EP.18 これで仕込みは完了
チェンルに到着するとまずはルティナちゃん達と合流すべく、ルティナちゃん達が泊まっている宿屋に向かって歩き出した。
その途中の事だ。
「なぁアルにはアンクレット。ムサシには刀。俺には何かないのか? 良いのあったらくれよ」
知るかよ。しかも俺の周りをチョロチョロするな。ウザいわ!
「そーいやさ。この世界の魔導士って武器ないわけ? エーコちゃん持っていないよね?」
治を無視してエーコちゃんに聞く。
「うーん。その場から動かず魔法だけ放つならー、杖とかロッドとか使う人もいるけど、戦闘中は動き回らないといけないから邪魔なんだよねー。それに持っていても上位まで使うと効果ないしー」
「そうなんだ」
上位だと効果がないのか。余程この世界………いや、この大陸では魔法が廃れており、魔導士の武器が生産されていないのだな。ユグドラシル大陸は、色々あった気がする。
「ルティナお姉ちゃんのような魔導剣士なら剣も持ってても良いんだけどねー」
エーコちゃんが続ける。
っていうルティナちゃんの場合、魔導を底上げするものではなく、純粋に斬るものだろ。
「上位でも効果があって邪魔にならない武器ならエーコちゃんなら何を使う?」
「えっ!?」
エーコちゃんが呆けた顔をする。
「魔導士なんだから魔導書かな? それとも斬るのにも使えるナイフみたいのも良いし。普通に杖でも良いかも? エーコちゃんが使うなら、どんなの使ってみたい?」
「うーん……邪魔にならず上位でも効果があるのだよねー? ならメイスかなー? 魔法が効かないのをぶん殴りたいしー」
「何それ? エーコちゃん恐ろしい娘」
「聞いたのタケルさんだよー。恐ろしいとか言われたくないよー」
プーと頬膨らましてる。おこのようだけど可愛いぞ。
「いや、今のは元の世界にあったネタだよ。なぁ治?」
「そこで俺に振るなよ。まぁそうだ、ネタだ。冗談のようなものだから気にするなエーコ」
「そうなのー?」
「さてメイスね。手持ちであった気がするな……<収納魔法>」
収納魔法を唱え、空間に手を入れてメイスを取り出す。
「破邪の鉄槌って言うのだけど、これに……『付加魔法、縮小魔法』」
鉄槌に縮小魔法を付加させた。
「これでサイズ変更ができるよ。小さけれポケットとかに入れて邪魔にならないでしょう?」
俺は鉄槌を大きくしたり小さくしたりしてエーコちゃんに見せる。
「凄いけどー鉄槌って重いでしょー? わたしじゃ持てないよー」
「そこは大丈夫。この鉄槌に重力魔法が付与されているから。使い方としては、インパクトの瞬間重くするのが良いかも」
「ありがとー。でも良いのー?」
「じゃあ報酬は、最高の笑顔で『タケルさん素敵ー』って言ってくれる事で良いや」
「おい!」
おっと治に殺気に闘気を乗せた威圧を飛ばされてしまった。軽い冗談なんだけどな。ちなみにそんなチンケな威圧は俺の気でシャットアウトだけど。
「分かったよー。タケルさん素敵ー」
満点の笑顔に言われた。エーコちゃんめっちゃ素直で良い娘だわー。名前がええこなだけあるわー。
治がいなかったら、絶対仲間にして連れ回してるとこだぞ。
ちなみにだが名前の通り邪道を打ち破る力があるのだが……まぁこの世界に邪なる力があるか不明。だから、正直不必要な機能かもしれない。
「ありがとう、エーコちゃん」
「こっちこそだよー」
「ちっ!」
