EP.05 槍使いの一人と一体
エドワードの額より汗が流れる。それを拭いつつオークの集団と対峙していた。
アークは余りの場所と言っていたが、此処は此処で大変だぞ。と、内心愚痴を溢していた。
それと同時にユキがいてくれて助かったとも思う。仮にアルだったら厳しかったかもしれない、と。
「エド、もう一度吹雪くルマー!」
「ああ」
ユキが吹雪を起こし、一部のオーク達が凍り付き、凍らなくても動きが鈍った。
氷系上位である上位氷結魔法は同じ吹雪という魔法だが、残念ながらユキの吹雪より圧倒的に範囲も威力も高い。が、中位である中位氷結魔法より、範囲も威力も大きいの救いだ。
動きが鈍ったオークにエドワードがマシンボーガンを改良したマシンボーガン參式の矢を連射で撃ち込む。
これを幾度も繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し、一人と一体は消耗していた。右前足は、物量で抑え込む罠なのだ。
アルは単体に対しては絶大な力を持っているが、物量となると一体一体殴り、時間ばかり掛かっただろう。
広範囲を攻撃できる得意の闘気技であるオーラバスターがあるが、連続で何度も使える代物ではない。闘気は、体内エネルギーを消費するので、段々体が動かなくなって来るのだ。下手をすると意識まで失うと言うリスクを秘めている。
故にエドワードは、相棒がユキで良かったと心底思っていた。
「キリがないな」
「ユキもそう思うルマ」
「エーコやルティナだったら直ぐに片付いたのだろうか……」
「口説けないからって、それは酷いルマ!! 確かにユキはメスじゃないけどルマー!」
「いや、すまない。そういう意味ではないのだ」
エドワードは慌てる。決してユキを軽んじていて溢した言葉ではない。自分が不甲斐ないから溢してしまった言葉だ。更にはユキを不愉快にさせてしまい尚更不甲斐ないと感じた。
エドワードは思ってしまったのだ。自分よりきっとエーコやルティナのが直ぐに片付けられる。ユキがどうとかではなかった。
「はぁはぁ……もう厳しいルマ」
吹雪を使い続けたルマに疲れが見え始める。吹雪を使うにも魔力を消費しており、無限じゃない。
「もう良いユキ。物理攻撃のみで応戦するぞ。吹雪はいざという時の為に温存だ」
「分かったルマ」
ユキはエドワードが与えたフレアランスを構える。
「<フレアボム!> ルマー」
槍から炎が爆ぜ、吹雪程ではないが広範囲焼き尽くす。
吹雪の効かない相手を想定してエドワードが渡したの物だが、まさか吹雪事態使い続けるのが辛い状況に追い込まれて使うとはな。と、エドワードは目を見張った。
が、直ぐに自分も確り応戦しないとなと、思い直しエドワードもマシンボーガン參式を力強く握り乱れ撃ちを行う。
「ちぃぃ! こちらも矢がもたない」
しかし、マシンボーガン參式の矢が尽きそうだった。
仕方無しマシンボーガン參式をコートの内側にしまい、腰の後ろに取り付けていた短槍グングニルに手にする。このグングニルもフレアランスそうだが、フィックスの科学力で作り出した特殊な槍だ。
普段は40cm程度だが、使用時は三倍まで長さが伸びる。それをグルングルンと回すと構えた。
エドワードもユキと同じで得意武器は槍だ。とは言え、エドワードの場合はどんな武器をも使いこなす能力持ち。その中で最も得意なのが槍と言うだけなのだが。
「だけど数は減ったように思えるルマ」
ルマがエドワードと背中合わせになる。オークの数は減ったがいつの間にか囲まれていた。
それに数は減っても強力な個体が残っている。同じ種族の魔物でも個体差と言うものがあるからだ。
「はっ!」
