EP.04 三週目
「俺の記憶を失う前の仲間がとある遺跡の調査に向かったんだ」
「それで?」
「後からそこは危険だって情報を掴んでな。助けに……と言うか手伝いにって言った方が良いかな? 手伝いに行きたいんだ」
「それに俺も来いと?」
「そう……お願い出来ないかな? 俺、記憶ないせいで戦い方もあまり分かってないんだ」
「それ俺にメリットある?」
別に良いのだがな。治、もしくは近しい奴がタイムリーパーなら監視する意味も込め手伝っても。ただ、それだとバランスが悪い。
大したメリットではなくても何かしら提示しないと手伝う気になれんな。
「情報収集してるって言ったな?」
「ああ」
「その遺跡に行った人なんだが、トレジャーハンター チーム名ロクリスの二人なんだ。トレジャーハンターなら色々知ってるのでは?」
そう来たか。それは願ったり叶ったりだな。オドルマンの情報が聞き出せるかもしれない。
……しかし、結果から言えばオドルマンの情報は聞けなかった。余程秘密裏に行動してるのだな。
だが、この世界の……いやこの大陸の出来事が聞けたのは良い収穫だ。ラフラカが大陸を破壊させ、資源不足にした張本人だと……。
それに十一人の英雄の話も興味深かった。ゲームをプレイしていないので特に。上手く誘導して今回の事態に、一人は故人なので十人に対処に当たらせたい。
俺に課したルールで、なるべくその世界の事は、その世界の者にやらせるってやつだな。
「先程、エド城より使者が来た。ムサシがクロード城に行ったっきり帰って来ないそうだ」
ロクーム達を救出した後、フィックス城で一泊し、翌朝王間でエドワードにそう聞かされた。
ムサシとは十一人の英雄の一人だな。
そしてムサシの確認をしに行くと言うので、十一人の英雄の所在地は知っておきたいし俺も同行する事にした。
にしてもやたら、治の事を同居人のエーコちゃんが心配してた。記憶がないのだから当然だが随分慕われているように思える。良き同居人に恵まれたな。友として嬉しく思うぞ。本人には言わないがな。
そして俺達は、チェンルに到着した。そろそろアレが、かなりでかくなってるし町民が少ないな。逃げたのだろう。ゾウを見張ってる時に遠ざかる沢山の気配は感じていたけど。
「なんだあれは!?」
真っ先にそれに気付き、指差したのはエリスちゃんだ。
「山だな」
何も知らない。いや、それどころか何も覚えていない治がそれがどうしたと言わんばかりに呟く。
「いや、あそこに山なんてないでガンス」
それにロクームが答える。まだ俺がこの世界に来て八日目だし山程度のようだな。
あれが明後日あたりには山より巨大になるんから驚きだ。
そうして俺達はソレを目指す為にチェンルの町を出た。
「なっ!?」
ロクームが驚き開いた口が塞がらない。無理もない。
「……足があるな」
治がポツリ呟く。
「ここから見えるのだけで四本……恐らく裏側にも同じ数があるから八本あるな」
エリスちゃんが続ける。
「いや、恐らく六本」
ここは俺が正確な数を伝えておく。
「ああ…一本は足ではなく鼻だ」
治が続ける。
「鼻!?」
「何故鼻だって分かるでガンス? あんな長い鼻見た事なでガンス」
「だってあれゾウじゃん」
「「ゾウ!?」」
ロクームとエリスちゃんが首を傾げる。
治はともかく二人が知らないと言う事はこの大陸には、やはり存在しない動物なのだな。
「想像上の動物だ。見ての通り鼻が長いのが特徴だな」
と言うわけで俺が誤魔化す。色々説明するの面倒だし……。
それにどうせ今回も時間逆行で、なかった事になるから説明しても無駄だ。
「てかさ、あっちって俺様達の家でガンスよな?」
少し震えるようにロクームが呟く。
「えっ!? おじちゃん、エスメルダ」
続けてエリスちゃんが慌てだした。そーいやあそこに民家があったな。ゾウが現れて数日で潰れたけど。この二人の家だったのか。
「悪いでガンス、アーク! 俺様達は帰るでガンス。ムサシの事は頼むでガンスよ」
「分かった。だからほら急いで帰りな」
そうしてゾウに向かってロクームとエリスちゃんが走り去った。でもな……、
「もう手遅れなんだけどな」
そう手遅れなんだよ。俺は誰にも聞かれる事のない言葉を口の中で呟く。
「今、なんか言ったか?」
「いいや、何でもない。さあ俺達はクロード城へ急ごうぜ」
治が聞き返して来るが、まだ治には詳しく話すつもりはない。よって誤魔化す。
そうして次の日、ムサシがいるかもしれないクロード城に到着した。
「さてクロード城に着いたけどおかしくない?」
治が周りを警戒しながら言う。
「門兵どころか城は、もぬけの殻だな」
警戒しなくてももぬけの殻だ。誰もいないのは都合が良いので治は上を、俺は下を調べる事にした。
部屋が沢山あるが俺には関係ない。索敵気法で気を膜のよう下へ下へ伸ばし人を探る。
本来この技は半径〇mと言う形で索敵を行う。何mかは、熟練度よるが。
俺はその応用で望んだ方向に大きく伸ばせる。よって下へ下へ伸ばしながら地下に向けた。
「……いた」
微かな身じろぎや心音による波を微弱ながら感知。これは瀕死か? 急ぐか。
「この部屋だな」
俺は武器庫に目星を付けて入る。そこから更に地下に行く通路がないか探す。
「あった」
地面に一部空洞が広がってるとこを武器庫らしき場所で発見した。これだな。
此処に更に地下に向かう道があり、そこにムサシってのがいる。さてと、今度は治を探すか。
今度は、索敵気法による気の膜を上へ上へと伸ばした。
「いた」
ちょうど真上だな。
「来い!」
右腕を突き出す。そこから銀竜が右腕に巻き付く形で現れた。
これは俺が会得した武術の流派で免許皆伝になると先代から譲られる力の源とも言える銀竜。
これの力を借りた俺の力が十とするなら、これ無しだと六程度と言ったとこだ。
「我竜天昇!」
その右腕を真上に突き出す。
ドッゴ~ンっ!!
銀竜は上へ飛び天井をことごとく破壊し突き進む。やがて治がいる階層まで行くと止まり俺の右腕に戻って来て、姿を消した。
「お~い! 治ー!」
俺は下から呼ぶ。
「なっ!!」
治が腰を抜かしながら驚いてるな。
「そこから降りられるか?」
そう言うと治が飛び降りてきた。……ってお前、足に気を集中させろよ。怪我するぞ。
「ぐぎゃ~」
ほら言わんこっちゃない。治が声にならない声を上げている。
「<下位回復魔法>」
ほ~回復魔法か。治も使えるのだな。だが、その魔力じゃ足りないだろ? 当然全然治らなかったし。
「中位回復魔法」
し~~ん。
今のは中位ってとこか? 習得していないのに使っても意味ないだろ。まぁそれを忘れているんだから仕方ないか。つうかほんと……、
「何やってんだか~」
俺は呆れてしまう。
「っ~~……誰のせいだ!」
「はいはい。……<超回復魔法>」
俺は超回復魔法をかけてやる。残念ながら俺の魔力じゃ上位は習得出来なかった。だが、この程度中位で十分だな。