EP.22 疲弊して行くアルフォード
「アルもやっぱそこそこ強かったかしら。タケルにあそこまで言わせるんだからサ」
タケルとアルフォードの対戦が終えるとパルサがそう感想を漏らす。
アルフォードは、腹を抑えるが痛みはない。初めてネットで殺られたが、こっちに戻ってくると痛みはなくなるのだな。と、初めての体験が夢か幻だったのではないかと、目をパチクリさせていた。
「……遊ばれていたけどな」
「そりゃ実力がそれなりに拮抗してて同じ素手の奴が相手なんだ。遊ぶだろ」
同じくリアルに戻ってきたタケルがそう言う。そういう意味じゃないんだがな。アルフォードは、完全に手加減されていたって意味で言ったのでタケルの感想に呆れる。
「アルは火力だけなら俺と互角だったぞ」
「おおー、タケルにここまで言わせるとは凄いサ」
「うそこけ」
二人して何言ってるんだ? と、思うアルフォード。
「いや、本当だよ」
「の割には、かなり試されていたと思うけどな?」
「だから言ってるだろ? 火力だけならって」
「そうか? タケルの一撃のが重かったと思うぜ」
「それはスピードがそう錯覚させているんだよ」
「確かに速かったな」
「アルは索敵気法と気の重点移動を完全にマスターしている。誇って良いぞ。今までこの二つをマスターしてる奴はいなかった」
アルフォードは、溜息を溢し……、
「他ならなぬタケルが会得してるだろ? 更にそれ以上の事も」
「こういうのは自分を数えないものかしら。だからほんと凄いと思うサ」
負けたってのに褒め称えられても嬉しくないとアルフォードは、釈然としない思いを抱く。
「って訳で課題はスピードだな。色々落ち着いたらアークに何度も組手して貰うと良い。尤もあっちのが弱いだろうから嫌がりそうだな」
アークは、エーコと一緒に暮らしていてタケルのダチだっと、タケルが帰って来た時にそう説明されていた。
「だが、正直俺があっちの世界で出会った中でアルより強い奴はいなかったな。半精霊化したルティナちゃんが唯一勝てるかどうかってとこか」
秘薬で無理矢理精霊の力を復活させたと、これまたアルフォードは、説明されていた。ただ時間逆行のせいで、それは無かった事になってるのだけど。
「そんな訳で、今より強くなりたければアークを目指すと良いかもな」
「考えてみるよ」
「それと……<収納魔法>」
タケルの右脇の空間が割れ、その割れた空間に手を入れたタケルはリング状の物を取り出す。
「これやるよ」
そう言ってそれをアルフォードに渡す。
「これは……ブレスレットか?」
「足用のな。つまりアンクレットになる」
「アンクレット?」
「スピードを上げる補助具のようなものだな。最初はそれで足を慣らして行き、いずれはそれ無しでも速く……いや、それがある時よりも速く動けるようになるのが理想的だな」
「良いのか?」
「ああ、やるよ」
「じゃあ有難く」
良い物を貰ったぜ。と、アルフォードはホクホク顔になる。
「ただ難点がこの世界じゃ試せない事だな。外でそれ試すと周りから良い目で見られない」
それも当然だ。この世界では己の体を鍛える人は皆無。まぁある程度は鍛えるが戦いに特化させるまでは鍛えない。それなのに外で猛スピードで動き回っていれば、不信に思われてしまう。と言うより迷惑なのだ。
「ん? ネットで試せば良いだろ?」
「ネットで構成できるのは体までサ。道具や武器類は簡単なものなら構成できるけど、そういった複雑な術式が組まれているものは、天才のあたしにも無理サ。アルの服もそうだったかしら」
確かに天才だが、自分で天才とか言っちゃったよ。と、呆れる。それと同時にアルフォードは、先代闘神より、受け継いだ衣がネット内だとフルに性能を発揮出来なかったと思い出す。先代闘神から受け継いだ闘神の衣は、着ているだけで力がみなぎって来る特殊な衣だった。
「これだけの実力があるのに、あっちの世界でアルがいないのは惜しいな。まぁそこはアークに期待だな。布石は打っておいたが、アルを呼び戻すかどうかあいつ次第だからな」
三週間程で呼び戻される。呼び戻されなかった場合は五週間程で全て解決し、その後に帰れば良いと説明を受けていた。
時間逆行が発生してるので下手なタイミングで帰るとそれに巻き込まれるから良くないのだ。
だったら、その三週間でタケルが呼び戻せば良いだろと思ったアルフォードは、その辺りの事を聞いた。すると……、
「バランスが悪いだろ?」
またバランスか。と、思うアルフォード。
「世界のバランスか?」
「じゃなくて何でもかんでも俺に任せるのはバランスが悪くないかって話だよ。例えばアルの場合だとエドが国を支え、アルはその兄貴を支える。そうやってバランスを取ってるのだろ?」
「つまり持ちつ持たれつって奴か?」
「それだな」
それなら納得だ。しかし、そうなると……、
「じゃあこれは何だ? 俺はお前に何かした覚えはないぞ?」
そう言って先程貰ったアンクレットを見せた。
「俺だって人間だぞ? やりたければやるし、奪いたければ奪う。抱きたければ抱く」
そう言ってパルサを抱き寄せる。
「もう……」
パルサは顔を真っ赤にしてるが、まんざらでもなさそうだ。その光景にアルフォードは唖然としてしまう。最後の言葉いらんだろ、と