治が苦虫を嚙み潰したよう顔をしてるが、先程からエーコちゃんは治をガン無視だな。それがまた笑える。
「その破邪の鉄槌は残念ながら、魔導の底上げをするものではない。だけど殴る時に魔力を流すと威力が上がる」
「そうなんだー。でもわたしは、魔法が効かない相手を殴りたかったから十分だよー」
「ただ殴る時、サイズを変更する時、重さを変動する時に魔力を消費するから、使い過ぎには気を付けてね」
「分かったー」
「ふん!」
エーコちゃんをご機嫌にしてるのが気に入らないのか、治がそっぽ向き出した。
「ところでやっぱ魔導を底上げするのもあるのー?」
「あるよ」
「じゃあさー、良かったらルティナお姉ちゃんにも何か渡してあげてよー」
「ルティナちゃんは無理」
俺はきっぱり言い切った。
「何でー?」
「規格外だから、武器が保つかどうか」
「規格外ってー?」
「半分精霊じゃん」
そう半精霊化した状態で人間用の武器がどうなるか……。
それに先祖返りの秘薬を渡す時点で、それ以上渡すのはバランスが悪い。
「でもー、今は精霊の力ないよー?」
「復活させる方法がある」
「すっごーい! そうなったらルティナお姉ちゃん凄く強くなるねー」
これまたかなりビックリしてるな。飛び上がらんばかりだ。
「てめぇ、さっきからウチのエーコを口説いてんじゃね」
治、めっちゃ機嫌が悪くなってるな。
「口説かれてないよー」
今度はエーコちゃんがブー垂れてそっぽ向く。
「は~~。めんどくさい奴。……<収納魔法>」
収納魔法で二振りの小刀を取り出した。一振りは、鞘も柄も鍔も刀身も真っ白。もう一振りは、鞘も柄も鍔も刀身も真っ黒。
「ほらよ。黒い方の銘は闇夜ノ灯、白い方の銘は光陽ノ影。やるよ。ご所望の武器だ」
二振りを治に差し出す。
「うお! マジか?」
何いきなりホクホク顔になってるんだよ。現金な奴め。
まぁそもそもこれは、コイツに渡す為にあっちの世界から返却して貰ってたんだけど。あっちの世界でコイツが三年も使ってたお陰で、コイツの気に良く馴染んでいる。
はっきり言って、もうこれはコイツ専用と言っても良いかもしれない。
ただあっちの世界のコイツは今よりも成長してる。その成長した気に馴染ませたせいで、完全に使いこなすまで時間が掛かるだろう。この戦いの間だけじゃたぶん無理だな。
「光陽ノ影は防御に優れており、闇夜ノ灯は攻撃に優れている対の小刀だ。尤も気の応用ができない奴には宝の持ち腐れだけどな」
「出たまたその言葉。闘気の応用で、武器に確り闘気を流せれば良いのだろ?」
「そういう事」
「なぁあたいにも何かないのかい? アークとエーコだけなんてズルいさぁ」
今まで黙っていたナターシャちゃんが口を出してきた。
「ない。と言うかナターシャちゃんの弓って、古代兵器級だぞ。どこにあっただって言いたいくらいだ」
「へぇー。あたいの弓って、そんな凄い武器だったのかい」
結局どこにあったか教えてくれないのね。まぁ良いけど。
「だけどまぁナターシャちゃんは、このバカの女だ」
「おい!」
俺は治を無視して続ける。
「だから、これからこのバカを宜しくって事で……<収納魔法>」
背中くらいまでの長さしかない赤いマントを取り出す。
「これをあげる」
「本当にくれるんだ。ありがとうさぁ。当然このバカを大事にするさぁ」
「二人してバカバカ言うんじゃね!」
治がなんか言ってるが無視。ナターシャちゃんも無視し、早速マントを背中に回し、前で止め金具を取り付ける。
