」
完全に見抜かれいるな。
なんて答えて良いのか分からないので適当に答える事にした。
「……まぁね」
「何で本気を出さないのよ?」
「勇者召喚と胡散臭いから様子を見ている」
事実だ。話がどうも胡散臭い。
俺が力に目覚めていないから、そう思うのかもしれないが。
「私もなのよ。私も胡散臭くて様子見をしてるんだよ」
「そうなんだ」
まさか同じように考えている人がいるとは……。
「沙耶、ミーと模擬戦してくれない?」
「良いよ」
黒髪に混ざって一人だけ金髪の奴が沙耶を誘った。
名前は確か……マーク=マルティネスだったかな? 目立つ頭だからフルネームで覚えていた。
見るからにサラサラの髪に目に掛からない程度の長さでそのまま垂らしている。
帰国子女なのだろう。または親が日本に移住したか。
尤も彼らが日本から来たか、まだじっくり話していないから不明だけど、マーク以外は日本にありそうな名前だしな。
それはともかく沙耶が快く引き受けていた。そうしてマークと沙耶の模擬戦が始まる。
「はっ!」
先制と言わんばかりにマークが手に持つ木大剣を振るう。
カーンっ!
それを後の線で沙耶が受け流す。
やるな。
相手の動きを見てから木薙刀を振るって往なすなんて。
その後、マークが次々に木大剣を振るう。
って言うか素人が何故に大剣なんだ? と思った。実際お粗末。
沙耶の方が洗練されていた。流石は薙刀術を嗜んでいるだけあるな。
「やるね、沙耶」
「そっちこそ」
マークが息切れを始めていた。
大剣なんて使うから、体力を持っていかれるんだよ。沙耶は汗一つかいていない。
やがてマークの動きが鈍りだすと突きを繰り出す。
薙刀は斬る、突くと剣と槍を良さを両方兼ね備えている武器だ。
マークはその突きを必死に防ぐ。大剣の広い面に救われたな。
それに沙耶は、本気じゃない。だいぶ力を抜いた突きに思える。
「これならどうかな?」
そうマークが言うと木大剣が燃え上がった。
マークの得た力は魔法剣か? 俺にも出来るぞ、とは口に出して言わない。
そしてマークが木大剣を振るう。
沙耶は避けられたのだろうけど、態と木薙刀で受ける。
当然木薙刀は燃え盛る。沙耶は、それを捨てた。
「私の負けよ」
「沙耶は、どんなアビリティか分からないんだよな?」
「えぇ、まぁ」
「なら、そのお陰で何とか勝ったって感じかな。いや~ユーに武術系の体育で勝った事ないから、これが始めてかも」
「そうね」
そうしてマークは晴れやかな、それでいて浮かれた顔をして去って行った。
能力の有無なんて関係ない。沙耶が手を抜いたから勝ったのに、めっちゃ浮かれてさ。あれは増長するな。
「お帰り」
俺の傍に戻って来た沙耶に声を掛ける。
「えぇ、ただいま」
「流石薙刀術を嗜んでいるだけあって洗練されてるね」
「負けたけどね」
「いや、手を抜いていたでしょう? 受け流す時に全て後の線だった」
防ぐだけなら、あるいはそれでも良い。
往なすとなれば、武器を構える角度などを気を付けないといけない。
それには、相手の動きを予想して動くのが常套。
なのに沙耶は、全て見てから動いたのだ。
「やっぱり気付いたのね」
「それに突きも、やたらチンタラ繰り出していたし」
「全てお見通しのようね。アークは、どんな武術をやってたのよ?」
「暗殺術」
「ははは……それはないでしょう」
嘘は言っていないのに何故か大笑いされた。
「現代日本で暗殺術って……」
「あ、やっぱ日本から来たんだ」
「えっ!? アークは違うの?」
「俺は星々の世界ってとこから。尤も更にその前は地球の日本だったけど」
「通りで……アークは、みんなと違い、えっと年配の人だしおかしいと思っていたんだよ」
言い淀んでいる。
「正直にオッサンと言えば?」
ニヤリと笑う。
「言わないよ。それで私達なんだけど、みんな同じ中学で同じ学年なんだよね。だから名前は知らなくても全員顔は知ってるよ」
ほ~。
同じ中学で同じ学年か。尤もみんな同じ制服だったので、薄々気付いていたけど。それにあの制服見覚えあるんだよな……。
と言うか、それなら余計俺浮いてるんじゃね? 金髪のマーク以上だ。
「なるほど……じゃあ尚更俺が召喚されたのは意味不明だな」
「そうね」
こうして俺はやる気の無い……もとい様子を見る仲間ができた……。