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EP.13 時間停止しました

 続けて二股クソ野郎とガッシュが戻って来た。


「戻ったでガンス」

「もどったもどった」

「にしても本当にダークがいるでガンスな」

「……いたら悪いか?」

「いや、このクソったれアークがダークだと思ったでガンス」


 パッシーンっ!


 エリスが小気味いい音を鳴らしロクームの頭をはたく。


「クソったれアークとは何だ?」

「事実だろ?」

お前の中ではな(・・・・・・・)。だがそれを口に出すから余計な(いさか)いが起きるのだろ? そんな事も分からんのか?」

「だが……」

「黙れ! これ以上アークに突っかかるな」

「……はい」


 ざまーー。しかも『お前の中ではな』って、言葉が飛び出した事がマジうける。元の世界で皮肉の常套句だったしな。


「アークアーク」


 ガッシュが小声で話しかけて来た。


「何だ?」

「なぜダークがふたりいる? ふたりいる?」

「あ~~……全部片付いたら教える」

「分かった分かった」


 流石野生人。気付いたか。全部終わった頃には忘れていて欲しいな。説明がめんどう。

 さて、あとはエドとユキか。そう思っていたら、戻って来た。


「待たせな」

「戻ったルマ」

「さて全員揃ったな。それで武の考えを聞かせてくれ」

「それは……」

「ぱお~~~~~~~~んっ!!」


 ドン! ドン! ドドン! ドン!


 煩い! 今までで一番でかい声で鳴きやがって。しかも足踏みが今までよりデカいぞ。


「あ?」

「武?」


 武が間抜けの声を出したので訝しげに武を呼んでみた。


「周りを見ろ」

「うん?」


 何だろうと周りを見回した。最初に目に付くのは当然ゾウ。だが、そのゾウが不自然な形で止まっていた。

 右前足、左中足、右後足を挙げっぱなしだ。それにもう鳴いていない。

 そして、次に見たのは仲間の達だ。


「……固まっている」


 固まっているのだ。

 煩く鳴いたゾウを見上げポカーンと口を開けたマヌケな状態で。まるで金縛りにあったかのように……。


「武、これどういう事だ?」

「時間停止だ! 時間停止させられた!」


 時間停止ィィィ? 言ってる意味は分かるが、理解ができなかった。まるで時間停止ではなく思考が停止してるかのように……。


 時間停止だと? 時間遡行して、時間逆行して、今度は時間停止?

 この世界、時間に関係する事ばっか起きてるな。それで、どうするよ? この状況。分かんねぇ。


「おい! 治」

「え? あ、え?」


 武に肩を揺さぶられる。


「確りしろ! この状況まずいぞ」


 いつも飄々としている武が真剣な面持ちだ。


「ああ、まずいな」


 頷いてみたもののまずいのは分かる。だが、切羽詰まったものには思えない。


「この事もオドルマンの屋敷で調べられなかったのか?」

「こんなのなかった」

「オドルマンの想定外だっとのか……いや、今は考察してる場合じゃない」


 何か焦っているのか?武は首を左右に振って余計な事を考えまいとしていた。


「時間が止まりっぱなしはまずいと思うが、そんな焦る事か?」

「は? お前この状況理解していないのか?」


 武に呆れられる。


「いつまでも止まりっぱなしはまずいなーとしか」

「あのなーこれでゾウだけ動き出したらどうする? 俺達以外全滅だぞ」

「あ!」


 やっと状況が分かった。確かにそれはまずい。


「だけど何で俺達だけ動ける」

「お前は理から外れたからだろ?」

「その理がいまいちピンと来ないなー」

「この世界の法則に縛られないという事だ。このゾウがこの世界の法則を歪め時間を止めた。だが、それに縛られないお前は動ける」

「じゃあお前は……って、愚門だったな」

「気の……」

「うっさい!」


 同じ言葉を聞きたくなかったから愚門だって切って捨てたのに、いちいち言おうとしやがって。


「そういやルティナは?」


 あたりを見回してルティナを見つける。やはり他と同じくゾウを見上げて固まっていた。


「何でルティナも止まってるんだ?」

「ルティナちゃんは理の中にいるだろ?」

「だが、歴史改変前や時間逆行した時も覚えていた」

「半分精霊だから、精霊が時間関係の事で記憶を保持出来るなら可能だろうが、今回は止まっているんだ。記憶を保持するのと世界の時間停止に抗うのは別だ」


 なるほど。だが精霊も停止してるとなると……。

 まさか? でも、あんま考えたくないな。


「この世界の魔法は精霊の力を借りてるんだったな?」

「……ああ、そうだ」


 武も気付いたみたいだ。


「なら、ちょっと適当な魔法使ってみろ」


 そう言われ、右掌を上に向ける。


「ファイヤー……あれ? ファイアー、ファイヤー……クソ!」


 やっぱりだ。悪い予想が当たった。魔法が使えない。


「やっぱりな。精霊も時間を止められている」


 ああ、分かってたよ。ルティナが止まってる理由を知った瞬間から。


「さて無駄話はここまでだ! 治、さっき話の続きはだが、あれを倒すには内部に入るしかない。基本パターンを考え頭だな」

「どうやって頭に行くんだ? 足からだと頭に通じてなかったぞ」

「良いものが垂れ下がっているだろ?」


 武が指を差す。


「鼻?」


 確かに鼻から侵入すれば頭の一番近いとこに行ける。そこから頭まで通じていなくても突き破ればもしかしたら……?

