EP.16 治は確り考えていたようだ
「ふむ。寝てるのか。当然か」
拷問をされていたのだ。暫く気が休まらなかっただろうに。
じゃまぁ、一日くらい徹夜しても問題ないし起きるまで見張りでもしますかね。夜盗とか来られると結界魔法を素通りできてしまうし。
それにこれを展開してる間、ずっと魔力を消費するんだよな。もう俺の魔力も少ないし、解除っと。
しかしムサシは、なかなか目覚めず丸一日寝ていた。
おいおいおいおい。俺は一徹どころか二徹じゃねぇーか。ふざんけんな! コノヤロー!
「やっと起きたか」
「拙者は如何程寝ていたにてござるか?」
「丸一日だな」
ムサシが起きたのは次の日の深夜だ。前日の昼間に寝たので丸一日以上だな。
「さて、とりあえずメシだ……<収納魔法>」
俺は収納魔法で弁当を二つ取り出し、一つをムサシに渡す。
「感謝致すにてござる」
前日ムサシに渡したの弁当のメニューは見ていなかったので、知らないが今日のメニューは、俺がハンバーグがメインの弁当で、ムサシのはエビフライがメインの弁当だ。
弁当と言えば何が入ってるのか、ドキドキして開けるって楽しみもあるからな。なので事前にメニューは聞いていない。
「昨日も面妖なものだったが、今日も同じく面妖にてござるな」
ムサシがエビフライを箸で掴みながら言って来た。
「あ、それ…好みによるけど尻尾は食べないものだから」
そう言ってエビフライの尻尾を箸で示す。と言うか今更だがムサシは箸が使えるのだな。使えなかったら昨日食べるの苦労したところだ。
「そうなのでござるか……ハム。ん!? これは美味にてござる。昨日のも美味にてござった」
「そいつは良かった」
俺もハンバーグを咀嚼しつつ返す。
「そう言えば言い忘れていたにてござるが、助けて頂き感謝致すにてござる」
弁当を食べつつ頭を下げてきた。
「礼はアークに言ってやれ」
「アーク殿……にてござるか?」
ふむ。知らないのか。
まぁダークと言えば分かるだろうが、人の秘密を話す主義はない。
それに今の治はダークとしてではなく、アークとして生きてるしな。
「俺はオドルマンとオドルマンが引き起こす厄介後の始末が目的だ。アークはこの大陸の為だな。つまり目的が一致してるから協力しただけだ」
ダチと言うのも少なからずあるがな。
「その、オドルマンなる者がこれから厄介事を起こすにてござるか?」
「そう言う事だ」
「では、アーク殿は何故拙者の事を知っていたにてござる?」
「エドの依頼でオドルマンの屋敷を調べたのだと」
「なるほどにてござる。そこで良からぬ情報をクロード城に流してる事を知ったにてござるな」
「まぁ後は道すがら話して行くから、今は食事に集中しな」
そう言って手が止まっていたので、俺は弁当を示す。
「では、食事が済んだらフィックス城に向かうにてござるな」
「いいや、深夜だし寝ろ」
「うーん……タケル殿は見張りをしていたのではないでござるか? 拙者が代わるにてござる」
「良いから今は体力を戻せ。ムサシの力もアテにしてるんだからな」
「……そうにてござるか……では、承知したにてござる」
逡巡してそう答えた。そうこの為に俺は二徹になってしまうのだ。まぁ仕方ないが。
「それと明日は先にロクリスのアジトに行く予定だ」
ロクリスのアジトにいる者の避難の話は治から聞いていない。忘れていたな……。
まぁ頭の中がゾウを倒す為にみんなを集める事ばかりなんだろうな。
仕方ねぇ。俺が行ってやるか。まぁ治が確り考えていたらいたで、それはそれで良いしな。
って訳で次の目的地はロクリスのアジトだ。
翌朝、ムサシを叩き越した。二日も徹夜したのだ。いい加減寝たい。
「あ、そう言えば刀二振り差してるな」
一振りは言わずもがな。俺がくれてやった奴だ。それともう一振り、腰に差していた。
「これは拙者が元々持っていた物にてござる。武器庫への道は、なんとか瓦礫に埋もれていなくて回収できたにてござる」
余程愛着があったのだろう。自分が元々持っていた刀を撫でながらそう言った。
つーか今、武器庫って言った? 武器庫の地下で監禁してたっつーのに脱走されたら即武器回収されるだろ。バカにも程があるな。
そんな話や、オドルマンや俺の話をしながら歩き、昼頃にロクリスのアジトに到着。
転移魔法で一気に行けるのだが、説明しないといけないし、歩いて行く事にしたのだ。それにムサシの体も鈍ってるだろうしな。
道すがらムサシに説明しておいたので、ムサシからライデンとかいうじーさんに説明してくれた。
正直初対面の俺が説明しても時間ばっか掛かるしな。で、ロクリスのアジトでやっと寝れた。
次の日の昼にムサシ、じーさん、じーさんが抱えたロクリスのガキを連れて転移魔法でフィックス城に飛んだ。
「ここはフィックス城です……ん? これはムサシ殿。話は聞いております。どうぞお入りください」
どうやらすんなり入れてくれるようだ。
「ムサシは随分信頼されてるのだな。すんなり入れた」
「いいや。拙者に限らずエド殿と知り合いだと言う事を兵が知っていれば、簡単に入れるにてござる」
ムサシがかぶりを振りそう教えてくれる。それはまた警備が甘いな。此処の城はクロード城とは大違いだ。
そして、謁見の間に向かった。
「ムサシ、無事だったか……心配したのだぞ」
王座に座ったエドが開口一番そう言い、ホッとしていた。
「エド殿には心労掛けたにてござるな。御覧の通り拙者は此処にいるタケル殿のお陰で無事にてござる」
そう言って俺を見る。
「君がタケルか? アークから聞いてる。此度の件は感謝する」
エドが俺に頭を下げた。やっぱ、あのクソったれ王と大違いだな。
「ムサシに倣ってエドで良いか?」
この周回では初対面だし、一応そう言っておこう。
「構わない。どうも私はかたっ苦しいのは嫌いでね」
「ところでエド。戦争があるって聞いたが城の中は平常だが?」
聞いたのは別の周回だがな。嘘は言っていない。
「アークのお陰で、ほとんど損害なく早期終結した」
どうやら治が上手く裏で暗躍していたようだな。
「で、件のアークは?」
「今日の早朝にアルフォンス王を連れて来てな、その後寝てしまった」
どうやら治は、自分の役目を終えたらしい。あとはアルだ。ちゃんとアルにも声を掛けたのだろうな?
