EP.10 ダーク襲来
「「<重力魔法>」」
エーコとナターシャは大地系の重力魔法で、崖を登っていた。10mくらい毎に足場があり、自らの体を軽くし、跳んで登っているのだ。
この崖を魔法無しに登れるのは、恐らくアークとロクームにガッシュくらいだろう。と、エーコは考える。
そしてアークが登れるという事は、きっと彼も……。
「エーコ、見えたよ」
「だねー」
この左前足の心臓部を三階層とするなら、今見えているのは二階層目。そこまで登って一息付こうと考えていた。
結構な距離を登って来たので、エーコはともかくナターシャには正直しんどい様子だ。
それでもせめてもの救いはナターシャの魔物避けお香のお陰で登っている最中に魔物が襲ってこない事。
流石にこのゾウを造った人も、ナターシャのお香で登る事は予想してなかっただろうなー。と、内心ほくそ笑むエーコ。
「登りきったー」
「ふー、しんどいさぁ」
ナターシャが汗を拭う。
「魔力大丈夫ー?」
「ちょっときついさぁ」
やっぱりとエーコは思った。
ナターシャには、二階層までの距離は魔力的に厳しい。
「少し休むー?」
「いいや。ここで襲われたらたまったもんじゃない。少し進むさぁ」
「分かったー」
アークの予想では襲われるなら此処と言っていた。皆が分散し、二人っきりになるからだ。
エーコが彼なら登れるだろうと思っていたが、ナターシャも同じ事を考え此処を離れる判断した。
此処は今登って来た崖がある。戦闘中そこから落ちたら大変だ。と言う訳で、ナターシャ達は三階層目に続く崖に向かって歩き始めた。
パサっ!
「おぇぇ」
歩いている途中布が広がるような音とそれと同時にナターシャが嘔吐く声を聞こえエーコが直ぐ様反応し、視線を向ける。
「っ!?」
アークの言う通り本当に来た。それも後ろからナターシャに斬り掛かっていた。しかし、武から貰ったマントが広がり、彼の小太刀を防いでいる。
本当に自動で防御してくれた。しかも不意打ちで、装備者の意識外でも確り防いでいる。
ただそのせいでマントが引っ張られナターシャの首が絞められいた。そして彼はと言うと、そのマントに驚いてか固まっている気がする。
と言うのも仮面を被っており、顔が見えないので表情が読み取れない。
と、エーコは瞬時に状況を判断した。それと同時に武から貰ったマントが思った以上の性能だったので感嘆の息を吐く。
「何だ? そのマント」
硬直が解け第一声にそう言う。やはりマントに驚いてたようだ
「やっぱり来たのね……アークス」
「………」
ナターシャの口角の左側を上げ皮肉げに言う。
襲撃して来た彼……ダークが無言でバックステップを踏み下がる。
「……やっぱりとは何だ?」
「来るとわかってのさぁ。アークス=アローラ」
「……アローラ? 何を言ってる?」
しらばっくれるなら殺気を引っ込めれば良いのに。と、エーコは少し呆れた。
「あらぁ? あたいが何でアークスって名を付けたのか知らなかったのかい?」
ナターシャが嫌味ったらしく笑う。
何で挑発するかなー? わたしが説得する筈だったでしょう? これじゃ説得し辛いよー。と、エーコは頭を抱えていた。
「……海辺で倒れていたからだろ?」
「と、見せかけて知ってたのさぁ。あんたの事をねぇ」
「……戯言を」
「そう? じゃあ五歳の時に捨てられたとかぁ、家に帰ったら次の子が生まれてたとか知ってるけど、それも戯言なのかなぁ?」
あちゃーとエーコは額を抑える。
そこまで挑発したら説得どころの話ではなくなるからだ。
「……生かしておけないな」
「どっちにしろ殺す……」
スっ!
ナターシャが言い終わらないうちにダークさんが残像を残し消える。
その刹那。
ナターシャに小太刀を振るっていた。
しかし武から貰った反射のマントが大きく広がり、背面から前に回り込み小太刀を防ぐ。が……、
ビリっ!
少し破れてしまう。
「……厄介なマントだ」
こうなると無理だと思うけど、一応説得しようとエーコは考える。
「お父さん止めてー!」
「……お父さん? 俺はお前の父ではない」
仮面の下から見えた瞳がギロリとエーコを睨む。
「あらぁ? いきなり生かしておけないとか言い出したって事は肯定したのも同じじゃない? それなのに父ではないとか、何を言ってるのかなぁ?」
「だーかーらー挑発しないでよー」
これじゃ説得出来ないよと、エーコはナターシャに恨みをぶつける。
スっ!
今度は何も言わずダークが消えた。
「右っ!」
ナターシャがそう言うと前に飛び込み前転の要領で飛ぶ。次の瞬間小太刀が空ぶる。
ナターシャとエーコは、この半年間何度もアークと模擬戦をしているので、ナターシャ達はなんとなく察知出来た。
ただこれは模擬戦ではなく実戦。それも相手は完全に殺す気で来ている。
見てるエーコですら足が竦みそうになるのだから、直接対峙しているナターシャはその比じゃないだろう……。
「エレメント・ランス」
ナターシャが起き上がると同時に振り返り、狙いも付けず光の矢を放つ。
狙いも付けていないのにダークの胸のど真ん中を正確に向かって行っているのも、アークとの模擬戦の賜物だ。
しかし、ダークは半身逸らすだけで躱す。そして半身を戻す際の勢いで投擲を行う。
まずい。矢を放った直後でナターシャが避けられない。と、そう思ったエーコは……、
「防御魔法」
パーンっ!
咄嗟に大地系の防御魔法をナターシャの前に展開し、それを防いだ。