EP.20 タケルの帰還
いつものようにパルサの部屋で歓談を行う。と、言ってもパルサはキーボードを打ちながら、アルフォードは筋トレをしながらだ。
「今更だが、二週間前の襲撃は同じく民家なんだよな?」
二週間前の戦いを思い出しアルフォードは話を振る。
「そうかしら」
「何で通路があんな広かったんだ?」
「そういう家もあるかしら。アルの世界では家の門が広い事がステータスになっていないかしら?」
「すてえたす?」
「そうね……狭いより広い方が自慢になるって事はないかしら?」
たまに会話が噛み合わせない時があるが、パルサは分かりやすく言い直す。
「あるな」
「それと同じかしら」
「だけど広いと何か意味があるのか? 俺の世界では昔だと花壇とか見た目を良くする為に広かったりすると見栄を張れたけどな」
今は、あまり意味がない。正確には精霊大戦終結後二年でやっと花が咲き始めた。それまでは草木生えない不毛な土地だった。
他に門が広いと馬車が入れて、家の庭に停めて置く事も可能だが、馬車を所有してる者は今では少ない。
「家への通路が広いとそれだけセキュリティ……つまりは色んな障壁や罠で早々家に入れなくするかしら」
「簡単に入られてるけどな」
アルフォードは肩を竦める。
「それは敵に優秀な技術者がいるのサ。あたしのように」
確かにそうだが、自分を持ち上げ過ぎじゃないか? と、内心苦笑した。
「なるほどな」
「それと内部のスペース……アルはそこまで入ってないから見てないかもしれないけど、あたしのなら見たかしら?」
「ダイブして真っ先に行く部屋か?」
「そうサ。あそこも広いと有効活用できるかしら」
「何に使うんだ?」
パルサが所有したあの空間には何もおいていない。ただ広いだけだ。
実験的にネット運用する為に購入しただけだから。もっと言えば、あの空間がなければアルや自分のネット内の肉体……アバターを構成出来ない。
「アルの世界では本は貴重かしら?」
「そうだな。一点物だから高価だ」
「じゃあこれを見るかしら」
パルサは、アルフォードにモニターを見せる。
「俺? だな」
「そうサ。じゃあこれ」
「これは……この部屋にある机だな」
アルフォードは部屋にある机を指差す。
「ああ、分かった。こうやってネット上にリアルの物をいくらでも映せるってわけだ」
何をやってるのだ? と疑問だったが途中で合点がいった。
「そうサ。つまりネット内だと本を量産できるかしら」
「そいつはすげー」
「だから原本になる本を一冊買い、それをネット内で量産し売ると言う商売もあるかしら」
「それは儲かりそうだな」
「そうね。で、広いと沢山本棚を置けるってわけサ」
「なるほどな」
「アルの世界で他に娯楽のようなものはあるかしら?」
アルフォードは少し考える。
「昔はコロシアムとかあったかな?」
「広いとそれもできるかしら。しかも死なないのだからやりたい放題サ」
「ネットと言うのは奥が深いな。それと基本的な事を聞き忘れたんだけど……」
「何かしら?」
「俺がいつも守ってるとこを抜けられると、どうして家が崩壊するんだ」
そう言うとシューと音を上げ棺桶みたいな卵型ベッドの蓋が開いた。アルフォードは一瞬ギョっとなり、そっちを見てしまう。
「こうやってキーボードを操作してベッドの蓋を開ける事ができるのかしら。やろうと思えば破壊する事も可能サ。これを外部からやるとなるとネット内から侵入した方が良いのサ」
「だが、奴らの目的はオドルマンの行方を調べる事だろ? 壊す必要あるのか?」
「足を付けさせない為にサ」
「どうしようもない奴らだな」
「そうね。でもお蔭で、こちらから打って出れないのがまた癪かしら」
ほんと癪だな。と、アルフォードは頷く。
「それはそうと気を引き締め直した方が良いサ」
「二ヵ所同時攻撃か? 今のとこないが、いつ打って出られるか分からんしな」
「それもあるけど、アルは気付いているかしら?」
「何を?」
「アルが初めて戦った時より、敵のアバターが弱くなってる事に」
「ああ、気付いていた」
「つまりは……戦力の温存かしら。アルと言う驚異が現れたから様子を見てるのサ」
「がははははは……そんなところだろうな」
「驚いたサ。気付いていたのかしら?」
「なんとなくだぜ」
「そう……それに時間帯もバラバラ。寝てる時もお構いなし……。これもアルを探っていたと思われるサ」
「そして二週間前、手を晒してしまった」
「そうサ。それにより、近々強力なアバターを使ってくるかもしれないかしら。尤もそう思ってもう二週間だから、今は心経を擦り減らしに来てると思われるかしら」
それは厳しいかもな。と、アルフォードは思ってしまう。何より攻勢に出れない事が。こうやっていつ来るかも分からない相手に気を揉むのはアルフォードの性に合わなかった。
「厳しいかもって顔してるかしら」
「ああ……ネット上だと、どうも疲れを感じるのが早い。こっちの肉体はまったく疲れを感じてないのにな」
「それは脳が疲弊してるのサ」
「脳?」
「意識をネット上に飛ばしてるから、分かりやすく言えば脳だけで戦っているようなものサ。ネット上は慣れない人、特に他の世界の者にはきついのかしら」
そうしてその日は、何事もなく終わる。だが、二日後から面倒になった。パルサの言う通り二ヵ所同時攻撃が始まる。
パルサが上手く障壁などを張り時間を稼ぎ、なんとか二ヵ所死守したりもした。その後もあの手この手で攻めて来る。
時に寝ないで戦ったりもした。そうして十一日後、アルフォードがこの世界に来て七十一日目に、漸くタケルが帰って来た……。
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「………と言うわけで、もう少し宜しく頼む」
「ああ、分かったぜ」
タケルからアルフォードの世界の状況を聞き、厄介事をどうにかする道筋が出来たと説明された。そして、最長でもあと五週間パルサを手伝って欲しいと言われたので、アルフォードは了承した。
それにしても時間逆行とか、また意味の分からん事が起きてるのだな。これが時空の揺らぎってやつか。と、内心溜息を溢す。
「そういうわけでパルサちゃんも、もうちょっと頑張ってて」
「分かったかしら」
パルサにも水を向け、それを了承した。