EP.23 ネット内の最終決戦へ
それから、あっと言う間に日々が過ぎて行く。と言うのは忙しくてアルフォードは、そう感じていた。
何度も奴らが侵攻して来た。何人いるのか分からないが、一人で対処し続けるのは厳しいと感じ始める。と言うのは、ネット内で死んでもリアルでは生きてるいると言うのは厄介だからだ。
それでも、たまにお茶をする時間くらいは出来る。とある日アルフォードは、パルサとゆったりお茶をし疲れを癒す。
「アル、だいぶお疲れかしら」
テーブルに着き、ロイヤルミルクティーを飲むパルサ。相変わらずキーボードを弾き、視線をモニターに向けたままアルフォードはに話し掛けて来た。
「かなりな。体を動かしてる感覚しかないのに、脳が疲弊してると言うのは厄介だ」
アルフォードも同じくテーブルに着きロイヤルミルクティーを飲む。
いつ飲んでもこれはしつこくない甘味が良いんだよな。と、感想を抱く。
それに甘い物は疲れた脳に丁度良い。他のお茶も出して貰った事はあったし、この世界のお茶を色々楽しでいた。アルフォードはどれも美味いと感じる。
しかし、最近は疲れが抜けきれないせいかアルフォードは、ロイヤルミルクティーばかりパルサに注文していた。
「敵の目的はアルの疲弊だから仕方ないかしら」
疲れたアルフォードに気を使いパルサは、襲撃があっても寝てるアルフォードを起こさなくなった。
アルフォードが手伝い始めてからの襲撃で民家が三つ崩壊した。
非情な選択だったが、アルフォードに万全に戦って欲しいと言うのもあるが、アルフォードに狙いを絞ってるのかを確かめる為もあった。
結果、夜中の襲撃は二日で終わり、それ以降来なくなった……が、三つの民家を無駄に破壊した事は腹ただしい。と、アルフォードは思う。何よりもっと動けない自分に腹を立てていた
「それで最近このロイヤルミルクティーばかり頼んでるが、悪いなパルサ。お前まで付き合わせて」
パルサは自分の分もアルフォードに合わせ毎回ロイヤルミルクティーを用意していた。
「頼のんでやってもらってるのはこちらだから当然かしら。いくらリアルの肉体が強くてネットで有利になると言っても今まで使っていなかった脳が疲弊し、持久戦では脆くなってしまう……。それを計算に入れていなかったあたしのミスサ。尤も計算に入れていても打てる手はなかったから、意味なったかもしれないかしら」
そう言って自嘲気味に笑う。
パルサもずっとこの世界に慣れていないアルフォードをフォローしたり、敵の戦力や本拠地など散々調べている。
やれる事をやっているとアルフォードは思うが、本人からすれば足りないと思ってしまうのだ。
「それにこの頃は、敵の戦力が弱まってるかしら。その理由を調べるのに、あたしも頭をフル回転してるから、このロイヤルミルクティーは有難いサ」
さっきの自嘲気味を払拭するかのように艶やかに笑う。
「確かに弱まってるな」
「アルの弱点を、大方相手は理解したかしら。だからアルを疲弊させる為に無駄な戦力を使わないサ。ちなみにここ最近アルが一回の戦闘で戦っている人数は何体だと思うかしら?」
「三十体だろ? いつもその前後だ」
「答えは三人サ」
「は?」
「一人が司令塔になって九体を操ってる」
マジかよ。と、アルフォードは目を丸くする。
「そんな事が可能なのか? 九体を操るとか」
「あの量産タイプの利点は同じ形をしている事かしら、必ずしも一人が一つのアバターを操作する必要はないのサ」
「なるほどな。同じ姿をしているから、誰が誰の操作をしてるのか分からないってのはあったが、一人でいくつも操作できるとは驚きだぜ」
「予想通りアルのオーラバスターが露見したあと、多少強いアバターで来たかしら。そこで更に持久戦に弱いと分かると一人で九体のアバターを操作し、しかも一体一体が弱いサ。これは強力なアバターを温存してる可能性があるかしら」
敵も考えてるな。それにパルサは一人だと言うのに、それらを理解し打って出る方法もずっと模索してる。自分で言う通り天才だな。と、舌を巻くアルフォード。
「流石の天才パルサ様でも苦労してるな」
「バカにしないでくれるかしら? 少しづつ追い詰める準備は進めてるサ。それにあたしは一人でも先回りしたりしてるかしら」
ぷく~と口を膨らませるパルサ。素直な称賛と労いなのに皮肉に取られてしまう。
「がははははは……悪い悪いパルサ」
そう言って頭を撫でた。
「……どうせなら耳にしなさいかしら」
と、ボソっと呟くがアルフォードの耳には聞こえていなかった……。
そうして疲弊し苦労しながらも、戦い続けて瞬く間に時が過ぎ、タケルが来て三週間経つ。
布石を打っておいたと言ってたが、それが機能するなら近々俺の迎えが来るかもな。と考えるアルフォードだが、その前にこっちの問題を片付けておきたいとも思っていた。
「よーおはよーパルサ」
「あ、ああアル……おはようかしら。ふは~~」
大きな欠伸を出しながら、それでも相変わらずキーボードを弾きモニターに視線を向けている。
「眠そうだな? 今日は俺がお茶淹れるよ」
「感謝するかしら。でも、ブラックコーヒーが良いサ」
アルフォードも流石にロイヤルミルクティーだけは淹れ方を覚えた。とは言ってもパルサが淹れたのより味が悪い。コーヒーに関してはアルフォードの世界にもあるので、淹れられる。
寝不足なのかコーヒーで眠気覚ましをしたいのだろうと思い、特に何も言わずアルフォードは、パルサのコーヒーと自分のお茶を淹れ、カップをテーブルに置き席に着く。