そう思っていたら謁見の間に二人の気配が近付いている。この気配は……一人はアルだな。
「ガハハハハハ……久しぶりだな兄貴。お! タケルもいるのだな」
「アルを連れてきたルマー」
もう一人は雪だるま!? ああ、魔物が一体、十一人の英雄の中にいるって言ってたな。
どうやらこの雪だるまがアルを呼びに行ったのか。なるほど。
治の奴は、まずはこの雪だるまに声を掛けてアルを迎えに行くように言って、戦争を早期終結させたって訳だな。確り考えていたようだ。ロクリスの祖父と子供を忘れていたけど。
ロクリスの祖父と子供は忘れていたけど……はい大事な事。
「久しぶりって……三日ぶりくらいだろ。それにタケルと知り合いだったのか」
この世界では三日ぶりだな。だが、アルにとっては二ヶ月以上経っている。
さて、どうしたものか……。まぁ礼に鉱石をやるって約束したしな。
「その件について、エドとアルと三人で話がしたい。どこか部屋を移すか人払いをしてくれないか?」
「ふむ……では、応接室に行こうか。ムサシやライデン殿を客室に案内を頼む」
「はっ!」
エドは思案して、兵に呼び掛けた後、王座から立ち上がり移動し出した。それに俺とアルが着いて行く。
「それで何か人に聞かれたくない話でもあるのか?」
応接室に到着したエドが聞いてきた。
「実はアルにとって約二ヶ月半ぶりなんだよ」
「はぁ!?」
エドが素っ頓狂な声をあげる。
「事実だぜ、兄貴」
「どう言う事だ?」
訳が分からないと言う顔をしてるな。つい笑ってしまう。
「この世界は同じ時間を繰り返してる……」
俺は現状を全て説明した。
「話は分かった。だが、アルは他の世界に行っていたから分かるが、タケルはこの世界にいて何故それが分かる」
何故繰り返してのが分かるのか問うてきた。いつもなら気の応用と答えるのだが、さてどうしよう。俺が気で、色々できる事を知らないだろうしな。
「俺が、この世界の人間ではないから、この世界の法則に縛られない」
この世界の人間ではないから、気を自在に操る術を他の世界で身に付けたから、この世界の法則に縛られない。
嘘は言っていない。
「なるほどなぁ……ちなみにアークも覚えているのではないか? 不自然な程、ここまで上手く行き過ぎてるが、繰り返してる間の事を覚えているなら合点が行く」
鋭いな。
「ああ、アークも記憶に残ってるな。過去改変した時に、この世界の法則に縛られなくなったから」
変に隠して、後々面倒になっても困るから話しておこう。本来なら人の秘密は話す趣味はないのだがな。
それにエドなら、過去改変の事を知っていそうと直感で感じていた。
「過去改変の影響がそんなとこにも……」
お! やっぱ知っていたか。
「なぁ兄貴。何の話をしているんだ?」
「いや、なんでもない。それよりもアル。約二ヶ月半、そのラスラカーン世界とやらで良く励んでくれた。これで貴重な鉱石が手に入る」
「ガハハハハハ……良いって事よ。俺は兄貴を支えるって決めるからな」
「まぁもろもろ終わったら鉱石くらいやるよ」
「タケルも感謝する」
再びエドが頭を下げる。ほんと下げるべき時に下げる頭を持ってるのはエドの美徳だな。
それから二日後、治が目を覚ました。つーか寝すぎ。
まぁそう言う俺も限界以上の力を出した時は一週間眠りこけているなんて事があるがな。
治は、体力が完全に回復していないのに無理したから仕方ないか。
治が目覚めた時、昼時でみんな食堂にいた。それぞれ治に挨拶しに行く。
まだそろっていないのは、ルティナちゃんとガッシュとかいう野生人だな。それ以外は全員無事にそろっていた。
「アーク殿にてござるな?」
みんなに続きムサシがアークに声を掛ける。
「ああ」
「微力ながら拙者も力になるにてござる。共に行こうにてござる」
「ああ……サムライの力、期待してる」
おーおー。随分上から目線だなー。さて、最後に俺が声を掛けるか。
「上手くやったみたいだな」
「お互いにな」
パッシーンっ!
俺は治とハイタッチをした……。