EP.03 ひと悶着ありました
次の日の早朝、チェンルの宿を発ちゾウに向かった。昼前に右前足に到着する。
「本当に足に空洞があるでござるな」
「そうだな」
ムサシとエリスが足の空洞を眺めながらそう言った。
「よし! 予定通りここにはエドとユキ頼む」
「分かった」
「分かったルマ」
「此処から別行動だ。昨日話した通り、左前足はナターシャとエーコ。右中足にはムサシとエリス。左中足は……」
「待て待て! 待つでガンス!!」
なんだよ? また二股クソ野郎か。いい加減話の腰を折るのやめやがれ。
「何だ?」
「何でエリスがムサシと何でガンス?」
「……エリス、伝えていないのか?」
「すまない。昨日の夜は少々立て込んでいて……」
何目線を逸らして言葉を濁してるんだ? まーじで、お楽しみだったのか? 別に楽しむのは良いが、伝えるべき事は伝えろよ。
「昨日何をしていたのかじっくり聞きたいとこだが聞かないでやる俺、やっさしいー!」
「アーク、そう言ってる時点で最低さぁ」
ナターシャから鋭いツッコミ頂きました。
「オッホン! ともかく昨日の夜がダメでも、ここに向かう途中話せただろ?」
「なんというか……納得して貰えると思えなかったから有耶無耶にして左中足にムサシとさっさと入ろうかと……」
エリスでも無理と考えているのをどうしろってんだよ。
「って訳だ。有耶無耶にされてろ。それをお前の嫁はご所望だ」
「ふざけんなっ!! でガンス!」
ウルセーな。怒鳴るなよ。
「は~~。めんど臭い奴。お前さぁ、一人でキラーマシン倒せる訳?」
「キラーマシン? それが何だってんでガンス?」
「エリスですら勝てないのに、お前如きが勝てるのか?」
「エリスなら上位稲妻魔法で一撃でガンス。エリスも俺の事も知りもしないくせに語るなでガンス」
「知ってるよ。つうか魔法が封じられるんだよ」
「はぁ? って事はキラーマシンをムサシが倒す配置でガンスか……だったらエリスは他でも良いでガンスだろ?」
「誰が回復するんだ? 万が一の時、全部終わるんだぞ」
何でこんな懇切丁寧に説明してやらんといけない?
「回復ならエーコやルティナでも、出来るでガンス」
「ガタガタうるせーな。その二人は二人で理由があって他に回してるんだ。そのくらいも考える知能もないのか? 大陸一の冒険家が聞いて呆れるな」
「アーク、熱くなり過ぎ。落ち着くさぁ」
「ロクームも、もう決まった事だ」
ナターシャとエドが止めに入る。が、イラ付いて止まれんな。
「だが、やっぱこのどこの馬の骨かも、分からん奴に決められたくねぇでガンス」
それは二股クソ野郎も同じようだ。
「あ、そっかそっか。エリスをムサシに取られると思ってるんだー? それだけお前に魅力ないもんな」
売り言葉に買い言葉で煽りまくってやる。どこの馬の骨か分からん奴とはご挨拶だしな。
「なん……だと? でガンス」
「ロクーム、止めろ!」
二股クソ野郎が俺に掴み掛かろうとしたが、エドが後ろから羽交い絞めにした。
「そもそも、お前さぁ。あの屋敷を俺が調べた事を知らなかったが、エーコあたりに聞かなかったのか? エリスは聞いたか?」
「エーコが話してくれたな」
「なら何で聞いてなかったんだ? まさかまさかナターシャのケツに夢中で、それどころじゃなかったなんて事は言わないよな?」
「………………な、訳ないだろでガンス」
何目を泳がせてるんだ?
「何俺の女に気色悪い目を向けてるんだ? あぁん? ゾウの前にお前をぶち殺すぞ」
「ちょっとーアーク。あたいの事で怒ってくれるのは嬉しいけど、あんたまで怒るじゃないさぁ」
ナターシャに後ろから羽交い絞めされてしまう。クソ! 殴れなかった。だってあの大きな二つの山が背中に当たるのが気持ち良かったしな。
つーか、俺もなんか小っ恥ずかしい事を口走ってしまった。
「ナターシャを口説くのは自殺行為だしね。首が飛ぶぞ」
場を和ませようとしたのか、エドが二股クソ野郎を抑えながらおどけだす。まだ、そのネタ引っ張ってるの?
「エド、放せでガンス! こいつ気色悪い目とか言い出したんでガンスぞ。こんな得体の知れない奴に!!」
「ナターシャ、放せ! この二股クソ野郎をぶち殺す」
「<下位氷結魔法>、<下位氷結魔法>」
下位氷結魔法が俺と二股クソ野郎の頭に飛んできた。いったー!
「二人とも止めなよー」
飛ばしたのはエーコか。
「いいや。もっとやれやれー。レッツファイト!」
しかし、武が煽ってくる。
「<中位火炎魔法>……余計な事言わないの」
ルティナが中位火炎魔法で、タケルを燃やしながらそう言う。
ってか中位!? やり過ぎじゃね?
「いいや。こういうのは、とことんやらせないとわだかまりが残るものだからな」
おいおいおい。炎の中で何故平然と喋っていられる?
「……………………熱くないにてござるか?」
ムサシも驚きそう言う。他の皆も目を見張っていた。
「俺は炎系だけは得意でな。上位クラスまで使える。だから炎には効かないんだよ」
炎系が得意だから炎に効かないって理屈は何?
そもそも自分の魔力で出した炎は自分自身を焦がす事はない。確かに得意属性があれば多少は耐性はつくが、効かないなんて事はない。
これも他の世界の常識か?
