EP.05 五週目突入
「お前さ、気を足に集中させて降りて来いよ」
治は良い覇気を出してる。それは普段気を使って戦ってる、もしくは使い方を知ってる。そもそも三年前に会った時に、もっと強力な覇気を纏っていた。普段からそれ相応の訓練か実戦してる証左だ。
よって直ぐに出来るだろうと思い指南してやった。治がタイムリーパーなら今度の布石になるからな。
あ! 微かに感じていた生命反応が途絶えた。俺が治に指南してる間にムサシってのは死んだようだ。
尤も間に合っても俺には、この世界で言う中位クラスの回復魔法までしか使えない。治は下位なので論外。上位まで使えない以上助からなかっただろう。
まぁ時間逆行するので最終的には助けるがな。助ける……のだが、この城の奴らには腹が立つわ~~。
なにせ尋問で甚振るだけ甚振って、ゾウが現れたら捕虜を無視して、さっさとトンズラだもんな。こう言う奴はマジでムカつくわ。
そうしてムサシがいると思われる通路入って行く。奥では血だらけで椅子に縛られている死体がいた。こいつがムサシか。
「おい! 大丈夫か?」
アークが声を掛けるが既に事切れているので返事がない。
「ヘンジガナイ、タダノシカバネノヨウダ」
今の俺は相当キレそうなので、こういうふざけた事を言っていないとやってやれない。
「うっ! おぇぇぇ~」
治が吐き出した。無理もない。死体なんてみたの初めてだろう。実際にはあるのだろうが、今の記憶は十五歳までなのだから。
「無残だな」
見てるだけで腹の中でクツクツ怒りが沸いて来る。何故なら……、
「爪を全部剥がされ、歯を全部抜かれ、皮膚も剥がされ……」
こんな状態で放置されたのだ。この城の奴ら、機会があれば全員ぶっ飛ばしてやりたいな。
「説明するな……おぇぇぇ~」
横で俺の説明を聞いて治が再び吐き出す。お蔭で俺も少しづつ冷静になって来た。本当ならこの場で暴れて城を破壊していたところだ。
「記憶を無くしてるなら早々に慣れておけ。異世界によってはグロいものを何度も見ないといけないのだぞ」
「分かってはいるんだがな……記憶を失う前の俺は平気だったのだろうか……」
「まぁお前の気の量を考えてかなり殺りまくってると思うけどな」
「うえ~」
そう治の漏れ出た気の量……すなわち覇気を考えるとそれなりの修羅場をくぐって来て事が良く分かる。
「にしても目的は分からないが散々拷問した挙句、あのゾウにビビって、これを放置してさっさと逃げたって事かな? 腐った連中だ。皆殺しにしてやりたいな」
それが統治してる人間のやる事か。クソったれ! って、話していたら時間逆行が始まる。
「ん? 今回は俺じゃなかったな」
ゾウはロクーム達が倒したようだな。一度時間逆行を体験した世界では直前になんとなく時間逆行の予兆が分かる。こうしてこの世界での三週目は終わった……。
≪四週目≫
星々の世界に来て二日目、再びアークと会うかもしれないので、とりあえず俺が泊ってる銀月と言う宿をチェックアウトして三週目で出会った場所に向かおうと考え荷物をまとめていた。
そんな時、エーコちゃんが訪ねてきた。アークから聞いたと言って。これで治がタイムリーパーの線が濃くなった……。
エーコちゃんの手伝いをして、ロクーム達の救援に向かった。時間逆行で同じ事をやるのが一番めんど臭い。まぁ今回は可愛い女の子と一緒だったから良しとしよう。欲を言えば、あと最低でも十歳上が良いけど。
その後、治のムサシ救出を待ってゾウを倒しに行くと言う話を聞く。
ちなみにロクームの同居人は俺達がフィックス城に来た時には既にいた。恐らく治が事前に避難するように言っていたのだろう。尤も戦争の真っ只中なので城の客室に籠っていたが。
その後、数日待ったが治は帰って来なかった。エド城までムサシを連れて行くから、早くてもムサシ救出から十日掛かるだろうとは言っていたのだが……。
十日なら俺がこの世界に来て十二日目になるのでギリギリみんなで攻め込めるかどうかと言う日にちだ。しかし何かのトラブルが起きたのか帰って来なかった。
十三日目、俺は一人でゾウを倒しに行った。移動を開始し、町を次々に潰して行くのを見てるのは気分が良いものではない。
そして、何より居場所が分からなくなるのが一番厄介だ。あんな巨大なものを見失うなんて有り得ないが、もしこの大陸を離れたらアウトだ。
よって始末してさっさと時間逆行させた。
≪五週目≫
二日目に今度はナターシャちゃんがやって来た。前回挨拶程度には話した。かなり綺麗な人だ。治の女にしておくのが勿体無いな。
そして、またアークに聞いて来たと言い出す。治がタイムリーパーなのは確定だな。なら、どこかで俺も記憶を保持してるって話さないと。
で、またロクーム達の救援。もう良いわ! 治も同じ事ばかりやらせるなよ。
いくらナターシャちゃんが綺麗でも同じ事やってると飽きるわ! どうせ今回の周回も消化試合だろうし。ついでに治の女って時点で手を出せねぇじゃねぇか!
