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EP.04 イライラMAXなルティナ

 ルティナは、内心イライラしていた。

 理不尽だわ、と強くそう思う。別にあの日と言う訳ではない。


「<中位氷結魔法(ギガ・フリージング)>ッッ!!」


 八つ当たりするかのように唱える中位氷結魔法(ギガ・フリージング)を唱え襲って来たファイアーバードを凍らせる。


「全くなんなのよっ!?」


 それでも怒りは収まらない。そもそもの話、別に襲って来た魔物のファイアーバードにイラ付いていた訳ではないので、そんな魔物をいくら倒した所で、ルティナの気は晴れない。

 現在、下からはマグマが、せり上がって来ており、上からファイアーバードがやって来る。壁際にはファイアーリザードが張り付いており、時折火炎を吐いて来ていた。

 先祖返りの秘薬で、半精霊化が復活し空を飛べるのはルティナに取って僥倖。せり上がるマグマから逃げ、魔物に攻撃ができているのだから……。


「<中位氷結魔法(ギガ・フリージング)>」


 次に次に魔物を凍らせて行く。


「ふ~やるー。ルティナちゃん」


 ルティナが問題に思っており、現在理不尽を感じている元凶はコイツである。


「あーもう! 腹ただしい!」


 そいつ……武は、壁際に張り付きゆったりロッククライミングしてマグマから逃げている。

 ルティナは思う『もっと速く登れるでしょうが!』と。

 余裕そうに上り、魔物の相手は全てルティナ。これではルティナがイライラするのも当然だ。

 それにちょくちょくマグマに追い付かれ足が浸かったりしているのに、靴や服すら焼けている様子がないのがまた理不尽極まりないと感じる。


「いくら炎に強いからって限度があるでしょうがっっ!!」

「あ、ルティナちゃんこっち」

「あーもう、煩いわね」


 ルティナの文句を涼しい顔で躱し顎をしゃくる。その先、武の真上にファイアーリザードがいた。

 『はいはい』と、内心嘆息しつつ……、


「<中位氷結魔法(ギガ・フリージング)>」


 中位氷結魔法(ギガ・フリージング)を唱えファイアーリザードを凍らせる。


「サンキュー」

「って言うか自分で倒せるでしょうっ!!」


 ルティナが一番腹立ててるのはこれだ。自分で、どうにかできるのにやらないとこである。

 『何で私任せなのよ!?』と、散々文句を言ったが……、


「あー無理無理。だって両手足塞がってるし」


 これである。

 の割には、マグマに浸かっても平気となれば、余計にルティナが怒りを覚える。

 ルティナは思う。『確かに壁際を登ってるけど、あんたならどうともなるでしょう?』と。


「砲撃武器があったでしょう?」

「手が塞がってるからツインフェンリルは使えない」

「名前なんてどーでも良いわよ!」

「かっかしない。せっかく可愛いんだからルティナちゃんは」


 飄々(ひょうひょう)としてるのが、またルティナの神経を逆撫でする。


「じゃあ魔法は?」

「それも無理だねー。得意な攻撃魔法は炎系しかないし」


 確かに炎属性の魔物で効果は薄い。しかし……、


「上位クラスも使えるって言ってたでしょう? 上位なら倒せるわ」

「野球で言う肩が温まった状態じゃないと使えないんだなー」


『このー! 飄々と語ってるんじゃないわよ』と、内心またイラっと来る。


「野球って何よ?」

「あー……じゃあテンション?」

「てんしょん? また意味のわからない事を……。あーもう。鬱陶しい……<上位氷結魔法(ブリザード)>」


 上位氷結魔法(ブリザード)で吹雪を起こし周囲の魔物を一気に殲滅した。


「おーやるねー」

「この!」


 『ほんとイライラする。何なのよ? 何故何もしないのよ?』と、ルティナの怒りボルテージが上がって行く。

 前々回の周回……ルティナの記憶では前回、ルティナやアークがいなくても良いくらい一人でなんでもかんでもやれていたのだから尚更だ。

 こんな調子でずっと上に登りながら武にイラ付きつつ魔物を殲滅して行く。


「こっちは久々の半精霊化で魔力が心許ないないのよ? 真面目に戦ってよね!」

「あー魔力が枯渇した時は俺が全て潰すから大丈夫」

「やっぱりやろうと思えばできるんじゃない! ふざけないでっ!!」

「やっぱり怒ったルティナちゃんも、これはこれで可愛いねー」


 『もうほんと腹立つ!!』と、怒りのボルテージが更に上がる。何もしないで、口説いて来ていればふざけるな、と言いたくなる状況だ。


「<中位氷結魔法(ギガ・フリージング)>……貴方がロクームと同じに見えて来たわ」


 中位氷結魔法(ギガ・フリージング)を唱えてファイアーバードを凍らせつつ辟易しながら言った。

