EP.06 最速で行く必要あり
「俺は武。オサ……いや、アークのダチだ。乗り掛かった舟って奴で俺も手伝う事にした。宜しくな」
「ええ……宜しく」
「………」
うーん。やっぱ不思議な気配だ。ハーフ? だが人族ともう片方は何だ?
「えーっと……何かな?」
「あ、いや失礼。不思議な気配を感じてな。失礼だけど、あんた人間か?」
正直に言っても問題ないだろう。
「な、何? 人間だけど?」
「半分そう感じるだけど、もう半分は、違う気配がしてな。悪い急に変な事を言って」
問題はないだろうが女の子にはちょっと失礼だったかもな。詫びておこう。
「……いえ」
その後、移動を開始し、一日かけてゾウの足元までやって来た……。
「何か空洞があるにてござる」
「中に入れるのでガンスか?」
ムサシがゾウの足に穴がある事に気付き、ロクームが中を覗いた。
「入って調べるか?」
「そうでガンスな」
エリスが、そう提案しロクームがそれに賛成した。
「いや、待て」
だが、俺はそれを止める。何故なら周回をしてる中で、俺はそれに気付いていたからだ。
一周目は頭を速攻潰し、二週目以降は足を調べている。とは言え二週目はデカくなる前に倒したのだけど。三週目はロクーム達が倒したので調べていないが、四週目に前足の空洞から入ってゾウを倒していた。
よって他の足も見ておきたい。
「どうしたのさぁ?」
ナターシャちゃんが首を傾げた。そのしぐさがまた可愛いな。こんな綺麗な女を忘れるなんて治は罪深いな。
「右前足に空洞があるって事は他の足にもあるかもしれない。それを調べてから入っても良いんじゃないか?」
「そうだな……一応確認しよう」
俺の言葉に治が賛同した。それにより全員で右中足に向う。
「あるわね」
ルティナちゃんが呟く。
「俺は此処から入ってみる。頭数いるし手分けした方が良いだろ?」
まだ調べていない足だしな。
「武が此処からにするなら俺もそうしよう」
警戒させたし予想通り。治は俺と一緒に来るようだ。
「なら私も」
ん? ルティナちゃんは予想外だ。あー下手に気配の話をしてしまったからか。
まぁ一人くらいなら問題ないだろ。何人もいると話が反れまくるかもしれないからな。
そうして俺、治、ルティナちゃんは右中足から入って行く事になった……。
端から端まで200mはある人工物のゾウ内部。それは前足と変わらないな。
「……階段があるけど、昇るしかないのかしら?」
「まぁ普通に考えれゾウの胴体を目指すべきだろうから昇るしかないんだろうな」
内部に入って直ぐ右にある螺旋階段に気付き、ルティナちゃんが呟いたので俺が答えた。
と言うものの実は俺の索敵気法に魔物が引っ掛かったからだ。
そうして俺、ルティナちゃん、治の順番に並んで階段を昇る。
「そういやー治、お前記憶ないのか?」
アークでも良いのだが、どこかで治と言う名を出さないといけなくなるかもしれないので、先に呼んでしまった。話が脱線するなら最初にさっさと脱線させてしまいたい。
半端に変なとこで脱線させると重要な事が頭から抜けてしまう事があるからな。
「……オサム?」
はい早速脱線。ルティナちゃんが反応した。
「アークだって言っただろ? ルティナ、治ってのはあだ名みたいなものだから気にしないで」
「あ! もしかしてダークの体を簒奪する前の名前?」
アークが誤魔化すが直ぐにルティナちゃん気付く。ほールティナちゃんは治の事情を知っているのか。
パンパン!
二人の会話を聞きながら俺は二刀拳銃でシャドウバットっぽい魔物を撃退する。銘は外敵を引き千切る者。
普段はネックレスになっているが、俺の意思で手にスッポリとハマる銃に変化する。
「ルティナは、この体はダークのもので、俺が今は使ってるって事を知ってたのか?」
「ええ……私だけじゃなくナターシャさんとエーコも知ってるわよ」
パンパン!
まぁエーコちゃんとナターシャちゃんは同居人だし分かる。だが、何故それ以外でルティナちゃんが知ってるのだろうか……?
「なら話は早い。実は俺がこの世界に来る前の世界では、治って名前で、武はその時のダチ」
「なるほどね~」
パンパン!
治が本当の事をそのまま話した。
「……ところでさ、アーク」
パンパン!
遠慮しがちにルティナちゃんが俺の方をチラチラ見ながらアークの名を呼ぶ。
俺を見てる時点で分かるけどな。タケルって格好良い、惚れたかも。なんて事だったら良いが、それじゃないな。
「さっきからシャドウバットを落としているアレ……何?」
パンパン!
「鉄砲、銃……うーん、わかりやすく言うと砲撃武器かな」
パンパン!
