EP.07 半精霊化復活?
「ねぇ、タケルに聞きたかったんだけど……」
「何だ?」
ルティナちゃんが急に声を掛けてきた。
「私の気配が半分人間じゃないってどういう事?」
やはり、それが気になって着いて来たのだな。
「そのままの意味。ハーフと言えば良いのかな? ただもう半分の気配が亜人とかそういう類じゃないから、不思議に感じただけだ」
「亜人?」
ルティナちゃんが首を傾げる。まぁこの大陸には亜人なんていないしな。ユグドラシル大陸には、亜人とは呼ばないがそれらし連中ならいたが。
「ああ。他の異世界にはいる人族でな。動物の特徴を持った人間だよ。他にも魔物を特徴を持った魔族ってのもいるな」
「そうなんだ」
とは言うものの、世界によっては全然違ったりする。例えば魔物が進化したのが魔族だったり……サルが進化して人間になったようにな。まぁそこまで厳密に説明する必要はないがな。
そうして話してるうちにまた螺旋階段が見えて来たので、それを昇り始めた。
「まぁルティナちゃんの半分は、その亜人とか魔族とかと違う気配がしたから不思議に思っただけだ」
パンパン!
と、話しながら外敵を引き千切る者の引き金を引きシャドウバット達を倒す。
「そう……でも良くそんな事が分かるね」
パンパン!
「気の応用」
気の応用としか言えないな。俺が会得した我竜人拳は気の増幅、変化、強化が基本にして奥義の武術なんだし。
そこまで確り説明するのはぶっちゃけめんど臭い。まぁ聞かれたら可愛い女の子なら答えるけどな。
男は……あまり話したくないな。武術の話だけでなく会話すらあまりしたくないのが本音だ。
「……便利な言葉ね」
パンパン!
確かにその一言で終わらしてるから、そう言われるよな。
ならもう少し詳しく話すか。
「もっと詳しく言うなら、俺の気を相手に当てて跳ね返ってきたものを感じとると相手の力量とか、変わった生まれによる気配とか分かるんだよ」
「……そうなんだ」
パンパン!
ルティナちゃんが理解出来てるのか出来ていないのか、よく分からない顔していた。
「この世界にはいないのか? 例えば気を膜のように広げて、その範囲に入った者の動きを把握する芸当ができる奴」
「あ、いるわ……アルが出来るわね」
お! この世界にも気を自在に操れる奴がいたのか。これは収穫かもな。
そいつを仲間に加えれば、このゾウの弱点が分かった時に戦力になるかも? 是が非でも欲しい人材だ。
だが名前の響きから男だよな。女の子じゃないのが残念だ。
「それの上位互換みたいなものだよ」
「なるほどね」
今度は納得してくれた。
身近に似たような事が出来る人がいるからかな。
「なぁルティナ、アルってのは十一人の英雄の一人か?」
「え? ええ、そうよ。エドの弟でアルフォード=フィックス」
ナイス、治。これを聞き出せば治が後々探し出すに違いない。にしてもエドワード国王の弟だったのか。
「十一人の英雄のうち一人は亡くなってるようだけど、アルってのも含めて残りの三人の所在地って分かるか?」
「アルは分からないわ。たぶんエドのために、動き周っているのだろうけど。他はユキと言う雪だるま一族の魔物がエルドリアの炭鉱にいるわ」
ほー魔物が英雄の一人なのか。
「魔物って言わなかったか?」
治も同じ事を思ったらしいな。
「そう魔物よ。でも意思疎通が出来るわ。中でもユキは人の言葉を話せる。特殊な魔物なのよ」
「そうなのか。それに雪だるまって溶けないのか?」
「それも平気。雪だるまってのは見た目だけで実際は雪ではなく白い毛皮みたいな感じだから」
毛皮の雪だるまって……もう雪だるまじゃねぇじゃんかよ。
「で、もう一人は?」
「ガッシュね。サバンナで暮らす野生人よ」
よしよし。十一人の英雄……一人死んでるから十人。治は全員集めてくれそうだな。思わなぬ方向に話が流れてありがたい。
で、螺旋階段を昇りきると次はキラーマシンとやらか。硬い上に二刀流らしいな。
まぁ気の応用で核の位置は分かるから、そこに指を差し込んで引っこ抜き潰せば終わりだな。
まずは二刀流を封じるか。恐らくスケルトンデッドより早い上に、ただ殴るだけではなく指を差し込まないといけない。
少し気を指に集中させる時間が欲しい。よって光のマントで二本の剣を掴む。
「「はぁ!?」」
二人が驚く。まぁこのマントは特別製だから当然か。二股に分かれているマントで自動で防御してくれる優れもの。
あと俺の意思次第で自在に操る事が出来る。正確にはこれも気の応用で、気をマントに流す事で可能だ。それにより二股に分かれたマントはそれぞれ二本の剣に巻き付き相手の攻撃を封じる。
これが二股にしてる理由だ。本来のマントは一枚だ。しかし、こうやって応用して使うなら二股のが良い。
しかも意思次第では大きくなったりするので、二枚がくっつき普通のマントのように一枚にする事も可能。こんな便利なマントをとある異世界で出会った仲間の一人に繕って貰った。
そんじゃ指に気を集中させるか。ゴッ〇フィンガー……なんちって。
心の中で、そんな事を叫びながら指を差し込み核を掴むと引っこ抜き握り潰した。
バキっ!!
