表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/563

EP.11 伝えたかった想い -side Eco-

「邪魔するな女! 貴様の殺しの依頼は受けてないが邪魔するなら殺るぞ?」


 ナターシャお姉ちゃんを防御魔法(シールド)で守った事でダークさんにギロリと睨らまれる。

 怖い。殺気が凄い。たぶんわたしは殺さないだろうとは思うけど、それでも怖い。

 模擬戦でアークに二人がかり手も足出なかったわたし達が実戦で、それと同等の力を持ったダークさんと戦うのは怖い。

 だけどここで怯んだらナターシャお姉ちゃんが殺される。それだけは阻止しないと……。


「女じゃないよー。エーコだよ。お父さんが付けた名前でしょー?」

「……何を言ってる?」


 ナターシャお姉ちゃんが散々挑発したから全然聞いてくれない。


「良い子に真っ直ぐ育って欲しいからエーコなんでしょー? わたしはもう知ってるよー」

「………」


 ダークさんが押し黙る。


「エレメント・ランス」


 その隙を狙ってナターシャお姉ちゃんが右に飛びながら光の矢を放つ。左脇腹を狙った一撃。

 だから説得できないから攻撃しないでよー。


 カーンっ!


 ダークさんをそっちに目もくれず小太刀で弾く。やっぱアークみたいに気配だけで色々分かるみたいだね。いや、本家はこっちかー。

 そこで懐で音が鳴る。アーク曰くヘッドホン。流石にこの状況で取っている余裕はないよー。

 ヘッドホンを取り出さずダークさんを注視した……。


 ダークさんが残像を残して消える。

 次はどこから? ナターシャお姉ちゃんの後ろ!

 ナターシャお姉ちゃんもそれに気付き前に飛ぼうとした。


「きゃっ!」


 しかし、先程より速い。背中に蹴りを食らってしまう。

 前に飛ぼうとした体勢で後ろからの蹴り、当然バランスを崩し前に倒れそうになる。


「ぐっ!」


 だが、それをさせてくれない。ダークさんは自動防御のマントを掴み無理矢理自分の方へ引き寄せた。


「マントを掴まれていれば無意味だろ?」


 そう言って小太刀を前へ突き立ようとする。まずい……、


「<シール……>」

「邪魔するな!」


 わたしが防御魔法(シールド)で援護しようとしたけど、ダークさんが投擲をわたしにして妨害。


 ブスっ!


「っぅぅぅ!」


 ナターシャお姉ちゃんの腰を小太刀でぶっ刺さした。

 赤い液体がお尻を、足をつたって流れる。その量を考えるだけで、死ぬんじゃないかとそう思わせる。

 まで間に合う。わたしが回復すれば平気だ。まずはわたしが説得して止めないと。

 ナターシャお姉ちゃんは、痛みに堪えながらもダークさんを睨み付ける。

 ナターシャお姉ちゃんの気持ちも少し分かる。せっかく助けて半年間治療して上げたのに恩を仇で返すとはこの事だ

 ただナターシャお姉ちゃんに聞いたけど、魔法で治療しなかったらしい。それ故に半年も掛かってしまったとか。

 まぁ歴史改変前で、アークを治療した時もそうだったらしいけど、その時は精霊がいなかったので魔法が使えなかった。

 アークなのかダークさんなのか確信を持てなかったので、同じ行動をなぞったらしい。

 それはともかく止めないと。


「いい加減にしてーっ! <中位火炎魔法(ギガ・ファイヤー)>」


 先程の投擲から体勢を整えたわたしは中位火炎魔法(ギガ・ファイヤー)を放つ。

 ダークさんは、ナターシャお姉ちゃんから小太刀を抜き逆手に持ち替えた。


「<スラッシュ・ファングぅぅぅぅ!>」


 ダークさんの得意とする闘気剣で中位火炎魔法(ギガ・ファイヤー)による巨大な火の鳥をを斬り咲く。

 ナターシャお姉ちゃんはその隙に刺された脇腹を抑えつつ距離を取った。


「……邪魔するなと言っただろ」

「うっ!」


 次の瞬間、ダークさんがわたしの目の前に移動しており、小太刀の峰で首筋を攻撃して来た。

 ほんとわたしには甘いねー。なんだかんだ言いながらわたしを大事にしてるのが分かる。

 今の一撃も斬らずに峰だもんね。それに本来なら意識を刈り取る事も出来ただろうに手加減してくれた。

 それでも膝から崩れ落ち意識を手放してしそうになってしまう。わたしが意識を失ったらナターシャお姉ちゃんが殺されてしまう。だから必死に耐える。

 ナターシャお姉ちゃんは距離を取りつつ懐から素早さのお香を取り出していた。

 後は嗅ぐだけなのだが……、


 カーンっ!


