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EP.40 ハイタッチしました

第九章完結

分割すると短くなるので、長くなってしましました

 せっかく気持ち良く寝れると言うのに、直ぐにそれは妨げられる。

 鋭利な気配を感じる。肌に張り付くような……。死が迫っている気配が。

 まずい! そう思った時には体が動いていた。右腕を伸ばす。


「ぅぐ!」


 そこで俺は目を覚ました。俺の右手は、愚王の首を掴んで締めている。愚王は呼吸もできず、(よだれ)が垂らしていた。

 つか、汚なっ!俺の手にかかってるよ。

 愚王の手には、俺愛用の小刀が持たれており、ロープも切られていた。


「……やっぱ愚かだな。ロープ切ったなら逃げれば良かったものを」

「ゲホゲホ……」


 俺が手を放すと愚王が咳き込む。態々俺を殺そうとするから返り討ちに合う。

 こればっかしは原理も分からないし、俺の意思で制御できない。ダークの体に染みついた習性と言うべきもの。

 殺気を感じると目を覚ます前に体が動く。伊達にガキの頃、森に捨てられそこで育ったわけじゃないって感じだな。


「さて、ロープもないし、このままフィックスに行くか」


 あーめんどくせぇ。ねみぃ……。

 だが、また寝込みを襲われたくないし逃げられるのも癪なので愚王の襟首を掴み、引き摺りながらフィックス城に向かって歩き出した。


「余を引きずるな。ちゃんと歩く」

「黙れ!」


 今の俺は寝不足で機嫌が悪い。その後も愚王が叫ぼうが喚こうが、取り合わずにたまに蹴り飛ばし黙らせた。

 そうして次の日の早朝にフィックス城に到着した……。

 野営道具は放置だ。これも後でエドに請求しよう。


「ここはフィックス城です。こんな朝早くに何か用でしょうか?」


 見張りの兵に声を掛けられる。ほんとフィックスは教育が引き届いてるよな。相手を不快にさせない。それだけで此処が素晴らしいのが伺える。

 王が見境なく口説くのは(たま)(きず)だけど。

 俺は衛兵の前に愚王を放り投げた。


「アルフォンスの愚王だ」

「なんですってっ!?」

「俺はアーク。悪いがエド……エドワード国王を起こして確認してくれ。ねみぃんだ。さっさと城に入れて貰って部屋を貸して欲しい」

「アーク殿ですか……国王より聞いています。どうぞお入りください。アルフォンス王はこちらで引き取ります」


 話が早いな。流石エド。見境なく口説くのは玉に瑕だけど……。はい大事な事なので二度言いました。って、どうでも良いか。寝不足のせいか意味不明な事ばかり考えているな。


「それは確かる」

「では、お部屋に案内します」


 そうして部屋に到着するなりベッドにダイブして爆睡してしまった。


「ふぁぁぁ~~……」


 大きく欠伸をする。あー良く寝た。だいぶ疲れたように思えるが、体の節々が痛いな。寝過ぎたかな?


「やっと起きたー」


 うん? 我が天使の声が聞こえる。言うまでもなくエーコだ。


「寝過ぎだよ。アーク」


 ナターシャもいるのか。と言うか、この二人がいるって事は、丸二日も爆睡してたのかよ。


「今何時だ?」

「昼さぁ」


 にしても三日前は三時間程度の睡眠に、一昨日はほぼ徹夜。それに敵地に単身で乗り込んだのだ。ずっと張り詰めてからな……。

 更に四日も寝込んでいて本調子じゃなかったのだろう。通りで体の節々が痛い訳だ……。


「状況はどうなってる?」


 俺は丸二日寝て凝り固まった体をほぐしながら二人に尋ねた。


「言われた通りロクリスは救出したよ。ダークは現れなかったさぁ」

「ユキがムキムキ叔父ちゃんを連れて帰って来たよー」

「ムサシは?」

「そっちも問題ないよー。ライデンお爺ちゃんと一緒にやって来たよー」


 エーコが答えた。エリスのじーさんも来たのか。残りはルティナとガッシュだけだな。あそこが一番大変だろうから、時間がかかるだろう……。


「それよりアーク。お腹減ったでしょう? 昼だし食堂に行くさぁ。アークも自分で皆来たか確認したいでしょう?」


 ふむ。ナターシャが言う事も尤もだな。

 ぐ~~。タイミング良くお腹も鳴ってるし。


「じゃあ食堂に行こう」


 そうして二人と一緒に食堂に向かった。食堂には、どうやらエド以外全員そろっているようだな。みんな椅子に腰を掛けていた。


「お前がアークか?」


 食堂に足を踏み込んで真っ先に立ち上がり声を掛けて来たのはロクームだ。一番いらんがな。

 どうせ声を掛けて来るならエリスにしてくれ……とは、ナターシャの前では言えない。まあエリスも昔はともかく人妻だしな。おっと思考があの馬鹿(・・)のようになっている。


