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EP.27 決着

 狼煙を上げた直後、次々と敵側の機械アバターがダイブして来た。


「ユキ、行くぞ!」

「分かったルマ……吹雪けルマー!」


 隣にいるアルフォードに声を掛けられ、ユキは頷き得意の吹雪攻撃をした。


「効かない……だと?」


 攻撃を行ったユキよりアルフォードのが驚き目を丸くする。ユキが冷静でいられたのは、敵側が持つ大盾の性能だと分かったからだ。

 それよりも別の方に思考が行ってしまう。それは、アルフォンス軍が使っていたものと全く同じ大盾だと気付き、この世界でネット上での盾をリアルでも使えるようにしたのか? と、考えてしまう。

 となると……アルフォンス国をオドルマンと言う人間が誑かした? いや、今は考えるのはよそう。と、そこまで思考したユキはかぶりを振り戦いに集中すべく前を見据える。


「あれは大盾の性能ルマ。盾を潰さないとユキの攻撃は通じないルマ」

「そういう事か……盾なんて初めて持ち出してきたと思えば、ユキ対策だとはな」


 アルが嘆息するように吐き捨て歯噛みする。


《これはまた骨董品を持ち出して来たサ》


 気付くと横にモニターが出現しており、パルサがそう言って来た。


「骨董品?」


 アルが聞き返す。

 このネット世界では特殊な武具などは完全再現できない。つまり、この世界のリアルには、完全版のあの大盾があると言う事だ。そして、リアルでのあの大盾は、軽くて丈夫で炎や氷に強い。しかし、それをネットで完全再現出来いので使われていなかったらしい。

 パルサはそう説明した。

 となるとこの世界のリアルにあるあの大盾をオドルマンがアルフォード達の世界に流したと言う事になる。


《おそらくユキの事を知って、急いで盾を組んだのだろうサ。ただ完全再現されたのは氷耐性のみかしら? だから必ず弱点がある筈サ》


 そう付け足す。


「このユキの槍は、炎の力を再現してるマ?」

《完全再現は無理だったサ。でも、多少は炎の力があるかしら》

「分かったルマ」


 ユキの所持している槍の銘はフレアランス。炎の力を宿している。吹雪耐性がある敵に対し対抗出来るようにとエドワードがくれた一品だ。つまりフィックスの科学力で作った物である。

 それが使えるか確認したユキは槍の能力で燃え上がらせ突き刺した。するとあっけなく貫けた。


「ふん!」


 アルフォードも盾に向かって殴る。すると楽々ひしゃげた。


《どうやら氷耐性だけに絞ったようサ。丈夫さや炎耐性を切り捨ててるかしら》


「なら、時間は掛かるが余裕だな」

「そうだねルマ」


 とは答えたもののまとめて倒せないのは面倒だな。と、思うユキ。何故なら、そうこうしてる間に次々に敵側はダイブして来て人数が増える一方だからだ。


「よくもまぁこんな温存してたよ……なっ!」


 アルフォードがそう言って回し蹴りで何体か薙ぎ倒す。


《でも高性能アバターは、ほとんどあの作戦に投入したかしら。切り札のようなアバターはあるかもしれないけど、大半がザコだろうサ》

「<フレアボム>ルマー!」


 ユキはそう叫び槍を横に大きく振るう。炎が槍から飛び出し広範囲焼き尽くす……と言う筈だった。しかし不発。

 槍を振るった1mくらい先までしか炎が出なかった。本来のユキのフレアランスより、かなり性能が落ちているが、それでもある程度再現したパルサは流石と言えよう。

 その1m範囲の敵の盾は燃え尽きたのだから尚更だ。


「吹雪けルマー!」


 そして吹雪で凍らせる。この戦法が一番効率良いかもしれない。と、思うユキ。


「<フレアボム>ルマー!」


 同じく槍から炎を吐き出させようと振るうが……。


「ルッマーっ!?」


 今度は槍が掴まれ不発に終わる。しかも今までの敵アバターと違い大きい。ユキは、そのアバターに蹴りを繰り出し、槍を手放し蹴りの反動で後ろに下がった。


「吹雪けルマー!」


 盾は持っていないので吹雪攻撃を繰り出した。しかし効かない。


《やっぱり切り札を持っていたようサ。盾がなくても吹雪が効かないアバターを出してきたかしら》


「なら……おぉぉぉぉ!!」


 アルフォードが雄叫びと共に、その大きなアバターに突っ込む。そして殴り合いが始まる。

 いくらアルフォードが疲弊してるとは言え、それとやり合うとは、かなり強い事が伺えた。

 ユキは、アルフォードが引き付けている隙に手放した槍を回収する。


「ユキ! ザコの相手をしててくれ!」

「分かったルマ」


 アルフォードに巨大アバターは任せ、ユキはザコの処理に移った。フレアボムの後に吹雪と言うコンボが十分。

 しかし、ネットの中なので直ぐに疲弊してしまう。アルフォードは、此処で幾度なく戦い続けての疲弊だが、ユキはこの一戦だけで苦しそうにしていた。

 それも仕方ない事だ。ユキは魔物であり、パルサもネット上での肉体の構成を完璧に出来なかった。今まで人を構成して来たが魔物なんて前例がなかったのだから。もっと時間があれば組み直したかもしれないが。


