EP.12 自分自身と話しました
右後足の心臓部に到着し、エリス達が到着したという内容の三度目になる通信を終えた。
ナターシャ達からの応答がないのは少し心配になるが、恐らくダークと交戦中のだろう……。
だが二股クソ野郎は何をしている? 一度も通信に出ないしやる気あんなのか? ガッシュもいるのにトロトロしやがって。
一日余裕があって良かったぜ。全部あいつに台無しにされそうだ。
「まだ時間が掛かりそうだ」
「そうか」
俺はイラ付きを抑えてアルに話しかけた。
「だから、少し休もう。アル、先に三時間くらい寝てて良いぞ。俺が見張りをしてる」
「応。じゃあ少し休むな」
そう言ってアルがゴロンと横になる。
「ぐがぁ~」
「………」
もう寝たの? 早くね?
「ずぅ~~」
しかも煩くね?
「がぁ~~~っ!!」
うるせ~~~~~~~~!!!!!!!!
俺はあまりにも煩いので、少し離れた。心臓部とはいえ、いや、心臓部だからこそ魔物が寄って来そうだ。
だが、それは杞憂に終わり、寄って来たのはほんの数体。そして三時間が立つ。
「ごぉぉ~~」
「ほら、起きろ」
アルを蹴り飛ばして起こす。
「ん? 何だ? って、アークじゃねぇか」
蹴られたせいだろう。一瞬警戒していた。
「蹴り起こす事ねぇだろ?」
お! 寝ていたのに気付いたのか。
「イビキが煩い、ウザい。なんか直ぐに起きそうにない」
「……お前さ、ロクームにもだけど、はっきり物を言い過ぎじゃねぇか?」
「がははははは……まぁ良いじゃねぇか」
「俺の真似すんじゃねぇーよ!」
「それが俺の十八番さ」
「そんな十八番捨てちまえ」
「おはこだけに?」
「つまんねぇーよ!」
でも実際に真似が十八番なんだよな。
ダークの真似したり、記憶がない時はタケルの真似やゲームでの魔法剣の真似したりとかさ。
「それより交代だ。見張り宜しく」
「分かったぜ。あからさまに話しを逸らしやがって」
最後ボソっと呟いていたのが確り聞こえていたが、スルーして横になった。
程なくして眠気に襲われ意識を手放す。
…
……
………………
なんか懐で音が鳴っているな。
俺はヘッドホンから聞こえる音で目を覚まし、まだ眠気がある眼を擦りヘッドホンを取り出した。
「俺は何時間くらい寝ていた」
「二時間ちょっとってとこだぜ」
アルが直ぐに答えてくれる。それなりに寝たか。
ヘッドホンを頭に装着する。で、誰が到着したのかな?
≪ロクームでガンス。聞こえるでガンスか≫
二股クソ野郎か。やっと到着したのか。トロトロしやがって。
俺達が到着して一時間後くらいに三度目の通信があった。
アルと俺が寝てた時間を合わせると五時間ちょっとだ。そんなに時間掛かったのかよ。
≪聞こえるぞ≫
≪同じく≫
≪聞こえるわ≫
「聞こえる」
エド、エリス、ルティナ、俺という順番に応答した。
あれ? ナターシャ達は? まさかダークに殺られた?
俺の中で不安が生まれる。だが決まったわけじゃない。落ち着くんだ。
≪到着したでガンス≫
≪お前は何をしているのだ? 今までの通信一度も出なかっただろ?≫
≪悪いエリス。立て込んでたんでガンス≫
「はっ! どうせまともに対処できずガッシュ任せだったのだろ? 冒険家が聞いて呆れる」
≪……アーク、お前やっぱあとでぶっ飛ばすでガンス≫
「ガッシュに任せの口だけ冒険家が何を言ってるんだ? 百年後に出直しな」
否定しなかったし、やっぱガッシュ任せだったのだろうな。それとも俺へのヘイトで頭一杯一杯で否定出来なかったのか。まあどっちでも良いけど。
どっちにしろアレは使えない奴だと良く分かった。
≪そんな事言って良いのでガンスか? バラすでガンスぞ≫
「何を?」
はっ! どうせくだらない事だろ。嫌味ったらしく言ったって無駄だ。
≪ダークでガンスだろ? お前≫
「………」
げっ! バレてる。でも何故だ? あ! ガッシュだ。あいつバラしたな。
さてどう誤魔化す。いや、いっそう言ってしまっても良いか?
