EP.15 物資横領 (三)
「これは第一格納庫へ」
「はっ!」
「これは……開発班に回そう」
「はっ!」
執務室の机に大量に置かれた書類を忙しなく捌きながら指示を出す者がいた。
「陛下、この書類もお願いします」
「やれやれ、また増えるのか」
兵に陛下と呼ばれた男は肩を竦め書類にげんなりする。
黄色が強めの金髪、金眼。オールバックにしているこの男の名は、エドワード=フィックス。フィックス領の国王だ。
このユピテル大陸は狭く、当地する領も狭い。故に領主とは呼ばれず王と呼ばていた。
そんな忙しなく働くエドワードがいる執務室にコンコンとノックが響く。
「何だ?」
「失礼します」
新たなに兵が執務室に入って来た。
「陛下、少し宜しいでしょうか?」
「また確認しないといけない書類が増えるのか?」
エドワードは、もうこれ以上はいらんと苦笑を浮かべる。
「いえ……もっと厄介かもしれません」
「ふむ」
すぅっとエドワードの表情が抜け、先を促す。
「港町ニールからの物資が滞っております」
「あそこからの物資は一ヶ月遅れる事もあるだろ? 無理に急かす必要もない」
エドワードは無茶な要求をするのを嫌い無理のない範囲で行えと言ってある。少し王にしては甘いきらいがあった。
「はっ! ……それがもう三ヶ月滞っております」
兵が少し言い淀み現状を伝える。
「毎月代金は払っているな?」
エドワードの眼光が鋭くなる。
「も、勿論です」
エドワードの金の双眸に睨まれ気圧されながら答える兵。
「ふむ……仕方ない。ではニールに行くぞ。兵は五人連れて行く。選抜しておけ」
そう言ってエドワードは立ち上がる。
「お、お待ちください。この書類を片付けて頂けないとフィックスは回りません。視察は我等に……」
慌てて書類を渡していた兵が止めた。
「うちに物資が届いていないだけなら、まだ良い。だが、もしニールで何か異変が起きていたらどうする? 資源不足のこの大陸の未来が少なからず陰りを見せるであろう」
「……はっ! 承知しました」
兵は渋面をし引き下がった。エドワードはフィックスだけでなく、ユピテル大陸全体の未来を憂いているのを重々承知しているからだ。
その後、エドワードは執務室を出て自室にて着替える。青を基調とした艶やかな服へと。その上にふくらはぎまである大きめの同じく青を基調としたコートを羽織る。
続けて大型のチェンソーを背中に背負い、30cm程の短槍を腰ベルトの背面に引っ掛け、腰ベルトの左側に剣が納まった鞘を引っ掛けた。
「よし」
準備が完了したのを確認し、エドワードは部屋を後にする。部屋の外には兵が既に五人待機していた。
「出陣るぞ」
「「「「「はっ!」」」」」
港町ニールに到着するとエドワードは、まず目立たぬように大型のチェンソーと剣を港町ニールで借りている倉庫に置く。大きな戦闘になれば必要になるが、まずは聞き込みなので武装していると、相手を威嚇するだけなのだ。
従ってエドワードは腰ベルトに引っ掛けた短槍のみを残した。
「へい、物資なら確認しビルマに渡しやしたぜ」
港町ニールに集まって来る物資を確認しているアルマの証言だ。
「あぁん? それならきっちり検品してカルマに渡したっつうの」
続けて物資の検品を行っているビルマの証言。
「はい。それならフィックスに送るように手配しました」
最後に物資を各地に送る手配をしているカルマの証言。
「ふむ」
エドワードは下を向き目を閉じ思案する。可能性は三つ。
一つ、カルマが横領している。
二つ、アルマ、ビルマ、カルマが共謀し横領している。
「この二つはまずないだろう」
何故なら直ぐにバレてしまうからだ。
「……となると最後の一つか」
そこまで考えたエドワードは顔を上げ、目を開け、その金の双眸で兵達を見回す。
「物資を追加購入。大至急フィックスに届けるように依頼するのだ。当然代金は払い特急代金も上乗せしておけ」
「はっ!」
「その後、其方らはニールで待機だ」
指示を飛ばしエドワードも行動に移った。とは言え、今できるのは追加で物資が必要と記した書簡の作成しかやれる事はないのだが……。
ほんと名前考えるのは苦手です。
アルマ、ビルマ、カルマなんてABCから名前付けただけです(笑)。