 内心『軽薄なとこは、そっくり』と、付け足す。


「あれと一緒にしないで欲しいけどね」

「同じよ」

「治のさっきの話を聞く限りあっちは、ヤる事しか考えてないようだけど、俺はなー。ちゃんと利を与えるから」

「って事は、先祖返りの秘薬をあげたって利点で迫って来る気!?」


『止めてよね。私はそういうの興味ないんだから!!』と、げんなりするルティナ。


「それの見返りは、このゾウを始末する事だから、そんなのを理由で迫ったりしないよー」

「全く信用できる態度じゃない。軽薄過ぎるのよ……<中位氷結魔法(ギガ・フリージング)>」


 また武の上にいるファイアーリザードを倒してくれと言われる前に中位氷結魔法(ギガ・フリージング)で凍らせる。


「酷いなー」

「酷いのはどっちよ? 戦えるくせに私任せって」

「あ、横穴がある。マグマも止まったし、そっち行こうか」


 確かにあるしマグマがせり上がって来なくなったし、そこに入るか。と、納得するが直ぐに『というか今、話を逸らしたわね!?』と、思い直す。

 それでもルティナは浮遊して、その横穴に着地すると半精霊化を解除した。半精霊化してるだけで魔力を使うので節約である。

 武も壁際を登って来て横穴に入った。


「で、どういう事なの? 何で私任せだったの!? ちゃんと説明して!!」


 自分でもビックリなくらい怒ってるなと、思いつつも武の胸倉を掴んで引き寄せてしまう。


「顔が近いね。可愛良いからOKだけどね。このままキスしちゃう?」


 また飄々(ひょうひょう)と答える。ルティナは頬を朱に染め、パっと放して軽く突き飛ばしてしまう。ただこの朱と言うのは、羞恥心からではない。完全に怒りからだ。

 その後、横穴を歩きだす。


「じゃあ真面目に。俺は俺に制約を掛けているんだよ」


 武が追い掛けて来て言った。


「制約?」

「そう制約。『その世界の事は、なるべくその世界の者になんとかさせる』。出来ない時のみ手を貸す。秘薬を渡したのもそれが理由」


 今度は真面目に話してくれるみたいねと思い『は~~』と、息を大きく吐き出す。相手が真面目に話すと言ってるのにいつまでもイラ付いているのも無駄だと感じ、自分を落ち着かせた。


「前々回は武が一人でほとんどやったわよね? その制約に反してない?」

「時間逆行するの分かってたし右中足の内部を把握するために、他のメンバーより早く終わらす必要があったんだよ。お陰で俺は四つの足の構造が理解できている。それを治に伝え人選を任した」


 なるほど。通りでアークが配置を決めているわけね。と、内心納得する。


「ちなみにその制約を破ると何かあるの?」

「何もないよ」

「えっ!?」


 何もないんだから、制約なんて破ってしまえば良いのに……。と、思うルティナだが、全くもってその通りだ。


「あえて言うなら後味が悪くなる。例えばルティナちゃんの場合は半精霊化が久々で魔力が心許ないんでしょう?」

「えぇ」

「次回また何か脅威があった時に、ここで確り半精霊化を完璧に扱えるようになっていれば、楽だと思わない?」

「……確かに」

「だから、俺がするのはちょっとした手助け程度。その世界の事はその世界の者に任せないと、次の脅威が迫った時に、俺がいないと立ち行かなくて壊滅とか後味悪いじゃん」


 武が肩を竦める。

 そうかもしれないけど、だからっと言って飄々とした態度では、完全に神経を逆撫でしていた。


「理由は分かったわ。でもその態度といい、アークのロクームへの当たりは、貴方達の世界の価値観なの?」

「俺は色んな世界を周ってるから、そうすべきと思うようになったってだけね。治は元の世界の影響は大きいだろうな」

「そうなの?」

「治は冷静にキレてる、と言った。元の世界では、気に入らない奴はとことん叩くなんて事は日常茶飯事。だから冷静でいたんだろうね」


 日常茶飯事なのか……。嫌だなそんな世界と思ってしまうルティナ。


「それにしもアークは、良くもまぁ、あんな次から次へと言葉が出るわね」

「だから俺は、冷静だと見抜いて続けさせた」

「それでも言い過ぎよね。ダークの記憶やら周回を重ねて知り得た情報でケチ付けるなんて」


 あれは正直ロクームが可哀想だった。自分はアークと名乗り、中身は違うがダークだと明かそうとしなかったんだから。と、内心実はロクームの肩を持っていた。


「へ~。ロクームの肩を持つんだー。昔に口説かれてたっぽいけど、実は結構その気があったり?」


 また飄々と……。今日のこいつほんと腹立つわ。と、再び武への怒りがぶり返す。


「無いわよ! ただアークはズルいと思っただけよ」

「そうなんだ。おっと魔物だ。ルティナちゃん宜しく」


 こぉのーー! これくらい自分で対処しなさいよね。


 ザンっ!