「いやいやいやいやいや……」
「………」
治よ、いやいや煩いよ。ルティナちゃんはルティナちゃんで黙り込んでしまうし。
ほんとこの世界は気の扱いに長けてる奴がいないのかね……。アルとやらは期待出来そうだし会ってみたいな。
「この存在チートが!」
「それ酷くね!?」
治に暴言を言われ反射的に返してしまう。って言うか、それ前にも言われたんだよな。
「まあ良いや。武の事を突っ込んでいても疲れるだけだ。先に進もう」
「えぇ、そうね」
「二人とも酷くね?」
ほんと二人とも酷いねぇ。まぁスピード優先したし仕方ないか。
キラーマシンを粉砕し、暫く通路を進むとまた螺旋階段があった。
「どうやらここから先は魔物はいないようだな」
気を膜のように広げこの螺旋階段が終わる200mくらい上まで生物の動きを確認する。
結果、生物がいない事が分かったので外敵を引き千切る者を出さずにそのまま昇り始めた。
「タケル、さっきの話なんだけど」
階段の途中で再びルティナちゃんに声を掛けられる。
「ん? どの話だ?」
色々話したしな。
「私の気配の事」
「ああ……ルティナちゃんが言いたくないなら別に良いよ。ただ不思議に思っただけだから」
「ううん……私も気になる事があるから言いたんだけど、私は精霊とのハーフなの」
「精霊? マジか。人間とヤれるんだな」
「おい!」
治に気を乗せた殺気を飛ばされる。だってさ、ルティナちゃんなんか真剣なんだもんなぁ。それに本当は言いたくなかった事だと顔が雄弁に語っている。気を楽にして欲しいから、少しはおどけて見せたってもんよ
あ、勿論野郎にはこんな配慮はしない。
「おっと悪い。可愛い女の子に言う言葉じゃなかったな」
それにちょっと卑猥だったかな? 一応詫びておこう。
「……ずっと思ってけど、歳は、あまり変わらいわよね?」
あれー? ルティナちゃんも何故か殺気が出ていない? まぁたまに『ちゃん』付けを嫌う女の子もいるしな。
「あ、綺麗なお姉さんって言うべきだった?」
「そうじゃなくて『ちゃん』とか子供扱いしてるのが釈然としない」
「俺の性分だからスルーしてくれると有難いかな」
うん、やっぱり『ちゃん』付けが好ましくなかったようだ。だが、俺の性分なので止める気はない。
「は~~……もう良いわ。それで私は精霊とのハーフなんだけど精霊の力は失ったの」
「失った? まぁ確かに力は感じないな」
確かに精霊の気配はするが、力は感じない。
「そこが気になるのよ。私の中の精霊の力を失ったのに半分人間じゃないって気付けたのが。容姿で普通の人間じゃないかもしれないとは思われるけどね」
透き通るようなブルーの綺麗な瞳してるからな。様々な異世界を渡ってきたが、滅多にこんな綺麗な瞳には、お目にかかれない。
「力は失っても、その体に流れるの血は紛れもなく精霊のものが半分あるよな?」
「……確かにそうかもしれなけど……」
「俺が感じたのそれだよ。普通の人間の血じゃないって」
「血まで分かるのね。貴方の闘気の応用とやらで」
お! そうだ。ピッコーン! ちょっと実験的な事を閃いた。
本来禄でもない薬だって扱いを受けてる劇薬を飲んで貰おうかな? どうせ時間逆行するし、最悪の事態は避けられるしな。
まぁそれでも本人には確り説明しよう。
「まぁね。ちなみにもしかしたら、その血を活性化させれば精霊の力が復活するかもよ?」
「えっ!? そんな事が出来るの?」
「ああ……おっと終着のようだ」
話してる最中に階段を昇りきり、かなり広い空洞が広がっている場所に出た。
前足もこんな感じだったな。そして、心臓らしき物体が必ずある。実験をするには調度良い相手だ。あれは生半可な攻撃では滅ぼせない。
「まるで心臓だな」
「そうね」
「たぶん足の心臓ってとこか? 全ての足にこの心臓があるとしたら全部周らないといけないな」
治とルティナちゃんが気付いたようなので、俺が説明した。たぶんだが、全部の心臓を潰さないといけない。
だが、一つでも潰せば時間逆行。つまりは潰す順番があるのではないかと予想する。そこは治に記憶に期待だな。
それより今は、ルティナちゃんだ。
「さて、さっきの話だけど……」
「血を活性化させるって話?」
「<収納魔法>」
収納魔法を使い空間に亀裂を作り、そこに手を入れた空間の狭間に物を収納出来る便利な魔法だ。
例えば俺が盗賊に襲われ……返り討ちにするが、仮に負けて所有物を全て奪われてもこの魔法で収納した物は奪われない。
どこかに潜入した時に態と捕まる時とかも、物品を取られないので便利だ。
ただ難点がこの時間逆行のせいで収納魔法で中身が消費されたままになる事だ。