 しかしお香が投擲で弾かれてしまう。


「……また妙なものを取り出したな。だが、させない」


 ナターシャお姉ちゃんの体が少しフラ付いてる。さっき腰刺されたせいで血を流し過ぎたのかな?

 それとも息もできないよな殺気を向けられている中での戦闘をしたせいか?

 いずれにせよナターシャお姉ちゃんが危ない。だから、早く立ってわたしが止めないと。


「エレメン……」


 弓を構えるが投擲を当てられ、弓を手放してしまう。


「……これで」


 ダークさんが左小太刀を振るう。タケルから貰った自動防御のマントが反応し、背面から前へ移動。

 そして小太刀を防ぐ。


「……無駄だ」


 アークスは左手をぐるんぐるんと円を描くように回す。マントがどんどん左手の小太刀に巻き付いて行く……。

 そして右手の小太刀を振り上げ……、


 ズサァァァァっ!


 袈裟斬りで左肩からお腹までざっくり斬られてしまう。

 ナターシャお姉ちゃん!?

 ダメー!! まだ死なないで。早く立たないと。でも、まだ意識を保つ方に必死で足に力が入らない。


「はぁはぁ……あ、ーク、ごめん」


 せめてナターシャお姉ちゃんに魔力に余裕があれば……。

 重力魔法(グラビティ)は、中位だが魔力消費が中位で尤も多い。つまり、ナターシャお姉ちゃんに取って重力魔法(グラビティ)は、最高魔法。

 それを連続で使用し続けて魔力が枯渇寸前まで行ってしまった。

 魔法でけん制もできない、それどころか回復もできない。自分の流したこの血だまりの中に倒れ伏すナターシャお姉ちゃん。


「……これで終わりだ」

「止めてーっ!」


 わたしは、やっと起き上がれた。まだ間に合う筈。直ぐに回復すればナターシャお姉ちゃんを助けられる。だからナターシャお姉ちゃんに向かって走り出す。


「……止まれ」


 ダークさんがわたしの首筋に小太刀を当てて制止させる。


「………」


 わたしは首に当てられた小太刀を見て、そしてダークさんをキッと睨む。


「お父さん、もう止めてーっ!!」

「……父ではない」


 静かに、そして薄ら寒さを感じる言葉をわたしは放ち、それを否定する。


「グランティーヌお母さんが悲しむねー」

「っ!?」


 わたしが寂しそうに言うとダークさんが微かに身じろぎした。ダークさんが唯一愛した女の人の名前。

 失意のどん底にいたダークさんを救いあげ、たった二年弱だが連れ添った。

 そして、わたしの記憶の底に薄らとしかないわたしのお母さん。

 その名前を出されて、一瞬だが動揺したのだろう……。

 それをわたしは見逃さない。


「えーいっ!」


 タケルさんから貰った鉄槌を大きくして横からぶん回す。


「な、何っ!?」


 ダークさんは咄嗟に二振りの小太刀を突き出し、少しでも威力を減らそうとした。

 ポッキーンっ! と、二振りの小太刀が折れる。

 この破邪の鉄槌は、魔力を籠める事で威力を底上げ出来ると言っていた。なら、わたしの魔力を持ってすれば、かなりの破壊力になるだろう……。

 事実、小太刀を折るだけにとどまらず振りかぶってダークさんのお腹にぶち当てた。


「がはっ!」


 鉄仮面で顔は見えないが、吐血したような呻き声を発し吹き飛ばされる。

 直ぐ様ナターシャお姉ちゃんに駆け寄った。


「ナターシャお姉ちゃん。死なないでー……<上位回復魔法(ヒーリング)>」

「エーコ、助かったさぁ」


 ナターシャお姉ちゃんは立ち上がろうとしたけど、直ぐに崩れ落ちる。


「まだゆっくりしててー。傷は塞いでも流した血は戻らないからー」

「でも、アークスが……」

「後はわたしがやるよー」

「分かったさぁ。エーコも無理するんじゃないよ」

「それナターシャお姉ちゃんが言うー!? 煽ったの誰だと思ってるのー?」


 わたしを頬をプクーと膨らます。


