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EP.14 ある訳がない物語 -side Ark-

『断章 あったかもしれない物語 -side dark-』と対比にする為にいつもと違うサブタイトルにしてみました

まぁ他にも理由がありますが、それはいずれおいおいと。

「ただいま」


 狩りに行き、夕方帰って来た時に違和感を感じた。何だろう? 気のせいかな?


「貴方おかえり、ハンターも。寒かったでしょう? さあ早く暖炉で温まって」


 いつものようにグランティーヌが迎えてくれる。


「ああ、ただいま。グランティーヌにエーコ」


 グランティーヌが首を傾げる。


「何だ?」

「浮気でもして来た?」

「はぁ!?」


 何を言ってるのだ? 浮気も何も……。


「何で他人行儀な呼び方して来るの?」

「他人……行儀?」


 今度は俺が首を傾げてしまう。


「だってティーって愛称で呼んでくれていたでしょう?」

「そう……だったな。すまないティー」


 何故だか違和感がある。


「疲れているの?」

「……かもしれない」

「そう。じゃあ早く食事にしましょう」

「ああ、ティー」


 ほんの些細な違和感。

 だが、ティーと呼んでしまえばスルリと溶け込んでしまう。気のせいだったのだろう……。

 その後、食事を摂り入浴をすまし、いつものようにベッドに入る。そう、いつものように。

 隣にある小さなベッドで眠るエーコの寝顔を見ながら眠り入ろうとしてた。いつものようにエーコの隣で寝むる。そういつものように……?

 うん? エーコとは同じベッドじゃなかったかな? まあ些細な事か。今日の俺はどうかしている。きっと疲れているのだろう。


「ねぇ、貴方? 起きてる?」


 眠りに落ちようとしてた意識が引き戻される。


「ああ」

「今日は何もしないの?」

「はぁ!?」


 上半身を起こし、同じベッドに入っているティーを見る。


「何かおかしな事言った?」


 何か期待している眼差し。


「……いや、ティーが積極的だと思ってな」

「いつもは貴方から来るからよ。私から言うのも恥ずかしいんだからね」


 顔を真っ赤にして言う。可愛い。正直可愛いと思ってしまった。

 その顔に吸い寄せられる。


【またあたいからさせるのかい? あたいだって恥ずかしいんだからね】


 今の声は? 周りを見るが誰もいない。

 此処にいるのは、俺とティーとエーコだけだ。


「どうしたの?」

「……いや、今日は止めておこう。疲れているみたいだ」

「そう」


 幻聴まで聞こえるとは本格的に疲れているな。

 ティーは、それ以上何も言わなかったので、眠りに落ちた。

 次の日の夜。ベッドで抱きしめられた。そのまま抱き返しティーの上に跨る。

 そしてティーの顔に吸い寄せられた。ティーも受け入れてくれて目を瞑っている。


【離れないから。もう二度と離さないから】


 また幻聴が聞こえた。何故かその幻聴を聞いていたら、ティーを抱くのがはばかられた。


「おやすみ。ティー」


 ティーの頬を撫で、ティーから降り隣で横になりに背中を向ける。

 後ろめたいとは、この事なのかもな。

 別に浮気したわけでも、他の女に気があるわけないのに何故かそう思ってしまった。


「う、うん。今日もどうしたの?」

「いや、エーコが起きても困るだろ? ティーの声は凄いから」

「もー」


 ペッシーンっ!


 照れ隠しなのか背中をひっぱ叩かれた。そうしてティーを抱きたいのに抱けず数日が過ぎる。

 寝る前に自分で処理する始末。何であんな可愛い嫁がいるのに抱けず隠れて自己満足に浸ってるのだろうか?

 それがまた後ろめたい。


「最近全然相手してくれないね」


 数日が過ぎた夜、いじけたようにティーが言って来た。


「……そういう事もあるだろ?」

「あー! 今、あからさまに目を逸らした」

「え?」

「女?」


 あんな二股クソ野郎と一緒にしないでくれよ。あれ? 二股クソ野郎って誰だ?