思った通り外敵を引き千切る者が気になるようだ。
「砲撃武器……凄いわね。魔力の流れを感じないから魔法ではないと思うけど……」
パンパン!
「まあ科学力が異世界によっては、此処より技術が優れていたりするから」
治がルティナちゃんに分かるように説明した。と言うか、直接俺に聞けば良いのに。
パンパン!
「……なるほど」
パンパン!
「と言うか武、何で何発か撃った後、空中に投げてるんだ?」
今度はアークが俺に聞いて来た。
「リロード。ふー……魔物が来なくなったな」
コウモリっぽい魔物……シャドウバットが索敵気法で近くにいないのを感じ取り外敵を引き千切る者をネックレスに戻した。
この外敵を引き千切る者は回転させながら、空中に投げる事で。炭素を弾丸に変える。それはダイアモンド並みに硬い。
さて、脱線も終わったし話を元に戻すか。
「それはそうと治、記憶がないんだってな」
「だからアーク」
「もう良いだろ? どう言う訳かルティナちゃんも知ってるわけだしさ」
「は~……そうだよ。十五歳以降の記憶がない」
治が溜息をつき答える。
「十五歳? アークってそんな若かったんだ」
おっとまた脱線してしまった。やっぱ二人っきりではないとこうなるな。
「まぁ十九歳の時にこっちに来て数ヵ月過ごしてるから精神年齢は二十は過ぎてると思う……記憶を失う前だったらの話だけどな」
「それでも若いね。へ~」
ルティナちゃんが微笑ましそうに治を見る。子供扱いだな。年齢もそんな変わらんだろうに。
「で、治。それどうにかならないのか? この世界は魔法があるから記憶喪失を治す魔法もあるんじゃないか?」
そしてまた俺は話を戻す。
「あるらしい。ナターシャが行こうとしていたとある迷宮に。だが、そんなとこに行っている余裕ないっしょ? 武もロクリスを助けるの協力したから、分かるようにあっちこっちで面倒な事になってるんだよ」
おーあるのか。これなら治の記憶からゾウをどうになか出来そうだな。
他の世界の魔法を使えば記憶くらい戻せるのだが、なるべく他の世界の技術は持ち込みたくない。
外敵を引き千切る者を使ってる時点で今更だけどな。それでも俺に課した制約で、この世界の事はこの世界の者にどうにかさせたい。よって治は、この世界の技術で記憶を復活させて欲しいな。
さてこれで次の周回も消化試合が確定した。が、その次で時間逆行をどうにか出来そうだ。
問題は治の忘却した記憶の中にゾウの弱点があるかどうかだ。無いとまたイチから考え直しになる。そうなったらマジめんど臭い。
最悪この世界を俺と俺の仲間で滅ぼすしかないだろう……。が、その心配はまずないだろうと思ってるけど。なにせ治はこれから何ヶ月か、もしくは何年かすると再び俺と出会うのが確定しているのだから。
「なるほどな。残念……その記憶の中に、このゾウの事があったかもしれないのに」
「悪かったな……記憶をなくして」
「あ、いや悪い。そんなつもりはなかったんだけどな」
治がふんっとそっぽ向く。どうやら怒らせてしまったようだ。言い方が悪かったな。
だが、こういう怒りを覚える事なら記憶に強く残り、次の周回では確り記憶を取り戻すだろう。なので俺はプラスに考える事にした。
治に記憶を取り戻す必要があると言う話をしたから、この周回は消化試合だな。本来ならルティナちゃんの実力を知っておけば後々の布石になる。アークもどれくらい強くなったか見る必要がある。しかし、今後の為にこの右中足の構造を把握する必要があった。
他のメンバーが他の足を攻略してしまうと時間逆行が始まってしまう。よって先に攻略する為にスピード優先だな。まぁ幸い俺には気の応用でルティナちゃんの実力はなんとなく分かる。相当魔法方面で強い。
って訳で、タイマン勝負のとこは俺がさっさと終わらそう。まずスケルトンデッドやらか。結界により魔法が使えない。まぁ俺には援護なんていらない。
ワンパンで終わる相手なのだから……。六刀流だろうと関係ない。相手に何もさせず倒すだけ。
「「えっ!?」」
二人は驚く。そんな驚く事かな? この世界は気を自在に操る奴はいないのだろうか?
そしてまた螺旋階段。シャドウバットの魔物は外敵を引き千切る者でサクサク倒し先に進む。
他のメンバーがどれだけ早く攻略するか分からないから、さっさと終わらす分に困りはしない。
そして螺旋階段を昇りきるとトロールとか言う魔物がいた。ルティナちゃん曰くタフだそうだが、俺には関係ない。これもワンパンだ。
「ねぇアーク? ……私達っていらないんじゃない?」
「言わないでくれ」
ルティナちゃんとアークが何か言ってるが、今回は仕方ない。悪いが無視させて貰う。
「じゃあ進むか」
そう言って俺は先に進み出した。