EP.21 アルフォードvsタケル
ブクマありがとうございます
それにしても女性亜人の尻尾に触れるのはお尻や胸を触る行為と同じじゃなかったのか? とアルフォードは疑問に思う。
と言うのも、自然な手付きでタケルは、パルサの尻尾を撫でているからだ。パルサはパルサで、嫌がるどころか目を細めて気持ち良さそうにしてた。
もしかして、この二人ってそういう関係? と、アルフォードは勘ぐる。
「おっほん! あ~久々の恋人との再会は分かるが、俺のいないとこでやってくれ」
アルフォードは咳払いをしつつ指摘した。
「恋人?」
タケルが何の事だ? って感じで首を傾げる。
「あたしは、いつか落としてやるって思ってるかしら」
どうやらパルサの片思いだった。
だがその思いに付け込んで尻尾を撫でるのはどうなんだ? まだ撫でているし。と、指摘して良いのやら悪いのやらと悩むアルフォード。
「ん? ああ、尻尾か? 手触りが良いんだよ。アルも触るか?」
「アルも触るかしら?」
アルフォードはズッコケそうになった。頭を抱える。
「最初に触った時、凄い警戒しただろ?」
「あれは触ったと言うより握ったって感じだったかしら」
「おいおい。握ったのか? 尻尾は敏感だから痛がっていただろ?」
痛がってはいなかったが……そもそも、そんな強く握ってないんだがな。と言うかこれ話の流れがおかしいぞ。と、内心困りが果てる。
「パルサ……それはケツも触って良いって意味なのか?」
「それはダメかしら」
は~。と、アルフォードは溜息が溢した。基準が分からん、と。
「尻尾は、親しい人ならギリOKかしら。アルも、もう親しくなったサ」
なんだそれは。いや待て……これはもしかしたらタケルの前だからそう言ってる? タケルを落とすとか言ってしまったし照れ隠しか? と、割とどうでも良い事を考えてしまうが、何でも良いが尻尾もケツも興味はないな。と、思い直す。
「それは有難いが、遠慮するよ。タケルに触って貰った方が嬉しそうだしな」
長くなりそうだし、もう切り上げよう。と、アルフォードはめんどくさいと思い始めた。
「な、な、な! そんな事ないか、かしら」
顔真っ赤にして言われてもな。そもそも落とすとか言ってただろ。と、指摘する事も一瞬考えたが、もう突っ込むのは止めようと決める。
「それはそうとアル」
完全にパルサをスルーしてタケルがアルフォードに話し掛ける。落とす宣言されていたけど、完全に眼中にないようだ。
「何だ?」
「良い気を持ってるな」
「気? ああ、闘気か? そうか?」
「ちなみに武器は持っていないようだが……もしかして得意なのは拳か?」
「そうだぜ」
アルフォードは右拳を突き出す。
「面白れぇ。俺と組手しないか?」
「組手? 良いぜ」
アルフォードもタケルの実力には興味があったので快諾した。
パルサから相当強いと聞いていて、実際会ってみたらそれを肌でヒシヒシと感じるだろうと思っていた。が、実際は真逆……。不自然な程に全く気迫が感じられない。
闘気とは体内エネルギー……体を動かそうとする力。それを闘気として自在に扱える者は稀だが、扱えなくても誰もがそれを持っている。
それが覇気として漏れでるもの。闘気の扱いに長けた者程、それはヒシヒシと伝わる。だと言うのにタケルは全くそれが感じられない。扱えない者ですら微弱ながらに漏れ出ると言うのにだ。故に不自然。
だからこそアルフォードは、タケルの実力が気になった。
「よし! 決まりだ。場所はネットで良いな?」
そう言ってタケルは頸椎部分にネットと自分を接続する装置を取り付けた。
「OK。じゃあ先に行ってる。ダイブコネクト」
この装置が頸椎に刺さり、脳の中を電子機械が蠢く。その工程が終わるまで、少し時間が掛かる。それを一度体験したアルフォードには分かっていたので、先にダイブする事にした。
そしてアルフォードがネット内に降り立ち数分後にタケルもやって来た。
「お持たせ。せっかくネットだし制限無しでいかないか?」
「良いぜ」
ネット内で死んでもリアルでは生きてるので問題無いと言う判断からだ。
「パルサちゃん、ゴングを宜しく」
《分かったサ》
「ごんぐ?」
聞き慣れない言葉にアルフォードが、首を傾げる。
《一度鳴らすから、手を出さないでね。タケル》
「了解」
カーンっ!
金属を叩いたような音が鳴り響いた。
《これがゴングサ。次鳴らした組手開始で良いかしら?》
「ああ、分かったぜ」
カーンっ!
