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EP.08 特攻する筋肉ダルマでした

 俺は、今走っている。この右後足に突入した瞬間から走っていた。

 隣にいる奴に合わせて走っているので、全力疾走の三割ってくらいだが……。


 ドカっ! バーンっ!


 にしても隣にいる筋肉ダルマは障害物の岩に突撃して砕きながら走っているな。スマートに躱せないのか?

 とは言うものの避けた先に避けた岩の影に隠れてた岩があり、咄嗟に避けられない事もあるから仕方ない。って言いたいが、隣の筋肉ダルマは、俺と違い闘気による空間把握が出来るので問題ないだろうけど。


 スパスパスパスパスパ……。


 たまに右手に持った闇夜ノ灯(やみよのあかり)を数回振るう。少し闘気を流しただけで、白い斬撃が飛び岩が豆腐のように斬れる。試し斬り何度かしてるがビックリだわ。

 武の奴は、どんだけ良い装備を持ち歩いているんだ? しかも本人の一番得意な武器は己の拳(・・・)と来たものだ。こんな小刀なんて持ってても宝の持ち腐れも良いとこだな。まあだからくれたのかもしれないけど。


「トロいぞ! 筋肉ダルマ」

「まだ慣れないんだよ」


 隣で走ってる筋肉ダルマことアルは、これまた武から貰ったアンクレットの力で速力を上げている。

 しかし、それでも俺の三割の速さ。それでいて岩を避けられない。だが、己の肉体に物を言わせるが如く岩を次々に砕く。


「ほーらほら。こうやって動くんだぞ」

「……ロクームじゃないが、お前腹立つぞ」


 俺が左右に残像を残す速さで反復横跳びしつつアルと同じスピードで進むと、ボソっとそう言われてしまう。


「え? お前の事だから『ガハハハハ……』とか言ってサラっと流しそうだがな」

「この状況で流せるか!」


 吐き捨てるように言う。そうそんな状況じゃないのだ。天井が落ちて来てるからである。

 この右後足は、突入した瞬間から天井が落ちて来ると武が言っていた。なので、完全に落ちる前に安全地帯に行かないといけない。

しかも武の奴は、入った瞬間バカ正直に天井を砕こうと殴ったそうだ。ほんとあいつは無茶苦茶だ。

 だが、衝撃を吸収する物体らしく砕けずに一度出て、スタートからやり直したとか。


「よし! 見えた。安全地帯だぞ」


 そこを指差す。


「応ッ!」

「よっと!」


 俺は急停止し安全地帯……つまりは落ちて来る天井がない場所で止まる。


「おおおおおお……」


 だが、隣の筋肉ダルマはそのまま直進した。何やってるんだか。

 ちなみに安全地帯の先も後ろと同じく天井が落ちて来ており、今まで通って来た場所の天井と同じ高度だ。

 尚、その高度はもう既に地面に近い。アルに合わせていたから、結構ギリギリのタイミングで安全地帯に到着したらしいな。


「ふんっ!」


 アルが落ちて来た天井を支え出した。どこまでも筋肉でものを言わすやっちゃなー。


「ムキムキ叔父ちゃん、ぺっちゃんこになっちゃうのー?」

「エーコのような物言いで、縁起でもねぇ事を言うんじゃねぇ」


 ですよねー。しゃーねー。


「少しだけ支えてやるから、体勢を低くして戻って来い」

「応ッ!」


 闇夜ノ灯(やみよのあかり)を逆手に持ち返る。ダークの得意技だが、今の俺にも使える。まあ威力はクロス・ファングに劣るが……。

 小刀が二振りから一振りになった差だけではなく、慣れ親しんだ動きではないというのが一番の理由でだ。


「<スラッシュ・ファングっ!>」


 斜め上……前方の落ちて来てる天井に向かって小刀を振るう。

 ズッドーンっ! と、音が鳴り響き一瞬だけ天井の落下が止まる。


「おおおおお……」


 その隙にアルは雄叫びをあげながら、安全地帯に飛び込んで来た。

ドーンっ! と直後、天井が完全に地面と口付けを交わす。


「ムキムキ叔父ちゃん、大丈夫ー?」

「だからエーコのような物言いすんじゃねぇ」

「俺がエーコの保護者のようなものだぞ? 子は保護者に似るって言うだろ?」

「言わねーよ! あ、言うか?」

「何言ってるんだ?」

「言うが、お前が保護者になったの最近だろうが? 元々あの口調だっただろうが」


 はい、確かにそうだね。そうなんだけど……。


「突っ込むとこそこじゃなくね? 保護者はナターシャで、俺も養って貰ってるしな」


 実際、家を取り仕切ってのはナターシャだ。


「甲斐性なささ過ぎるだろ!」

「テヘっ!」


 アルにツッコミをされ舌を出して、自分の頭を小突き誤魔化す。


「テヘっ! じゃねぇ」


 ゴゴゴゴゴ……。


「おっと、軽口叩いていたら天井が上がるぞ。アルどうだ? もっと速く走れそうか?」

「応ッ! 少しは慣れたぞ」


 ほんとかよ? またどうせ障害物の岩に突撃するんだろ?


「じゃあ駆け抜けるぞ」

「応ッ!」


 気合だけは十分なんだけどなー。

 そして俺達はまた走り出す。お! 俺の四割くらいの速さになったな。

 

ドカっ! 