めんどくさいし。ダークと思われてもたぶん困らないだろう、たぶん。いや、きっと。恐らく?
≪ダーク? だから私達の事を良く知っていたんだな≫
≪なわけないだろ? それより話を進めるぞ≫
俺がどうするか考えている間にエリスが納得するが、エドがきっぱり否定し話を変えようとした。
≪気に入らないでガンス。ダークだったくせに、正体を隠して俺達に近寄ってきた事がでガンス≫
≪ほ、ほらそんな話良いからさ、えっとエドに言う通りにしよ≫
まだ続ける気が? ルティナも俺の正体を知ってるだけに焦った言い方をしてる。
≪だが……≫
もうめんどくさいな。別に今更バレたって良いや。中身が違う事がバレるが嫌だったが、そんなくだらない俺の感情より、このゾウの始末の方が優先だ。
そう決断したのだが……、
≪……俺がどうかしたか? ロクーム≫
≪≪≪っ!?≫≫≫
ヘッドホンの向こうでビックリしたように息を呑む気配がした。俺もビックリしている。本物じゃねぇか!
≪認めるんでガンスな? アーク≫
何言ってるの? 確かに声は一緒だが、俺より低くく喋ってて同じ声には思えないだろ。
それにくぐもった声。恐らく鉄仮面か何かを被っているのだろう。それなのに、どこまでバカなんだ?
≪……俺はアークではない。ダークだ。久しぶりだな。エド、ルティナ、エリス、ロクーム。実は前回の通信も聞いてた。ロクーム以外はいたな≫
≪え、ええ。久しぶりね。ダーク≫
≪本当にダークか?≫
≪……ダーク≫
ルティナも動揺していたがなんとか声を絞り出す。疑うエリスに、信じられないと言った感じのエド。
まあ確かに事情を知っているルティナとエドからすれば、ダークが二人いるって分かったからこその気持ちだな。
≪はっ! 自作自演でガンスか? アーク≫
まーだ一匹なんか言ってるぞ。
≪は? 俺が何? お前耳あるの? ああ、あってもそれを処理する頭が腐っているのか?≫
ついつい煽ってしまう。引き篭もりのコミュ症だった俺はネットで散々こういう書き込みをして来た。クセが抜けないな。
≪またてめぇは、ふざけんなでガンス!≫
≪またふざけんなってか? 語彙力ないの? 他の言葉も知らんとはやっぱ頭腐ってる?≫
≪止めろ!≫
そこでエドの制止の言葉が入った。うん、そうだな。今はこんな二股クソ野郎より聞かないといけない話がある。
「ダーク、聞こえているか?」
≪……ああ≫
「お前が通信に出てるって事は、ナターシャとエーコを殺したのか?」
≪≪≪≪えっ!?≫≫≫≫
俺の突然の言葉に全員驚く。
≪……いや、交戦したが俺は負けた≫
≪≪≪≪は~≫≫≫≫
全員の安堵の息が漏れる。
「なら、どうしてお前が通信に出てる? ナターシャとエーコは?」
≪……二人とも俺との戦闘で魔力枯渇した。この階層には重力魔法が使えないと二人には来れまい。だから俺が頼まれた≫
「本当に殺してないんだな?」
≪……ああ。殺す依頼だったがな≫
「なら、良い」
良かった。二人共無事だ。俺は安堵の息を吐き出す。つうか中身が違うとは言え、自分自身と会話とか気持ち悪いな。
≪……なんか声似ているな≫
エリスがポツリと呟く。くぐもった声で良く分かるな。
≪だから自作自演でガンス。舐め腐りやがってでガンス≫
いつまで言ってるんだよ、二股クソ野郎が!