それにそろそろ解決の布石を打っておきたい。さぁどうやって布石を打つか……。どうやって原因知るか……。
ロクーム達をナターシャちゃんと救出後、フィックス城で数日滞在。その後、集合場所のイーストックスと言う町に、この世界に来て十日目にやって来た。
今いるメンバーは俺、ナターシャちゃん、ロクーム、エリスちゃん、エドワード、ムサシ。
やがて治とエーコちゃん、それと恐らくルティナちゃんって娘がやって来た。今回は予定通りだったようだ。
「それにしても例の屋敷は、とんでもない研究をしてたんだな」
エドワードが治のとこに行き、何やら話始める。俺はロクーム達の側にいたが、エドワードの言葉に耳を傾けた。
『例の屋敷』、『とんでもない研究』。この単語だけでオドルマンを疑ってしまう。
「そうだな」
治が肯定するが、たぶん合わせてるだけだな。なんせ記憶がないんだから……。
「こちらでも生体実験をしてるのではないかと言う情報を掴んでいたんだが、まさかここまでとは……」
「どういう事だ? それが理由で俺に調査を依頼したのか?」
「え? ああそうか。記憶の混乱か。ああそうだ。生体実験の情報を掴んだから事実確認をしたくてアークに依頼した」
記憶の混乱? そういう設定にしていたのか。いや、問題はそこではない。
つまり今回の時間逆行の解決策は治の記憶にあるって事じゃないのか? それなら、どうにかして治には思い出して貰わないと話が進まない。
まさか最初にコイツに会った時に俺が働き掛ける事で記憶を戻した可能性があると頭の片隅に置いておいた事が、それを実際にしないといけないとはな。
「もっと詳しく知りたかったが、こればっかりは仕方ないな」
「……すまない」
「いや、アークが悪いわけじゃない。もっと慎重にコトを運ぶべきだった。私の落ち度だ」
「………」
それにしても出来た王だなエドワードは。クロード城のクソったれとは大違いに思える。
「では、私はそろそろ戻るよ。城が心配だ。またなアーク」
「ああ……またな、エド」
さて、エドワードがいなくなったし、今度は俺が治のとこへ行くか。
「お前が治か?」
まぁ知ってるけどね。それでも初対面の体で話し掛ける。一応ここではアークって名なので小声にしてやった。
「ああ」
「そうか……久しぶりだな治」
俺は笑いながら肩を叩いた。
「ああ……久しぶり。ただ今の俺はアークだ」
「そうだったな……そう聞いた。アーク、お前さ……」
わざと切って俺の話に耳を傾けさせる。こうすると普通より少し話を良く聞く事を色んな世界を渡って学んだ。
「何だ?」
「あ、いや……何で俺の居場所が分かったんだ? ナターシャちゃんが訪ねてきた時はビックリしたよ」
「そういう情報があったんだよ」
情報と来ましたか。確かにお前の頭にはその情報があるな。嘘ではない。
「そうかそうか」
そう言って肩組んで続ける。
「これから、得体の知れないゾウの調査だろ? 頑張ろうぜ。俺も乗り掛かった船だ。手伝うぜ」
「ああ、宜しく頼む」
「ちなみに……」
再び声を潜ませる。
「俺がこの世界に来たのはナターシャちゃんが来る前日なんだよ」
「え?」
「情報があったとしても、お前らの家からエルドリアまで一日以上掛かるだろ? 基本この世界は徒歩での移動。だから情報伝達手段も徒歩。そうなると三、四日必要になるわけだ」
ちゃんと事前に治の家の場所は調べた。そうどう頑張っても俺が、この世界に来てから三~四日は掛かる。
それを治または、同居人は俺がこの世界に来て二日目で現れているのだ。だと言うのに、俺はそれ以上追及しない。これで治は俺を警戒し俺から目が離せなくなる筈だ。
他の面々がいる中で今後の布石を治に打つには、他の者が話に加わり横道に反れてめんど臭くなりそうだ。が、治は俺を見張らざなくなり、二人っきりになれる可能性が出てくる。
その時に布石を打つ。必須として記憶を取り戻すように誘導する。
と言う訳で、治とはこれ以上話さなずルティナちゃんのとこに向かう。可愛い女の子だし是非とも挨拶しておこう。ぶっちゃけ野郎は基本いらん。
それとは別に、ちょっと気になる気配を感じるし少し探りを入れてみよう。