EP.14 エド城へ
「当然だ。偽の情報に踊らされ前時代的な拷問をして数日後には、お前を殺すクソどもだぞ。まだ足りないくらいだ」
「そうでござるが……と言うか何故拙者が死ぬと分かるのにてござるか?」
「偽の情報だと!?」
二人して疑問符を浮かべる。特にクソったれ王は驚愕の顔をしていた。
「あんな拷問していればそのうち死ぬだろ?」
実際死んだしな。
別の周回では……。
「そうかもしれぬにてござるが……では、お主は拙者の為にあんな非道な事を?」
非道と来ましたか。
「非道か? 俺は誰一人殺していないぞ」
死んだのはムサシが斬った四人だけ。
「確かにそうにてござるな。しかし、お主が外道にしか思えぬのは気のせいにてござるか?」
「それより偽の情報とはどういう事だ?」
クソったれ王が何か言ってるぞ。
「これから数日後、ムサシの……いや、十人の英雄の力が必要になる事態が起きる」
「なぬっ!?」
ムサシが驚愕に目を剥く。正確には十一人だが、一人は故人だし十人だな。
「つまりは十人の英雄が邪魔だと思ってる奴がいる……いやいたと言うべきか……」
もう死んでるし。
「まぁそこは良いや。よって十人の英雄の一人であるムサシを罠に嵌める必要があった。つまりクソったれ王、お前は利用されたんだよ。マヌケな奴め」
「なん……だと」
「お主は一言多いから外道だと思ってしまうのにてござる」
まぁそれだけコイツにはイラっと来たからね。
「それで拙者の力が必要な事態とは何でござる? それにお主は誰にてござる? 何故拙者の名を?」
矢継ぎ早に言われても答えられねぇよ。
「とりあえず俺の名は武。武=渡内。まぁ他の事はおいおいな」
話してるうちに城の外に出た。
「ところでムサシ。その刀はどうだ?」
いつの間にかムサシは刀を腰に差している。
「なかなか素晴らしい一品にてござるな。軽く切れ味も良い。四人斬ったが刃こぼれ一つないにてござる」
刀を抜き刀身を掲げ、じっくり見ながら言って来た。
「だろ? 銘は破律白銀。この世界にはない鉱石で作られている」
「……この世界にはない鉱石……にてござるか?」
信じられないと言った面持ちで、刀を鞘に納める。
アダマンタイトと言うこの世界にもあるオリハルコンより軽くて硬い鉱石を圧縮錬成して鍛えた一振りだ。
いろんな異世界を渡り歩く中で知り合った仲間の一人が練習用に鍛えた一品である。つまり、練習用だけに実際は大した事ない刀だな。
だが、アダマンタイトがないこの世界では、かなり強力な武器になる。それにある仕掛けも施している。
「俺はこの世界の人間ではないからな。まぁそれもおいおいな」
「秘密主義にてござるな」
「さっきの話を含め、長くなるからだよ。今からフィックス城に行くから道すがら話して行くさ」
「フィックス城にてござるか?」
「十人の英雄の力が必要って言っただろ? フィックス城に集まる手筈になってるんだよ」
「まだ分からぬ事だからけにてござるが承知したにてござる」
「ああ、それとソレやるよ」
俺は刀を指差す。
「ぬぅ!? これほどの名刀をでござるか?」
「俺からすれば大した事ない。それにこれから大変な事態になるから、少しでも戦力を上げておきたいんだよ」
「承知したにてござる。有難く頂戴致すにてござる」
「ちなみにそれ〈破国〉って言葉をキーで強力な斬撃が飛ぶ術式が組まれてるから」
「きぃ?……にてござるか?」
ムサシが首を傾げる。たまに言葉が通じないんだよな。
まぁ俺もついつい慣れ親しんだ言葉を使ってしまうからな。
「物は試し、その刀を城に向かって振り下ろしながら破国って叫んでみな」
「よく分からぬが、承知したにてござる」
そう言うとムサシは刀を抜き、上段で構える。
「破国ーーーにて、ござる」
と叫びながら、振り下ろした。
ズサァァァァァーーーー!!
