EP.38 愚か者は踊っていました
「おい愚王。いつまでケツを見せびらかしてるんだ?」
割り船に放り投げた愚王は、ケツ丸出しなんだよな。引き摺って歩いたからズボンのケツの部分が破けてしまったのだろう。
「き、貴様のせいだろ……」
「いや、明らかに自業自得」
「ぷぷぷ……」
漕ぎ手の人が笑ってるし。
「貴様ー! 余を笑うとは……」
「何一般人を脅そうとしてるんだ?」
小刀を首筋に当てた。
「ぬぅ……」
「それに愚王。お前理解してるか? もうお前は終わったんだ」
「いいや。生きていれば再起できる」
どこまでも愚かだ。
「だから愚王なんだ。お前は今回の件に責任を取らされ退位する事になる」
「なん……だと……」
見る見る顔が青ざめている。やっと理解したか。
「良くてそれだな。悪かったらどうなるか分かるよな?」
首筋に当ててた小刀を裏返し峰でスっと引く。
「ヒィ……だがフィックスはどうなんだ? 自分達ばかり最先端を行き、やがてこの大陸を支配する気だ」
ふーん。そんな事を吹き込まれたのか。
「その証拠は?」
「何処か別の大陸と手を組んでるの良い証拠だ」
それってユグドラシル大陸? つうか、根拠として薄くない? ほんとどこまでも愚かだ。
「別の大陸とはユグドラシル大陸だな。だが、あそこと手を組んでないぞ。交易をしてるだけだ。フィックスからも様々の物を流してるから懐を痛めている」
「何故そんな事が貴様に……」
「一番最初にユグドラシル大陸の者に接触したのは俺だから」
「何?」
めっちゃ驚愕で目を剥いてるな。顎外れないか?
「しかしそのユグララシル大陸とやらから、技術や資源を貰ってるのは確かだ。大陸を支配しない理由にはならない」
微妙に違うぞ。ユグララシルってなんやねん。
「ちなみに愚王に流れた支配するって情報はデマだから」
「は?」
愚王は間の抜けた声を上げた。
「だからデマ」
「……何故貴様にそれが分かる?」
「だってその情報を流した奴、もしくはそいつの雇い主の屋敷を調べたのが俺だから」
「………」
愚王の目が点になる。
「その大陸を支配しようとしてるのは、その屋敷の主だ。いや正確にはユピテル大陸を破壊しようと企んでいた。その為にエドワード国王が邪魔だったんだ。つまり愚王、お前は踊らされたのだ」
「……デマカセだ!」
やっと絞り出した言葉それか。それにまた愚かな言葉。
「なら貴様! 証拠があるのか?」
「オ、レ」
「はっ!?」
「だから俺がいる事だよ。お前はツートックスを買収して戦争が起こそうと言う情報をフィックスに流さないようにしたな?」
「ああ」
「なのに何故、俺は開戦当日の朝にお前の前に現れた?」
「………」
愚王が黙り込む。やっと理解したか。
「それが何よりの証拠だ。誰かに踊らされるとは愚王にはお似合いだな」
「くくく……」
皮肉を言ったが苦虫を噛み潰したような顔して何も言い返してこなかった。完全に観念したようだな。ついでに渡り船の漕ぎ手の人が必死に笑いを堪えているし。
そうやって話してるうちに渡り船は向こう岸のツートックスに到着した……。
ツートックスに到着した俺は愚王が確り人質に見えるように縄で縛った。また襲われても面倒だしな。
これでもアルフォンス兵は、愚かだから襲ってきそうだな。さて、エイプリルって奴を探すか。
「おいエイプリル将軍ってのを探してる。何処にいる?」
町民に声を掛けた。
ちなみに適当な奴ではない。二十五歳を超えていそうな奴を狙ってだ。今声を掛けたのは三十代前半くらいの男である。
「知らない」
だろうな。買収されてるし。
「十三年くらい前、ウエストックスとツートックスがまだ一つだった頃、町長が処刑されたのを忘れたか?」
声を低くくして軽く睨み付ける。
「い、いきなり何の話だ?」
男が怯む。やっぱり知ってるな。だから二十五越えてそうなこいつに声を掛けたのだし。それより若いと下手するとガキ過ぎて覚えていない可能性もあった。
移民の可能性もあったが、馬車が高額なこんなご時世だ。ほとんどいないだろう……。
「同じ誤ちを繰り返すのかって、言ってるのだ!」
次は殺気に闘気を籠め軽く威圧する。
「だ、だから何の……話…だ?」
徐々に男の声が消え入りそうになる。
「ならば死ね! その町長の誤ちで俺は重症を負い、相棒を死んだんだ。エドワード国王も文句は、言えまい」
正確にはダークの事なのだが、俺はそう言って小刀を抜いた。
「ヒィ……」
男は完全に怯え、腰を抜かし後ろに倒れた。つうか、今更ながらに気付いたのだが、俺って悪役じゃねぇ?
早朝から渡り船を奪い、国王を脅して、兵達に傷を負わせた。俺ってこんな残酷にもなれるのだな。
ほんと今更だが……。
「……き、貴様! あの伝説の殺し屋ダークなのかっ!?」
愚王が驚愕の面持ちで騒ぎ出した。ん? ダークが伝説になっちゃってるよ。
「だ、ダーク……」
それを聞いた男は、失禁してしまった。まあ勘違いしてくれたし、このままにしておこう。
「で、エイプリルは何処だ?」
小刀のを首筋に当てた。
「お、教えるから、命だけは……」
あーあ。言ってはならぬ台詞を吐いちゃった。俺が完全に悪役だったら、有り金全部貰い、この男とその家族を奴隷にするけどな。文字通り命だけは取らない。
まあやってる事は悪役だが、俺自身はそんなつもりはないので、脅した詫びに10000Gくれてやろう。後で、エドに請求するけど。
あ! やっぱ悪役かも。エドに請求するつもりで金をバラ撒いてるしな。と言う訳で、エイプリルとやらがいる場所に向かった。
ツートックスから少し北に向かったとこに本陣を構えている。よく時代劇の合戦とかで見る感じだな。囲いがあり、その中で大将一人が椅子に腰掛けてるやつ。
近寄って行くと当然だが槍を持った兵達に囲まれた。
「何だ貴様は?」
「賊」
「…………は?」
今の間は何?
「だから賊」
「自らそう名乗るとは良い度胸だ! やってしまえ!」
四人程いる。と言うか、何故四人しかいない? 此処も手薄にし過ぎ。しかも人質が見えないの? 俺は愚王を前に突き出す。
「老人を人質にするとは汚い奴め! だが、老い先短い老人ごと斬り捨ててやる」
「や、止めろ!」
まーじで言ってるの? 愚王も焦ってるじゃん。もうこのバカ共の相手してるのも疲れる。
「王が愚王なら臣下も愚かだな」
「何だと? 我らだけでなく陛下を愚弄するか?」
「その愚王に槍を突き出しながら言う台詞じゃないな」
「ははは……その白髪のじじぃが王? 愚弄するのも大概にしろ!」
哀れ愚王。まあ俺がビビらせて白髪にしたんだけどさ。って言うか、もうめんどくさいな。愚王を始末してしまおうな?