「ごめんさぁ。せっかく治療してあげたのにって思ったらさぁ……」

「分かるけどー、説得してから言いなよー」


 そうこう話してるとダークさんは、ゆっくり起き上がり鉄仮面を外し、それを捨てると血がついた口元を拭った。

 そして二振りの小刀を抜く。小太刀の予備はないようだけど、投擲用に小刀をいくつも持っていたのだろう。


「せめてこれだけはぁ……」


 ナターシャお姉ちゃんは懐から、二つのお香を取り出し、一つをわたしに嗅がせる。

 もう一つは、今出せるだろう有らん限りの力を籠めダークさんに向かって投げた。


「……何だこれは?」


 ダークさんが口や鼻を抑えるが、もう遅い。確りお香の煙はダークさんの中に入って行った……。


「お父さん、もう止めなーい?」


 小刀を構えるダークさんに呼び掛ける。

 見た目は、目付きちょっと鋭くしたアーク。当然か。中身が違うだけで同一人物なんだから。


「……父ではない」

「自分の手が血に染まっているからー?」

「……それも知っているのか。そうだ」

「認めるんだねー」


 遠回しだけどやっと認めてくれた。


「今更取り繕っても仕方ない……それより何故そんなに俺の事を知っている?」

「ナターシャお姉ちゃんを殺さないでくれるなら教えるよー」

「……それは出来ない。俺にはこれしか残っていない」


 止めてはくれないけど、少しは聞く耳を持ってくれたみたい。ちゃんと話もしてくれる。

 ああ、思えばこれが初めてかもー。

 精霊大戦の時、ダークさんは、ほとんど話してくれなかった。

 みんなにもだけど、特にわたしとは……。

 たぶん距離を取られていたんだと思う。


「ダームエルさんの仇は、もう取ったのにー?」

「……ダームエル」


 ダークさんが一瞬物思いに(ふけ)ったが、まるで頭に奥に押し込めるように首に左右に振る。


「……やはり、それも知っているのだな」

「知ってるよー。だってお父さんに取って、親であり師なんでしょー?」

「……薄ら気味が悪い」


 ボソっと呟く。

 そうだよねー。自分しか知らない事を知っていればそうなるよね。


「……何故そこまで知っている?」

「ナターシャお姉ちゃんを殺さないでくれるなら教えるよー」

「……二度は言わん」

「は~……止まれないんでしょー?」

「そうだ」

「でもわたしは知ってるよー。お父さん……」

「父と呼ぶなっ!」


 鋭く遮るように叫ぶ。ダークさんには珍しい。


「分かったよー。じゃあ昔みたいにダークさんて呼ぶねー」

「で、何を知っている?」


 ちゃんと聞くんだー? 少し嬉しいな。

 アークと話すのは好きだし、わたしを大切にしてくれているから、一緒に住めて嬉しいけど、やっぱり中身が違うから、本当のお父さんじゃない。

 でも、目の前にいるのは中身もお父さん。こんなに話した事なかったなー。

 ずっと色々話したいと思ってたんだー。


「ダークさんと同じように(・・・・・)暗殺者の道を選んだけどー、今は荒事もするけど殺しは、なるべく避けている人ー」


 同じようにではなく、全く同じなんだけどねー。

 それに中身が変わったから、人殺しを避けるようになったってだけなんだけど。


「……俺は、そいつのようになれない」

「グランティーヌお母さんを忘れろとは言わないけどー、大切な人を見つければなれるよー。お母さんにもそう言われたでしょー?」

「……ティー」


 ダークさんがグランティーヌお母さんの愛称を呟き押し黙る。

 畳み掛けようかな。できればダークさん……お父さんと戦いたくない。


「その人はねー、わたしやナターシャお姉ちゃんと一緒に暮らしてて、不器用だけどーわたしを一生懸命守ってくれるんだよー」

「……それは男か?」


 何だろう? 少し殺気が増した。


「そうだよー」

「………」


 凄い怒ってる? アークみたいにうちの娘はやらーんとか考えているのー?

