EP.17 サラとの再会
俺達は余裕を持ってイーストックスに向かった。
俺がこの世界に来て10日目、治が目覚めて11日目になるのかな? 早朝にフィックス城を発ち夕方にはチェンルに到着する予定だ。
治曰くルティナちゃんは11日目にチェンルに到着すると計算してるので1日余裕がある状態だ。
ルティナちゃんと合流して1日は作戦会議、そしてリミットの13日目で決戦に挑むと言う計画を立てていた。
そして今は、イーストックスに到着しており、船を待っていた……。
「なぁ武。クロード城は平気だった? まぁお前の事だ。余裕だったんだろうがな」
待合室で隣に座る治に声を掛けられた。
「ああ。きっちり滅ぼしてきた」
「………………は?」
今の間は何だ?
「きっちり滅ぼしてきた」
「いやいやいやいやいやいや……お前何してんの?」
いやいや言い過ぎだろ。
「それだけあそこが気に入らなかったしな」
「それは分かる! 分かるが、やり過ぎだろ? それに外交問題とかあるし」
「それは大丈夫。最後はムサシが城を真っ二つにしたから」
「どこが大丈夫なんだよ!?」
昔を思い出す快活で鋭いツッコミが飛んできた。
「それにムサシがトドメを刺したって、本人はそんな事したがらないだろ?」
「うんまぁそこは、俺の手持ちの刀をくれてやって試し斬りさせた結果?」
「わざとだろ?」
「バレた? テヘ」
片目を瞑り舌を出す。
「テヘ、じゃねぇ。男がやってもキモいだけだ」
「それは同感だな」
女の子がやると可愛いのに男がやるとキモいと言うのが不思議だ。
「あ~~~ムサシの対する仕打ちの責任の追及をどこにすれば良いのやら。エド王、ご愁傷様です」
治が頭を抱えボヤく。
「エド王も同じ事を言っていたな」
「は? 会ったのか?」
「ムサシを暫く連れ回すんだ。筋を通さなとな」
俺は肩を竦める。
「味方にいれば良いが、敵からすればこれは悪魔だな」
「ちょ! 悪魔とか酷くない?」
今回、化物だの外道だの言われたは、悪魔まで言われるとは……。
「煩い! このクソ外道が!」
治まで外道とか言い出したよ。
それもクソ付きで。
「でも俺は誰一人殺してないぞ。城に入る前に挨拶に左右にあった尖塔に気弾を飛ばしたけど死人が出ないように計算したしな」
「は? 滅ぼしたのに殺してない?」
治が目を丸くする。
「俺は、な。ムサシは四人始末して、最後に城を真っ二つにしてたけど」
「理不尽だ……この理不尽の権化が!」
「そこまで言う?」
「理不尽の権化では、お前を過小評価してるくらいだ」
「ひでぇな」
さっきから治がひでぇ事ばかり。人を一人も殺してないのに解せんなー。
「はっははは……二人とも仲が良いな」
朗らかに笑いそう言ってきたのはエドだ。
「「どこがだ!?」」
遺憾ながらハモってしまった。
「もしかしてアークが元いた世界はタケルがいた世界なのか?」
ん? 治が転移者だと知ってるのか。
「まぁな。こんなのダチだったとは、真に遺憾だがな」
「そんな事を言われる俺が遺憾に思うわ!」
「通りで、言いたい事を言い合ってるわけだ」
「「不服だがな」」
ちっ! またハモった。
「はっははは……。ところで聞いたよ。アークには何度も同じ時間を繰り返して苦労掛けたね」
「知っていたのか……。苦労と言うか、爆発のショックで記憶をなくしていた事に困ったな。ゾウの倒し方は分からないし、何で時間を繰り返しているのか分からず、最初は混乱したな」
治が振り返るように言う。
「そんな事が……」
「まぁお陰でダークの肉体に囚われない戦い方を身に付けたのはプラスだったかな? それに最後が良ければ良いっしょ」
治が肩を竦める。
「そうだな」
「って言うか武が話したのか?」
「実はな………アルが別の世界にいて、俺の仲間の手伝いを二ヶ月半くらいしてたんだよ。その駄賃に鉱石をやるって言ったから、話さないわけにはいかなかったんだ」
「アルの奴、帰って来ないと思ったら別の世界にいたのか?」
「元々オドルマンがいた世界でな。置き土産が面倒な事になっていたから、アルのお陰で助かった」
パルサちゃんも大分助けられたって言ってたな。
「お前こそ転移者って事を話したんだな」
「まぁな。本物のダークと出会ったら俺は誰なんだ? ってなるし、それに何かあれば助けになってくれると思った。今回みたいな」
治がニヒっと嫌味ったらしくエドを見ながら笑う。なるほどなと思っていたらエドが苦笑しながら肩を竦めた。
「お陰で、今回の件で大出費だがね」
「ああ、そうだ。忘れないうちにこれ」
治が紙をエドに渡す。
「何だ? えっと……レーション200G。宿屋素泊まり60G……」
「今回の出費だ。エドに請求する」
「お、おま……」
エドが口をあんぐり開けた。合計いくらか知らんがそうなるわな。さっき大出費したって言ってたし。
「ああ、大丈夫。ここにいる武が、アルへの報酬の他に補填してくれるってさ」
「言ってねぇーよ」
何言ってるんだこいつは?