「ああ」


 とりあえず頷くか。と言うか、何故かエーコがロクームと視線を合わすのを嫌そうにナターシャの影に隠れる。


「話は二人から……」

「ナターシャ、エーコはどうした?」


 ロクームを無視してナターシャに水を向けた。


「うーん……なんて言ったら良いかなぁ? サキュバスがいて……」

「うん。分かった」


 三週目であそこに行ったしな。状況的に察してしまった。


「おい! うちのエーコに下品なものを見せてんじゃねぇ」


 つい、ロクームを睨んでしまう。


「それをアークが言うかねぇ……」


 ナターシャが何か呟いているが無視。


「うちのエーコ?」


 ロクームが目をパチクリさせる。


「ともかくエーコに近付くな」

「あの状況はしか……ん?」


 言い訳しようとしてたとこを後ろからロクームの肩にエリスの手が置かれる。なんか笑いをこらえている顔してるな。


「言われたな。ロクームは下がれ」

「だが……」

「全てお前が悪い」


 うわ! エリス怖い。有無を言わせない。まぁエリスからしても自分の目の前で、他の女に欲情された訳だしな……魔物だけど。


「……分かったよ」


 ロクームは、渋々頷き離れた席に座った。


「私はエリス。あっちはロクームだ」

「俺はアーク」

「二人から聞いている。二人を手配してくれて感謝する」


 エリスがチラリとナターシャとエーコを見た後、俺に頭を下げた。


「いや良い。本番はこれからだ。だから二人には、いて貰わないと困る」

「それも聞いた。お互い頑張ろう」

「ああ」


 話を終えるとロクームの隣に座った。ロクーム達の子供を抱えたライデンじーさんも首を傾げながら立ち上がりエリス達の近くに座り直す。まあこっちの会話は聞こえていなかったし、何故か離れた位置に座り直したから首を傾げるわな。


「アルを連れて帰ったルマー」

「お前がアークか?」


 次にやって来たのはユキとアルだ。


「ああ」

「タケルから話は聞いてるぜ。俺と試合しないか?」


 は? 何言ってるの?


「……状況分かってる?」

「がははははは……分かってるぜ。だから色々片付いたらやろうぜ」


 嫌ですが? 勝てる訳ないだろ。さて、何て言おうか……。

 俺とアルは初対面と言う事になっている。アルの強さを知ってるのは不自然だ。


「お前の覇気で分かるよ。俺には敵わない」


 うん。これなら自然だろう。


「だが、タケルが言うにはスピードがピカ一なんだろ? それを真似れば、俺はもっと強くなれる」


 あの馬鹿! 余計な事を話してるんじゃねぇよ。


「うん、まあ気が向いたらな」

「がははははは……宜しくな」


 豪快に笑い俺の肩をバシンバシン叩いて来た。いてぇよ! このモヒカン筋肉ダルマが!


「あ、そうだユキ。暫く雪だるま一族をここに滞在して貰う事は出来るか? もう少ししたらルティナの家族がやって来る。イーストックスから此処まで護衛して欲しいんだ。その後はエドが良いと言えば解散して良いからさ」


 まあサラもいるけど一人じゃ大変だろうしな。フィックスの兵は、アルフォンスが馬鹿な事をしないとも限らないし、なるべく動かさない方が良いだろう……。


「分かったルマ」


 そうしてユキとアルも元いた席に腰を掛ける。そこで食堂に現れたのはエドだ。


「アーク、目覚めたか」

「ああ」

「アルフォンス王の事、感謝する」

「まあ本番はこれらかだからな」


 俺は肩を竦める。


「そうだな。私もそれまでアルフォンスの事を出来る限りやっておくつもりだ。アークが目覚めたと聞いて少し抜け出して来た」

「昼メシは?」

「執務室で適当に摂る。ではな」


 そう言ってエドは食堂を出て行った。やっぱ出来た王だ。終戦後でやる事が色々あるだろうに態々俺の顔を見に来るんだもんな。

 そして、最後に席を立ち俺達の前に来たのはムサシ()だ。てか、いい加減座らせろ。席についてメシ食いながらでも話せるだろ?


「アーク殿でござるな?」

「ああ」


 このやり取りは何度目だよ?


「微力ながら拙者も力になるにてござる。共に行くでござる」


 ムサシは話が早いな。


「ああ……サムライの力、期待してる」


 社交辞令で返す。って言うか、今の上から目線だったかも? 失敗したかな? だが、ムサシは気にした感じもなく席に座り直した。

 そして、最後に一人残り、声を掛けて来た。今回の騒動で裏で一番動いてた馬鹿だ。お陰で全てのピースは埋まったのだけど。


「上手くやったみたいだな」

「お互いにな」


 パッシーンっ!


 俺は武とハイタッチをした……。

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