 父ではないとか言いながら?


「ここに来て、父親面ー?」

「父親面も何も父ではないっ!」


 食い気味に言って来た。なーんか意固地になってるなー。呆れてしまう。


「は~……もういいや。それで本当に止めてくれないんだねー?」

「くどい!」

「分かったよー」


 わたしも鉄槌を大きくし構えた。


「止まって欲しかったら、エーコ。お前が止めて見せろ」

「えっ!?」


 今までにない優しい声音に、鋭くない柔らかい口調だった。

 それに物心ついて初めて名前を呼ばれたかもしれない。

 嬉しさで少し心臓がドクンと跳ねた。もしかして止めて欲しい? 最初から誰か止めて欲しかった?

 それなら最初から説得とか無意味だったな。結局戦わないといけなのかなー。


「……お前を殺すまでは、あの女には手を出さないでやろう」


 あ、声音が戻ちゃったよ。アークより少し低い声音。

 ナイフを首を突き付けられたと錯覚してしまいそうになる鋭い声音。


「ダークさんは絶対にわたしは殺さないよー」

「………」


 ダークさんが残像を残して消えた。まるでそれが答えと言わんばかりに……。

 でも違うよね? 殺す気ないのは分かってるよー。

 だって、精霊大戦の時いつも影ながら守ってくれてたもん。いつもいつもいつもわたしがピンチな時に助けてくれた。

 でも、だからって負けるわけには行かない。

 この大陸を守るんだ。

 ゾウを倒すんだ。

 アークが色々苦労して頑張ってくれたから報いるんだ。



 何よりナターシャお姉ちゃんを殺させる訳にはいかない―――――。



 わたしはそう思い、心の中で喝を入れ左にステップ。

 右から来た小刀が空を切る。


「えーいっ!」


 直後わたしは右に戻りながら鉄槌を振り回す。


 スっ!


