EP.13 ムサシ救出
やがてムサシを連れて兵が戻って来た。ムチに打たれ皮が剥がれており、爪も何枚か剥がれている。だが、初めて見た三週目より、明らかに大丈夫そうだ。
俺の回復魔法でも十分だろう。
しかし、そのムサシの首に兵が剣を当ててる。まぁ予想はしてたけど。
「王を解放しろ! でないとムサシの命はないぞ」
はいテンプレ来ましたー。予想通りだ。
「で?」
俺は首を傾げた。
「だ、だから王を解放しろ! でない……」
「だから、で? って言ってるだろ?」
「はぁ?」
俺は険のある声音で言う。こいつ状況が分かってないな。
「お前バカだろ? 人質と言うのは生きてるから人質って言うんだよ。殺したらどうなるか分からんの?」
「な!? なら貴様もどうなんだ? 王を人質にしてるではないか」
「何言ってるの? 丁度良い足掛けにしてるだけだけど?」
「なに!?」
全く状況が分かってないな。
「こんなクソったれ王は死んでも良いと思ってる俺と、クソったれ王を死なせたくないお前、どっちが優位か分からんの? って、一から説明しないと分からんとかお前ゴミ過ぎ」
「くっ! なら貴様こそ、ムサシを殺されたくないだろ?」
はー。バカもここまで来ると呆れるしかないな。
「殺したら殺したで、お前ら皆殺しにするだけだけど、そんな事も分からんの? 君ら脳みそある? あっても考える知能がないのか?」
「悪魔めー!」
「前時代的な拷問してる奴らに言われたくないけど、まぁ悪魔なら悪魔でも良いや。俺は俺の目的を果たす。邪魔な奴らは全て潰す」
「くっ!」
「なら金だ! いくらでもくれてやる。望みの額を言え」
クソったれ王がなんか言ってるよ。しかも、またテンプレ。俺は軽く、かかと落としをした。
「ぐはっ!」
「あのさ、状況分からんの? 俺は簡単にこの城を落とせる。金が欲しかったら落とした後、勝手に貰って行くってーの! 少しは、その頭使えよ」
「クソー!」
クソったれ王から足をどかして立ち上がり、クソったれ王の頭を連打で小突きながら、呼び掛ける。
「もしもーし! 誰か入ってますかー?」
つい腰抜けと呼ばれるとキレる主人公が登場する作品にあった明言を使ってしまった。
「き、貴様ー!」
「王への暴言、そして手を出してただで済むと思うなよ」
また兵達が騒いでるな。さて、そろそろムサシを解放するか。
パーン! バキっ!
「な、なに!?」
外敵を引き千切る者を一発放ち、ムサシの首に当ててた剣を砕く。
「<収納魔法>……ムサシ! 受け取れ!」
収納魔法を使ったので、空間に亀裂が走り、そこに手を入れ刀を取り出すと鞘から抜き、抜き身の方をムサシに向かって投げた。
「ぬっ!? 秘剣・無足」
ムサシは刀を受け取ると、周りにいた四人の兵を瞬時に斬り裂いた。やるなー。この大陸で優秀な九人目を発見。流石は十一人の英雄の一人。
この九人なら、ボー立ちしてるだけの俺の気を突破してダメージを与えられるだろう。この城の連中とは大違い。
「ぐはっ!」
あっ! ムサシが跪いた。当然か。体には無数の傷があり、食事もまともにしてなかっただろうし。相当なダメージが蓄積されているだろう。
じゃまぁ、あとは全て俺がやるか。
「今だ! ムサシを殺れ!」
クソったれ王が叫ぶ。それに応じて兵達がワラワラとムサシに迫る。
「<結界魔法>」
俺はムサシの周囲に結界魔法を発動させた。
カーン、キーン、カーン……。
全ての攻撃を弾く。
俺は魔力が少ないので、簡単に破れるが此処の連中には無理だな。
ちなみにこの結界魔法は、発動する時に明確なイメージをすると何を出入りを可能にするか設定出来る。
今回設定したのはクロード城の者以外だ。
ムサシと俺だけってしてしまうと空気も出入り出来なくなり窒息してしまう。それがこの魔法の難点だな。
今回も例えばアルフォンス城の者がいれば出入り出来て簡単にムサシを殺せてしまう。
なので、できれば明確にイメージするのが望ましいが、ぶっちゃけめんど臭い。
「クソ! なんだこれは?」
「今のは失われし魔法か?」
「そんなものを使える奴とは……」
「さっきも空間に手を入れ武器を取り出していたし」
兵達が口々に何か言ってる。
失われし魔法ねぇ。使える人は使えるんだけどなー。
それに俺が使ったのは、この世界の魔法ではないのだけど。
この世界には次元反転魔法と言う、この結界魔法より便利な魔法があった。まぁ残念な事に習得できなかったが。
「き、貴様らー何をしている? さっさとそのわけ分からぬ物を壊しムサシを殺さぬかー!!」
また何もしないくせに、クソったれ王が吠えているな。
「次の要求を告げる……」
俺は周りに呼び掛けた。
「クソったれ王以外は去れ!」
「な!? 王を置いてだと?」
「出来るわけないだろ!」
おーおー素晴らしい忠誠心だね。だが、どこまでそれが保つかな?
