EP.09 だが、人妻だ
俺がこの世界に来て六日目にロクリスを連れてフィックス城に到着した。
城の一部は半壊している。確かアルフォンスと戦争してたんだったな。戦線を下がらさ城での籠城戦もしたのだろう……。
残念ながらこの周回では、恐らくエドは動けないな。こんな状態ではフィックス城を離れられないだろう。
尤も治が記憶をあと一週間以内に取り戻してここにやって来るとは思えないので、今回も俺が一人で片づけるだろうがな。
何で一週間以内かって? 一週間後は、俺がこの世界に来て十三日目。ゾウが移動を開始する。それがタイムリミットだ。
「早かったね」
玉座に座ったエドが迎えてくれる。
「まぁな」
「エドがタケルを手配してくれたって聞いたでガンス。ありがとうでガンス」
「ああ、感謝する」
ロクームとエリスがエドに謝意を伝えた。
「それで今集まってるのは俺達だけか?」
「ん? そうだが? タケルは何か知ってるのか?」
何か探るような眼差しで聞き返された。
「魔物が発生してる。エドが十一人の英雄だって事は知っている。だから此処に集まると思ったのだ」
嘘は言っていない。何か知ってるかと聞かれたけど、そに対しイエスもノーも答えていないがな。事実魔物が発生してるし。
「そうか。実はエーコがムサシとルティナを連れて来る予定になってるが、あと何日掛かるやら」
おいおい治の奴、エーコちゃんに無理させてるのか? これは顔面三発は殴らないとな。
エーコちゃんはムサシを助けて……エーコちゃんなら上位回復魔法を使えるからムサシは即座に復活するだろう。
これは良い。が、そのままサバンナに行かせてルティナちゃん救出とか酷だろ。あそこは護衛しなきゃいけない子供がたくさんいるのにさ。
「そうか」
「アークはいつ戻るか分からなが、戻るまでこの城にいるか? ロクリス救出のお礼と言ってはなんだが、暫く客室を自由にしてくれて構わない」
「それは有難い」
そうして俺は暫くフィックス城に滞在する事になった。だが、たぶんこの王は治のダチってだけで同じ事をしてくれただろう。
なのに今回は俺が引け目を感じないように、態とそういう言い方をしたな。気が回る良い王だな。マジであのクソったれ王とは大違いだ。
で、エーコちゃんだが到着するのは俺がこの世界に来て十三日目以降になるだろうとエドは踏んでいる。俺も同じ見解だ。
あの距離を徒歩で、しかもルティナちゃんの子供達を護衛しながらでは、そのくらい掛かるだろう。となるとタイムリミットの十三日間を過ぎるので会う事は叶わないかな。
あ~あ。この周回はガッカリだ。エーコちゃんやルティナちゃんのよう可愛い子と話せないなんて。
エリスちゃんも悪くないよ? だが、人妻だ!
騎士を思わせるような硬い口調も良い。だが、人妻だ!
クッ殺だぜ、クッ殺。だが、人妻だ!
艶やかな紫の髪を背中までストレートに流しているのがまた良い。だが、人妻だ!
凛とした紫の瞳もグッと来る。だが、人妻だッッ!!!!!!!