 ダークさんが消える。後ろ。

 この約半年間たまにやってたアークとの模擬戦で分かるよ。なんとなくだけど。

 キーンっ! と、金属がぶつかり合う音が響く。鉄槌で柄で小刀を防いだ。


「ふっ……強くなったな」


 薄く笑い先程と同じく優しい声音で言って来た。

 違うよー。わたしの力じゃないよ。ナターシャお姉ちゃんのお香の力なんだよ。

 わたしには素早さのお香により、速く動ける。そしてダークさんには萎縮のお香。

 筋肉を少し萎縮させる程度の嫌がらせレベルのお香。本来は筋肉の緊張を和らげ休ませる為の薬だった。

 それを少し改良しお香にした。緊張を和らげたところで、それを動かす本人が動かそうと思えば動く。

 硬質化とは違う、本当に嫌がらせでしかない。多少動きが鈍くなる程度。

 だけどダークさんのようなスピード主体の者には顕著に現れる。それはアークで実証済み。


「動き辛いでしょー? お香嗅いだからー」

「……毒か?」

「薬だよー。ただ戦闘中に使う薬じゃないからそうなってるだけー」


 柄と小刀を合わせながら会話を行う。

 と言うかダークさん、毒を無効に出来るでしょう? だからナターシャお姉ちゃんは、毒ではなく薬を用意したんだよー。


「……そうか」


 そう言うと再び消える。わたしは右に半歩ズレる。左から来た小刀が空を切る。

 次は後ろね。前へ半歩。

 紙一重の距離で躱し続ける。

 それでもきつい時は鉄槌の柄で受け止める。


「……俺だけじゃないな。エーコもか」

「まーねー」


 ダークさんも気付いたみたい、わたしが素早くなっている事に。

 それでもダークさんの半分にも満たない。なら何故紙一重で避けているか……。

 それはダークさんが小刀になってるから。アークと同じ。

 小太刀だったら厳しかったなー。

 小刀は小太刀より間合いが短い。

 それでも小太刀より軽いので、速さに拘っているアークは小刀を好む。

 そのアークと模擬戦していたのだ。きっちり間合いを把握している。だから避けられる。

 小刀にした事とナターシャお姉ちゃんのお香でギリギリの戦いが出来た。

 でも、そろそろ無理かなー? ダークさんが萎縮した肉体に慣れ、それに対応した動きをし出すだろう……。

 それに攻撃パターンも変える筈。


 キーンっ! カーンっ! キーンっ!………。


 やはりというかなんというか。真正面から両手の小刀を振るって来る。なんとか鉄槌の柄で受けているが厳しいな。

 目算がズレ、手が斬られるかもしれない。でも、負けられない。

 それと同時にもっと続けたいと思っている自分がいる。今のわたしは相反する気持ちを抱えている。

 だって、初めてなんだよー。

 お父さんが、こんなに向き合ってくれるのー。

 武器による対話だけど楽しいなー。

 ナターシャお姉ちゃんの命が懸かってるから不謹慎なのは分かってるけど。


「ねぇ、ダークさん」

「……何だ?」


 キーンっ! カーンっ! ギーンっ! キーンっ!


 たったこれだけの会話の間に四連続の攻撃を受ける。やっぱ速いなー。

 お香の効果があるのにこの速さ……。お香の効果がなかったら、一瞬で終わってかもー。

 ダークさんは不器用だから、きっとアークより手加減が出来ない。アークは優しいから相当手加減してたと思う。だからアークとやった模擬戦より、きっと厳しい。


「いつも守ってくれてありがとー。大好きだよ、お父さん」


 ずっと言いたかった。

 精霊大戦の時、お父さんではないかとずっと思っていたけど、確信が持てず言えなかった。


「……父ではない」


 キーンっ! カーンっ! キーンっ!


 そう言うと思っていた。

 例えその手が血で濡れていれようとわたしのお父さんには変わりない。

 それにわたしが生まれた時、真剣に愛してくれていた。朧げだけど、もうほとんど記憶の片隅だけど覚えているよー。

 それにアークからも聞いてたし。


「<重力魔法(グラビティ)>」


 自らの肉体を軽くし、高く跳躍しつつ後ろに下がる。ダークさんは、着地を狙おうと間合いを詰める。

 この魔法での跳躍は、着地の瞬間が一番危険。だから、そう来るって分かってたよー。


「<上位氷結魔法(ブリザード)>」


 空中で鉄槌を小さくし、仕舞いつつ上位氷結魔法(ブリザード)で吹雪を起こす。

 脆弱な者なら凍り付く。

 でも、ムキムキ叔父ちゃん程にないにしろ微弱ながら闘気を発散しているダークさんには動きを鈍らせる程度。

 でも、それで十分。安全に着地できる。


「<中位火炎魔法(ギガ・ファイヤー)>」


 着地した瞬間、炎系中位魔法(ギガ・ファイヤー)を放つ。巨大な火の鳥がダークさんの飛んで行く。


「<スラッシュ・ファングぅぅぅっ!>」


 小刀を逆手に持ち替えて放った闘気剣で炎の鳥を斬り咲く。だが、小太刀ではないので、完全には斬れない。

 たぶん小刀の扱いならアークのが上手い。アークなら完全に防いでいた。


「くっ!」


 残り火がかかり軽く火傷を起こす。そしてわたしの攻撃はそれだけじゃ終わらない。

 火の鳥を追従していたわたしは鉄槌を取り出し大きくして振り回す。


「ちぃぃっ!」


 ダークさんが後ろに飛ぶ。

 筋肉が萎縮していようが素早い対応に、わたしが重力魔法(グラビティ)を使った時と同じくらいの跳躍力を軽々と行っている。

 分かってはいたけど、やっぱ凄いなーと思ってしまう。

 それにわたしには追い掛けて着地の瞬間を狙うなんてできないなー。


「<防御魔法(シールド)>」


 カーンっ!


 ダークさんは着地した瞬間、投擲をして来た。わたしはそれを防御魔法(シールド)で防ぐ。


 パッリーンっ!


 しかし、投擲に追従して来てたダークさんの右手に持つ小刀に防御魔法(シールド)を砕かれる。


 カーンっ! キーンっ!


