EP.11 治は理から外れていた
「そう言えばさ。俺が目覚めて最短で八日、最長で十四日でタイムリープしてたんだけど、誰かゾウを倒したいたのかな?」
思い出したように治がそう言って来た。
「お前と初めて会った三週目以外俺だな」
「お前か……だが、何故その日数なんだ?」
「今から七日後にこっちの世界に現れる、その瞬間に倒したからお前に取って最短で八日目だった」
「じゃあ十四日は?」
「現れて成長し、更に六日後に移動を開始する。そうなると居場所を補足するのが面倒になるから、倒してさっさと時間逆行させた」
俺は端的に説明した。
「そう言う事か」
「俺からも聞きたいがお前、何でタイムリーパーなんだ?」
今まで俺がタイムリーパーだって事を言わなかったので、ずっと聞けなかった事を聞いてみる。
「……気の応用」
なに目線逸らしてるんだコラ? しかも俺の言葉のパクリじゃねぇか。
「嘘こけ!」
ポカ!
軽く頭を小突いた。
「っーー……って、言われても実際よく分かっていないんだよ」
小突かれた頭をさすりながら言ってきた。
「うーん。異世界転移者だから?」
頭をひねりそう続ける。
「それだけじゃ弱い。尤も転移で何かしらの力を貰える場合もある。治はダークの体に転移したって事は、ダークと同じ力を得たのだろう?」
「ああ」
「そのダークはタイムリーパーなのか?」
「そんな能力はない」
「なら他の理由だ。いや要因と呼ぶべきものがあった筈だ」
「要因?」
治は首を傾げ目をパチクリしだす。
「お前、理から外れるような事したか?」
「理? まったく意味が分からん」
「例えば、この世界の神にあたる奴と戦ったとか、過去に飛んだとか、理から外れる武具あるいは道具に触れたとか……」
俺は色々挙げてみる。
「あ! 過去に飛んで歴史改変したな」
治は手をポンと叩いてそう言った。
「ちなみに改変前の記憶はあるか?」
「あるぞ。ルティナもあったけど。まぁあっちは半分精霊だからだと思うけど」
ルティナちゃんも? いや、今はそれは良いや。コイツが理を外れた要因はそれだ。
「間違いなくお前、それで理から外れた」
「理ってどういう事だ?」
「この世界の住人なのに、この世界の住人と見なされない存在と言えば良いか?」
「そうなると何かあるのか? タイムリーパーになれるだけ?」
「いいやタイムリープだけじゃない。いや、タイムリーパーと言うより、正確には、この世界の法則から外れるから記憶を保持出来たと言うべきか」
「この世界の法則? いまいちピンとこないな。う~~ん」
治は腕を組み唸りだす。
「例えばこの世界は運命によって人の寿命が決まってる世界だとしよう。実際そういう世界もあるからな。そしてこの世界の住人は、その運命通りに死ぬが、理を外れた者は死なない」
「タイムリープといい、それも別に悪い事じゃないだろ?」
「たまに悪い事があるんだよ。世界によっては人に対し何かしらの祝福があり恩恵が得られる世界があるんだが、その世界だと恩恵が得られない」
「この世界には祝福とかないから問題ないな」
「あと誰も観測していない……。いや、したとしても他の者に伝えられなくてよく分かっていない事がある」
「……それは」
俺は一気にトーンを下げてシリアス風に話したので治も少し緊張した面持ちでゴクリと聞こえる程、唾を飲みだす。
「死後の世界」
「はぁ?」
治が素っ頓狂な声をあげる。
無理もない。生きてる者が死んだ者を知る由もないし、今生きてるのだから考えないようにしているのだから。
「理から外れた死者をどう扱うか。まぁ実際死んでみないと分からないが、死んだ魂を迎え入れる天界がある世界があったとしよう。理を外れた者は迎え入れる事なく浮遊霊になってしまう可能性がある」
「そんな事、今から言っても仕方なくね? しかも観測できても生きた者に伝えられなくて分からないなら尚更」
「だな」
そう言って俺は肩を竦める。
「あ、そうそう。全然関係無い話なんだけどさ」
治が何かを思い出したかにように話始める。
「何だ?」
「サトモジャもこっちの世界来てるぞ」
「は?」
間の抜けた声を出し目を丸くしてしまう。
「今、エド城で働いている……いや、まだこの世界の事を勉強中かな? いずれにしろエド城にいる筈だ」
詳しく聞くとサトモジャの奴、運悪く次元の歪に吸い込まれたようだ。それでもまぁ治と出会えたのは幸運だったのかもな。
更に詳しく聞くとどうやら、現在二十五歳らしい。治は十九歳の時にこの世界に来て約二年過ごしている。つまり四歳の差がある訳だな。
治はそれを不思議に感じてたとか。まぁ異世界によって時間の流れが異なるからな。あっちの世界なんて、ダチの來が転生して二十八歳になってるしな。
