EP.19 後日談を聞きました
「ふは~……良く寝た」
朝、欠伸をして目覚める。
俺は、確かゾウ……いやマンモスと戦ったんだよな。だが、全部終わった。そう考えると気分が良い。
此処は、ナターシャの部屋で、俺とたまにエーコも含め三人で寝るので、大きなベッドであるクイーンサイズのベッドの上。
一人だ。エーコはたまにでもナターシャの方は必ずいるのに一人だ。
そこに違和感を覚えた。
「あ! アーク、目覚めたんだねー」
そう思ってたら、エーコが部屋に入って来た。
待て。何だ? その台詞。
そもそも朝、この部屋に入る時はノックするだろ。
なんだろ? 既視感を感じる。
「どうしたのー? 黙っちゃって」
再びエーコが俺に語り掛ける。
もう何週目か分からないが、同じだ。
繰り返してた時は、俺は病人みたいなものだ。よって容態を確認する為にノックをしなかったのだろう……。
だからまさか……? そう考えてたらナターシャも部屋に入って来た。
まずい。この後『あ、アーク起きたのねぇ。良かった』って言うんじゃないのか?
「あ、アーク起きたのねぇ。良かった」
やっぱり。既視感が確信に変わる。また繰り返した?
何故だ? どうして時が進まない。やれる事は全部やった。
それなのに結果は、これだ。じゃあどうすれば良いんだよ?
「アーク、どうしたんだい? ボーっとしちゃってさぁ」
それも前に聞いた。
で、次はエーコが『ナターシャお姉ちゃん、さっきからこんな感じなんだよー』って言うんだろ?
「ナターシャお姉ちゃん、さっきからこんな感じなんだよー」
詰んだ。もうどうしようもない。
俺はこの時の牢獄から一生抜け出せないだ。最悪だ。
「……俺は何日寝ていた?」
「あっ! やっと反応してくれたー。四日だよー」
四日…だと? やっぱり、あの爆発後だ。日にちを確認して更に気分が沈んだ。
「ちょっとアーク!」
ナターシャに肩を掴まれ揺さぶられた。
「えっ!?」
「えっ!? じゃないでしょう? 何さ? さっきからボーっとしちゃってさ」
「いや……」
どう話そうか考えていたら、更にこの部屋に人が入って来た。
あれ? この展開は、今までなかったぞ。
「よー治。起きたか」
奴がそう言う。
新たなに部屋に入って来たのは武だ。
「……どう言う事だ?」
ナターシャとエーコがいるのも関わらず武に語り掛ける。
「何が?」
「何でまだ繰り返してる?」
「それがな……まだ終わってないんだよ。原因はお前にも分からないのか?」
武が俯きそう答える。
マジでどうすれば良いんだよ? 俺も俯いてしまう。
「そんな……」
「タケルさんやり過ぎだよー。アークが絶望的な顔してるじゃないー」
「えっ?」
俺は顔を上げる。やり過ぎ? 何が?
「あのねー。アーク、全部終わったよー」
「マジか?」
「マジさぁ」
ナターシャが答えてくれる。
「どういう事だ?」
俺は武を睨み付ける。
「お前が二人を心配させるから、意趣返しを提案したんだ」
「意趣返し?」
「ごめんねー。少しやり過ぎちゃったー」
「悪かったさぁ」
ナターシャとエーコが謝って来る。
じゃあ態と同じ台詞を口にしたのか……。
「じゃあ、あのゾウは?」
「二日前に、お前が完全に倒したぜ」
「良かった~~~~」
俺は脱力しベッドに倒れ込む。
「お前が目覚めた直後に俺が此処にいる時点で気付行けよ。俺がこの家に来るのは、お前が目覚めった次の日だろ?」
確かに……。
「で、じゃあお前は何で此処にいる?」
「泊めて貰ったからに決まってるじゃん。エーコちゃんもナターシャちゃんも甲斐甲斐しくお世話してくれたぜ」
「ちょっとー」
「誤解を招く言い方しないで欲しいさぁ」
嫌味ったらしい笑みを浮かべやがって。
「あん? お前ふざけんなよ! 今直ぐ消えろ」
「んだと? お前こそ何睨み付けて来てんだ? あぁん!」
「上等だ! 表出ろや」
「ああ。ぶっ飛ばしてやる」
「喧嘩しないで欲しいさぁ」
「二人とも止めてよー」
ナターシャとエーコが止めに入って来てるが無視だ。
「そもそも何故エーコの名前を先に出した?」
「は?」
「ここは、ナターシャを立てて先に名前を出すとこだろ?」
「お前何言ってるんだ?」
武が意味が分からんって顔で見て来た。イラっ!