 そしてまた小刀の攻撃を鉄槌の柄で防ぐ。

 なーんかわたしの攻撃の真似されているよな気がするんだけどなー。

 それにダークさんも心なしか笑っている気がする。


「娘との戦いが楽しいのー?」


 小刀を防ぎながら聞いてみた。


「……娘ではないがな」


 ほんと意固地だなー。

 それに楽しんでるとこは否定しないんだー。わたしもだよ。

 ずっと続けば良いと思ってしまう。でも終わらせないとなー。

 だってこのままだとジリ貧。わたしの魔力も枯渇しそう……。

 あと上位二、三発かなー?


 キーンっ! カーンっ! キーンっ!


 小刀を防いでいた鉄槌を態と手放した。


「な、何っ!?」


 ダークさんが驚きに目を見開く。しかし、突き出した小刀を止められず、起動を変える事しかできなかった。


 ブスっ!


 わたしの左肩に突き刺さる。


「何故?」


 何故って? 結局ダークさんはわたしには非情になれないからだよー。わたしがこうすれば怯むと思ったよー。

 わたしは、その隙を見逃さない。右掌をダークさんに向ける。


「<上位稲妻魔法(ドラゴ・スパーク)>」

「っ!?」


 ダークさんは慌てて、わたしに突き刺さっている小刀から手を放し、バックステップで逃げようとする。

 遅いよ。もう解き放たれているからね。わたしの放った上位稲妻魔法(ドラゴ・スパーク)である電撃の竜が……。

 それがダークさんに食らい付くように追尾した。


「ぎゃぁぁぁぁぁ……っ!!」


 電撃の竜がダークさんに巻き付き感電させ白煙が上がる。そして、そのまま倒れた。


「<中位回復魔法(ギガ・リカバリー)>」


 中位回復魔法(ギガ・リカバリー)を先程刺された左肩にかけつつダークさんに近寄る。

 ダークさんならまだかろうじて生きてるだろう……。


「<中位回復魔法(ギガ・リカバリー)>」


 ダークさんにも中位回復魔法(ギガ・リカバリー)をかける。


「生きてるよねー?」

「……ああ」


 本来なら上位回復魔法(ヒーリング)でないと回復できない深手だ。

 上位稲妻魔法(ドラゴ・スパーク)をまともに受けてしまったのだから……。

 わたしの最強魔法である隕石魔法(ミーティア)を除くと、『単体に対して』と限定されてしまうが、最大威力を誇る魔法だ。

 上位回復魔法(ヒーリング)ではなく中位回復魔法(ギガ・リカバリー)にしたのは、動けるようになって、また戦いになったら勝ち目がもうないから。


「もうナターシャお姉ちゃんを殺さなーい?」

「……ああ。お前の勝ちだ。エーコ」


 虚空を眺めポツリと呟く。優しい声音。その声音を聞いてしまったら感傷的になってしまった。


「……お父さん」

「だから父では……ぐっ!」


 言い終わらないうちに倒れているダークさんの胸に飛び込んだ。


「お父さんは、お父さんだよー。うぅぅぅ……」


 もう十一歳になるというのにみっともなく泣いてしまう。


「だが……」

「ぐすっ……例えその手がどんなものでも、生み出して貰った事実は変わらないよー」

「………」

「ありがとー。生んでくれてー」


 ダークさん……いや、お父さんにその一言を……。

 すっと言いたかった。

 ずっとお父さんと確信が持てずに言えなかった事を。


 ありったけの想いを伝えた――――。


 お父さんが優しく頭を撫でてくれた。

 それが無性に嬉しくて再び涙が溢れる。先程よりも沢山。


「うわぁぁん」


 わたしは子供のようにわんわん泣いてしまった……。


「……エーコ」


 抱き着いたわたしにお父さんが優しく呼び掛けてくれる。


