EP.16 ネット内での一戦目
「ふふふ……随分固まってるかしら?」
アルフォードが見知らぬ街並みに心奪われているとパルサが微笑を零し水色の双眸で彼を見詰めた。
「聞いて良いか?」
「答えられる事なら良いサ」
「まずあれは何だ?」
キノコっぽい物体を指差す。
「家サ」
「家っ!? なら人が住んでるのか?」
「そうサ。あそこに住んでるサ」
「じゃああれは?」
空飛ぶ卵型の物体を指差す。
「乗り物サ」
「あれで移動するのか?」
「そうサ。あの中に人が乗っていて、移動してるサ」
「凄い技術力だな。この技術を持ち帰れば、俺の世界も発展するかもな」
「それはダメサ」
「何故だ?」
「少しくらいなら、此処にあるものを持ち帰るのは良いサ。ただそれを大量にとか技術をとかは、やり過ぎると世界のバランスが崩れるサ」
またバランスかと、アルフォードは思う。
「それをするとどうなる?」
「最悪世界が崩壊するサ。異世界間で交流を持つのは良くな事サ」
「なっ!?」
開いた口が塞がらなくなる。何故世界が崩壊するのか理解出来なかった。バランスが崩れると、どうしてそうなるのか分からない。
「今のアルの世界は今の状態でバランスを保ってるサ。それを無理に変動させれば、地形を歪めたりするサ」
その言葉でハっとする。前に同じ事があった。ラフラカだ。地形を歪めた。最悪大陸は滅んでいただろう。
なるほどな……行き過ぎるのも良くないか。と、アルフォードは得心が行った。
「それで此処が異世界ってのは信じてくれたかしら?」
「ああ。こんなのを見せられたらな。ちなみにタケルがバランスが崩れるのを嫌うとか言っていたが世界が崩壊するからか?」
「それは理由の半分かしら。最悪崩壊しても構わないと思ってるサ…タケルは」
最悪崩壊しても良い? それはどう言う事かアルフォードが聞こうとしたが……、
ピピピ……!
突然鳴った電子音に遮られた。
それを聞いた瞬間パルサは、中空にキーボードを浮かび上がらせて指を走らせる。
尤もキーボードを知らないアルフォードには無数にボタンのようなものがある四角い物体にしか見えないのだが。
キーボードの他にモニターもパルサの目の前に現れ、そこに沢山の文字が浮かび上がり、それが上から下へ流れる。
次の瞬間、キノコのような家が一軒崩れた。
「な、何だ?」
その後、パルサはキーボードを素早くいくつか叩く。モニターの表示を次々に変え、地図みたいなのが浮かび上がったり、機械の手みたいなが映っていたりと変わったって行った。
「ふ~」
息を吐き出すと、中空にあったモニターとキーボードをが消える。
「面倒な事になったサ」
「どうかしたか?」
「あんた筋肉ムキムキだし強そうかしら。良ければ手伝ってくれないかしら? 具体的には武力介入サ」
あの家が崩れた事と関係してるのだろうか? それをやった奴をぶっ潰すってなら悪くないな。と、考えるアルフォード。
「構わないぜ」
「助かるサ。じゃあ転移するから手を取るサ」
そう言われアルフォードはパルサの差し出された手を掴んだ。
「<転移魔法>」
転移魔法を唱えると景色が一辺。此処はどこかの部屋だろうか?