≪それはない。二人の通信機械の信号が別々のとこから発信されている≫
エドがきっぱり否定してくれる。つうか信号まで分かるの? 思ったより優秀だな。
≪……それよりこれ片付けるのだろ? エリスから通信があってから五時間以上経ってるぞ。アークじゃないが、トロいぞロクーム≫
≪うるせーでガンス≫
うわ! 本家にまで言われちった。ざまー。
≪じゃあ全員合わせるぞ。アーク、カウントダウンを≫
≪何でまたそいつなんだよ?≫
≪もういい加減にして、ロクーム!! さっきから煩いっ!≫
≪……はい≫
ルティナがキレた。珍しい事もあるんだな。でも、まあこれで大人しくなるな。
俺はアルを見て視線で合図を送る。
「カウント5から行くぞ。5・4・3・2・1、今だっ!」
「オォォォラバスタァァァっ!!」
≪じゅぃぃぃぃっ!!≫
≪中位火炎魔法≫
≪スラッシュ・ファングぅぅぅぅっ!≫
≪秘儀・残≫
≪しっ! しっ! しっ!……≫
俺の隣でアルがお得意の闘気技オーラバスターを放ち心臓に炸裂。あっけなく撃沈。
エドのは、恐らく対魔物用チェーンソーだな。その音が漏れている。
ルティナは中位火炎魔法。ダークは闘気技のスラッシュ・ファングだな。
エリスの方は、ムサシの秘儀を使う声が漏れていた。
そして二股クソ野郎。お前が一番しょぼいな。どうせ連続攻撃でもしたんだろ?
女に限を抜かす暇が、あったら闘気技を身に付けろよ。
そもそも何でお前がやってるんだ? ガッシュに任せろよ。
それはともかくよし! 時間逆行する気配がない。成功したようだ。これであの地獄から解放されるぜ。
≪これで……≫
≪やったな≫
≪ふっ……≫
≪ムサシ、感謝する≫
≪はぁはぁ……≫
エド、ルティナ、ダーク、エリス、ロクームという順番にヘッドホンから声がした。
ダークは、なんか笑っているな。エリスはムサシへの労いか。
エリスでもできたのだろうが、螺旋階段では魔物の大群、ボス戦後にはムサシへの回復などをして疲れていたんだろうな。
そして、二股クソ野郎。連続攻撃なんかしてるから疲れるんだよ。バカか? いいやバカだ。
ゴゴゴゴゴゴ……っ!
そこで大地が……いや、ゾウ内部が揺れた。
≪何だこの揺れは?≫
≪とりあえず退避だ! 外に出るぞ≫
≪ええ≫
≪分かった≫
「了解」
≪………≫
≪はぁはぁ……分かった≫
エリスが最初に騒ぎ、エドが退避勧告。流石王だ。判断が早い。
ルティナ、エリス、俺という順番で応え、ダークは無言ね。
そして二股クソ野郎。まだ息切れしてるのか? 無能が。
「アル、脱出するぞ!」
「応!」
俺は通信を終えるとアルに叫び走った。
アルは大分アンクレットの力に慣れ速くなっている。
俺の大体五割ってとこか。それに合わして走り揺れるゾウの足から外に出た。
「よー! お帰り~」
手を挙げ陽気に声を掛けて来たのは先に外に出ていた武だ。ルティナも一緒にいるが、ゾウをずっと眺めている。
ゾウは足踏みをしまくっていた。そりゃー揺れるわな。
「ぱお~~んっ!」
うるせー。時折鳴く。心臓が潰された痛みからだろうか?
「おい武。もう首を落としても良いだろ? 殺ってしまえよ」
「たぶん無理だと思うぞ?」
「何故」
「まぁ試して見るか……<収納魔法>」
収納魔法を使い、空間に手を入れて剣らしきものを取り出す。
その剣の柄に竜が巻き付いた感じの意匠。柄の先端は竜の顔があった。
その剣を抜く。不思議な剣だ。刀身が反対が見える程に透き通っている赤透明。
「それは?」
「愛用の剣、銘は龍剣帰還の預言」
「名前なんてどーでもええわ!」
「へっ?」
「お前態とやってるだろ?」
「何が?」
「こいつマジうぜぇ」
「……今、マジトーンで言っただろ? やんのか? あぁん?」
「は! 上等だ、ツラ貸せや。ぶっ飛ばしてやる」
「ちょっと! 今は喧嘩してる場合じゃないでしょう?」
不毛な争いはルティナによって水を差された。
「あ、あ~ルティナ、これが俺達の平常運転だからな。本当に険悪になったわけじゃないからな」
「そう…なの?」
一応弁明してみるが疑いの眼差し。その目が痛い。マジ本当だって。