「なーに?」

「何か鳴ってるぞ」


 ああ、そうだったー。今はゾウ討伐の最中だ。

 わたしはお父さんから離れて懐からフィックス製の通信機械を取り出した。アーク曰くヘッドホン。

 それを頭に装着。


≪こちらエドだ。聞こえるか?≫

≪ああ、聞こえるぞ≫

≪聞こえるわ≫

「聞こえるよー」

≪もしもし、聞こえるぞ≫


 エド叔父ちゃん、エリスお姉ちゃん、ルティナお姉ちゃんの声がし、わたしもそれに応答した。

 そしてアークが意味不明な事を……。


≪だからもしもしって何よ?≫

「ルティナお姉ちゃんほっとけば良いよー。どうせくだらない事だよー」


 ルティナお姉ちゃんが気になってるようだけど無視で良いよー。


≪エーコ、酷いぞ≫

「じゃあくだらなくないのー?」

≪ぅぐっ!≫


 やっぱりくだらないのねー。

 言葉詰まらせてるし。


≪痴話喧嘩は後にしてくれ≫

「痴話喧嘩じゃないよー」≪いや~照れるなー≫


 言葉が被ってしまった。

 それにしても相変わらず変な事ばかり言うなー。


「……アーク、ナターシャお姉ちゃんに伝えておくねー」

≪ご、ごめんなさい≫


 とは言うもののナターシャお姉ちゃんは少し離れたとこで横たわっている。寝てるのかな?


≪あ、あー良いかね?≫

「エド叔父ちゃんごめんねー。良いよー」

≪こちらは到着した。皆はどうかね?≫

「わたしはまだー」


 それどころかわたしは魔力枯渇寸前。

 ナターシャお姉ちゃんは魔力枯渇してる上に血を流し過ぎて動けない。このままだと無理かなー?


≪私もよ≫

≪俺も今到着した≫


 到着したのはエド叔父ちゃん達、ルティナお姉ちゃん達、アーク達ねー。

 みんな早いなー。でもロクーム叔父ちゃんは?

 エリスお姉ちゃんがいなくて不貞腐(ふてくさ)れて、やる気ないのかなー?


≪となるとエリス組とエーコ組に、まだ一度も連絡が来ないロクーム組だな。では各自健闘を祈る≫


 エド叔父ちゃんが最後にそう言って通信を切る。


「さてとー、お父さん……」

「お父さんは止めてくれ」


 地面に横たわっているお父さんはそう言う。

 上位稲妻魔法(ドラゴ・スパーク)によるダメージが完全に回復していなく動けないのだろう。

 中位回復魔法(ギガ・リカバリー)では命を繋ぐのが精一杯。


「でもー」

「例え父でも今更父を名乗れまい」


 父と認めてくれるなら良いっかー。それにしても随分柔らかい雰囲気なったなー。

 これが素のダークさん? いや、アークス=アローラ?


「じゃあアークスさん?」

「……態と言ってるのか?」


 冗談めかして言ったら呆れたように返された。しょうがないなー。


「ダークさん?」

「ああ」

「本当にもうナターシャお姉ちゃんを攻撃しなーい?」

「ああ」

「なら回復するねー……<上位回復魔法(ヒーリング)>」


 上位回復魔法(ヒーリング)を使い完全回復させる。

 ナターシャお姉ちゃんみたいに血を流し過ぎた訳ではないので、自由に動けるだろう……。

 筋肉を萎縮させるお香の効果は、もう少しあるけど。何にしてもこれでわたしの魔力も枯渇だなー。

 三階層に行く途中にある崖はどうしよ? 重力魔法(グラビティ)は、もう使えないしなー。


「助かる」


 そう言ってダークさんは立ち上がり左手で右肩を抑えグルグル回す。

 次に逆の肩を回す。体の調子を確かめているようだ。


「さて、俺の事を色々知ってる理由は負けたから教えてくれないのか? それにこの魔物についても。エド達も来ているのは知っている」


 ヘッドホンから声が漏れていたのかな?