「良い女ならそこにいるぞ」


 そう言ってエーコを見る。


「そんな事言って、やっぱり浮気してるのね?」

「してないしてない」


 『()()()()()()()()()()()』なんて言える訳がない。


「じゃあ何でよ」

「いや~小さいから?」


 俺も何を言っちゃってるのかな?


「何が?」

「やっぱEくらいないとな」


 しかも視線が胸に行ってしまった。それにEとかあいつだろ。

 え? あいつって誰だ?

 ティーのはBくらい(・・・)だしな。

 あれ? くらいって何だ? 嫁の詳しいサイズも俺は知らんのか?

 さっきから心の中で思った言葉に自分で突っ込んでしまう。


「ふ~ん。もう良い!」


 ヤバっ! 完全におかんむりだ。背中を向けて寝てしまった。まあ明日になれば機嫌も直ってるだろ。

 しかし、次の日になっても機嫌が悪かった。


「………」


 俺は朝食を見て固まってしまう。

 トースト一枚。

 普段なら焼いたトーストにバターを塗って出してくれる。

 それに最低でも目玉焼きと野菜が少々ある。

 なのにトースト一枚。


「エーコ、ミルクだよ~」


 そして当の本人は素知らぬ顔でエーコにおっぱいをあげている。

 しかも後ろを向いてだ。

 ついついといつも目が行ってしまのだが、目の前でエーコにあげているのが日常なのだが……。


「ティー、お茶頂戴」


 トースト一枚を食べ終わり、喉を潤したくなったので声を掛けた。


「………」


 無言でコトンと置かれたのはコップ。

 え~~。めちゃくちゃ怒ってるな。しかもさ、コップの一割程度しか水が入っていない。


「あ、ハンターにもご飯上げないとね。ハンターおいで~……って来ないか~」


 ハンターには話し掛けているのに俺は無視ですか。


「ティー、お茶もう一杯」


 水だったけど、とは思ったが。


「………」


 また無言かよ。しかも目を合わせてくれない。そしてコトンと置かれたのは水差し。

 そうですかそうですか。自分でコップに注げというわけですか。

 