すると肩の下辺りまで短くなり、今着ているワンピースと同じ色のオレンジに変化した。イメージとしてはセーラー服のようだ
「あれ? なんだいこれ。色も大きさも変わったさぁ」
当然ナターシャちゃんは変化したマントを見て目を丸くした。
「そのマントは俺のマントの下位版だが、俺のとは違い特殊な機能がある」
「それがこの変化かい?」
「そう。今着ている服に合わせて変化する」
「それは服を選ばなくて良いけど、短くなったらマントとしてダメなんじゃない?」
まぁ当然の反応だろうな。短ければその分、攻撃を防ぐ面が減る。それに何も防具としてだけのものではない。
マントは砂漠等で肌を日から守ったり、寒い時には防寒着にも使えるしな。
「それは大丈夫」
そう言いながら気弾をナターシャちゃんに向けて飛ばす。
「「「えっ!?」」」
治、ナターシャちゃん、エーコちゃんが目を剥く
が、ガキンっとマントが独りでに伸び俺の気弾を弾いた。
「なんだい? 今の?」
ナターシャちゃんが目をパチクリさせる。
「見て通り自動で防御してくれる特殊なマント。必要に応じて広がってくれる」
「それは凄いねぇ」
再び目を丸くする。
「それに気を流せれば、ある程度自在に操れる」
「うっ! それは厳しいかも」
ナターシャちゃんがげんなりしていた。
まぁ気の応用なんてなくても自動で防御してくれるし十分だろ。
昔に色々あったとはいえダチだ。そのダチの女に万が一があったら可哀想だしな。
こうして治達に武具を渡しながら歩いていたら、いつの間にか宿屋に着いていた……。
到着した宿屋をエドが貸し切りにしだす。流石は国王だ。
大半がゾウにビビって逃げ出していて、客はほとんどいなかったが、それでも数人泊まっている。
その人達に迷惑料を払い追い出していた。そこまでせんでもええと思うけどな。
そして、先に到着しているルティナちゃんとガッシュを呼び、一番広い部屋に集まる。これから作戦会議ってわけだな。
ただ、その前に歓談タイムって言ったとこか。みんなでワイワイしてる。
じゃあ俺もルティナちゃんに挨拶しておくか。この周回では初対面だしな。
あとはガッシュとやらにも。男はいらんのだが。共に戦うのだ。一応な。
にしても流石野生人。服が良い感じにボロボロだ。
それに良い気だ。本格的に訓練すればアルに超えるかもな。とは言え教えてくれる人がいるとは思えないけど。
「初めまして。俺はアークのダチで武。武=渡内だ。宜しく」
「よろしくよろしく」
何故に言葉を繰り返す?
「ガッシュかな? アークから聞いてる」
「おれガッシュだガッシュだ」
だから何故繰り返す?
「宜しく」
「君がルティナちゃんだね。ルティナちゃんもアークから聞いてる」
「……そうなんだ」
今の間は何? それに何か探るようにじーっと見て来てる。前回の周回でもあったな。
「何かな? 武って恰好良い。素敵ー……とか思ってくれてたり?」
「ううん、全然そんな事は思っていない」
首を横に振りきっぱり否定。冗談で言ったけどさ、そんなきっぱり言われるとショックなんですが……。
「ねぇ? 他に何かない?」
「え?」
何かないって、何? 何を期待してるの?
「……ごめんなさい。何でもないわ」
何かを諦めたような、何かを言いたいけど言えないもどかしさがあるような、そんな顔をしている。
一体何なんだ? 前回の周回もずっと見られていた。今回も見られるのは居心地が悪い。
だが何だ?