「良いよー。でも、その前にこれを」


 わたしは首にチェーンに通して下げている指輪をダークさんに渡す。


「これは……ティーの指輪。だが何故二つある?」

「実はーダークさんが二人いるんだー」

「はぁ!?」


 ダークさんが素っ頓狂な声を上げる。無理もない。突拍子のない話だもんね。

 ちなみに指輪が二つあるのはアークが事前に貸してくれたから。

 説得後色々聞かれるかも、と予想していたからだ。

 本来一つしか存在しないものが二つあると信じて貰い易いという判断から……。

 わたしは、第二次精霊大戦があった事や時間遡行して解決した事、そしてアークの事など分かる範囲で説明した。

 分かる範囲というのは、歴史改変前の記憶を全て持ってるわけじゃないからだ。


「……信じ難い」


 唸るようの呟く。そうだよね。

 そうして話しながらナターシャお姉ちゃんが倒れているとこに近付き、話し終えた頃合いでナターシャお姉ちゃんが目覚めた。


「エーコ?」

「ナターシャお姉ちゃん大丈夫ー?」

「まだちょっとボーっとするさぁ」

「血を流し過ぎたからねー。そのまま休んでて良いよー」

「そうするさぁ」


 ナターシャお姉ちゃんは横たわったまま周囲を見回してダークさんのとこで視線を止める。


「……アークス」

「その名は捨てた。止めろ」

「じゃあ恩知らず」

「………」


 あ、ダークさんが黙っちゃった。


「それとも育児放棄野郎?」

「言いたい放題だな」

「言い足りないくらいさぁ。せっかく助けてあげたのにさぁ」

「誰も頼んでいない」

「死のうとしてからかい?」

「そうだ」

「残されるエーコの事を考えないでかい? サイテー野郎さぁ」

「俺が父だと伝えるつもりはなかった」

「でも知っていたさぁ。それに気付かないとか父親としてどうなのかい?」

「それなら尚の事、父を名乗るわけには行かないだろ?」

「名乗らないくせに、娘をあんたと同じ道を歩ませるつもりだったのかい?」


 なーんか凄い言いたい放題だな。

 ナターシャお姉ちゃんとしては命を狙われたから文句を言いたいのだろうなー。


「どういう事だ?」

「分からないのかい?」


 ダークさんもそこは察しなよー。


「わたしは、ナターシャお姉ちゃんに師事して薬師になろうと思ってるのー。その師匠が殺されたら怒るよー」

「そういう事か」

「それも分からないとか、どうしようもないさぁ」


 うわぁ。ナターシャお姉ちゃんはとことん煽ってるなー。


「そう言えばアークだったか? もう一人の俺」

「そうだよー」

「そいつと三人で暮らしてるんだったな?」

「そうだよー」

「この女とエーコの二人に手を出すとは許せんな」


 うわぁ。ナターシャお姉ちゃんに言い返せないからってアークに矛先が言っちゃったよー。


「アークはナターシャお姉ちゃんの男だよー、わたしは娘に近い扱いだねー」


 ちゃんとフォローしておこう。


「なんだい? 育児放棄しておいて、父親面かい?」


 だから煽らないでよー。


「俺を生かしたのは女、お前だ。生きてるからには娘を心配するのは当然だ」

「女じゃないさぁ。ナターシャって名前があるさぁ。アークス(・・・・)

「アークスは止めろと言っただろ女」


 うわぁ。三度言ってしまったよ。

 なんか剣呑としてるなー。


「それで娘を心配する? 今まで会いに来なかったのにかい?」

「会す顔がなかった」

「なら父親面するんじゃないさぁ」

「ナターシャお姉ちゃんっ!」


 喧嘩して欲しくないし、つい怒鳴ってしまった。


「な、なんだい? エーコ、怒ってるのかい?」

「喧嘩してる場合じゃないでしょー」

「言いたい事の半分も言えてないさぁ」

「ナターシャお姉ちゃん!」

「分かってさぁ。だからそんな怒らないで欲しいさぁ」


 つい思いっきり睨んでしまった。


「こんなのでもエーコの父親だしねぇ」

「……こんなのでも?」

「そうだよー。こんなのでもわたしは大好きなんだからねー」

「エーコまで!?」


 ダークさんが何故か意気消沈してしまった。


「そこまではっきり言うのかい? アークにはあんな照れ照れだったのにさぁ」

「だってアークは中身違うしー」

「なん……だと? アークにもそんな言葉を?」


 うわぁ。ダークさんの殺気が増した。めんどくさい父親だなー。


「ダークさんも止めてー!」

「だが、アークとやらはこの女のなのだろ?」

「女って言うじゃないさぁ。恩知らず!」


 ナターシャお姉ちゃんがまた恩知らずとか言ってるけど今は無視しよう。


「嫌いだったら一緒に住むわけないでしょー」

「そうだが……」

「もういい加減にしてー! それよりこの魔物の話をしよー」

「……分かった」

「うわぁ、情けないさぁ。娘に強く言われて従うなんて」

「ナターシャお姉ちゃんっ!」

「……はい」


 やっと二人が大人しくなったので、このゾウの話をし始めた……。

 なーんか二人のせいで体力をガリガリ削られたなー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