こんなクソったれ王だ。揺さぶりをかければ平気で置いて逃げるだろう……。
さて、ムサシが痛々しいし、そろそろ回復してやるか。そう考え俺は、ムサシを囲っている結界魔法の中に入り……、
<超回復魔法>
ムサシに超回復魔法をかけた。
この世界の回復魔法の中位クラスはあるのではないかと予想している。
その上に完全回復魔法があるが、残念ながら俺の魔力では使えない。だが、今回の周回では超回復魔法で十分ムサシを回復させられた。
「助けて頂き感謝するにてござる。しかし……お主の行いは外道にてござる」
渋い顔しだしたムサシにまで言われちったよ。
「前時代的な拷問をやってるこいつらの方がよっぽど外道と思うけど?」
「それもそうにてござるが、お主も大概にてござるよ」
「まぁ良いや。その話は後で。体力の方は回復していないだろ? メシも暫く食っていなかっただろうし」
「ぬぅ」
ムサシが無念そうに唸る。
「この中にいればとりあえず安全だから終わるまで待ってな。それとこれをやる」
さっきから持っていた刀の鞘をムサシに投げる。抜き身の方はムサシに既に渡してある。ムサシは大人しく受け取り、刀を鞘に納めた。
と、こうしてる話してる間にクソったれ王は逃げようとしてるし。予想通りの行動しかしないな。しかも遅い。
俺は結界魔法から出ると瞬時に王が逃げようとして場所に回り込み、回し蹴りをした。当然、かなり手加減している。
「ぬぁ!」
「王よー」
「おのれー」
「その意味の分からないバリアの中にいないのならー」
何人かワラワラと俺に向かって来た。
カーン、カーン、カーン……。
こいつら学習しないのかな? こいつら程度の攻撃じゃ俺の気を突破してダメージを与える事はできないってーの。
「クソー」
「何なのだー! 貴様はー!」
「バ、バケモノがー!!」
兵達がまた口々に何か言っているな。
「さて、さっき次の要求をしたよな? 何故まだいるんだ?」
何事もなかったように周り声を掛けた。
「だ、誰が貴様の言う事をー」
「あっそ」
次の瞬間、俺は瞬時に移動して次々に兵達の胸倉を掴んで出入口に向かって投げた。
俺も実は治くらいのスピードで動けるんだなー。基本動く必要がないだけで。
気付くと出入口が死体の山に……って生きてるけど。
そして、またその隙にクソったれ王が逃げようとしてる。もうめんどうくせーな。
「<収納魔法>」
収納魔法で空間に亀裂を走らせ、そこに手を入れ首輪を取り出す。それをクソったれ王に付けた。
「何だこれは!?」
「逃げるな!」
俺は一言命令を発する。
「だ、誰が貴様のような化物の言う事を聞くかー」
再び逃げようとした……その瞬間……、
「がががが、ギャーーーー!!」
クソったれ王の全身に電気が流れが痺れる。
「あ、それ隷属の首輪。つまりお前、俺の奴隷になったから」
軽いノリで事実を告げる。
「き、貴様ー先程からわしを誰だと思ってこのような……」
「だからクソったれ王って何度も言ってるだろ?」
「ぬぅぅぅ!」
クソったれ王の言葉を遮り言ってやると苦虫を嚙み潰したよう顔をしだした。
「さて兵達諸君。まだやるかい? さっさと立ち去ってくれない? あーちなみにここにいない者達にも声を掛けて城から出て行きな」
再び要求を告げる。そうすると兵達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。ふん、こいつらの忠誠心なんてこんなもの。
もしフィックス城の者だったら違っただろうな。いやエドの事だ。勝てないと思ったら、さっさと逃げろと言い含めていそうだな。そうなると最初に俺に攻撃が効かないって分かった時点で逃げるかも。
「おい、クソったれ王。残ったのはお前だけだな」
「クソー!」
「だが、まぁ兵達以外にも全員逃げるまで待たないとな」
俺は目を瞑り索敵気法に集中した。目を閉じ余計な視界を遮断する事でより感覚を研ぎ澄まされる。待つ事、二十分程で城から全ての者が出て行った。
「どうやら全員城から出たようだな」
「何故貴様そんな事が分かる?」
「無能に言っても分からんだろ?」
「な、なんだとー、このー」
クソったれ王が殴りかかって来た。
「がががが、ギャーーー!!」
隷属の首輪のせいで主人である俺に逆らうと電撃が流れるって、一度で理解しろよ。
「ふふふ、ふぁーははははは……奴隷の気分はどうだ? ふぁーははははは……」
態と高笑いしてみる。うん、まさに外道の所業。いいや、魔王だな。
これで少しは溜飲が下がったってもんだ。だが、まだ甘い。仕上げが残っている。
「おい、クソったれ王。着いて来い。ムサシも行くぞ」
「本当にお主は外道にてござるな」
そう呟きムサシは結界魔法から出て着いて来た。