エリスちゃんとはあまり話していない。何故なら、人妻だから……。
ロクームからは度々話し掛けてくるよ。だが、野郎はいらん。
ちなみにエリスちゃんの祖父と娘は、俺達が来る三日前に到着し保護されている。
そうこうしてるうちに四日が過ぎ十日目になった。ここにいられるのもあと三日。
その間にアークが期間して記憶を取り戻し、かつゾウの討伐方法を知っていれば重畳。
しかし、帰って来たのは意外な人物だ。
「エド叔父ちゃん、ただいまー」
「エド、久しぶり」
「エド殿、息災だったか」
謁見の間に現れたのは、エーコちゃんだ。そして、ルティナちゃんとムサシがいた。だが、子供達はいないな。
「おかえり、エーコ。久しぶりだな、ルティナ。残念ながら戦争を仕掛けられて息災とは行かないかったがな」
エーコとルティナには微笑で答え、ムサシには自嘲気味に答えた。
「やっぱり大変だったんだねー」
「ああ……それよりこれからの事だ。おい! ロクーム達を呼んできてくれ」
「はっ!」
近くにいた衛兵に呼びかけ、声が掛かった衛兵はロクーム達が使っている客室に向かって行った。
「君がエーコちゃん? アークから聞いてるよ」
そこで俺はエーコちゃんに声を掛けた。
「タケルさんだねー? わたしもアークに聞いてるよー。宜しくねー」
「ああ、宜しく。ところで聞いて言いかな? 帰還が随分早かったね。エドと話していたけど、もっと掛かると予想していた」
「うーん。ルティナお姉ちゃんの家族をエド城で保護して貰ったからー?」
「なるほど」
だが、それで四日短縮した説明には弱いと思う。
「それだけ?」
「拙者の治療を上位回復魔法でしてくれたのにてござる」
ムサシも話に加わる。にしてもさっきから視線を感じるな。索敵気法による空間把握で、見なくても分かる。ルティナちゃんだ。
何か言いたいのか、もどかしそうにしていた。何だろうと思い首を傾げながら、そっちに視線を向けるとサッと視線を逸らされた。
まぁ良いやと思いムサシに再び向き直る。確かに上位回復魔法なら一発でムサシは回復するだろう。が、それを折込で十四日くらい掛かると計算した。
「それで拙者がエーコ殿を抱えて、エーコ殿はひたすらグラビティを使ってくれたにてござる」
「「えっ!?」」
俺とエドの言葉が重なる。それって地面の重力を変えて跳躍したって事? それを何度も……。
そしてムサシは、まるで空を駆けるように移動した訳だ。それは早い訳だな。
「エーコちゃんの魔力は流石だね」
エーコちゃんの魔力が凄いのは分かっていたが、それでも連続で魔法を唱えれば、負荷が掛かる。
その上、体力も奪われる。まぁそこはムサシが抱えてカバーしたのだろう。
それにしてもエーコちゃんを抱えるなんて、おいしい奴め。
で、またさっきから視線を感じる。だから、ルティナちゃんは一体何なんだろう?
どうせ、逸らされるだろうが、再びルティナちゃんの方を向く。俺と目が合うと今度は小首を傾げ出す。
いやいや、首を傾げたいのは俺だから。さっきから挙動がおかしいぞ。
「えへへへ……まぁこの大陸じゃわたしより魔力がある人は、今はいないからねー」
照れたようにエーコちゃんが笑う。確かに今はいないな。前は半精霊化が出来たルティナちゃんがトップだっただろうが……。
にしてもやっぱルティナちゃんは俺を見てる。言いたい事があれば、はっきり言えば良いのに。
「ところでアークは、どうしてるんだ?」
ルティナちゃんの様子も気になったが、一番の問題である治の事を振った。
「……実はアークは記憶が曖昧になっていて……」
言いづらそうに話し出すエーコ。
「なんと?」
エドが驚く。
「マジか」
俺もそれに乗る。さも知らなかったとばかりに。
マジか……記憶が曖昧って設定にしたのか、と。ウソは言っていない。
「それで記憶復元魔法がある場所に向かったんだー」
よしよし! この周回は良い感じだ。消化試合だが、思った通りにコトが進んでいる。
「……そうか」
と、エドが呟く。
「それはそうとー」
あまりこの話題に触れられたくないのだろう。まぁボロが出るかもしれないからな。よってエーコちゃんは話題を変えようとしたのだと思われる。
「ルティナお姉ちゃん、どうしたの? さっきからタケルさんに何か言いたそうにしてるけどー」
エーコちゃんが切り込むのか。まぁ俺もずっと気になってたけど。
「あ、あーえっと。タケルって魔力の波動を全く感じないのが気になって……」
絶対取り繕ってるな。それは前回の周回で、それに真っ先に気付いたのはエーコちゃんの筈だが……。
何かが引っ掛かる。
「待たせたでガンス。エーコも帰ってきた事でガンスし、ゾウ? とか言ったでガンスか? あれの討伐に行くんでガンスだろ?」
そこにロクーム達がやって来た。
パッシーン!
突如エリスが後ろからロクームの頭をはたく。
「先に言う事があるだろ?」
「ああ、そうだったでガンス。エーコ、ありがとうでガンス。ライデンじーさんやエスメラルダを避難させてくれてでガンス」
「いいよー。アークに頼まれただけだしー」
「では、全員そろったとこで、話を進めたいが、まずすまない。私は先の戦争の一件でここを離れられない」
エドが頭を下げる。まぁ予想してたけど。やっぱエドは動けないと。
「しょがないよー」
「それともう数日アーク待ってみようと思うが、どうだろうか?」
エドの提案に反対する者もいなくアークの帰りを待ちゾウ討伐に向かう事になった。