「だから此処の家の家長はナターシャなんだよ!」
「先に名前を出さなかったとかどうでも良いさぁ」
「……と言うか、甲斐甲斐しく世話をした、と怒るのそこじゃないんだねー」
「えっ? 泊まっている客人を世話するのは当然だろ?」
「は~」
「呆れた」
エーコには溜息を付かれナターシャには呆れられる。何故だ? 解せん。
「お前アホだろ?」
「んだとぉ?」
「普通、甲斐甲斐しくお世話してくれたって言われたら、いかがわしい事してくれたと考えるだろ?」
「そこまで外道に落ちたとか考えてねぇーよ。お前こそ馬鹿か?」
「ほほう。じゃあ外道になるか。お前を二人の前で惨めに這いつくばらせてやる」
「やっぱ表出ろや! 叩き潰してやる」
俺はベッドが飛び出て武の方へ向かう。
「喧嘩はダメだよー」
「そうさぁ。アークが言った通り客人なんだからさぁ」
だが、二人止められる。
「あ、大丈夫。これが俺等の平常運転だから」
「そうなのー?」
エーコが懐疑的な目を武に向ける。
「そうだぜ。そもそも本当にやり合ったら俺にボコされるの治にも分かってるだろうし」
「ああ、分かってるさ。分かってるがそこまではっきり言われたら白黒付けたくなるぜ」
「矯正!」
ペッシーン。
ナターシャにビンタを食らわせられた。
「うわぁ! 痛そう」
「いい加減にするさぁ」
「……はい」
「ざまぁ」
「何かなぁ?」
武がボソっと言い、ナターシャがそんな武を睨み付ける。
「何でもないよ。ナターシャちゃん」
「起き抜けにこの馬鹿の相手をして疲れたぜ」
俺はそう言いベッドに腰掛ける。
「じゃあ、真面目に。俺は後日談をお前に聞かせる為にこの世界に残っていたんだぜ。まぁあとはダチだし、別れの挨拶くらいしたかったしな」
「そっか。お前は異世界漂流を続けるんだな」
「エーコちゃんを口説いて良いなら留まるぞ」
また嫌味ったらしい笑みを……。
「……殺す」
「ちょっとーアーク。殺気が凄い漏れてるよー」
「この調子だとエーコはお嫁に行けないさぁ」
って訳で後日談を聞いた。
まず家をなくしたロクーム達の為に、その場で収納魔法から家を取り出して提供した。
エーコが言うには、前より立派な家だとか。どこまでデタラメなんだ?
つか、アフターケアまでしてくれるのかよ。武曰く放置したら目覚めが悪いからとか。
同じく家をなくしたルティナ達には、鉱石をいくつか渡し、それを換金して家を建て直して貰うらしい。
場所が場所だけに大工が、あそこまで行き家を建てるのは大変だろう……。
それに家が建つまでの間、ノースパラリアに泊まらないといけない。
ロクーム達に対し、適当ではないかと聞いたら、ルティナには先祖返りの秘薬を渡したし、それ以上はバランスが悪いとか。またバランスかよ。
同じく武器を渡したムサシはには何も無し。扱い酷いな。
つか、二股クソ野郎にはエリスがいるから、女には特別配慮してるんじゃないだろうな?