エドワードは、槍による突きを行い、他の個体からの攻撃を回避する為に右旋回を行った。ユキも同じように動いたので、お互いの位置が入れ替わる。
「ルッマー!」
そしてまた突く。
ユキは元々槍が得意だったが、エドワードが教え込み更に練度を上げた。お陰でエドワードは、ユキの動きが背中合わせでも良く分かるのだ。
ああ、アークの言う通りだ。と、エドワードはニヤリと笑う。ユキとの連携が自分以上に取れる者はいないな、と。
「はっ!」
「ルッマー!」
槍で一突き一突きし、じわじわだが数を減らして行く。
やがて残り二体。此処は分かれて倒しても良いと一瞬は考えるエドワードだったが……、
「はっ!」
「ルマ!」
エドワードとルマは一度下がる。どうやら一人と一体は同じ事を考えたようだ。
「どっちから行く?」
「右ルマ」
ユキが右を指定する。残りの魔物はオークの中でも上位個体であるオークキング。
オークキングは、魔法にそれなりの耐性があり、吹雪もフレアボムも大してダメージが通らない。オマケに素早い魔物だ。
エドワードの背中にある対魔物用チェーンソーをただ振り回しても避けられる俊敏差だ。
「では二人で右から行くか」
ユキも同じ魔物。同じ個体の魔物でも個体差があり、それを人間より差がはっきり分かる。そのユキが右と言うのだから右のオークキングのが倒しやすいのだろう、とエドワードは判断した。
つまりエドワードとユキは、少し強力な魔物なので、分かれるのではなく協力して一体一体倒そうというのが言うまでもなく理解したので、口数少なく打ち合わせもそこそこに対峙しようとしている。
「まずはユキから……<フレアボム>」
フレアランスが爆ぜる。
ダメージは大して通らないが、爆炎で目眩ましになった。
「はぁぁぁーっ!」
エドワードは乱れ突きを行う。
その間にもう一体のオークキングがエドワードに迫り、その手に持つ石斧を振り下ろす。
「はぁぁぁ……っ!」
しかしエドワードは、構わず乱れ突きを行う。
「ルマーー!」
ルマがもう一体のオークキングに吹雪を行い動きを鈍らせエドワードへの攻撃が遅れる。
そして、エドワードが乱れ突いていた方のオークキングの周りにまとわりついていた爆炎が晴れた。
やはり最初の数回の突きしか直撃を受けていたいようだ。と、内心嘆息するエドワード。
それ以降の突きは全て腕でガードしていたのだ。
「ルッマー!」
吹雪を出した瞬間ユキはフレアランスを横に払い、エドワードに攻撃して来ていた石斧を弾き、勢いを止めずエドワードが乱れ突きを行っているオークキングを払う。
「ここ!」
オークキングの意思がエドワードからユキに行った瞬間を見逃さない。
直ぐ様、オークキングの後ろに回りつつ、グングニルを腰の後ろにしまい対魔物用チェーンソーを背中から下ろす。
直感なのか、対魔物用チェーンソーが危険と感じたオークキングの意思がユキからエドワードに戻って来た。が……、
「遅い!」
ジュィィィィィ……。
オークキングの背後からチェーンソーで斬り付ける。
ふー、まず一体。と、安堵するエドワードだが、直ぐにもう一体のオークキングに意識を切り替える。
もう一体は、再び石斧を振り回し始め、ユキを狙う。
エドワードはチェーンソーを背中に抱える時間を惜しみ、その場に捨てマシンボーガン參式に持ち替え一発だけ放つ。
「ぐぉぉぉぉぉ……」
残り一体のオークキングが吠える。エドワードの放ったマシンボーガン參式の矢が片目に刺さったのだ。
これによりユキに向かって行ってた攻撃が中断。その隙をユキは見逃さない。
「ルッマー!」
どてっ腹にフレアランスを突き刺す。
「<フレアボム!> ルマ」
内部から爆散。相当なダメージが入るが流石はオークキング。まだ倒れない。ましてやユキが強い個体のオークキングだと判断し後回しにした程なので尚更だ。