 そう思いつつファイアークロッグを剣で斬り咲いていた。


「ルティナちゃんは剣も使えて、魔力はきっとこの大陸一だし、高スペックだよねー」

「すぺっく?」

「超優秀って事」

「貴方が言っても嫌味にしか聞こえないわよ! 今のだって指一本で倒せたでしょう?」

「まぁね」


 この! だったらあれくらい倒しなさいよね。そうルティナが思っていると武の姿が消える。


「っ!?」


 ルティナは目を剥く。いつの間にか自分の後ろに周っていたからだ。ダーク並みの速さだと感じる。

 そして、武は何かを払う仕草をした後ような姿。払った先に目を向けると……、


「……フレイムカメレオン」


 壁などに擬態するそれが転がっており、直ぐに灰となって消えた。つまり武は払い除けるだけで倒したって事だ


「危なかったね。ルティナちゃん」


 何でもなかった事のように言ってのける。つまり、武はルティナを助けていたのだ。


「制約は?」

「え? 今のはルティナちゃん気付いていないかったから。出来ない時のみ手を貸す。ルティナちゃんは、反応出来ていなかったから、制約に反していないよ」

「そう」


 なら、いっそう全部無理って態度をしておこうかしら。と、内心思ってしまう。

 尤も直ぐにバレそうだと思い直すが。


「ただ素直にお礼を言いたくないわね。ほんとは私なんかより遥かに強いのに、そういう時にしか手を貸さないなんて」

「別に礼なんて良いよ。ゾウさえ倒してくれれば。それと『私なんかより遥かに強い』……か」

「事実でしょう?」

「どうかな?」


 飄々と言うその態度に何回目になるか分からないイラ付きを感じるルティナ。

 また嫌味にしか思えない誉め言葉を言われそうだ。と、思ってしまう。


「確かに総合的な能力は俺のが上かもしれない。だけど魔法関連はルティナちゃんに遥かに劣る」


『真面目な顔して何言ってるかしら?』 と、やっぱり嫌味にしか聞こえなかったようだ。


「魔法がなくても十分強いじゃない」


 キラーマシンに指を突っ込み核を取り出すとか、この世界のこの大陸の誰にも出来ない事だ。


「おっと横穴を抜けたようだ……これはまたマグマが上がって来そうな雰囲気」


 横穴を抜けた先の下を眺め武がそう言って来た。

 先程もそうだが、円柱上の長い空洞があり、上に逃げないとマグマが迫って来るという仕掛けだった。


 シュィィィ~。


 再びルティナは、半精霊化して空を飛びマグマから逃げるように上に登る。


「<空間跳躍噴射魔法(ウィング)>」


 武は何かの魔法を唱えると空を飛び出した。


「何それ?」

「風系上位の飛行魔法……ユグドラシル大陸で使われている魔法を参考にした空間魔法と炎魔法の合成」


 そう言えばサラと知り合いだった。と思い出すルティナ。

 そして、それならユグドラシル大陸の魔法を知っていてもおかしくないと感じる。

 だけど、問題はそこではなかった。


「そんな話は聞いていない! 何で今まで使わなかったの?」

「魔力が少ないから」


 あっけらかんと答える武。


「真面目な話、俺はルティナちゃんの一割の魔力もない。なのに最初からこれ使ったら最後まで保たない」

「じゃあ何で今使うの?」

「登って来た距離を考えるともう直ぐ心臓だから」


 武は、足四本の内部構造を把握してる。よって大体の距離も分かってるのだ。


「ついでにこんな事も……<空間切断魔法(ダンゼル)>」


 上から飛んで来たファイアーバードをかまいたちのような魔法で切り裂く。


「それは?」

「別の世界で覚えた切断魔法」

「そんな事は聞いていない!」


 さっきからほんと腹立つわね。と、またまた怒りがぶり返すルティナ。


「攻撃魔法は炎系しかないって言ったじゃない!」

「え? 得意な(・・・)攻撃魔法は、って言ったけど?」