ベッドや机にテーブルらしきものがある。ただアルフォードの世界のとは、まるで違う事に首を傾げる。ベッドは卵型で蓋まである……棺桶かよ!! と、内心突っ込んでしまう。
テーブルや机はアルフォードの世界では木で、出来ているのが主流だが、此処のは金属っぽい何かだ。
「此処はあたしが取ってる宿サ」
と、パルサが説明してくれた。
「宿に来てどうするんだ? まさか宿の中で暴れるのか?」
武力介入とか言っていたし。と、内心付け足す。
「違うサ。ちょっとそこ座って」
椅子を指差されてアルフォードはそこに座る。見た目金属っぽいのに柔らかく座り心地良いと感じるアルフォード。
「アルの世界にはインターネットってあるかしら?」
「聞いて事ない言葉だな。たぶんないだろ」
「ならゆっくり説明したところだけど、今は急いでいるから後回しにするサ」
そう言ってパルサは、アルフォードの後ろに回る。
「そのまま動かないで。君を戦場に送る準備をするサ」
そう言われアルフォードが前を向いてると、頸椎部分に何かを取り付けられた。
「少しチクっとするけど我慢するサ」
「っ!?」
チクどころかグサって来てアルフォードは目を白黒させる。頸椎に何かが刺さり、何かが頭の中で蠢く不快な感じが一瞬あった。
「良い? 今、頸椎部分に取り付けた装置を無理矢理取ると脳がダメになって死ぬサ。ちゃんと手順を踏めば外れるから、絶対に無理に外すじゃないサ」
「わ、分かった」
何てものを付けてるんだ? と、内心ボヤく。
「じゃ今からダイブ……あ、いや今は転移と考えると良いサ。飛んだ先にいる奴は全部倒して良いサ。ああ、この頸椎部分の装置は戦場で死んでも生きていられる装置だと思って良いサ。つまり……」
死んでも生きていられる? 蘇生装置か? そんなものが存在するのかと驚く。しかし何を意図として今それを言ったのか考え問い掛ける。
「相手も死なないから気がねなく殺れと?」
「そういう事サ。じゃあ行くサ……ダイブコネクト」
次の瞬間、真っ暗になった。転移魔法は一瞬で景色が一辺したけどこれは違う。
今は転移だと考えてと言っていたから実際は違うものなんだろう。と、とりあえずの納得をするアルフォード。
三分くらい真っ暗闇が続く。そんな中、手足の感覚がない事にアルフォードは気付く。
あるのは意識だけ。大丈夫なのかこれ? と、不安を感じた次の瞬間、どこかの通路のような場所に立っていた。
「何だ? あれは」
機械の体の奴が大量に近付いて来る。あれを倒せば良いのか? それともう一つ気になる事があった。それは……、
「……体が重い」
それに力が入らない。そうアルフォードは、体に違和感を感じていた。
「いや、衣がおかしいのか」
アルフォードが着ているのはアルフォードの師匠である先代闘神が身に纏っていたものだ。それを譲り受け、今はアルフォードが着ている。
その闘神の衣、手袋、靴の三点セットは力を高め敏捷性を上げてくれる優れもの。しかし、その効果が今は失われていた。
その事に気付き疑問に思っていると、モニターが目の前に現れる。中にはパルサが映っていた。
《それらを全滅させて欲しいのサ。数は多いけどいけるかしら?》
パルサがモニターの中から指示してくる。
「任せろ!」
《じゃあ宜しくサ》
そう言うとモニターが消える。
何だあれは? 遠くの人と話す魔法か何かか? っと余計な事は考えてる場合じゃないなとアルフォードをかぶりを振り敵を見据える。
パルサの言う通り数は多い。ざっと数えて三十体くらいはいた。その機械の体の者とアルフォードが数秒で接敵というとこまで近付く。
ここが通路……つまり狭い場所で良かったぜ。と、ニヤリと笑う。
機械の者は三体しか並べられない場所。それが長い列を組んでいた。この場所ならアルフォードの得意技で瞬時に片付く。それは……、
「<オォォォラバスタァァァっ!!>」
闘気技のこれだ。アルフォードは出し惜しむ事なく機械の者に向けて闘気の塊を放出した。一直線に走るアルフォードの闘気技は、通路など相手が列を成さない所では一気に潰せる。
ゴゴゴぉぉぉぉぉおおおおお……っっ!!!
オーラバスター一発で全滅させられた。そして機械達は次々に消えて行く。
死んでも生きていられるとか言ってたけど、どこかに転移したのか? と、そんな事をアルフォードは考えていたら目の前にモニターが現れ中にパルサが映っていた。
《お疲れサ。まさか一瞬で片付くとは驚きサ。君、強いんだね》
「ガハハハハハ……だろ?」
板の中からパルサに労われアルフォードは、豪快に笑った。が、それは次の一言までだ。そのパルサの一言でビタっと真顔に変わる。それは……、
《うん……タケルには及ばないけど相当強いサ》
「そんなに強いのか? タケルってのは」
《色んな異世界を渡り歩いてるサ。危険な場所だって行ってるから弱いと生きていけないかしら。それに色んな異世界から、さまざまな武術や魔術を取り入れているサ》
なるほど。色んな異世界の武術や魔術をねー。それは強そうだ。と、得心が行く。
《さて、それじゃあこっちに戻すサ》
パルサがそう言うとモニターは消え、アルフォードも先程の暗い空間に移動した。
手足の感覚がない。意識だけはある奇妙な感覚だ。
先程の事を思い出し、此処で三分くらい待てば良いのか? そう思ってたら数秒で、宿に戻った。