「ぐぉぉぉぉっ!!」
爆散した腹の痛みからなのか、苦しみつつも石斧をデタラメに振り回す。ユキは直ぐ様に下がり躱す。その動きを読んでいたのか、援護するようにエドワードはグングニルを投げた。
エドワードは、投擲は得意ではない。むしろ全く実用的な力がない。それも一瞬隙を作る事はできる。
オークキングは、石斧でグングニルを弾き飛ばす。たったそれだけだったが、ユキが下がりフレアランスを構え直すには十分。
「はっ!」
「ルマー!!」
エドワードは腰に下げてある剣……ロイヤルカリバーを抜き袈裟斬り、ユキも渾身の突きを繰り出す。
その一人と一体の攻撃でオークキングは、灰となって消える。これで魔物の軍勢を退けたのだった。
「疲れたルマー」
へろへろとユキが座り込む。
「私もだ」
チェーンソーも拾わず、エドワードも座り込む。
「エドはユキで残念だったねルマ。口説きながら戦いたかったでしょうルマ?」
「まだ言ってるのか……あれは私では力不足という意味で、ユキがどうこうって話ではなかったんだがな」
呆れたように息を吐き出す。
「口説きながら戦えば、エドは五倍はパワーアップしてたルマ」
「レディは口説くのが礼儀であって、力を得る為に口説くのではいぞ。そもそも、そんなので力が沸いて来たらロクームなんてアルより強くなるのではないか?」
「そうだねルマ」
「ははは……まったく何を言ってるのだか」
一人と一体で笑ってしまう。
そして思う。女を口説いて力を得られるならほんとロクームは無敵だな、と。
「それでは二股クソ野郎から二股最強野郎になってしまう」
「アークとの喧嘩の話ルマ?」
「おっとあんな言い合いを見ていたから、つい私まで二股クソ野郎とか言ってしまった」
「ロクームが二股クソ野郎ならエドは百股クソ野郎ルマ」
「ユキは私を一体何だと思っているのだ? こう見えても私ははまだ誰とも交際した事ないのだぞ」
エドワードは、苦笑してしまう。あと二年で三十歳になると言うのに妃選びをしていない。そろそろ後継者を考えないとな。と、ボンヤリ考えてしまう。
しかし、おっとこんな状況だからか、縁起でもない事を考えてしまった。かぶりを振り私はまだまだ現役だ。と、余計な考えを頭の奥に引っ込める。
そうしてると懐で音が鳴る。その発生源取り出し、まだ名前を決めていないが、アークはヘッドホンとか言っていたので、その名前でも良いかもな。と考えつつエドワードは頭に取り付けた。
≪こちらルティナ。聞こえる?≫
≪こちらエリス。聞こえるぞ≫
≪もしもしアークだ≫
≪もしもし? 何それ?≫
≪あ~~……気にするなルティナ≫
ヘッドホンから様々な声が聞こえて来た。が、ロクーム組やエーコ組からは聞こえない。
「こちらエドだ。感度良好」
≪もう到着したわ。みんなはどう?≫
ルティナ組は早いな。こっちはまだ上に登ってもいないのだぞ。と、驚き目を丸くするエドワード。
≪早いなルティナ。俺達はまだまだだ≫
≪こっちもだ≫
アークとエリスもまだだと言う。
「こっちもだ」
≪ならしばらく待機してるわ≫
こうして連絡を終える。
「ユキ、ルティナはもう到着したって」
「早いルマ!」
ユキが驚き、自らの体と同じように目をまん丸にした。
「だな。我々も行くとしよう」
「分かったルマ」
こうして立ち上がり、対魔物用チェーンソーや使えそうなマシンボーガン參式の矢、それに投擲したグングニルを回収して進み出した。
アークの話では右前足の大変なのは最初だけ。正確には武からの情報なのだが、そんな事までエドワード知らない。
そしてそれは事実であり、その後も魔物と接敵したが、大した数もいなく、強力な個体もいなく無事足の心臓に辿り着けた……。