元の世界で、こんなくだらん事で言い争うなんてしょっちゅうだった。
「で、お前は何が言いたかったわけ?」
「まーじで言ってるの?」
「いや、ほんと分からんって」
「お前の得意なの拳だろ? 何で剣を出すんだってアークは言いたいんじゃねぇか?」
「は~……そうだよ」
こりゃ溜息も出てしまうわ。アルのが察しが良いじゃんか。俺の代わりに言ってくれた。
「首を斬り落とすのだろ? 打撃より斬撃のが良いだろ?」
「殺せれば良いから殴っても良くない?」
「斬撃のが分かり易いだろ? 全員がかりで斬り掛かっても無理だって分かるだろうから」
「そうならそうと最初から言え! 大ボケが」
「やっぱやんのか? コラ」
「もう良いから、アレを殺れ」
「はいはい……す~」
武の纏う空気が変わった。
武が龍剣アポカリプスとやらを構えて目を瞑り精神集中してる感じだ。
恐らく闘気を練り上げているのだろう……。
簡単に闘気を扱う武が、ここまでするって事は、物凄いのが出ると予想できた。
「物凄い闘気の練り上げだ。これは飛びっきり凄いのが出るぞ」
アルも同じ事を思ったみたいだ。いや、アルは正確に闘気を練り上げている事が感じ取れたのだろう。
流石は、この大陸一の闘気の使い手のだけはある。他人の闘気の流れも、ある程度分かるのかもしれない。
「<魂魄撃魔法>」
何かの魔法だろうか?
それを唱えると手から柄、柄から刀身と魔力のようなものが流れ、刀身が紫透明に変わった。
そしてカッと目を開く。
「<我竜覇斬ッ!!>」
剣を振り下ろす。
刃先から特大の青い斬撃が発せられ、同時に刀身が赤透明に戻った。
あの斬撃は、ヤバい。何故かそう感じた。寒気がする。肉体ではない。本能が、魂がヤバいと訴えているようだ。
今まで見た事がある、どの闘気技より特大の斬撃。しかし、そこにじゃない。青いってとこにヤバいと感じた。
その斬撃が正確にゾウの首を捉える。
「ぱお~~んっ!」
痛みからなのか鳴き、青い斬撃は首の半分くらいまで斬り咲いた。
「「「っ!?」」」
俺とアルとルティナが目を見開く。驚きのあまりにだ。
「超速再生……だと?」
一瞬で首が元に戻った。
「……ほらな」
武だけは平然とし呟く。
「足の心臓部がやられたせいか、やたら硬質化してやがるアレ」
「ちなみにさっきの魔法は? 刀身を紫にしていたけど」
「あれは魂魄撃魔法って言ってな、魂を直接攻撃できる。まぁ威力はそんなに高くないが、魂がダメージを受けると肉体が脆くなるんだ」
「「そんな事が……」」
「そんな魔法が……」
俺とアルは肉体が脆くなる方に驚く。ルティナは、たぶんそんな魔法がある事に驚いたのだろう……。
「俺は斬撃と組み合わせて魂と肉体の両方に攻撃したんだが……結果は御覧の通り」
武が肩を竦める。
「たぶん全員同時攻撃しても厳しいぞ。あれ」
「じゃあどうするんだよ?」
「一応考えがあるが……あ、また戻って来たぞ」
そう言った武の視線の先を見るとエリスとムサシが戻って来ている。
「ゾウとやらが暴れているな」
「心臓を潰した痛みからでござるか?」
そして次にナターシャがダークの肩を借りて戻って来た。ちなみに鉄仮面を被っているので誰も俺と同じ顔とは気付かないだろう。
ダーク達の後ろにエーコがいる。本当無事のようだが……エーコの左肩が血で染まっている。
ナターシャなんて服全体が真っ赤で左肩からお腹にかけてザックリ斬られたのか縫い跡があった。
「戻ったさぁ」
「戻ったよー」
二人の言葉を無視しダークに詰め寄る。
「ダーク! てめぇナターシャに何しやがる」
「……殺しの依頼を遂行しただけだ」
平然と言いやがって。
「ふざけんな!」
「アーク止めてー」
エーコが後ろから抱き着くように止めて来た。
「エーコ、放せ!」
「もう終わった事だよー。それに手伝ってくれたんだよー」
「クソっ!」
毒付きつつ抑える事にした。
今はそんな場合じゃないし、こんなのでもエーコの本当父親だ。
「……聞かされていたが、本当に同じ顔だ。薄気味悪い」
ボソっとダークが呟く。それは俺も同じだ。