「ティー、ちゃんとしたお茶を……お茶(ティー)を頂戴……なんちって」

「………」


 シーン。無言とか哀しい。いくら寒いギャグでもさ、反応してよ。

 は~~。今日はご機嫌取りでもしますかね。


「エーコ、高い高い」

「きゃっきゃー」


 まずはエーコと遊んでタイミングをどこかで作ろう。そう思い暫くエーコと戯れた。

 尤も首が座っていないので横抱きでだが。


「……いつまでいるの?」


 やっと今日ティーに声を掛けられた。でも、底冷えするような声音だ。


「いつまでって?」

「早く行かないと浮気相手が待ってるんじゃない?」

「だからしてないけど?」

「……どっちにしろ仕事があるでしょう?」


 ご立腹ですな。


「たまには休んでも良いだろ?」

「……勝手にしなさい」


 後ろを向き家事に戻ってしまう。

 俺はエーコをエーコ用のベッドに下ろすとティーを後ろから抱きしめた。


「……何? 離してくれない?」

「たまには一日中ティーと一緒にいたいと思ったら悪い?」

「あからさまなご機嫌取り?」


 手を振り解かれて、俺の方へ振り返る。


「そうだ、と言ったら?」

「……今すぐ出て行って」


 目がマジだ。でも、こういう時に気の利いた言葉なんて言えないしな。


「そもそも何でティーがそんなに怒っているのか分からない」

「……本気で言ってるの?」


 また底冷えするような声音だ。


「いや、だってさ。ティーって、そんな直ぐに欲求不満になる女だったか?」

「うっ!」


 見る見るティーの顔が赤くなって行く。


「……小さいって言ったし」


 ボソっと言って来た。


「そういう気分じゃなかったし適当な事を言っただけだよ」

「でも、私に飽きちゃったんでしょう? べ、別に欲求不満だから言ってるんじゃなのよ。飽きたって思われたから怒ってるんだよっ!」


 早口で耳まで真っ赤にしても説得力ないぞ。と、言うのは言わぬが花だな。


「飽きていたら、もっと遅くに帰って来るし同じベッドで寝ない」

「本当に?」

「ああ」

「私の事、愛してる?」

「………………………………ああ」

「今の間は何?」


 睨まれる。何だろう? 何故かそれをはっきり言ったらダメな気がした。

 ただただ焦燥感だけが胸の内にある。


「不意打ちでそんな事言われて、照れたんだよ。わかれ」


 そう言ってそっぽ向く。


「そう言う事にしてあげる。じゃあ……」


 ティーの腕が俺の首を抱くようにし目を瞑る。何を求めているか分かる。

 俺はそれに応えるように顔を寄せて行く。


「ちゅ!」

「もう……何で口にしてくれないの?」


 つい頬にキスしてしまい、そう言われる。


「最近してなかったし恥ずかしかったんだよ」

「しょうがないな……ちゅ!」


 ティーからキスされた。それで俺の中の何かが弾けた。

 俺からも唇にする。何度も何度も何度も……。


「はぁはぁ……激しいよ」

「久々だから……」


 そのままベッドに連れて行き押し倒す。そこから激しく絡め合う。

 何十分経ったか、何時間経ったか。時間なんて些末の事に思えてしまう。

 しかし……、


「……何でキスだけ? もうずっと立派になってるじゃない」


 そう、それ以上踏み込めないのだ。

 ビッグマグナムが最初にキスされた時からずっと覚醒していて痛いくらいなのに。

 あれ? ビッグマグナムって何だ? 俺はそんな言い方してたか?

 あ、いや今はどうでも良いか。もっとしたい。


「ティーも好きだろ?」

「……好きだけど」


 顔が俯き、また顔を赤く染める。可愛い。頭がとろけそうになる。

 だけどそれ以上進めない。


「今はこれを楽しみたいんだ。ダメか?」

「ダメじゃないけど……ずっと大きいままで平気?」

「……と言いながら染みを作り我慢できなくなってるティーでした」

「………………バカ」


 耳まで赤くしボソっと罵倒して来た。


 コンコンっ!


 そこで玄関からノックが聞こえて来た。

 助かった~~。あれ? 俺は何で助かったと思ったんだ?

 そうか……このまま抱くのはダメだと思ったんだ。それは裏切りだ。

 何故そんな事を思ったのか分からないけど、暫く前からずっと焦燥感を感じていた。


「もう……良いとこだったのに」


 すねたように言ってティーがベッドから出た。


「やっぱり我慢できなくなってたんだ」


 ニマニマ笑いながら俺も後を追う。


「言わなくても分かるでしょう?」


 つーんと俺から視線を逸らし玄関に向かう。玄関を開けるとラゴスがいた。


「なんじゃ? 貴様は仕事もしないで何してるのじゃ?」


 顔を合わすなりラゴスに悪態を付かれた。

 何で? 前に会った時は、悪態なんか付かなかったよな?

 顔合わしたのは、ほんの数日の筈。あれ? 数日?

 おかしいな。

 ラゴスは……いや、ラゴスじーさんは顔を合わす度に悪態を付いてた筈だ。

 そもそも一瞬何で生きてるんだ? と思ってしまった。

 あれ? 何故だかラゴスじーさんを見ていると頭が混乱する。さっきから俺は真逆の事ばかり考えているような……。


「ラゴスお爺ちゃん、何か用?」

「なんじゃ? グランティーヌ、機嫌が悪いな。その余所者に何かされたか?」

「別に悪くないわよ。それでどうしたの?」

「村に商人が来たのじゃ」

「そう。要り様の物もあるし私も行くわ」


 待て。商人……だと?