数秒後、ゴングが鳴り響く。その瞬間タケルが消えた。
………………………。
右! 瞬時にアルフォードは、見抜いた。
「くっ!」
右から来た攻撃を両腕でガード。重い。これは防御ばかりしていたら腕が保たないと感じた。
しかも速い。ダーク並み、いや、それ以上に速かったかもしれない。と、アルフォードは判断するがアークなら互角のスピードだ。
ダークは闘気を足に集中させ早く動くと言う芸当は出来なかった。それをアークは数ヵ月でマスターしたので、今ではダーク以上に速い。それに好む武器は、小太刀より軽い小刀なので尚更だ。
「お! ルティナちゃんが言ってた通り索敵気法ができるんだな」
「索敵気法?」
「自分の気を膜のように広げ、その範囲に動くものを全て感知する技だよ」
アルフォードは、索敵気法をマスターしているが、名前まで知らなかった。
「ああ。それが出来ないと今の一撃で終わってたな」
「そのつもりで行ったからな。じゃあ次は正面からだ! どう対処する?」
そこから泥沼の殴り合いと行きたいとアルフォードは思ったが無理だと瞬時に切り捨てる。
右拳が来たなら、左手で捌く。左拳が来たなら、右手で捌く。
そうしないとダメージが入ってしまう。ダメージを減らす為に闘気をガード箇所に集めれば集まる程に、闘気残量が減ってしまう。
闘気は先程体内エネルギー……体を動かそうとする力と言ったが、その力が無くなれば体が動かなくなってしまう。最悪意識を失ってしまう。そうなればアルフォードの負けだ。
それだけ先程のタケルの一撃は重く、あんなものを何発も受けていたら保たないと判断した。直撃は以ての外だが、防御すらしない方が良い。
「ふっ! ふっ!」
タケルの攻撃重いだけでなく速い。それにアルフォードは息が切れ始めてるってのにタケルは平然と打ち込んでいた。この時点で実力差は明白だなとアルフォードは思った。
それにタケルは自分を試していると感じた。何故ならずっと真正面からの攻撃のみ。フェイントもなければ、最初の超スピードによる周り込みもない。宣言通り正面から。
素手による殴り合いは闘気を籠め殴れば良いと言うものではない。時にフェイントを混ぜ直撃を入れる隙を作る事が重要だ。
直撃が入ればその分、相手の闘気を減らせる。攻撃にだけでなく防御にまで回したとなれば、十分闘気を減らせる。
実力が拮抗してる、或いは格上には確実に自分は直撃を避け相手にはきっちり入れるべきなのだ。
尤もタケルの場合、格上でも限度があるって程にアルフォードより実力があった。それなのに正面からしか攻撃しないのは明らかに試していた。
「ぐはっ!」
ついにアルフォードは顔面に一撃貰ってしまった。
かなりいてぇ。だが、まだ終われない。と、内心気合を入れる。
右拳の攻撃は左手で捌き、左拳の攻撃は右手で捌く。その繰り返しだったが、アルフォードから攻撃が出来ない。気付くと顔や腹など次々に殴られていた。アルフォードが疲れて来てるのもあるが、タケルのスピードが上がったからだ。
「気の重点移動も可能か……それも的確に」
そう言ってタケルは後ろに飛んだ。闘気の重点移動。それは攻撃されると思った箇所も体内エネルギー……つまりは闘気を集中させる事によりダメージを減らすもの。
しかしこれは、攻撃に回せる闘気も減るし、攻撃されると思った箇所とは違う部分を攻撃されたらダメージが逆に増える。
アルフォードは師匠の下で、修業をしてる際に目隠しで師匠と何度も戦った。索敵気法――アルフォードは名前を知らなかったが――を会得し、それにより何処を攻撃されるか把握出来るようになったから、的確に集中させられる。
きっちりタケルは、アルフォードが索敵気法は勿論の事、闘気の重点移動も会得してる事を見抜いた。
「ふふふ……あははは……」
後ろに下がったタケルがいきなり大笑いしたので、アルフォードは首を傾げてしまう。
「いや~面白れぇ。素手でここまでやれる奴は初めて会ったぜ」
「がははははは……それは俺もだぜ」
アルフォードも釣られて笑う。素手……それも拳での殴り合いでここまでやれる奴は師匠以外で初めてだ。と、思ったからだ。
ガッシュも素手だが爪での攻撃なので、殴り合いとはまた違うものだった。
「ここまでやれるんだ。当然持ってるだろ? 気による大技を」
「ああ」
「なら先に打たせてやる」
タケルは、指でやれと言わんばかりにクイクイと自分の方へ曲げる。
せっかくのお誘いだ。アルフォードは、実力差は明白だが、この一発に全てを賭けてやるよと、そう思った。
「じゃあ遠慮なく……オォォラバスタァァァっ!!」
両掌を前に突き出し、アルフォードの攻撃に回せる全闘気を乗せた闘気の塊を放出した。
しかし、それをタケルは蹴り上げてしまう。
「何ぃぃ!?」
アルフォードは目を剥く。
闘気を足に集中させていた。そして、アルフォードの闘気技が全て天井へと流されるとタケルの姿が消える。
「お疲れさん」
次の瞬間、そう言うタケルの声と腹への強い衝撃が来てアルフォードの意識は飛んだ。気付くと宿の部屋に戻っていた……。