 きょとんと武が首を傾げる。その態度に更にイラ付いた。


「だったら最初から使いなさいよね! ……<上位氷結魔法(ブリザード)>」


 その怒りを上位氷結魔法(ブリザード)に乗せて放つ。周囲を吹雪の嵐にして魔物を達を殲滅。


「うわー」


 ついでについ武を……。

 しかし、武はキラーマシンの攻撃を防いだ二股の変わったマントで防ぐ。あの時も伸びてキラーマシンの剣に巻き付いていたが、今回は大きくなり武の体全体を包み込む。

『本人も理不尽だし、装備してるのも理不尽ね』と、内心嘆息してしまうルティナ。


「酷いなー」


 吹雪が止むと大きくなったマントを解除しながら言ってきた。


「あら、ごめんなさいね。あまりに腹立つからつい」


 良い笑顔で本音をぶちまける。


「ルティナちゃんって、そういう事をはっきり言う娘だったのね」

「誰のせいよ 私だってこんなはっきり言ったの初めてよ!!」

「いやー得意魔法が炎系なのは事実だし」

「でも空間系とか良く分からないのも使ってたわよね?」

「得意な炎系は魔力が半分以下になるけど、他は下手すると倍以上消費するからね」

「えっ!?」


 武は自嘲気味に言い出す。

 しかしその内容はルティナには理解できなかった。

 何それ? 得意だから半分以下の魔力? 慣れると魔力調整が出来て無駄な魔力消費が抑えられる。だけど半分以下なんて事はない。

 半分以下にするとなれば出力を下げないといけない。それじゃあ意味がない。それに不得意魔法は消費が倍以上というのも良く分からない。

 と、そんな感じでルティナは、混乱してしまう。


「他の世界で魔法を覚えた弊害ってやつだよ」

「……そうなの」


 そう言うしかない。ルティナは他の世界を知らないのだから。


「さっきの話に関係するけど、ルティナちゃんは何で剣を使ってるの? エーコちゃんみたいに魔法だけでも良いのに」


 いきなり話題をがらりと変えられルティナは、目をパチクリ瞬く。

 ちなみに先程の上位氷結魔法(ブリザード)で、粗方魔物は殲滅したようだ。最初に使った時より、武を巻き込みたいばかりに大幅に出力を上げた副産物と言える。

 なのでルティナは、せり上がるマグマに追い付かれないように飛行をしているだけだ。


「それは魔法が効かないのを相手にする時や、魔力が切れた時とかのためよ」

「俺も同じようなもの。攻撃の幅を広げるために魔法も習得した」

「つまり?」

「つまり俺の魔法なんて付け焼刃のようなものだし、得意魔法以外は魔力消費が激しいし、だからルティナちゃんに魔力方面では遥かに劣る。これは嫌味でも何でもないよ」


 微笑みそう語る。


「そう」


 そんな顔されたら怒れないじゃない。と、怒りが全部すっ飛んでしまい『全く』と内心苦笑してしまう。

 何故ならルティナも剣は、付け焼刃に近い。エドワードは槍が得意だが剣も扱え、そのエドワードにも劣る。

 似た武器の刀を扱うムサシには敵わない。エリスなんて二刀流で使いこなしているのだから。


「話は変わるけど、ルティナちゃんもロクームに口説かれてたんだよね?」


 またその話か。あの口論で私の名前を出さないで欲しかったな。と、アークとロクームのやり取りを思い出しげんなりしてしまう。


「うんまぁ。私は生まれが特殊だから瞳が他の人と違うし、そういうとこが気になっただけじゃない?」


 ルティナなりにロクームを庇ってあげた。


「それって見た目が良ければ誰も良いって事じゃん。治が言った通りヤる事しか頭にないんだな」

「うっ!」


 言葉に詰まる。庇うつもりが藪蛇をつついてしまったからだ。

 ごめんロクーム。と、内心で謝るルティナ。

 それと同時に『て言うか、さっきからヤるヤるってアークもそうだけど何で下品な言い方しかできないのよ!?』と、蔑みの目を武に向ける。しかし、それを涼しい顔でスルーする武。