「なぁ!」
クソったれ王がこれでもって程、口をあんぐり開ける。
「はぁはぁ……城が真っ二つにてござる。それにしても、はぁはぁ……これは疲れるにてござるな」
「ああ、気……闘気を大分持っていかれるからな」
ムサシの言う通り城が真っ二つだ。しかし、これができたのは刀の能力だけではなくムサシの実力でもある。実に見事な一撃だ。
国の中心たる城を破壊、まさに破国である。
「どうだ? クソったれ王! お前の城は陥ちたぞ」
「………」
クソったれ王は、放心したように何も発しなくなった。
「お主のその言動は、どうにかならぬにてござるか?」
「ん?」
ムサシが何か言っている。どうにかならないかって? なるわけないだろ。あんな残虐なのを見てしまったのだから……。
「その言動では、例え誰も殺めていやなくても外道の所業にてござる」
「外道で結構。俺は俺の目的を果たすのに気に入らない奴はとことん潰す」
「目的にてござるか? なら、その目的の為に拙者とも殺り合うのにてござるか?」
剣呑な雰囲気を醸し出すムサシ。
「あ! それは安心しろ。この後、この大陸にとって、かなりの脅威が現れる。それを滅ぼしたら、この世界から去るから。尤もその脅威の味方をするとか、ほざくならこの場で始末するがな」
そう言って肩を竦める。
「それがなんなのか分からぬが、とりあえずフィックス城には行くにてござる」
「懸命だな。さて……<収納魔法>」
そう言って収納魔法を唱えて必要な物をいくつか取り出す。
「それは魔法なのでござるか? 見た事ない魔法にてござるな」
「まーな。この世界にはない魔法だしな」
そう言いながら取り出したコテージを組み立てる。
まぁこの世界……いや、ユグドラシル大陸には収納魔法があったな。尤もあっちは時空魔導士しか使えないが。
「それは何でござるか? テントのようにてござるが……」
「よっと、完成。テントの上位互換みたいなものだよ……<結界魔法>」
続けてコテージの周りに結界魔法を張った。今回設定した条件は、クロード城の者と動物以外だ。
俺とムサシと空気でも良いのだが、空気だと酸素、アルゴン、ネオンなど具体的なのをイメージしないといけないので時間がかかる。
それに俺には、分からない未知の原子があって、それがないとこの世界の者には生きていけないなんて事があったら目も当てられない。
「はいはーい。ムサシ入ってー」
手をパンパンと叩きムサシを急かす。
「フィックス城に行くのではないのにてござるか?」
「まずは休息だ。あ、この結界はクロード城の者と動物は入って来れないから安心しな」
「その魔法と良い、面妖な事ばかりするにてござるな」
「そうか? ただそれ以外は入れるから、例えば夜盗とか来たら自分で対処してね」
そうクロード城の者と動物以外にも脅威はいる。
「お主はどうするのだ?」
「俺は、このクソったれ王を始末する」
「………」
まだ放心してるよ。
「殺めるにてござるか?」
「それじゃあ面白くないだろ?」
ククク……と笑ってしまう。
「また外道な事を考えているにてござるな。顔が凶悪にてござるよ」
さて何の事やら。
「あ、それとこれ食料。食ってて良いから」
先程コテージと一緒に取り出した食料を渡す。困った時用の弁当。
時間が停止した異空間に収納できる魔法なので、弁当を長期保存、いや永久保存できる。
誰が作ったかって? 当然女だ。野郎のメシなんか食えるか。けっ!
パルサちゃん以外にも契約してる女はいるしな。
「何から何までかたじけないにてござる」
「ま! 脅威を滅ぼすのに奮闘してくれれば良いよ。俺のこの世界での目的は、それを滅ぼす事だからな」
正確にはオドルマンとオドルマンが引き起こす厄介事。
「それはどういう事で……」
「<転移魔法>」
ムサシの言葉を聞く前にクソったれ王をひっ捕まえて転移魔法で、跳んだ。
転移先はエド城。一週目に一度立ち寄っていたしな。
俺の手でクソったれ王を始末しても面白くない。城に引き渡せば暫く牢屋行きだろう。
直ぐに楽になる等甘い。さっさと殺されるより、よっぽど苦痛の筈。その時間せいざい懺悔しな。
「ここはエド城です。何か御用で?」
おーおー、クロード城の対応と大違いだぜ。ちなみに城門には三人の兵が控えている。俺はクソったれ王を放り投げた。
「な、何を?」
「それクロード城のクソったれ王」
「「「はっ!?」」」
三人の兵の言葉がハマり目を丸くする。
「詳しく話したいから、王かまたは近しい者と謁見を頼む。ムサシも絡んでる事だ」
ムサシの名を出した瞬間、血相変えて二人が城の中に引っ込んだ。
「少々お待ちを」
残った一人がそう言った。暫くすると二人の兵が戻って来る。
「どうぞ中へ」
そうして案内されて謁見の間に辿り着く。ふむ、王直々に会ってくれるのか。
「それがクロード王であり、此処に連れて来たのにガーランドに関係あるのか?」
クソったれ王に目を一度向け開口一番そう言ってきた。
「ガーランド?」
俺は首を傾げてしまう。
「ムサシだ。ムサシ=ガーランド」
「ああ……あいつガーランドって家名なのか。その通りだ」
「何だその態度は!?」
俺が答えると周りにいた兵が怒鳴ってきた。
「え?」
「え? ではない。王だぞ」
「だから?」
「王に対する態度ではない」
「は~……めんどくさ」
だからマジなんなんだよ。
「まぁ良い。ガーランドも絡んでるのだ。まずは話を聞かないと」
「はっ!」
エド王の方は寛大だな。そんなくだらない事で目くじら立てない。
「端的に言う。ムサシを邪魔に思う奴が、エド城は鉱石を独占してると言うニセ情報をそこのクソったれ王に流した。結果ムサシは拷問される事になった」
「ふむ」
エドが少しの間、黙考し始める。
「何故ガーランドが邪魔なのだ?」
「これから大陸を巻き込む厄介事が起きる。それを仕組んだ奴は十一人の英雄が邪魔だった」
「なるほどのぉ」
「いい加減にしろ!」
またなんか兵が怒鳴ってるよ。