EP.10 カケラの魔人
それから三日経っても治は帰って来ない。限界だな。アークの成果を知ってから、時間逆行させたかったが、仕方ない。
「<転移魔法>」
十三日目の朝、転移魔法を使い一人でゾウの下にやってきた。一度来た場所なら来れる魔法だからな。例えこの時間軸では来た事なくても、転移は可能だ。
ゾウはまだ動いていない。だが、後数時間もすれば動きだすだろう……。なので俺はその前に討伐した。
視界が暗転。時間逆行したようだ。いつもの開始地点である洞窟の中に俺はいた。
≪七週目≫
さてまずは治が確り記憶を取り戻したか確認だ。できればこの周回で決着をつけたい。
「<転移魔法>」
そんな訳で転移魔法を唱えて港町ニールに飛んだ。一周目で各地を周ったので、この場所にも訪れていた。
この港町の南に治、ナターシャちゃん、エーコちゃんの家があると聞いたし。
なので南下。暫く歩くと家が見えて来た。
コンコン……。
ノックを鳴らす。
「はーい」
中から声が聞こえてきた。この声はナターシャちゃんだな。
玄関が開けられる。
「どちら様だい?」
「アークが此処に住んでるって聞いてな。今いるか?」
「アーク? ちょっと待ってな」
そう言うとナターシャちゃんは奥に引っ込み治を呼びに行き、暫くすると治がやって来た。
「よ! 治」
「あ、あ…あ……」
陽気に声を掛けたが治は何も答えない。それどころか様子がおかしい。顔が見る見る真っ青になっていく。
ん? どうしたんだ? まさかゾウの記憶がなかったのか? それで俺に何て言えば良いのか困ってるのかな?
そう考えていた次の瞬間……、
「すみませんでしたーーーッッ!!」
バッサーン!
「は?」
初めて見たぞ。ジャンピング土下座。今、5mくらい飛躍して土下座しただろ。
何してるんだ? コイツは。やっぱりゾウの記憶がなかったって事か。俺も内心落胆してしまう。
「俺が、俺が……周りに騙されたばっかしに……」
と思ってたが……何の話してるんだ?
「お前に酷い事を……」
「何の話?」
全く意味が分からん。
「いや、だから学生時代だよ。俺はお前に罵詈雑言を浴びせ、更に距離を取った」
「古っ!」
いつの話をしてるんだ? 会って早々ジャンピング土下座をして古い話をし出して意味が分からん。
確かにコイツは俺を避けるようになった。
あれは、コイツが事故にあって、それを仕向けたのは俺だって噂が回ったんだよな。確かに俺と通学路を別れた直後だし、事故を起こした運転手に合図を出しやすいと言う事で噂になった筈。
が、もう昔の事でどうでも良い。
「は~……とりあえず立て」
溜息を溢し立つように促す。
「あ、ああ」
ドッゴーン!
立った瞬間、俺はぶん殴ってやった。
「ぐはっ!」
6mくらい吹っ飛んだかな? 直ぐに上半身を起こし、殴られた頬を摩りだす。
俺は歩いて近づき、見下ろしながら声を掛ける。
「何で殴られたか分かるか?」
「だから、俺がお前を裏切った……」
「どうでもええわっ!」
治の言葉を遮るように吐き捨てた。
「え? は?」
コイツ昔の事で頭いっぱいいっぱいになって気付いてないな。
「四回も同じ事させやがって。ロクリスの救出ばかりじゃ飽きるわ!」
「…………は?」
たっぷり間をおいて、か細く息を吐く。やっぱり気付いてないな。
「ほら、もう一発」
ドッゴーン!
「ぐっ!」
胸ぐらを掴み、無理矢理立たせてもう一度殴る。今度は胸ぐらを掴んでいるので吹き飛ばない。
「ラストー!」
ドッゴーンっ!