「私も此処に来る道中で、そう言われ、状況によっては自分ごと燃やして良いと言われたわ」
ルティナがそう言う。まぁ二人は同じ空洞に入るしな。作戦を事前に話し合う事もあるか。
しかし武よ、残念だったな。今のルティナの物言いから察するに昨日は同じ部屋で寝なかったのだな。
「じゃあタケルとやらもそう言ってるでガンス、エド放すでガンス! こいつをぶっ飛ばすでガンス!!」
「お前のような二股クソ野郎が俺に勝てると思ってるの? 寝言は寝て言えザコが」
「もう止めるルマー。ここには喧嘩で来た訳ではないルマ」
再び言い合いが始めると、今まで黙って見てたユキも止めようとしだす。
「勝てるかどうか試してやるでガンス。それにさっきから二股クソ野郎とかふざけた事言いやがってでガンス」
「えっ!? 違ったの? ルティナを口説きたくてラフラカ帝国の反組織に所属して、落とせなかったからってエリスに鞍替えしたの誰だっけ?」
「お、おま! 何でそれを……? でガンス」
「最近では、町の女に手を出してエリスを怒らせたんだろ? てめぇの頭の中はヤる事しかないんだろうが! これを二股クソ野郎と言わずなんと言う!?」
「ほんと何で知ってるんだ?」
エリスも訝しげに聞いてきた。だってダークだし。
「ま、まさか……エーコでガンスか?」
「違うよー」
ロクームの言葉にエーコがかぶりを振る。
「ナターシャの次はエーコか? 俺の女達に気持ち悪い目を向けるなら、やっぱ死んでおけ……<下位稲妻魔法>」
ナターシャに羽交い絞めにされているので下位稲妻魔法を飛ばした。出力をだいぶ落としてやったがな。
これも記憶をなくし血を見たくないと考え、苦肉の策を労した賜物。こういう時は手加減が役に立つ。
「くっ!……また気持ち悪い目とか言い出しやがってでガンス。それに魔法まで……」
「わたしはアークの女じゃないよー。アークの女はナターシャお姉ちゃんだけだよー」
エーコがなんか言ってるが無視。俺の義娘なのは事実だし。
「魔法なら、もっと喰らわしてやるよ。次は炎が良いか? 氷が良いか? 選ばしてやるよ二股クソ野郎! 今度は下位稲妻魔法のように加減しないけどな」
「もーいい加減にしてー!!! <ミーティ……>」
それはまずい! ナターシャは瞬時に俺を放しエーコを抑えに掛かる。俺も同じだ。エーコを抑えにか掛かった。
「エーコ、それはダメさぁ」
「エーコ、どうどう……人参食うか?」
「わたしは馬じゃないよー」
ポカ!
エーコに小突かれた。
ふー。隕石魔法を止められて良かったぜ。
「アーク、あんた冷静だねぇ。我を忘れていなかったのかい?」
「え? 冷静にキレてたけど? まぁそこの二股クソ野郎は完全に我を忘れてる愚か者だけどな」
ナターシャにそう言われるが、俺は熱くなってはいなかった。
「四回だ。アーク」
「へ?」
エリスに呟かれる。四回? 何が?
「お前の言う通り、ルティナだったり、町の女だったり、色目を使う愚かでクズな旦那だが、私の前で二股クソ野郎と言うなと言っただろ?」
怖い怖い怖い怖い怖い。エリス怖い。凄い殺気が飛んでくる。いや、これはそんな生易しいものではない。闘気が乗り威圧状態になっている。少しだけ体に負荷が掛かった。
それと俺はクズまで言ってない。思ってはいたけど。
「ごめんなさい」
反射的に謝ってしまう。
「おいエリス。言い過ぎでガンス」
「黙れロクーム! お前がくだらん事で駄々こねたのが発端だろ?」
「くだらんって言うでガンスが……チームワークで考えたら俺達が一緒にいた……」
「だから黙れ! 決まった事をグチグチ言うなら帰れ」
「帰る家はないけどな」
俺が軽口を挟む。
実際この二股クソ野郎達の家はゾウに潰されたしな。
「ぅん?」
「な、なんでもありません」
エリスにめっちゃ睨まれ、再び威圧が来てしまった。
「これ以上何か言うならエスメルダのとこへ帰れ!」
今度はエスメルダと子供の名前を出して言い直した。俺がちゃちゃ入れたからだな。
「だが……」
「わ・か・った・な?」
「……はい」
すげーこえー。
「やっと終わったな。さっさとこれ潰そうぜ」
「そうだそうだ」
溜息と共に漏らしたのはアル。そして、それに同意するガッシュ。
こうして話がまとまったので、それぞれの足に向かった。あーなんか決戦前に二股クソ野郎のせいで疲れたなー。
その後、右前足の空洞に入りエドとユキが入り、左前足に移動するとナターシャとエーコが入って行った。
右中足に到着した時に、また誰かさんがガタガタ言い出したが、エリスは無視しムサシと入って行った。ザマーーーー!!!
そして、左中足の空洞前。
「クソ! 何で俺様がこんな奴の言いなりなんでガンスか」
ブツブツ煩いコバエが一匹。
「いくぞいくぞロクーム」
それを無視し促すパートナーになるガッシュ。
「早く入れ!」
「煩いでガンス! お前に言わたくないでガンス!」
あ~~~もう! ウザい!
「えつ!?」
「ホ~~~ルインワン!!」
「ぐはっ!!」
一瞬で二股クソ野郎の後ろに周り込み左中足の空洞の中に蹴り飛ばした。
ほとんど至近距離なので、ホールインワンもクソもないんだけど。
「じゃあ、ガッシュ。あの馬鹿の御守宜しく」
「わかったわかった」
そう応えガッシュも入って行く。ほんと最後までめんどくさい奴だったな。