治がこの世界に転移したのが十九歳。俺も同じような時期に勇者召喚に巻き込まれた。その際に、治は引き籠っていたので、会ってなかったが來とは時々会っていた。
つまり、あいつが死んだのは少なくても十九歳以降。なのに転生して二十八歳だもんな。まぁあの世界が特別おかしな時間の流れをしてるってのも大きいけど。
「じゃあ早速、俺はクロード城に行ってくるな」
俺は話を打ち切るとクロード城がある方を向きながら言う。
「ちなみにどうやって行くんだ? かなり早く移動出来そうだけど、気の応用で猛ダッシュとか?」
「そんな面倒な事しない。転移魔法でサクっと行く」
「ソウテンを使えるのかお前?」
「ソウテン? ああ、ユグドラシル大陸の転移魔法か。あれとは違う。やる事は同じだが習得した世界が違うからな」
転移魔法は、ユグドラシル大陸の時空魔導士が習得出来る魔法だったな。
「ソウテンじゃないにしろ、ユグドラシル大陸を知ってるのだな」
「ああ。前にこの世界に来た時に厄介になったのがユグドラシル大陸だったからな」
「なるほどなぁ」
「じゃ行くな……ラー」
「どうした?」
転移魔法と唱え掛けて止める。そう言えば大事な事があった……。
俺が止めたので、治が首を傾げ尋ねてきた。
「いや、治さ……オドルマンって奴を知ってるか?」
本来の目的はオドルマンだ。ゾウに目がずっと言っていたが、根本的な問題を断ち切らないといけない。その為にはオドルマンの居場所を知る必要がある。
「オドルマン? いや知らない。そいつがどうした?」
「俺がユピテル大陸に来たのは、そいつを始末する為だったんだよ」
「へ~……三週目で目的を話さなかったけど、そいつが目的だったのか」
「まぁな」
あの時は、時間逆行の起点になってるのは治かもしれないから警戒したのだが、それを今さら掘り返しても仕方ない事だな。
「で、そのオドルマンが、たぶん現況だ」
俺はそう続ける。
「と、言うと?」
「あのゾウを造ったのはオドルマンだって事だ」
「……オドルマンってのは、別の世界の人間なのか?」
治は何かを考えながら聞いてきた。
「そうだ」
「だから、あんなハイテクだったのか……色々腑に落ちたな」
腕を組み俯きながらぶつぶつ呟き、そして俺を見る。
「そいつなら死んでるぞ」
「そう…なのか?」
これは驚いた。ずっと探していたけど、もう死んでるなら見つからない訳だ。
「俺がとある屋敷に忍び込んで記憶をなくしたのは、知ってるよな?」
「ああ……爆発に巻き込まれたのだろ?」
「その爆発は、たぶん自分を巻き込む自爆だったと思われる」
「何か確証があるのか?」
「まずあの屋敷は色々ハイテク過ぎた。この世界にない技術なのは一目瞭然」
それは確かにそうだな。技術水準でラスラカーン世界は、かなり進んでる。
「そして、今から一周間後くらいにナターシャの前に暗殺者が現れて戦いになった」
治がそう続ける。
「ナターシャちゃんは平気だったのか?」
「いや、前回の周回の事だが、俺がナターシャを追い掛けた事で助けられたけど、それまでの周回は、全部殺されていただろうな」
治が硬い表情で語りだす。自分の女だから、そんな顔するのだろう……。
「それで?」
俺は先を促す。
「前回の周回で俺が紙一重で暗殺者を倒してな。その後に尋問したんだよ。そしたら雇い主はもう死んでると言い出した」
「死んでるのに依頼を遂行するんだな」
「俺もそう思って聞いたが、金はもう貰ったからだと」
治が肩を竦める。
「その依頼主がオドルマンだと?」
「ああ、名前は知らないらしいが、大事なデータが盗まれ、盗んだ奴は死んだから腹いせに近しい者を殺すように依頼されたらしい」
「なるほど。盗んだお前は爆発で死んだと思われた訳か」
「そう考えると雇い主はオドルマンって可能性があるんじゃないか?」
「そうだな」
「ちなみにオドルマンって奴を追い掛けて来たなら、もう用事は済んだ事になるが、帰るのか?」
今、帰られると大変だろうに、よく冷静に話しているな。
「いいや。ゾウを始末しないと目覚めが悪いし、俺の目的はオドルマンとオドルマンが引き起こす厄介事の始末だ」
「そいつは助かるぜ。お前がいないとプランが崩れる」
治がホっと胸を撫でおろすように言ってきた。
「ともかくオドルマンが死んでるのは収穫だ。じゃ今度こそクロード城に行ってくるな」
「ああ。頼む」
「<転移魔法>」
俺は今度こそ転移魔法を唱え、クロード城の前まで飛んだ……。
さてクロード城の前まで転移魔法で、飛んで来たがどうしようかね。ってぶっ潰すの決定だけど。
あんな惨い拷問した挙句、やばくなったら平気で城を放棄する連中だ。あれには流石にかなりキレそうだった。よってぶっ潰す機会をくれた治には、感謝だな。