EP.02 決戦前夜の安息でした
作戦会議後、それぞれ休む部屋に散った。明日ベストコンディションに持って行く事も兼ねて部屋は自由だ。
狭い部屋、広い部屋、装飾に凝ってる部屋、思い思いに散って行く。貸し切りだけあって自由度が高い。
明日の為に誰々と一緒というのもあった。いつも通りを過ごす為にロクームとエリスが一緒だったり、明日連携を密にする為にエドとユキが一緒だったり。
「ルティナちゃん、エドに倣って、明日の為に一緒の部屋にしようか」
「良いわよ。分厚い氷を出すから、それに囲まれて寝てくれるならね」
「うげ」
こんな一幕もあった。めっちゃ良い笑顔でとんでもない事を言うなぁ。
勿論、誘ったのは異世界漂流者になって、ドクズになったと、もっぱらの噂の武。噂を流してるのは、勿論俺。
この二人が本当に同じ部屋なったかは知らんが、俺はナターシャとエーコを誘って同じ部屋に入った。
三人で同じテーブルを囲みお茶をすする。お茶を飲むのが習慣になってしまったな。
日本暮らしの頃はお茶なんて、食後に麦茶で口の中を流し込むくらいにしか飲まなかったのに。
俺はコーヒー派だ。引き篭もりになってからは、毎日10杯は飲んでたかもな。
だが、この世界にはコーヒーがない。武持ってないかな?
この世界に来てお茶ばかり飲むようになったのはナターシャの影響だ。それも夏でも熱いお茶。
食後も、食前も、寝る前も、一服でも、関係無しに飲むようになった。
さて、余計な事を考えていないで、今は三人での歓談を楽しむか。約半月三人で過ごし、どんなくだらない会話でも落ち着く。
明日の決戦でベストコンディションに持って行くにも必要な事だな。そう思い俺はポツリといつものくだらない事を呟く。
「今頃、二股クソ野郎とエリスはお楽しみかなぁ?」
「アーク下品さぁ」
「いつでもアークはえっちだねー」
いつものように罵倒される。それもまた良し。決戦前だからこそ、いつも通りに過ごそう。
「二人とも何を考えてるのかなー? 俺は今頃楽しく話してるだろうなって言ったのさぁ」
「……矯正しようかしら」
「ぅぐ!」
俺は嫌味ったらしい笑みを見せ二人の口真似をする。ナターシャはボソっと呟き、エーコは顔を真っ赤にして言葉に詰まった。
「ところでナターシャ、分かってると思うが……」
「分かってるさぁ。今日はエーコがいるしナシだねぇ」
「何言ってるの? ダークの話だけど?」
「アーク、脈絡無さ過ぎるよー」
エーコから非難の言葉を頂く。
「アーク、あたいをからかって楽しんでるのかい?」
おっとナターシャ選手、目が吊り上げました。矯正が発動しそうです。アーク選手どう対応するのかー?
と、意味分からない実況を頭に流す。
「真面目に話してるんだけど? ダークには本当に気を付けろ」
アーク選手、真面目な話だと突っ張るー。さぁここでナターシャ選手はどう切り返す?
「そんなにあたいが心配」
ナターシャ選手、悪戯な笑みを発動。アーク選手をからかっているのかー?
「そうだな。ナターシャがもし……もしいなくなったら……」
「「アーク……」」
ナターシャ選手とエーコ選手がしんみりし始めたー。
「いなくなったら、エーコとハッピーライフをエンジョイするぞ」
「矯正!」
パッシーンっ!
「アーク最低ー」
ここでナターシャ選手の矯正が発動! エーコ選手も蔑みの目をアーク選手に向ける。果たして矯正した理由はいかにー?
「はっぴぃらいふや、えんじょいが何を意味するのか分からないけど、禄でもない事だけは、分かるさぁ」
なんとー直感で意味を悟ったようだー。
「テヘペロ」
ここでアーク選手、舌を出しをドロー。
「アーク、気持ち悪いよー」
エーコ選手の蔑みの目がより強くなったなぞ。
て言うか、いつまで意味の分からない実況を俺は流してるだか。
「エーコは、可愛いよ」
「それは知ってるー」
「おっと自画自賛かー」
「違うよー。アークが何かとそう言ってくる事は知ってるって事だよー」
「そっちか」
「綺麗とか美人とか言ってくれないのー? ねぇアークお兄様ー」
ここでお兄様キターーーーーーーー。祝福の鐘が鳴り響くぜ。
「言っても良いけど、絶対胡散臭い奴を見るような目をしてくるしなぁ」
「何で分かるのー?」
「繰り返す中で言った事があるから。記憶のない俺は、ナターシャ曰くおべっかを言うような奴だったし」
「つまり昔のアークは、おべっかを言っていたのかい?」
ナターシャにそう聞かれる。
「そうだね。記憶のない俺はエーコに好かれようとあの手この手で必死だったしな」
「肉体は父親だったのにー?」
「分かっていても心と体は、分かろうとしなかったなぁ」
「からだぁ?」
またナターシャの目が吊り上がる。
「待て待て! 断じて手を出してないぞ」
「ホントかなー?」
エーコから信用度ゼロの目を向けられる。
「ちょこーーーっとビッグマグナムが覚醒しただけで、本当に何もしてないって」
とは言うが完全覚醒していた。
「矯正!」
ペッシーン!