「はぁはぁ……」


 遂にはユキは膝を付いてしまう。


「ユキーっ!!」


 アルフォードがユキに気付き叫ぶ。ユキの周りにワラワラと敵アバター達が集まって来る。

 まずい……殺られる。と、ユキもアルフォードも思った瞬間、パルサもダイブして来た。


「お待たせサ。アル、下がるかしら!」

「ぱ、パルサっ!? 分かった」


 アルは一瞬目を丸くするが、直ぐに言われた通り下がる。


「<カプノース>」


 パルサは両手を突き出しアルフォードもユキも知らぬ魔法を唱えると手から煙がモクモクと吐き出された。それにより敵アバターの視界を塞ぐ。


「下がるサ」


 パルサがそう言うとアルフォードは、ユキを抱え後ろに飛んだ。


「二人のお蔭で準備が整ったサ」


 そう言うとキーボードを中空に出現し、指を走らせる。その間に煙が晴れてしまう。効果時間が短い煙魔法のようだ。

 ユキは何の準備? と、尋ねようとしが、聞く前に敵アバター達がいきなりビリビリと電気が走り出したす。やがて白煙を上げ崩れ落ちた。

 そして一体、また一体と次々に消える……ダイブアウトして行った。


「パルサ、今のは何だ?」


 アルフォードがそう尋ねる。


「話はリアルでするかしら。じゃあまたユキはこっちでリアル側に戻すかしら。ダイブアウト」


 そう言いながらキーボード操作するとユキの視界が暗転しダイブした部屋に戻って来た。


「まずはお茶を用意するかしら」


 そう言ってパルサはお茶を用意する。自分とアルフォードにはロイヤルミルクティー、ユキには前回と同じくレモンティーだ。


「やっと今回の件が片付いたサ。二人ともありがとうサ」

「いや……それより最後の何だよ?」


 同じ事をアルフォードが訪ねた。それだけ先程の一瞬で片付いたのが衝撃的だったのだ。


「ハック……最初にアルとユキのアバターを構成した逆で相手のを壊したかしら」

「そんな事出来るのかよ?」

「頸椎に付けた装置のアドレスが特定できれば可能かしら。調べるのに時間が掛ったサ」

「それで準備が整ったって言ったルマ?」

「そうサ。二人が時間を稼いでくれたお蔭で特定できたかしら」

「今まで何でしなかったんだ?」


 再びアルフォードが問う。最初からしていれば、もっと楽出来たと感じているからだ。


「あれは切り札かしら。普通は出来ないサ。あたしだからこそできる裏技かしら。ただそれが出来る相手に知られると、対策される可能性があったかしら。だからこれまでやらなかったサ。尤も今までアドレスを特定する仕込みをしていたからこそ、あの短時間でハックする(壊す)事が可能だったかしら。アルが半壊させたあの大きなモニターも完全に壊したサ」

「なるほどな」


 アルフォードが頷く。

 確かにあんな手が使えると知れば相手も対策するだろう。ユキの吹雪のように。


「これで最後だったからこそ使った裏技かしら。最高のタイミングとも言えるサ」

「確かにな」

「後は奴らのリアル側の隠れ家、ネット側の先程の場所を政府に教えたかしら。後はこの世界の人間がどうにかしてくれるかしら。そう言う訳だから今までありがとうサ。特にアル」

「がははははは……良いって事よ」

「ユキはアルを連れ戻しに来ただけルマ」

「アルには、あっちの世界の事が片付いたら、タケルに報酬を貰うと良いサ」

「ああ、そうさせて貰う」

「ユキは何かいるかしら? お礼したいサ」

「さっきも言ったけどアルを迎えに来ただけルマ」

「ならレモンティーなんてどうかしら? 何もお礼しないのは心苦しいサ」

「じゃあ有難く貰うルマ」

「じゃあ帰りに渡すサ。それと何度も言ってるけど二人とも本当にありがとうサ」


 パルサは再びお礼を言い深々と頭を下げる。やっと今まで手掛けていた事が片付き晴れやかになっていた。


「じゃあ今日はゆっくり休んで、明日帰ると良いかしら」

「ああ、そうさせて貰う。流石に疲れたぜ」

「分かったルマ」

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