だが、やはり障害物の岩には突撃する。

 ったく、その肉体が自慢なのは分かるが、それに頼り切ってるようではダメだぞ。それにしても長いな。

 もう結構な時間走ってるのに上の階層に行けないぞ。武曰く空間魔法が施されているようで、外から見た足の大きさより内部の大きいとか。それでも広すぎだろ。

そう思ってたら一階層のゴールが見えた。俺は全力疾走に切り替え、駆け抜ける。正面の四角い物体目掛けて……。

 そして四角い物体の隅についている《△》のボタンを押す。程なくしてポーンっと音を鳴らし、四角い物体の扉が開く。


「此処に入れ」

「置いて行ったアルに向かって叫ぶ」

「応ッ!」


 アルがそれに飛び込むと、俺もそれに続き飛び込む。


「何だこれ?」


 アルがそう呟く。そうだろうな。この世界にはない物だから、気になるだろうな。やがてブーンと音を鳴らし上に引っ張られる。


「おわ! 動いた」

「これはエレベーター……って言うらしい」


 断言はしない。この世界では(・・・・・・)違う名前かもしれないからな。嘘は言っていない。

 まあそもそもこの世界にエレベーターなんてないけどな。


「えれべぇたぁ?」

「上まで勝手に登ってくれる機械だよ。それより来るぞ……次のトラップが」

「応ッ!」


 そう言ってる間に上から杭が落ちて来た。それも一本や二本じゃない。避けた端からどんどん落ちて来る。俺はそれをひたすら躱す。

 落ちて来た杭はいずれ登るで、その空いた空間に走って、また落ちて来るので、また空いた空間に走る。

 走るとは言ってもこんな狭い空間では、助走も付けられるず避け辛い。

尚、この杭は斬っても斬っても次々に落ちて来るのでキリがないとか。それどころか斬った杭が足元に転がり邪魔だとか。

 にしても杭には気配がないから避けるのは大変だな。その点、闘気による空間把握が、できるアルのが楽に躱せるだろう……。

 そう思いチラっとアルの方を見た。


「ぉおーーーーい!」


 血だらけなんですが? 何してんの? つか避けきれてないじゃん。


「ふんっ!」


 しかも筋肉で出血を止めようとしている。どんだけ筋肉を信用してんだよ。


「何してんだよ? 避けろよ」

「いや、こんな狭いとこじゃ素早く動けないだろ?」

「何の為のアンクレットだよ」


 武から渡されたアンクレットは、どこまでの性能があるのか知らんが、このアンクレットがあれば右後足は乗り切れると武が言ってた。


「いや、上を見ながら動く方に集中するなんて器用な事できるか」


 マジで言ってるの?


「何の為の闘気による空間把握だよ? それができるお前か武だけは上を見ずに避けられるだろ?」

「………………あ」


 『あ』ってなんやねん。この筋肉ダルマがーーー! おっと俺も確り避けないと

 肩を掠ってしまった。こっちは上を見ないと避けられないってのに随分余裕だよな。筋肉でなんもかんもどうにかしようとしやがって。


「そんなんで俺に模擬戦挑もうとしてたのか? いくらやってもそれじゃあ俺と似たようなスピードは得られないぞ」

「がははははは……まあ良いじゃねぇか」


 良くねぇーよ。こっちは迷惑だっつーの。これは先が思いやられるな。

 二階層からもっと面倒になるって聞いてるし。俺は、筋肉ダルマに頭痛と眩暈を感じつつ二階層に到着した……。

 尚、エレベーター内でヘッドホンから着信音が鳴っていたが取れる余裕が、なかったので無視してしまった。


「本番はこの階層だ。少し休むぞ」

「応」


 エレベーターから降りた瞬間、俺は座り込んだ。疲れた。何が疲れたってとアルに気を使わないながらここまで来た事だ。

 だが、この階層ではアルが必要になる。なので一人で右後足に入るという選択肢はなかった。


「おっと回復しないと……<下位回復魔法(リカバリー)>」

「おう!助かる」


 下位回復魔法(リカバリー)をかけてアルを回復させる。ついでに杭がかすった自分も。


「魔法も使えるのか……まあ当然か。ダーク(・・・)なんだから」

「へ?」


 思わず間抜けな声が出てしまった。何故気付かれた?


「うん? どうした? ダークなんだろ?」

「いや……何でダークだと?」

「ロクームとやり合ってた時、俺達しか知らない事を言ってたろ?」

「いやいやいやいや……それだけじゃ断定できないだろ?」

「じゃあスラッシュ・ファングは、どう説明するんだ?」


 あちゃ~。頭を抱えたくなった。やってしまった。アルを助ける為にダークの闘気技を使ってしまっていたんだった。

 俺の闘気技じゃ斜め上に飛ばせないので、ダークの闘気技にしたのが失敗だったな。

 それにそもそも普段は筋肉馬鹿にしか見えないが頭の回転が速いんだよなコイツ。IQ測定したら80ありそうだ。

 普段は筋肉馬鹿なのに……。はい、大事なとこです。

 さて、どうしよう。どう誤魔化す。いや、エドに話したしアルにも話しておくか?


「俺がダークなら武とダチな訳ないだろ?」

「確かに……」


 結局誤魔化す事にした。


「俺も別の世界の人間だったんだ。尤も俺はこの世界で生きて行く事を決めたがな」


 ……ダークの体を奪った(・・・・・・・・・)別の世界の人間。嘘は言っていない。


「お前が時間逆行しても記憶を保持できる理由を武も分かっていなかったが、もしかして他の世界の人間だからか?」

「何でも俺はこの世界の理……法則には縛られないのだと」

「なるほどな」


 勝手に勘違いしてくれたので、そのまま合わせても良かったのだが、噓を吐くのは気分が悪いしな。詳しくは伏せるが事実を話そう。

 世界改変のお陰で理から外れたというのも伏せておこう。説明がめんどい。

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