「で、どうしたんだ? パルサが寝不足とか珍しいな」
「本拠地を見つけたかしら。その尻尾を見つけて追いかけるのに徹夜になってしまったサ」
「おお! やるじゃねぇか。やっと打って出れるぜ」
と、意気込んだが直ぐにパルサに止められる。
「まだ止めた方が良いかしら」
「どうしてだ?」
「今のアルが完全に疲弊してるかしら。最初の頃のアルなら一人で余裕だったかもしれないけどね」
「今日はダイブしていないしいけるだろ?」
疲れは感じるがダイブ一度済むなら問題無いだろ。と、思うアルフォード。
「これまでの奴らのアバターから、恐らく切り札とも言えるアバターが控えているサ。その戦力が未知数。それと一対一なら、疲弊したアルでも可能かしら」
「ザコも当然ワラワラと…か」
「そうサ」
「ならどうする?」
「これまで流れから計算するに、近々大規模作戦を展開して来るかしら」
「その前に本拠地を潰した方が良いのでは?」
「疲弊してるアルには戦力が二つに分かれている状態で叩いた方がまだ楽かしら。つまり大規模作戦を展開したらそれを、そしてそれが終わり次第本拠地に行くのが良いサ。大規模作戦後にいきなり攻められたら、相手も大混乱かしら」
ニヒとやつれた顔で笑うパルサ。
それは良い手なのかもしれない。二度も戦うのは面倒だが、その大規模作戦が終わり次第となると本拠地も慌てるだろう。そんな中で暴れれば大混乱。と、万全ではない俺には、こっちのが良いかもしれないなと思うアルフォード。
ただ懸念が一つある。
「タケルが言ってただろ? そろそろ迎えが来るかもしれないって」
「それも考えてるかしら」
「まさか来なかったら、その大規模作戦が開始されるのを悠長に待ち、来たら一気に本拠地を攻めるって作戦に切り替えるのか?」
「まさか……おっと来たサ。良いタイミングかしら」
パルサはキーボードを弾くスピードが格段に上がる。それに合わせ、モニターに映るものが目まぐるしく変わって行った。
「どうした?」
「噂をすれば何とやらかしら。大規模作戦が開始されたサ」
「良し! じゃあダイブするか」
「待つかしら」
気合を入れたアルフォードだが、出鼻を挫かれる。
「どうしてだ?」
「奴らが企んでいる大規模作戦が何なのか説明する前に来てしまったかしら。とりあえず落ち着いて静観するサ」
「そう言えば内容聞いてなかったな。奴らは何を企んでいる?」
「政府への大侵攻」
せいふ? と、首を傾げるアルフォード。
「それ何だ?」
「ああ、アルの世界で言うお城への大侵攻サ。王侯貴族制度は、ないから少し違うけど似たようなものと思えば良いかしら」
「つまり国の中心と思えば良いか?」
「ほんと頭が回るかしら」
「がははははは……これでも王族だから、それなりの教養はあるんだよ。それで何で今まで狙わなかったんだ?」
国の中心があるなら、最初からそこを攻めれば良いと思うアルフォード。
「まず、オドルマン博士の行方を探せれば政府と構える必要はなかったサ。むしろ戦力差を考えて構えない方が良いかしら。だから民家を狙ったのサ。他にアルには言ってなかったけど研究施設関連とかかしら」
「研究施設? そこは守らなくても良かったのか?」
「研究データは他の研究所に送られていたから破壊されても損失にはならなかったのかしら。送られている様子がないとこにはアルに行って貰ったサ」
「そうだったのか。まぁ俺も一回一回どこに行ったか聞いてなかったしな」
「それでそこらを襲い、恐らく政府への侵攻の準備をしていたかしら。強力なアバター製作とかしてサ」
「あ、もしかして俺に当てて来た一人で九体操るアバターも、その実験だったりとか?」
「頭の回転が良いのは助かるかしら。その通りサ。そうやって政府に対抗できる軍隊を着実が蓄え、かつ懸案事項だったアルをここ最近で疲弊させたかしら。それでここが攻め時だと判断すると思ってのサ」
「戦力って、今回何人? いや何体で攻めて来てるんだ?」
「ざっと千」
「ちなみに政府側は?」
「五百」
「なっ! いくら何でも厳しいぞ」
差の大きさに目を剥くアルフォード。
「ええ。アル一人ならね。でも、今回相手にしてるのは政府かしら」
あ、政府とやらにも戦力のアテにできるか。なんせ国の中心だ。と、得心行くアルフォード。
「にしても五百って、国の中心にしては少なくないか?」
「最新鋭のアバターだから、戦力は高い方サ。それでもアル一人に全滅させられる程度のものかしら」
「それが国の中心って大丈夫か?」
「前にも言ったけど、この世界はアルのようにリアルの肉体が強いわけじゃないかしら。それでネットでの強いアバターを作って売る商売もあるけど、それもアバターの研究する者がいてのものかしら」
「この世界全体のレベルが戦闘に関しては弱いと?」
「そうサ。で、今回だけど政府は流石にこの数には負けるだろうし、今までより強力なアバターを投入してるだろうから尚更サ」
「なのに直ぐには行かない?」
「直ぐ行けばアルが味方だって信じて貰えないサ。なら悪いけど政府が半分くらいやられてから行った方が良いかしら。アルも味方……いや、敵対してない相手と言うべきかしら? その相手に攻撃されながら戦いたいかしら?」
「勘弁だな」
そんな訳で、静観する事に暫くし……、
「そろそろ良いかしら? アル、行けるかしら?」
「応ッ! 待ってたぜ! じゃあ行って来る。ダイブコネクト」
そしてアルフォードはネットの中に潜って行った……。