俺は、色々考えた。そして、あ! っと思い出した。治が興味深い事を言っていたな。
「あ、ルティナちゃんって変わった気配してるよね」
「えっ!? そう?」
めっちゃ目がキラキラしてるなー。待ってましたって言わんばかり。
「実はね……」
俺はスーっと手を挙げ、ルティナちゃんの言葉を止める。
「<収納魔法>」
今日大活躍の収納魔法であるものを取り出す。
「あ!」
それを右にやればルティナちゃんの目が追いかけて、左に持っていけばまた追いかける。
はぁ~。もう完全に理解しました。
治は言っていた。歴史改変する前と、した後をルティナちゃんが完全に覚えている、と。
「ルティナちゃん、ちょっとこっち来て」
「うん」
少し他の人から離れる。ここからの話を人に聞かれないために……。
「とりあえず、これ欲しいんでしょう? あげる」
そう言ってさっき取り出した先祖返りの秘薬を渡す。
「あ、ありがとう。でも、何で?」
ルティナちゃんが怪訝そうな顔をする。
「ルティナちゃん、覚えているんだね?」
「え? じゃあタケルも?」
「まぁな」
「そっか。良かった。私だけじゃなかったんだ」
ルティナちゃんが安心したように息を吐く。
「同じ時間を二回繰り返した時はビックリしたな」
え? 今なんて?
「に、かい?」
「うん、そうよ」
「な、んで?」
「え? タケルも覚えているんでしょう?」
「いや、ルティナちゃんにこれを最初にあげてから三週目だよ?」
「え?」
ルティナちゃんが目を丸くする。驚いてるのは俺も同じなんだけどな。
そこで『あ! 分かった』と手をパンと叩く。
「ルティナちゃんが精霊の力を取り戻した時しか記憶を保持できないんだ」
「あーなるほど」
ルティナちゃんも得心がいったように言う。
「ちなみに今、何回目?」
ルティナちゃんが問うてきた。
「7週目だね」
「そんなに? でも、何で? やっぱあのゾウ?」
「あれの足を同時に潰さないと時間逆行……時間が戻ってしまう」
「そうなんだ。でも、良くその答えに行きついたわね」
ルティナちゃんが関心したように言う。
「治だよ。あいつ倒し方知っていたのに記憶なくしていたから、今まで苦労したんだよ」
「じゃあ、もしかしてアークも?」
「ああ、あいつは過去を変えた影響で、時間が巻き戻っても記憶を維持できる」
「そうなんだ。でも、何で知っていたの?」
「エドの依頼でとある屋敷を調べて知ったんだ。まぁそこで爆発に巻き込まれ記憶が飛んだんじゃ世話ないけどな」
俺は肩を竦める。
「それで記憶がなかったんだね。じゃあタケルは、何で繰り返してる記憶があるの?」
「気の応用」
「…………………………愚門だったわ」
ルティナちゃんが頭を抱え出す。何故だ? 解せん。
「まぁこれは有難く頂くわ……ゴクっ!」
そう言うやいなや青い液体の先祖返りの秘薬を一気に煽る。
いつ見ても気持ち悪い色。あんなの飲みたくないな。どんなに味が良くても色で吐き気がしそうだ。
「あ、ちなみにそれあと一つしかない。あと二回失敗したら終わりだから」
「え? 繰り返してるのよね? 元々持っていたものなら、元に戻るのでは?」
ルティナちゃんが首を傾げる。
「収納魔法は、時間と隔絶した空間に収納できる魔法だ。何度繰り返そうが、減ったものは増えない。逆に増やしたものは、そのままだ」
「そうなんだ……」
少し残念そうな顔してるな。
「ま! 大丈夫だろ。治は記憶を取り戻して、作戦も考えたし」
「確かに前にいなかった顔ぶれがいるわね」
アル、ガッシュ、ユキを見てそう言う。
「そこはルティナちゃんの手柄かもな? 前々回で居場所の話をしたから記憶に強く残っていて、今回の周回では集める事ができたようだし」
「前の周回の行動で役に立つ事もあるのね」
そう言ってルティナちゃんは笑った。
「君の笑顔は100万ドル」
「……何言ってるの?」
ですよねー。通じるわけないよな……。
さて、ともかく俺の仕込みは此処までだな。あとは全員で協力してゾウを叩けばミッションコンプリート。俺もこの世界とはおさらばだ。