ガッシュはサウスバラリアで大量のチキンを渡したそうだ。
ガッシュは特に何も欲しがらなく、必要性もないので、そうしたとか。
ユキも同じく何も欲しがらなく必要性もないので、槍を少し強化させたらしい。
強化って簡単に言うが、この世界では簡単にそんな事できないぞ。
エーコのハンマーにも色々付与されていたし、コイツは異常過ぎる。
エドにはアルがラスラカーン世界とやらで働いていたらしく大量の鉱石を渡したとか。まぁ俺の経費の補填もしたらしいが。
この大陸では貴重なミスリルやオリハルコンの他に、この世界……少なくともこの大陸には存在しないアダマンタイトも渡すとかの大盤振舞。
ならうちにもと請求したが、俺とナターシャとエーコに武具を提供したから、それ以上はバランスが悪いとか。
そもそも俺とダチだから、相当貴重な物をくれたとか。
ちなみにダークは戦いが終わると姿を消したらしい。あいつもブレないな。
最後にエーコをたまに見守りに近く来ると言い残したらしい。やっと少しは親らしくなったのかな。
まあでも近くに来るだけで姿を見せない時点でブレないのには変わりないが。
「ああ、それとサトモジャに会ったぞ」
「エド城行ったのか?」
「まぁ最初はムサシを助けた後に、その経緯とムサシを借りる説明ついでに挨拶した程度だったんだけどな」
「ああ、城を破壊させたってアレか」
マジでアレは最悪だぞ。
「で、お前が寝てる間にじっくり話して来たよ」
「へ~。で、元気そうだったか?」
「今は食客扱いで、この世界の事を学んでるらしい。その前にいた悪徳商人のとこより破格の待遇だってよ」
「ムサシに感謝しないと」
「いや、お前に感謝してたぞ」
「は? エーコのコネだぞ。俺に感謝してどうする?」
そう俺はダークとしてムサシに会うつもりはなかった。だからエーコに頼みエド城に連れて行って貰い、ムサシに託した。
「そのエーコちゃんが、立派なお前のコネだろうが」
「そうだよー。アークの友達じゃなかったらー、ムサシ叔父ちゃんに紹介しなかったよー」
「そうか……そう言うわれるとなんか照れるな」
ポリポリと頭を掻いてしまう。
そうして武は我が家に夜までとどまり、夕飯を食べるとラスラカーン世界に戻ると言い出した。
「じゃあな治。次に会う時まで、元気でやっていけよ」
「いや、もう会えないんじゃないか? 他の異世界に行くんだし」
「それがそうでもないんだな~」
「えっ!?」
「いや、何でもない」
「何だよ?」
「また会えるかもしれないって事だよ」
なんか確信めいた言い方だな。まあ良いけど。
こんなのでも中学時代つるんだダチだ。昔に色々合ったがこれでお別れはやっぱ寂しいしな。
「って訳で、元気でやれよ。治」
「おうよ。ナターシャとエーコがいる限りその点は大丈夫だぜ」
「ナターシャちゃんもこの馬鹿を宜しく」
「分かってるさぁ。タケルも元気で」
「エーコちゃんは、この馬鹿が納得する男を見つけろよ」
「タケルさん、そんな相手はいないと思うなー」
「だろうな。馬鹿だけに誰も認めないだろうな」
「おい。さっきから馬鹿、馬鹿言い過ぎだろ?」
最後まで酷くね?
「事実だろ?」
「だねぇ」
「そうだよー」
何でナターシャとエーコも、こいつの味方なんだ? 解せん。
「って訳であばよ……<転移魔法>」
そうして武は転移魔法を使い、俺達の目の前から消えた。
「疲れた~~」
その瞬間、俺は脱力し床にへたり込む。
「大丈夫ー?」
「どうしたのさぁ? アーク」
二人が心配した目を向けて来た。
「武がいなくなった瞬間、終わったんだなと思ってたな」
「お疲れ様。アークは頑張ってたさぁ」
「ありがとー。わたし達が知らないとこで頑張ってくれてー」
「二人と過ごす平穏な日を取り戻したかっただけだよ」
そう結局俺は二人と一緒に過ごしたい。それだけだ。
「それで大陸を救っちゃうなんて凄いさぁ」
「それも二回目だしねー」
二人が称賛してくれる。それだけで報われた気がした。
「今日は三人で寝ようか」
「今回はアークが頑張ってくれたから特別だよー。ほ、ほんとはわたしそんな歳じゃないんだからねー」
「そう言いながらエーコは、度々一緒に寝てるじゃないさぁ」
ナターシャが悪戯な笑みを浮かべる。
「もー、ナターシャお姉ちゃんはー」
エーコは顔を真っ赤にし頬を膨らます。相変わらず可愛いぜ。
記憶をなくしてた時とは違い異性としては見ていない。
だけど親と言うのはこう言う感じなんだろうか? 俺には親としての自覚はない。
それでもこれからもエーコを見ていたい。そんな風に思う。
「ははは……」
思わず笑みがこぼれた。
こうして俺達は三人で寝て、次の日から平穏な日々が続く。だが、それが良い。
俺は、この世界に来て本当に幸せを感じていた……。