 それにそこを通ってくださいと言わんばかりに長い鼻の先端が地面に垂れている。


「本当は全員で行くべきだったんだろうが……治! お前一人だ。行け!」

「は? お前は?」

「もしゾウだけが理から外れて動き出したら? もしくは人だけを止めて世界の時間を正常にしたら?」

「ゴクリ」


 生唾を飲み込んでしまう。聞きたくない。


「最悪ここにいる連中全滅だぞ」


 暗闇に突き落とされた気分だ。俺がゾウの内部に入らないといけない。しかし、入って時間が動き出したら、皆が死ぬ。

 どうすれば良いんだ?


「治! 確りしろ!」


 武から叱責を受けてしまう。


「お前が行くんだ! お前がこの大陸を守るんだ!」

「いつになく真剣だなお前」


 軽口を叩けるくらいには気持ちを立て直したが、やはり不安は拭い切れない。


「当たり前だろ! 俺のスタンスは、その世界の厄介事は、その世界の者にどうにかさせる。だがこれはどうだっ!?」


 武が両手を広げ固まった皆を差す。


「良いか? お前しかいないんだよ。この状況を打破できるのは。それにこんなくっちゃべってる時間も惜しい。いつゾウだけが動き出すかわからないのだぞ」


 俺が? 俺一人か? 一人でどうにかできるのか?

 不安がやはりつのる。 それに大陸を守る? 俺に出来んのか?


「……お前がいるだろ?」


 そうだよ。俺だけじゃない。もう一人いるじゃないか。

 デタラメな男が。こいつなら余裕だ。


「俺はダメだ」

「何でだよ!?」


 食い気味に突っ掛かってしまう。


「もしゾウだけ動き始めた時、此処にいる連中全員お前は助けられるか?」

「うっ!」


 言葉に詰まる。俺には無理だ。

 腕は二つしかない。ナターシャとエーコだけ抱えて逃げるだろう……。


「だから俺が全員守ってやる。何の憂いもないようにしてやる。だからお前が行け!」

「だが……俺一人だぞ? 引き篭もりのコミュ症の俺がだぞ?」

「引き篭もりもコミュ症も今は関係ないだろ? アレにと突入して脳を破壊するだけだ!」

「いやでもさ、俺は一度お前を裏切ってるんだぞ? 俺には無理だと思ったら、また裏切るかもしれないぞ」


俺は自分が行かなくて良い理由を必死に探してしまう。

少しはマシになれたと思ったけど、結局変わっていないと自分に呆れつつも、逃げ出す事ばかり考えてしまう。最低だ。


 バーンっ!


「ぐはっ!」


 俺は殴られ地面に転がった。


「いったー」


 殴られた頬を摩る。


「ヒヨってんじゃねぇ」


 今まで感じた事のないプレッシャーが武から放たれる。その言葉は底冷えるような感じだ。

今、ゾウより武のが怖いと戦慄した。


「お前がやるんだ」

「だが……」


 魔法も使えないのに一人でか? 無理だろ?足の心臓だってダークを含め十三人がかりだったのだぞ。


「お前は、この大陸を救ったのだろ?」

「は? え?」


 思わず間の抜けた声がこぼれてしまう。


「歴史改変したのは紛れもなくお前だろ? その時、仲間はいたか?」

「………」

「一人だったよな? それでもお前はやり遂げた。違うか?」

「そう……だな」

「なら、やれるな?」


 武が手を伸ばす。

 俺はそれを掴み立ち上がらせて貰う。


「いや、無理だ」

「お前まだそんな事を……」

「一人じゃなかった」


 武を遮りそう言うとスタスタ歩き、ある人の元に向かう。


「エーコ、これ返して貰うな」


 首から下げられた二つの形見の指輪うち一つを取り、自分の首から下げる。

 そして次の者の元へ向かう。


「ナターシャ、行ってくる」


 そっと抱き着き耳元で囁く。


「おーおー、時間停止の中でイチャついてくれるねぇ。そのまま他の女を触り放題とか考えてるのか?」


 あ! それは考えてなかった。せっかくの機会だから触りまくりたいな。

ってなわ訳に行くか! 例え知られなくてもナターシャへの裏切りになる。


「お前のようなゲスと一緒にするな」

「はっ! 調子戻って来たじゃねぇか」

「俺は一人じゃない。寄り添ってくれる者がいる。それにこの指輪がある」


 形見の指輪を見せる。


「へ! そうかい」

「お前こそゲスな事をするなよ。特にナターシャに」

「ナターシャちゃん以外にしたら?」

「目を瞑ってやる」

「ナターシャちゃんにしたら?」

「ぶっ殺す!」

「その調子だ。その調子でゾウをぶっ殺して来い」

「行くが……お前、本当にゲスな事をしない?」

「残念ながら、俺はお人形さんで遊ぶ趣味はないぜ」


 武が肩を竦める。


「ほら無駄口はそこまでだ。行って来い。いつ動き出すか、分からんぞ?」


 そうだな。動き出して鼻を持ち上げられたら目も当てられない。


「おう! 行って来る」


 俺は拳を武に突き出す。


「こっちは任せろ。男を助ける趣味はないが、確り全員守ってやるよ」


 コツンと拳をぶつけ合った。

 次の瞬間、俺は走りゾウの鼻の先端から内部へと突入した……。

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