タケルと言う男が、色々分からないでいた。
「そう言うのは俺がいないとこでやってくれ。俺がいる前でおっぱじめないでくれ」
「あたしを可愛がってくれるならアルなんてどうでも良いからおっぱじめても良いサ」
「おい!」
パルサも何てことを言いやがる。しかも体をくねくねさせるな。と、アルフォードはドン引きした。
「って訳で俺はもうあっちの世界に戻るわ」
そんなパルサを無視してタケルは立ち上がる。
お前も何て奴だ。その気にさせておいてそれはパルサが可哀想だろ? 実際パルサがこの世の終わりだと言わんばかりの顔してるし。と、アルフォードは心底呆れた。
「色々片付いたら相手しやるから」
そう言ってパルサの頭を撫でる……いや、猫耳をモフる。
「絶対だからかしら」
「はいはい。って訳で、パルサちゃんも引き続き宜しく。あ、なんならアルと遊んでも良いぞ。最近ご無沙汰だろ? アルに相手して貰え」
「こんなムキムキのモヒカンなんてごめんサ」
パルサは、あからさまに嫌そうに顔をうげーとさせる。
「……本人がいないとこで話してくれ」
今のこの二人のやり取りで、アルフォードは精神的にどっと疲れた。
「じゃあそういう訳で」
そう言ってタケルは手を振って部屋を出て行った。
気まずい。変な空気になったと感じるアルフォード。
「……襲わないでねサ」
「は~~」
「何かしら? その溜息は」
「こないだ俺を口説いたの誰だよ? 目移り激しいなと思ってな」
「な、な、な、口説いていないサ。それに振った男が良く言うサ」
動揺し過ぎ。しかも口説いていないと言いつつ振られた自覚があるとか意味が分からん。と、更に溜息が出てしまうアルフォード。
「あたしに着いて来るって言うなら考えてあげなくもないんだからサっ!」
もう言ってる事が意味不明だ。
「だから、俺は兄貴を支えるから着いては行かないって言っただろ?」
「また振られたかしら。こんな可愛いあたしを振るなんて良いご身分サ。あ、王子様だった……一応」
一応は余計だ。と言うか今度は自分で可愛いとか言っちゃってるし。と、アルフォードは、げんなりし、そろそろこの話を切り上げたいと思い始める。
「がははははは……頑張ってタケルを落とせば良いだろ?」
なので、笑って打ち切りに掛かる。
「それは無理かしら。タケルは誰とも特別な関係になろうとしないのサ。だから態とああやって軽薄な態度を取ってるかしら」
パルサが自嘲気味に笑う。アルフォードは、何故だか踏み込んではいけない気がした……。
それ以上踏み込めないし、同じ部屋にいると居たたまれない気分になり、その日は自分が取ってる部屋に戻り休んだ。
「これで終わり!」
次の日、早朝からネットにダイブしたアルフォードが大暴れした。そして最後の一体に飛び蹴りを入れて終わらる。
それにしても最近どんどんアバターの性能が悪くなっている気がすると思うアルフォード。が、今はそれより気になるのが……、
《アル、次行けるかしら?》
「応よ!」
《じゃあ転送するサ》
モニターの中のパルサにそう言われ、アルフォードは次の戦場に発つ。気になるのは連戦が多い事だ。
リアルの肉体を使えれば疲れを感じない程度なんだけど、同じ体でもアバターだと疲弊が激しい。
今日は、これでアルフォードは三戦していた。次で四戦目となる。いつも以上にネット内で暴れているのだ。
「よし! どっからでもかかって来い」
同じ姿をしたアバターに向かってに叫ぶ。
パルサから、ああ言う同じ姿をしたのを量産型と聞いていた。もし一体だけとか少数人数が違う姿をしていれば、指揮官タイプの少し強力な奴とも。もしくは一点物の超強力な可能性がある、と。
今回の相手は三十人。アルフォードが叫んだ事で六人くらい直ぐに動き出しアルフォードを囲む。
しかし、アルフォードの視線はその向こうに行く。違う形をしたアバターがいるからだ。
「どけ!」
その違う形のアバター……指揮官タイプに向かって走り、邪魔してきてる囲っていた奴の一体を首根っこ掴み、強引に払い除けた 吹き飛ばされ、他の二体に衝突。呆気なく三体を葬る。が、そんなのに目もくれずアルフォードは、指揮官タイプに向かって走る。
「邪魔だ」
それを守るように立った二体のアバター……珍しく剣を持ってる。今までの相手は全て無手だった。が、アルフォードお構い無しに両拳を突き出した。
相手が斬り掛かり、アルフォードの両肩にそれぞれ当たる。しかし、闘気の重点移動でそんなものはもろともしない。
アルフォードは、索敵気法で、肩に来るのは分かっていたので闘気をそっちに移動させダメージを無効にさせたのだ。
それにより相手は怯む。それを感じ取った瞬間、両肩に回した闘気を瞬時に突き出した拳に移動。アルフォードの両拳がそれぞれ二体のアバターに炸裂した瞬間、闘気も加わり一撃で粉砕した。
「ば、バケモノめ」
敵側が初めて喋る。しかしアルフォードは。まぁそれでもお構いなしに回し蹴りを放ち指揮官タイプも倒す。
そこからは指揮をする者のいない烏合の衆。四戦連続で疲弊してるアルフォードでも余裕で処理出来た。
「ふ~」
アルフォードは、息を大きく吐き出す。流石にこの日は、疲れ切ってしまった。
《お疲れ》
モニターの中からパルサが労いの言葉を掛けた。