本日二発目の矯正をくらってしまった。
「エーコに反応するなんて節操無さ過ぎるさー」
「アークは今日から近づかないでねー」
エーコのその言葉堪えます。簡便してください。
「嫌だ! 今日はエーコと寝る」
「アーク、あたいには言ってくれないかい? それなら他の部屋に行くさぁ」
「やだよー」
うわ! ナターシャのいじけがまた始まった。
「いやいやいやいや、三人で寝ようというお誘いなんだけど」
「矯正!」
ペッシーン!
「は~」
「紛らわしいさぁ」
本日三発目の矯正ですね。もう頬がジンジンしまくりだな。エーコには溜息をつかれるし。
「それとさー。アークはわたしに可愛いとか言ってくれるけどーナターシャお姉ちゃんには言わないよねー」
「そうだねぇ。たまには言って欲しいさぁ」
「キレイダネー」
「矯正!」
ペッシーン!
本日は矯正のフィーバーですな。
「は~~~」
「心がこもっていない」
エーコの溜息がさっきより強くなってない?
「それとアークが爆発で目覚めた後に言ってくれた事、また言って欲しいさぁ」
「何を?」
分かってて聞いてしまう。だってほいほい愛してるの安売りはしたくないし。
「それは、あたいをあ、あ、あい、あいし……って察しなさい」
顔がめっちゃ赤いな。
「<下位氷結魔法>」
俺は下位氷結魔法を唱え、ゴトンとテーブルに氷の塊を置いた。
「はい、アイス」
「……態とやってるでしょう?」
ナターシャさん正解! しょうがないなー。言ってやるか。
「エーコ、愛してるぞー」
「は~」
「矯正!」
ペッシーン!
またひっぱ叩かれた。
「やっぱり分かってるじゃない。あたいには言ってくれないのかい?」
「この戦いが終わったらな」
「本当かい?」
「ああ……って! 死亡フラグじゃねぇか!!!」
思わず絶叫。
「死亡ふらぐ?」
「いや良い。こっちの世界には馴染みのない言葉だし。とりあえず三日後くらいにな。こう言えば死亡フラグは回避できる筈」
「何言ってるか分からないけど、三日後くらいにはちゃんと言いなさいよ」
ナターシャが目をパチクリし、そう続ける。
「今思ったが、それをナターシャが俺に求めるが、エーコは俺に言った事ないよな?」
「えっ!? 何の事かなー?」
お! すげー顔が赤くなった。
「エーコは俺を愛してくれていないの?」
「そんな事はないけどー。は、恥ずかしくて言えないよー」
「えーたまには言ってくれよ」
「そうだねぇ。たまには言ってあげなぁ」
「な、ナターシャお姉ちゃんまでー?」
「だっていつもエーコばっか言われてズルいさぁ」
ナターシャが今度はエーコをからかいだす。
「は~~~。アーク」
「は、はい」
溜息をつかれてけど、俺の名前を呼ばれたので返事をした。
本当に言ってくれるのかな? そう思ったら緊張してしまった。
「アーク…だ、大好き! これで許してー。愛してるは恥ずかしいよー」
お! 言ってくれた。って言うかそれ愛してると言ってるようなものだろ?
しかも、めっちゃ照れながらで可愛いのぉ。顔がニマニマしてしまう。
でも、そう言えば一週目も言ってくれたな。死ぬ間際だったけど。
「アーク、顔が気持ち悪いよー」
「そうだねぇ」
「えー」
台無しだ。せっかく良い気分になってたのに。
「ナターシャお姉ちゃんも大好きー」
「ありがとうさ。あたいも可愛いエーコが大好きさぁ」
「ありがとー」
「ユリ展開ええのー」
「またアークが気持ち悪い事を言ってるよー」
また蔑みの目を向けられた。
「それがアークさぁ」
「だねー」
二人とも酷くねぇ?
「さぁ、明日に備えてそろそろ寝るさぁ」
「そうだねー。ナターシャお姉ちゃん」
「じゃあ二股クソ野郎達は楽しんでるようだし、俺達も三人で楽しむか」
「アークさいてー」
「アーク下品さぁ」
「一緒に寝るのが下品で最低なのか?」
「は~~」
「まぎらわしいさぁ」
溜息をつかれたり文句を言われつつも同じベッドに入る。俺が真ん中で右にナターシャ、左にエーコだ。
「そういやさー。エーコにおやすみのキスされた事ないよな?」
「い、いやだよー」
「大好きって言ってくれたついでだし、してよ」
「ついでの意味が分からないよー」
「どうしても嫌?」
「は~~」
また溜息をつかれた。エーコは、ほんと溜息が多いよな。
「目を瞑ってー。見られると恥ずかしいよー」
「ああ」
とか言いつつばっちり目を開けましたとも。エーコのキス顔見たいじゃんよー。
「ちゅ!」
おでこにされた。エーコから初めてだしめっちゃ嬉しいのぉ。
「もうー! 目を瞑ってって言ったでしょー!!」
「ごめんごめん」
「もう知らなーい」
おっふ。背中を向けられた。
「じゃあナターシャには俺から」
「嬉しいねぇ。見せびらかされるだけかと思っていたさぁ」
そう言って目を瞑った。
「ちゅ!」
「何で頬なんだい? こっちにしてくれないのかい?」
ナターシャが自分の唇を指差す。
「そっちにしたら、貪り出すだろ? エーコがいるんだぞ」
「お見通しさねぇ」
「ねぇ? 二人ともその会話、わたしがいないとこでしてー」
エーコが顔を赤くしつつ、再びこちらを向いてきた。
「だってさ、ナターシャ」
「アークに言ってるんだよー」
今、『二人とも』って言ったよね? 何故俺だけになった? 解せん。
その後、俺は二人を両腕で抱き眠りに着いた。