「がはっ!」
更にもう一発。
「……さっきから殴り過ぎだ」
消え入りそうな声で呟く。
「この二発は前の周回でエーコちゃんに無理をさせたからだ」
「……何で?」
治が首を傾げる。そこで俺は手を放す。
そうするとストンと治が尻もちをつく。
察しが悪いな。やっぱ気付いていない。
「俺が記憶を保持してるからだ。それ以外に何がある?」
「え? は? ……マジで?」
なに鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしていやがる。
「俺がここに来た時点で気付けよ」
「あ! そう言えば」
おっせーよ。
「俺はお前がタイムリーパーだって事、三週目で疑ってたぞ。そして五週目で確信した」
「マジかーー」
今度は現実逃避するように遠い目かよ。
「それで、本当にすまなかった」
我に帰り再び土下座。
「昔の事なんて、どーでもええっつたろ? ほら立て。話を進めるぞ」
「だが……」
「煩い! 今はゾウだ」
いい加減ウザくなってきた。
「あ、ああ、そうだな」
そう言ってやっと立ち上がる。
「で、その様子じゃ記憶を取り戻したようだが、ゾウの事は分かったのか?」
「何でそれを?」
「だから俺もタイムリーパーだっつってんだよ」
なんか段々イラついてきた。察しが悪いにも程がある。
「じゃなくて何で記憶を保持してるんだ?」
「気の応用」
「またそれか」
またも何もそれしかないしな。
「で、ゾウは?」
「ああ、分かったぞ」
「どうすれば滅ぼせる?」
「カケラの魔人の巨大亀を覚えているか?」
ん? カケラの魔人? またなついものを……。
そう言えばこの世界で治と再会した時もカケラの魔人の話してたな。
「えっと、確か……足が六本ある奴だろ?」
あまりにも古くて記憶があやふやだ。
「ああ。それと同じだ」
「マジか……めんどくせー」
あれはマジでめんど臭かった。
確か主人公とその仲間だけじゃ、人が足りず戦力を集めるとこから始めていたんだよな。まぁ時間逆行はしないが……。
ただ足が一本潰されると遠くに転移して足が再生される時間を稼ぐんだったかな? それは頭を潰しても同じだった。
「じゃあ結局全員助けて集める方針か」
あのゾウの特性を考え、治に言葉を投げ掛けた。
「記憶がない時はともかく、記憶のある俺は仲間意識があるから、今回の件抜きにしても助けるぞ。尤も条件次第ではいちいち集めなかったかもな」
治が肩竦める。
「じゃあどういうプランで進める? まさかまたロクリスの救出を俺にさせるのか?」
あれには正直辟易してる。
「武にはクロード城に行って欲しい」
「あのクソったれ王か。ムサシを助け出すのだな? 同じ場所だったら、あと十発くらい殴られるとこだったな」
「限られた人数で割り振らないといけない状況だからムサシのとこに行って欲しい。あーまぁロクリス救出を選択をしなかった俺は英断だな」
最初は真剣な面持ちで語っていたのに、途中から目線を泳がせだした。つーか自分で英断とか言うなよ。
「ほーそんな状況でクロード城に? そっちに振った理由を聞きたいな」
「まず武が強いのは、もう知ってるが、それが護衛向きか分からないのでルティナ救出は論外」
「道理だな」
実際俺は破壊に特化している。一応守護魔法も使えるが、所詮不得意な魔法の分野だしな。
「で、クロード城は、まず場所を知っている……」
治が指折りながら説明していく。
「単騎で突っ込んでも余裕で城を落とせる。中位と同程度の回復魔法で即座にムサシを戦線復帰させられる。そして戦線復帰を直ぐにさせるには、少しでも早く行かないといけない。今日、この世界に来たお前が、此処にいるって事は、それだけ早く移動出来る手段がある……って、こんな感じだな」
「おー治のくせによく考えるじゃねぇか」
マジで感心してしまう。確り考えているようだ。
「一言余計だ」
「そいつ悪い。つい本音が……」
「なお悪いわ!」
昔やったようなテンポの良いやり取りをする。あの頃が懐かしく感じるな。
「で、一応聞くがルティナちゃんの救出は? あそこが一番きついだろ?」
「実は明日、フィックス城にある人物が現れる。少しの時間しかいないから、そいつを捕まえられるかどうかに限るが、そいつに依頼する」
「なるほど」
「まぁ規定時刻に行けなかったら、仕方ないがエーコを行かせるしかないがな」
そう言って治が肩を竦める。
「そうしたらまたお前をぶん殴るから」
「しょうがねーだろ。お前もルティナから聞いたの覚えているだろ? サバンナにいる人物を」
「ガッシュか?」
「そうガッシュだ。ガッシュはチキンさえあげれば、ほいほい着いて来るかもしれないが、その確率を上げるには、ガッシュが知ってる人物のが良いだろ? だからナターシャには任せられない」
「なるほどなぁ」
なるほど確り考えてわけか。納得してしまう内容だ。
しかもルティナちゃんと話した内容を確り覚えており、今まで連れて来れなかった英雄も集める算段も立ててるわけだな。
となるとアルもか。良い戦力だから有難い。