「黙れ! 補填外道タケル。良い二つ名がついたじゃねぇか」
「ふ、ふざけんな。俺は我竜人拳99代目継承者って二つ名があるんだ。それ以上いらねーよ」
「うわ、何その痛々しい二つ名。ダチとして哀れだ」
残念そうな目で見るな。
「煩い! 俺だって何でキリ良く100代目じゃねぇんだって思ってるんだよ」
「そこじゃねぇよ!」
治が奴、今日やたら鋭いツッコミばっかしてくるな。
「はっははは……やはり仲が良いな」
「「どこがだ!?」」
エドにそう言われ、反射的に返してしまったが、またハモってしまった。
「はっははは……まぁ補填に期待してるよ」
ちっ! しょーがねぇな。
ここにとって貴重な鉱石でも俺にとっては大した事ないしな。ただあまりバランスを崩したくないんだよな。
「あ、来た」
誰がそう言ったのか、船が来たようだ。そうしてチェンルからの乗客が降りて行く。
ん? やたら多いな。ゾウにビビって逃げたって事だろうか?
そして長蛇の列をなして降りて来るのを見ていたら、知ってる顔の者がいた。
「ん? タケルではないか? 久しいな」
「やっぱサラちゃんか」
最初にこの星々の世界に来た時、旅人を襲う北欧神話にありそう名のふざけた村に泊まり、全員返り討ちにした後、サラちゃんがやって来たんだよな。
昔に同じ事をされたから取り締りに来たとか。
しかし、俺が村人の山を作っていたから、いきなり攻撃して来た。
女を嬲る趣味はないし、あの時はどうしようか困ったものだ。サラちゃんと一緒にいた奴が執り成してくれたけど。
「お主は、その『ちゃん』を止めろと言っておるではないか」
「はははは……」
笑って誤魔化す。
「武と知り合いだったんだな」
「三年くらい前に出会ってな。にしてもタケル。他の世界に行ったのではないか?」
治が聞くとサラちゃんが答え、俺に水を向ける。
「サラちゃんもゾウ見たか?」
「だから『ちゃん』を……もう良い。ああ見たぞ」
苦言を言おうとしたが吞み込んだな。まぁ俺が聞く気がないって事は、前にユグドラシル大陸行った時に嫌と言う程、理解してるだろう。
「あれ他の世界の者がやった。俺は、それの始末でこの世界に再び来た」
「通りで……。アークに聞いていたが正直言葉を失ったぞ。この大陸は動物は狂暴だし、魔物は出るしで非常識だが、あれは非常識と言う言葉では生温い存在だった」
更に足を同時に潰さないと時間逆行するしな。
「それでサラがここにいると言う事は、ルティナとガッシュは無事にチェンルに届けたんだな」
「ああ。あとは、このディール夫妻と子供達をフィックス城に連れて行くだけだな」
治に聞かれると後ろに控えてるディール夫妻とやらと子供達……って多いな。
十人はいるか? それを見やり言ってきた。
「ありがとう。助かった」
「なーに。この対価はディーネがエドに請求するさ」
「ははは……耳が痛いな」
エドが苦笑を溢す。
「おい! サラ嬢達を案内しろ」
「はっ!」
フィックス兵が二人程着いて来ており、その二名にエドが命令した。
「サラ、町の外には我々の味方の魔物がいる。それが護衛の手伝いをしてくれるから安心して欲しい」
「魔物……だと?」
サラちゃんが驚き目を丸くする。それは驚くよな。
ちなみに味方とは言え、魔物が大量いたら町の住人が驚くので、ユキ以外は外で待機して貰っていた。
「人間の言葉が分かる突然変異の魔物だ。ユキ?」
「ルマー」
エドがユキを呼ぶ。
「彼は雪だるま一族のユキ。彼と同じ種族が護衛の手伝いをしてくれる」
「……………………着ぐるみじゃなかったのか?」
サラちゃんが目を剥く。
「違うルマー」
「話せるのか?」
「残念ながらユキだけルマ。外にいる同胞は、言葉は理解できるけど人間の言葉は介せないルマ」
「そうか」
「そういう事で、このユキの同族が町の外にいる。驚かせてすまないね。先の戦争であまり兵を動かしたくないのだ」
「戦争?」
サラちゃんが首を傾げる。
「ああ、サラには言ってなかったね。ゾウの討伐しに行きそうな私の存在が邪魔だったので戦争を仕掛けるように吹き込まれた国があったんだよ。事前に情報を得ていたので、損害は軽微だが、兵はあまり動かしたくないのでね」
エドが肩を竦める。
「承知した。では、城まで護衛しよう」
「頼むよサラ」
「じゃあな。また会えるか分からないが、縁があったらなサラちゃん」
最後に俺が声を掛ける。って言うか前回も言った台詞だな。
「うむ。縁がったらな。タケル」
そう言ってサラはフィックス兵を先頭にディール夫妻と子供達を連れて行く。
そして俺達は停泊した船に乗り込みチェンルのを目指した……。