本来なら手持ちの物などいくら消費しようが、時間逆行すれば元通り。
しかし、これは空間の狭間と言う、この通常空間と断絶された場所に収納しているのだ。時間逆行の影響は受けない。
逆に言えば増やせる事も出来るが。尤もこの世界には目ぼしい物はないので、必要最低限の物しか増やしていない。
さて、今から出すのは数が限られている貴重なものだ。
「それは?」
ルティナちゃんが聞いて来る。
俺の手にあるのは収納魔法から取り出した中に青い液体が入った瓶だ。
「血を活性化させる秘薬。無理矢理先祖返りさせたい時に使う秘薬なんだけど、大抵の奴は、その力に振り回されて、挙句暴走する」
故に禄でもない劇薬。そのせいで販売してるわけじゃなかったので数を沢山手に入れられなかった。
実はこれ三つしか持っていない。今回の実験が成功すれば、治の記憶が戻りゾウの弱点が分かった時にもう一つ飲ませるつもりだ。
そして、それでも攻略出来なかった時の予備に使える一つだな。出来れば貴重だから、取っておきたいけど。
どこかで役に立つかも分からない物をなんでもかんでも収納魔法に入れてて正解だった。他の世界では、かなり役に立つ事がある。
今回も俺の感だが、ルティナちゃんは暴走する事なく力を取り戻すだろう……。
「……でも、ルティナちゃんは失ったとは言え、一度行使していた力だ。振り回される事はないと思う。どうする? 飲んでみるか?」
一応確認。成功するだろうと言う気はするが、女の子に無理矢理ってのは主義に反する。
「………」
ルティナちゃんが少しの間、熟考し、やがて口を開く。
「……くれるなら飲んでみる」
恐る恐る手を伸ばして来た。
「はいよ」
俺が渡すとルティナちゃんが一気にそれをあおる。
「どう? 効果ありそう?」
「試してみる」
ルティナちゃんがそう言うとピカーンと光り出した。それと同時にルティナは宙に浮く。
ふっ! 実験成功だな。内心俺はほくそ笑んだ。
「はぁぁ……!」
ビリビリ……。
ルティナちゃんの体の周りに電気みたいのが走る。そして体全体は青色になり半透明になって行く。
髪は逆立ち白く光るり、爪が10cm程伸びる。服は変形し羽衣のようなものを纏う。
ほーこれが精霊の力を持ったルティナちゃんなのか。一段と凄みが増したな。
「……ルティナなのか?」
治が腰を抜かしそうしながら、声を絞り出していた。情けない奴だな。
「えぇ……半精霊化した」
うん。意識もはっきりしてるな。
「おお……凄いな」
俺的には意識が、はっきりしているってとこが凄い。それに格段に能力が上がったのがビリビリ伝わる。ビリビリしてるだけに……って、つまらんわ!
「それで、あの心臓らしきものを潰せば良いのかしら?」
「まぁ予測が正しければ……だけどね」
「分かったわ。私がやるわ」
正確には決まった順番に潰すと睨んでいる。嘘は言っていない。
ルティナちゃんは、大きく息を吸うと……、
「<我の中に眠りし血に命じる……>」
詠唱を開始する。それによりルティナちゃんの輝きが増す。
「これはまた凄い魔法が飛び出しそうだな」
「<……我が祈りを聞き届け、究極の光撃にて、我が手を阻むモノを滅し賜え! 我が力、最後の光とならんっ!>」
かなりの魔力を感じるな。ルティナちゃんは俺が思ってた以上に魔法の使い手だ。
「<究極魔法ッッ!!>
ルティナちゃんが宙に浮いたまま両掌を前に突き出し魔法を唱えた。
青いドーム状のものが心臓を包み込む。
キュィィィ~ンっ!
ドーム状の中で光の柱がいくつも迸る。凄いな。
詠唱にも究極の光って言ってるし、さしずめこの大陸……いや、もしかしたらこの世界で究極の魔法なのだろう。
あのドーム範囲にいて耐えられる者はどれくらいいるだろう……。俺ですら瀕死確定だな。奥の手まで出せば別だが、全力の気を放つだけじゃ足りないだろう。
魔法が止むとルティナちゃんが地面に降り、半精霊化が解けて普通の人間に戻った。
「ハァハァ……久しぶりだから結構きつかった」
あ! 時間逆行する。感覚で直ぐ分かった。
もし順番に倒すにしても、ここからって事はないだろう……。
流石に他の場所を回ったメンバーが俺達より先に心臓を潰したのは考えにくい。だいぶ速めのペースで俺達は、心臓部に辿り着いたのだから。
そんな事を考えていたら、あたりの景色が最初の洞窟になっていた……。
それにしても前回の周回は治に記憶を取り戻すように誘導するだけで後は消化試合だと思っていた。
なのにルティナちゃんが精霊とのハーフであり、先祖返りの秘薬で精霊の力を復活させられると分かったのは思わぬ収穫だな。
それに残りの英雄の場所も分かったし治がどうにかするだろう……。




