EP.15 くだらない幻覚を見せられ続けました
「おーいアークス。生きてっか~?」
「なんとかな」
浜辺で体中が悲鳴をあげている中、なんとか立ち上がる。
ダームエルと一緒に襲撃者から逃れる為に冬に海に飛び込んのだから体が冷え切って凍えている。
「そうか……ごふっ!」
ダームエルが吐血した。
「ダームエル?」
「俺は……ダメ、見たいだ」
「ウソだろ?」
「……指一本動かないだ」
「じゃあ引きずってでも……くっ!」
体に痛みが走る。俺にもそんな余力はない。俺だっていつ完全に倒れてもおかしくない状態だ。
「なあアークス、ごふっ!」
また吐血。
「喋るなダームエル」
「お、れを殺して……くれ」
「馬鹿な事を言うなっ!」
「こ、んな……体中が、いてぇ…のに……死ぬまで、ま、てない」
どんどん弱々しくなって行ってる。俺は小太刀を抜く。
あれ? 俺の愛用の武器は小刀じゃなったか?
まあそんな事よりいつものように機械的に手を動かして殺すだけだ。
だけど、ダームエルに出来る訳がないだろ。
「ご、めんな~……ずっと、あや、まりた……かったんだ」
「いきなり何だよ?」
「この道に……巻き込んだ、こと、だ」
「それは俺が選んだ事だ」
「いや、それ、は……せんたくし、と、して……のこ、したから……」
ダームエルが虫の息になって来てる。
「有無をいわ、さず、ひか、りのほう、へつれて、いけば……こんな、こと、にも……」
「それは俺だって、もっと上手く立ち回れば……」
言っても詮無き事だろ。俺もだが、ダームエルもだ。
「だ、から……すぅ、はぁ……これ、は罰、なんだ。だ、から、お前さ、んが、さばい……てくれ」
ダームエルの瞳から、とめどなく涙が溢れ出した。
クソー! 殺せるわけがない。
殺せる訳が……。
殺せる訳……。
殺せる……。
殺せる訳………………………………………………………………………いや、殺せるな。
何で俺はこんな苦悩していたんだ? 意味分かんねぇ。
殺さないと第二次精霊大戦の引き金になるし。それに俺は奴程、ダームエルに思い入れなんてない。それどころか一度殺してるしな。
「親であり師だと思っていたぞ」
「……え?」
「あばよ。相棒」
ブスっ!
心臓に小太刀をぶっ刺してやった。アホくさ。また幻覚の類か。
《何故躊躇いなく殺せる?》
またラフラカの声が頭に響いた。正確にはラフラカの記憶を継承した奴らしいが……。
まあどうでも良いな。
「一度殺してるんだ。二度殺そうが同じだ」
《一度殺してる? 何の話だ》
「お前に語る義理はねぇよ。お前もぶち殺してやるから待ってろ」
《………》
声が遠ざかるのを感じる。それと同時にダームエルの死体や風景がボヤけていく。これはあれか。
ダームエルを殺せず、再び失意のどん底に落とし、再びグランティーヌとの甘い一時に浸らせようという魂胆だったのか?
そして、グランティーヌやエーコとの幸せな夢に陥れさせようと……。
ったく。俺はアークだって言ってるのにな。
「ん?」
そんな事を思っていたら、風景ががらりと変わりドーム状の飾り気のない場所になった。
端の壁も床も天井もグレー。薄暗いな。今度は、どんな幻覚を見せるってんだよ。
てか、今度は記憶がリセットされていないな。グランティーヌの時もダームエルの時も違和感とかは、あったが記憶がリセットされたのに。
「………」
ん? 目の前に誰かいるな。つか、モザイク?
うわ~、きめ~。
モザイク人間って気色悪いな。それに小太刀を持ち身構えているし。
今度はあれと戦えって事か? 俺の手にある獲物も小太刀。
でもなぁ記憶がリセットされていないって事は本来の武器に戻るかもな。
「イメージしろ」
手にあるのは小刀だ。
小刀を思い浮かべた瞬間、小太刀が小刀に変化した。よし! 小太刀じゃ俺本来の力を出せないからな。
「………」
モザイク人間の姿が消えた。はい右ね。モザイク人間でも気配は感じ取れる。
ギーンっ!
左小太刀を右小刀で防ぐ。モザイク人間は右小太刀も振って来ようとした。
「オーラっ!」
ドスっ!
どて腹を蹴り飛ばしやる。
「………」
呻きもしないのか。気持ち悪いなぁ。あ、また消えた。次は後ろね。
ギーンっ!
モザイク人間が両小太刀を振り下ろして来たので、振り返り小刀をクロスにして、その両方を受け止める。
なーんか既視感のある動きだなぁ。
で、また消えると。もう良いよ。その芸当は飽きた。
また後ろね。それが分かったので、俺は更にその後ろを取る。
仮に同じスピードだとしても小刀のが軽く更に速く動けるしな。
プシューンっ!
「………」
背中をざっくり斬ってやった。
にしても何か言えよ。
モザイク人間は距離を取る。もうここまで来ると次に何をするのか丸分かりだな。予想通り右手の小太刀を逆手に持ち替えた。
遅い!
「<クロス・ファングぅぅぅ!>」
俺の方が先に闘気技を繰り出す。逆手に持ち返るとか一つ余計な動作があるから遅いんだよな。
上段からクロスする形で振り下ろした際に発したX字の斬撃が飛ぶ。
モザイク人間はあっけなく消えてしまった。
スラッシュ・ファングくらい使わしてやれば良かったか? ちょっとイジメみたいな感じになったな。
《な、何故だ? 自分自身との戦いで、何故こうもあっさり勝てる?》
頭の中に響くラフラカの声が喚いてるな。煩いよ。
「バカか。ラフラカの記憶を読み取ったのなら二、三年くらい前のダークだろ? そんなのに負けるか」
《違う! 今現在のアークスだ。ラフラカの中にある精霊の力で今現在のアークスの力を把握するくらいは出来る》
通りで、グランティーヌとの記憶があるわけだな。
別にグランティーヌはラフラカに吸収された訳でも直接会った訳もないから、ダークとどう過ごしたなんか分かる筈がない。
ダームエルの場合、生体実験体されたので記憶を読み取られたかもしれないが、グランティーヌは違う。
だが、精霊となると話は別だな。
「ふ~ん。どっちにしろ俺には相手にもならなかったな」
《き、貴様は何者だー?》
「だからアークって言ってるだろ? ダークじゃない」
《ば、バカな! お前はどっからどう見てもアークスじゃないか》
「ああ、もう良いよ。煩い」
そう言って右手の小刀を真っ直ぐ上に大きく振り上げる。
さっきイメージで獲物が変わった。ならもっと明確に愛刀をイメージすれば……。
よし! 闇夜ノ灯に変わった。武は、攻撃に優れていると言っていた。
なら、これに闘気を籠めて振り下ろす。
しゅ~~ドーンっ!
少し明滅した白い斬撃が飛び端にある壁に衝突した。その瞬間、空間に全体にヒビが入る。
ピキピキ……パリーンっ!
そして砕け散った。
「戻って来たのか?」
狭いピンク色の空間。壁は生暖かく、うねうね波を打ってる。
そしてトンネルのように続いている。これはゾウの鼻の中だな。
トンネルの先は登り坂になっている。よし! くだらない幻覚の空間から抜け出せたし、今度こそ進むぞ。
そして俺は、走り出した……。