EP.39 終戦しました
俺は愚王を蹴り飛ばし、更に前に突き出す。ちなみにロープで繋がれているので、完全に引き渡すわけではない。
犬の散歩をする時のリードのような感じでロープの先端を俺が握っている。
「止める! 余が…余がわからぬのか!?」
愚王が必死に叫ぶ。まあ俺が面倒になって突き出したから、助かる事に必死なのだろう。下手すると死刑だから遅かれ早かれ死ぬ事になりそうだけど。
「本当に王か? いや、陛下でしょうか?」
急に恭しいなったな。やっと気付いたか。
「余こそアルフォンス国王、バレンタイン・アルフォンスであるぞ」
そんな名前だったのか。って言うか、チョコくれそうな名前だな。
愚王から貰っても、その場でポイってしそうだけどさ。
「失礼致しました……貴様! 陛下を人質に取るとは恥を知れ!」
なんか吠えているな。とりあえず王に気付いたようだしロープを引っ張り引き寄せた。
「宣戦布告って言葉も知らない無能が恥を知れだって。ぷぷぷ……」
小バカにした笑いをして、めっちゃ煽ってやる。
「何をーー!」
「吠えるのは構わないが状況分かってる? 早くエイプリルに会わせろ。つうかどけ! あ、無能だから分からんのか~」
ついヘイト稼ぎまくってしまった。兵四人は頭に青筋がめっちゃ浮かんでる。
それでも道を開けた。其処を通り本陣の囲いの中に入る。うん、やっぱ大将だけ座ってるな。
それと護衛かな? エイプリルの後ろに二人立っている。
「何だ? 貴様は?」
と言うか、この国の連中は二人称が貴様だな。国が出来たばかりだってのに、そこの兵になっただけで特権階級を得たと勘違いしてるのかね。
「見ての通り賊だけど?」
「賊? 老人一人を人質にして態々此処まで来るとは良い度胸だな」
「は~……お前もか。このアルフォンスの連中は無能しかいないのか? 哀れだな愚王」
つい溜息が出てしまう。
「ぬぬぬ……」
愚王が苦虫を噛み潰したよう顔をする。言い返したくても言い返せないのだろう。
「何?」
エイプリルの眉間がピクっと動く。
「この面をよく見ろ」
俺は愚王の髪を掴み無理矢理顔を上げさせる。
「……まさか、アルフォンス国王陛下っ!?」
「そうだ! 余だ」
「ぬぅ~……恥を知らずが……まあ良い! 何が目的だ?」
お! こいつは話が早いな。
「撤退の信号弾を上げろ!」
「上げれば王を解放するのか?」
「ああ」
エドに引き渡して、終戦後の条約等もろもろ終わったらね。と、そんな事を胸中思いほくそ笑む。
「……上げろ」
「はっ!」
エイプリルが後ろに控えている護衛? らしき者に声を掛けた。
ヒューーーン……パーンっ!!
そして赤い花火が打ち上がった……。
「はいご苦労さん」
そう言って俺は踵を返した。
「待て! 信号弾を上げれば王を返してくれるのではないのか?」
後ろで、エイプリルが何か言ってるな。
「ああ、全部終わったら返すよ」
振り返らずに答える。
「騙したのか?」
「まさかまさか……ただここで返すと戦争を再開されるからな」
「そんな事はしない」
俺は歩を進め外の見張りをしていた四人の開けた道を通る。
「どうだか? 宣戦布告を知らない無能集団にデマ情報に踊らされる愚王。信用出来るとでも?」
歩きながら返す。
「……やれ!」
やっぱり愚かだ。槍を持った外で見張りをしていた兵が一斉に動き出す。気配で丸分かり。
「よっと」
愚王を盾に振り返る。
ブスブスブスブスっ!
「ぎゃぁぁぁ……!」
「相変わらずうるせぇよ。愚王」
「こ、こいつ後ろに目でもあるのか?」
アルフォンス城にいた兵も同じ事言ってなかったか?
「王を盾にするとは卑怯なり!」
なんか吠えてる奴がいるな。
「死なないような位置取りしただけ感謝して欲しいね……<下位回復魔法>」
俺は確り致命傷を避ける位置で愚王を盾にした。それでも四本の槍が刺さったのだ。俺の下位回復魔法じゃ完全に治せないな。
まあフィックス城まで保たせれば、後はどうにかしてくれるだろう……。
「う、失われし魔法だと?」
エイプリルが愚王と同じ事を言ってるよ。
「ちなみに明後日には俺の十倍以上凄腕の魔導士がフィックス城に到着する予定だぞ?」
「なん……だと?」
「それにとある一族も今頃戦争に介入していただろうな。つまり戦力をフィックスに集めている。王を取り返しに来ても無駄だぞ」
まあ直ぐにクロード領の方に行くんだけど。尤もゾウ出現で逃げ出す連中だからな。直ぐにクロード領と言わなくなり、納める者がいない無法地帯になるだろうけど。
「くっ!」
エイプリルが苦虫を噛み潰したよう顔してそうだな。俺は振り返らずそのまま歩き出した。もう手は出して来ないだろう……。
今まで最前線いたアルフォンス兵達とすれ違うのは面倒なので南に迂回。サトモジャが監禁されれたとこ方面に向かう。時間は掛かるだろうが余計な戦闘は避けられる。
「こんなものか……まあフィックスまで保つだろう」
道中日が暮れたので、野営の準備を行いテントの中で愚王を縛ってるロープを解き軽く手による治療をしてやる。
「……魔法で治してくれんのか?」
「俺は下位までしか使えない。まあ城の治療設備なら助かるだろう。厳しかったとしても明後日には上位まで使える奴が来るから、そこまで生きてろよ」
「……本当に貴様の十倍凄腕の魔導士が来るのか……失われし魔法なのに……」
十倍以上だけどな。てか、先程から覇気がない。項垂れている。まあ兵達が役に立たなかったしな。
それに槍で穴が空いてるから痛くて仕方ないのだろう……。俺の魔法では表面だけは治療されているが中は傷付いたままだ。
「今日は休むぞ。愚王も適当に寝ろ」
そう言って再びロープを巻き直し俺は横になった。前日は三時間くらしか寝てなかったしな。即座に寝むりに落ちた。