 何故か俺の中で警報が鳴った。

 その商人はまずいと。いや、商人が扱うある物がだ。


「俺も行こう」

「あら、珍しい」

「余所者は来んで良いのじゃ」


 そうして商人の元に向かった。

 ティーが言った要り様とは薪の事のようだ。

 薪? 俺は反射的に手を伸ばしていた。


「ぐっ! な、に、を……」


 商人の首を掴み持ち上げてしまう。俺は何でこんな事を?


「貴方、どうしたの?」

「余所者、何をしてるのじゃ」

「それは病を呼ぶ薪(ララーク)だな?」

「なんじゃとっ!?」


 ラゴスじーさんが驚き、ティーは病を呼ぶ薪(ララーク)が何か知らないのかオロオロしていた。

 俺は商人を放り投げた。


「ラフラカ帝国の差し金だな? 失せろ!」


 そう言って睨み付けると商人は商品をほっぽって逃げて行く。


病を呼ぶ薪(ララーク)って何?」


 家に帰るとティーに問われた。


「あれでこの村の住人を虐殺するつもりだったんだ」


 何故そんな事を俺は知っているんだ? いや、確かに知っている。

 ずっと最近感じてた違和感が何なのか、あとちょっとで掴めそうな気がした。


「何でそんな事をしようとしたのかしら?」

「魔導士達が目障りだったんだ。それにあの薪のせいでティーは死んでしまう」

「えっ!? 私生きてるよ?」


 そうティーは……いた、グランティーヌは死んでしまうんだ。

 そしてアークスはダークの仮面を被るようになる。


「でも、知ってるんだ。先の事を……だから俺は此処を出ないといけない」

「何を言ってるの?」


 やっと思い出した。

 後ろめたい?

 裏切り?

 ティーへのか?

 違う。

 全部ナターシャに対してだ。だから最後までティーを抱けなかった。

 俺はゾウの鼻に突入した筈だ。だが此処はどこだ? 幻覚の類か?

 だから、ここからまずは出ないと。

 大陸を救う?  違う。そんなのどうでも良い。俺はただナターシャとエーコとずっと一緒にいたい。

 だから行かないと。


《それで良いのか? いつまでも幸せな夢に浸れるぞ》


 頭の中に誰かの声が響いた。何を言ってる?ある訳ないだろ、そんなの。


(誰だ? いや、その声はラフラカだな?)

《ヒョーーーヒョッヒョッヒョ……ラフラカではない。ラフラカの記憶を継承したに過ぎない》


 笑い方まで一緒じゃねぇか。


(ラフラカでも、そうじゃなくても良い。今からお前をぶち殺しに行く)

《ヒョーーーヒョッヒョッヒョ……もう一度問う。幸せな夢に浸りたくないか?》

(バカめ! お前は一つ勘違いをしている)

《何をだ?》

(俺はアークスではない。アークだ! 俺にアークスに取っての幸せは要らない)


 そう、俺はダークの物語なんて求めていない。


《何を言っている?》

(黙れ! 今からお前をぶち殺しに行く。それだけだ)

《………》


 ラフラカの記憶を継承したと言った奴の声を遠ざかるのを感じた。


「貴方、どうしたの?」


 グランティーヌからすれば俺はボーっとしていたのだろう。俺を心配そうに見詰めていた。


「なぁティー?」


 まやかしのグランティーヌだが、最後に一言伝えたくなった。


「何?」

「ティー以外の人を見付けて、エーコと三人で幸せになったよ」


 グランティーヌの姿が、いや周りの風景事ボヤけて行く。


「……そう」


 そして、グランティーヌが見えなくなる瞬間、錯覚だったのかもしれない。俺がそう思い込みたいだけなのかもしれない。

 それでも微かに笑った気がした……。

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