EP.15 サトモジャについでに挨拶
エド城の兵は槍の矛先を俺に向け怒鳴って来ている。
「何が?」
が、俺は平然と聞き返すだけだ。
「王に対する態度が先程から悪い。もっと敬意を示せ!」
「経緯なら話してるけど? なんっちって」
「バカにしてるのかー?」
「つか、さっきも言ったが、だから?」
もうめんどくさいなぁ。
「まぁ待てと言っておるだろう」
「しかし、王よ。その国務大臣が此処におりません。この者が言ってる事はデタラメの可能性があります」
「はん! デタラメだと思うなら、それで良いよ。俺はこのクソったれ王を此処に引き渡しに来たんだ。じゃここで話は終わりだな」
「何だとー!」
周りにいた兵……六人だが一斉に槍を構え突っ込んできた。
避けるまでもなく、俺の気で弾けるのだが、クロード城の者のように絶望に落とす必要もないしな。
当たりさえすればと思わせるより、当たっても無駄だと思わせる方が絶望に落ちやすいし。
此処の連中をそんな絶望に落とす必要も理由もなし躱すか。
スっ!
「なっ!?」
「いつの間に!?」
「あのさ。俺は、ここに仕えてるわけでもなければ、この領地に住んでるわけでもないんだぞ。言わないと分からんの?」
「それでも王には敬意を示すのが筋だー!」
「君らの持論を押し付けないでくれる?」
「う、煩い!」
再び無謀な特攻。
スっ!
楽々それを躱す。
「やめんかー!!」
エド王が怒鳴り上げた。
「し、しかし……」
「その者の言う通りだ。わしに仕えている訳ではないのだぞ」
「くっ!」
兵達が苦虫を嚙み潰したよう顔をする。
話の分かる王だな。
「それに先程の攻防で分かったであろう? 其方らでは、その者に勝てぬ。それにその者に害意があれば、とっくにわしは生きておらなんだ」
「……はっ! 承知しました」
その通り。殺ろうと思えば簡単に殺れる。
「そう言えば先に聞かないといけない事があったな。其方名は?」
「武。武=渡内」
「ふむ。ではタケル殿。その肝心のガーランドはがおらなんだ。どこにおるのだ?」
「クロード城に置いて来た。暫く拷問を受けてたんだ。体力の消耗が激しい」
それとムサシが城を陥した事は確り伝えた。
「……であるか」
「まぁその辺りはムサシが帰って来てから詳しく聞いてくれ。俺の言ってる事が正しいかどうか。ああ、それとさっきも言ったけど、これから厄介事が起きるから、暫くムサシは借りるぞ」
「先程もそのよう言っておったな。何が起きるのだ?」
「端的に言えば、魔物の発生。その原因となる異物の発生」
「なるほど……あい分かった」
話が早い王だな。
「それでタケル殿は、それを説明しに来ただけか?」
「いや、敬意を示すつもりはないが経緯は話さないとな……なんっちって」
「もうそれは良い」
流石に辟易とした顔をされた。
「まぁソレを引き渡す為に経緯を話したって訳だ」
「分かったのだ。ではクロード王はこちらで引き取ろう……連れて行け!」
「はっ!」
兵二人がクソったれ王を抱え出す。
「あ、ちょい待ち……よっとこれを外してっと」
「それは?」
俺は隷属の首輪を外すと兵にそう聞かれた。
「逃げられないようにする首輪だ」
「そうか」
そう言うと兵はクソったれ王を連れて行った。
流石に兵も態度が悪くなったって? 知るかってーの。
「やれやれ、クロード城が潰れたならどこに苦言を言えば良いのやら。それもガーランドが潰したとなれば困ったものだ」
そうエド王がボヤいた。俺、しーらね。
って言いながら、責任の追及先から逃げる為に仕上げは、ムサシにやらせたんだけど、と内心ほくそ笑む。
「ではそういう事で……ラー……あっ!」
大事な事を忘れていた。
「まだ何かあるのか?」
王が訝しげに尋ねて来る。
「此処にサトモジャ……聡=里内っている?」
「ん? 髪と瞳の色……もしやサトル殿の同郷の者だったのか?」
「ああ」
「そうか。彼は今は食客として我が城に滞在しておる」
「会える?」
「誰か呼んで来てくれ」
「はっ!」
エド王が兵に命じ、兵は謁見の間から出て行く。
「同郷となると、やはり異界より来られたのか?」
サトモジャがそこまで話していたのか。エド王も良くそれを信用したな。
「ああ」
「ガーランドが昔の仲間に頼まれたとかで、我が城で迎い入れる事にしたが、最初の頃は大分疲弊しておった」
「俺も少し聞いた。変な商人に捕まったらしな」
「であるな」
「あいつは頭がキレる。この世界の事を学べばきっと役に立つだろう。どうか面倒をこのまま見てやってくれ」
俺は頭を下げる。
「は?」
エド王が目を大きく見開き固まっていた。
「何か?」
「…………いや、すまぬ。先程の態度とは全く違うと思ってな」
「ダチだから」
「……であるか」
そこでサトモジャがやって来たのが気配で感じた。
「国王陛下、お呼びでしょうか?」
俺に気付かず恭しい礼をするサトモジャ。
「よ! サトモジャ」
そんなサトモジャに俺は陽気に右手を挙げ声を掛けた。
「ん? ま、まさか武か?」
「おぅよ。久しぶりだ」
「お前、六年前に行方不明になってだろ!? 一体どうしてたんだ?」
六年前? こいつに取ってはまだその程度しか時間が流れていないのか。
俺からすれば十年以上前なんだけどな。まぁ世界によって時間の流れが違うから仕方ないのだけど。
「あー。話の腰を折ってすまぬ。良ければ専用の部屋を用意するが? 積もる話もあろう」
エド王が遠慮がちにそう申し出た。気が利く王だな。
「あっ! 陛下、ご厚意に感謝します」
サトモジャは恭しく頭を下げる。だが俺は……、
「いや、良い。気持ちだけ有難く」
「え?」
サトモジャが目を丸くし、眼鏡をクイっと上げる。
「直ぐ終わらせるからな」
そう言って俺は肩を竦める。
「久々に会ったのに色々話さないか?」
「時間がないんだよ。ムサシを待たせているし」
「ガーランド国務大臣?」
事情を知らないから当然だが、サトモジャがメガネをクイと上げて訝しがる。
「まぁひと段落付いたらまた来るよ。今日はついでに挨拶しただけだ。治に此処にいるって聞いてたし」
「忙しいのか?」
「まぁな。って訳でまた近いうちに」
「ああ」
「<転移魔法>」
サトモジャとの挨拶も済ませ、エド王との謁見のような何かを終わらせ転移魔法でムサシが休んでるコテージに戻って来た。