「それでルティナちゃんは、何でロクームに応えてあげなかったんだ?」

「男に興味がなかったのよ。今もだけど、当時も大事なのは子供達だから」

「ママって慕われているもんな。男を作る前に子供作るとか、またレアだな」

「れあ?」

「珍しいって事」

「そうかしら?」

「まぁともかく男作るにしてもロクームじゃないのは正解だな。あれは子供達を放置して女遊びするタイプだ」


 うっ! 言い返したいのに言い返せない。その通りだと思ってしまうルティナ。

 仲間だし、本当は庇ってあげたかったのだ。


「それは貴方も同じじゃない?」


 なので、武を非難する方へ切り替えた。


「へ?」


 武が首を傾げる。


「だから、武も同じじゃない? 女遊びばかりしてるんじゃない?」


 してやったりっと言う顔を向ける。


「それ以前に女を作らない。遊び女は作るけどな」

「女に興味がない?」

「興味ない奴が女遊びするかよ」

「じゃあ何で?」

「俺の最終的な目的は、元の世界に帰る事。だから特別な女は作らない」

「何で?」


 ルティナは首を傾げる。別に作っても良いのでは? と。

 相手もそれを理解していれば、一緒に着いて行けば良いだけだし。


「元の世界に連れて行く事ができないから」

「連れて行けば良いじゃない?」

「俺の世界はな。住人は番号で管理されているんだよ。管理って言っても見張られているわけじゃないぞ? 仕事したり家を買うまたは借りたりする時に、その管理番号が必要になるんだよ。それは生まれた時に番号を振られる。だから他の世界の人間を連れて行っても番号を与えられなくて、その世界では生きていけない」

「なるほど」


 番号で管理か。つまり武やアークがいた世界は国が住人全てを把握してるって事? 随分この世界と比べて進歩してるのね。と、次は感心してしまうルティナ。

 尤もアークや武に感心したのではなく世界にだが。


「だから俺が女遊びする時は、利を示し契約という形を取る事にしてる」

「ただの軽薄な人だと思ってたけど、信念を持った軽薄な人だったのね」

「軽薄なのは変わらないのだな」

「ふふふ……」


 武は肩を竦め、ルティナはつい笑ってしまう。

 最初は理不尽だと思ってたけど、そうするのは確り理由があり、それもルティナの事を考えてくれていると気付き、ルティナも今までの怒りが完全に吹き飛んだ。

 尤も武的には後味が悪いって言い方だったが。

 そして、女遊びするにも利を示し契約する。ただの口約束じゃないってとこに好感をルティナは感じた。


「ちなみにもし私と契約するとしたら、何の利を与えてくれるの?」


 契約する気なんてサラサラないが、興味が出たのでルティナはそう聞いた。


「そりゃルティナちゃんが欲しがるものだけど……俺が知っている範囲で言えば狂暴な動物がいない安住の地を子供達も含め全員連れて行く事かな。ただこれは矛盾が発生する」

「矛盾?」

「さっき女遊びするには契約をと言ったが、何も遊ぶだけのために契約するわけじゃない。そういう目的じゃない奴も中にはいるしな」

「じゃあ何をさせる気なの?」

「端的に言えば俺の手伝いだな。戦闘が必要で手分けしないといけない場合とか、あとはルティナちゃんの場合は、右に出る者も早々いない魔導士だし、魔法しか効かない奴と戦って貰う」

「それのどこが矛盾なの?」


 ルティナは、首を傾げてしまう。


「安住の地を提供って言ってるのに戦闘して貰うんだぞ?」

「あ!」


 そういう事か。と、得心が行く。


「ま! 俺の目的が達成できたらって但し書きが付くが安住の地を提供するって契約をしてる人もいる。だけどルティナちゃんには、それは弱い」

「弱い?」

「利と要求してる事が吊り合ってないじゃん。バランスが悪い」

「あ、そういう事か」

「てか、契約したいわけ?」


 嫌味ったらし笑みで訊ねる武。イラっと来る顔だわ。と感じるルティナ。


「全然。聞いてみただけ」

「あっそ……さて、お喋りしてる間に着いたぜ」


 横穴に視線を向け続ける。


「……この先に心臓がある」

「そうのな? 分かったわ」


 ルティナ達は横穴に入り、ルティナは半精霊化を解除した。そのまま少し歩くと大きな空洞に出て、そこに脈打つ心臓があった。


「じゃあ……<収納魔法(ストレージ)>」


 武が収納魔法(ストレージ)から、エドが用意したものを取り出した。アーク曰く見た目はヘッドホン。

 そして、アークと武の世界ではトランシーバーと呼ばれているものだ。一定の距離にいると会話を可能にする機械技術の(すい)を集めて作った物。

 まだ試作段階だが、このゾウの足と足の距離程度なら会話を可能らしい。完成した暁にはユピテル大陸全土で、どこにいても会話できるようにするとか。

 ともかくルティナは、それを武から受け取る。


「こちらルティナ。聞こえる?」


 そしてルティナはヘッドホンを頭に付けて、皆に呼び掛けた……。

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