EP.15 異界にやって来たアルフォード
「え?」
《★◎××●○☆……》
フィックスの王弟アルフォード。エドワード=フィックスの弟は怪奇現象に見舞われていた。
目の前の中空に縦30cm、横50cmの四角い物体が現れる。まるでテレビモニターが突然現れたような感じだ。アルフォードは、モニター等知らないので『当然何だ? これは』と首を傾げてしまうのは無理からぬ事。
それだけではない。見知らぬ構造物の中にいた。周りを見渡すと青い石材を重ね作られたと思われる壁がある。
なんの材質か分からない。そもそもアルフォードは、そこまで学がある方ではないが、見た事あるかどうかくらいなら分かる。その答えは否だ。
《★◎××●○☆……》
そして、モニターに映るのは見知らぬ女で、何かを喋っている。が、何を言ってるのかさっぱり分からない。茶色い髪に水色の瞳をした女だ。
それに何よりアルフォードが気になっているのは、その女の頭だ。丸で猫を思わせる耳が付いている。それが女が何かを話す度にピコピコ動くのだ。
当然アルフォードは、亜人や獣人等は見た事がない。そもそもそんな存在はいるないのだから。
「おい! 何を言ってるのだ?」
《□◆○●×☆……》
何でこうなったんだろうと、アルフォードは溜息を溢す。
兄は国を支え、自分はその兄を支えると言うのを真情にその為には力が必要と考え、一時期修行だったり、武者修行なんて事をしていた。
今は、城に戻り兄に言われた場所に行き、貴重な資源を取りに行ったりしている。
過去に精霊大戦なんてもんが起きたお蔭で、大陸の資源は枯渇寸前。残った貴重な資源を有効利用し、城で機械製作をしている。また、どこかに資源がないか調査を行い、アルフォードはそこに行く事が多い。
今回は近場の資源を取りに行くように兄エドワードに命じられフィックス城の北にある洞窟に訪れていた。いたのだが……結果はこれだ。
前来た時にはなかったものがあった。『こいつは何だ?』と思いアルフォードは調べる。それは扉のような枠。そうとしか言えないもの。
それが洞窟の奥に鎮座していた。
ただ何故洞窟の入り口側の方から見ると、その扉の中の反対側が見えているのではなく黒い渦が見えていた。
反対側に回ると黒い渦は無く確り突き抜けている。何の変哲もない枠だけの扉に見える。いや、枠だけって時点でおかしいのだが。
開け閉めするドアあるのが普通だし、そもそも洞窟の奥に鎮座してるのが異常だ。
とりあえず、反対側からアルフォードは通り抜けた。
「普通に素通りできるな」
アルフォードが呟いた通り何も問題なく通り抜けられた。ならば洞窟の入口側……つまり黒い渦はどうなのかと、意を決して飛び込んだ。
「っ!?」
視界が暗転。洞窟にいた筈なのに前述の構造物の中に移動していた。
感覚的に転移に近く、アルフォードも経験があるのだが、その転移の全ては魔法陣に上に立った時だったので、扉から転移には不思議な感覚を覚えた。
そうして後ろを振り返るとやはり扉の枠のようなものがあり、中は黒い渦がだった。反対に回ると普通に突き抜けている。
とりあえず再び反対から通ると素通りできた。奇妙な転移だなと言うのが正直な感想だ。
で、今に至る。今度は突然モニターが目の前に出現し、女の顔が映っていたのだ。
《★◎××●○☆……》
「何言ってるか分からんぞ」
やはり言ってる事が分からずアルフォードがそう返すと、中空に映し出されたモニターが消えた。
そう思った瞬間、女本人が現れた。転移して来た事に不思議に思う。何故ならユピテル大陸には転移魔法は存在しないからだ。古代の転移陣ならあるのだが。
アルフォードはモニター越しに見ていた時も気になっていたが猫耳だ。それだけでなく尻尾があるのだから。
当然だ。彼女は亜人種もしくは獣人種と呼ばれる種族なのだから。
歳は十代後半と言ったところだろう。
「誰だお前は?」
「×××○○」
やはりアルフォードには何言ってるのか、分からないが手を差し出された。言葉は分からなくても、その行為に意味は理解出来た。握手である。
アルフォードは、彼女の手をそっと握った。
「<トランス>」
一瞬身構える。女が魔法らしきものを唱え、その言葉が脳に直接響いたからだ。
「言葉分かるかしら? 今、翻訳魔法をかけたサ」
「……ああ、分かる」
翻訳魔法……だと? そんな魔法があるのか。と、戸惑ってしまう
「あたしはパルサ…サ。君は?」
「俺はアルフォード=フィックスだ。アルでいいぜ。で、一体此処はどこなんだ?」
「アルね。此処は……どう説明しようかしら? まず聞きたいんだけどタケルという人物に心当たりは?」
パルサと名乗った女は人差し指を唇に当て考えるように聞き返した。
「知らない」
「そう……なら説明が難しいサ。君は異世界もしくは異界って分かるかしら?」
「異世界? 聞き慣れない言葉だな」
「言葉通り、異なる世界サ。君はその扉で、別の世界からやって来たのサ」
アルフォードは首を傾げてしまう。正直信じ難い事だ。
「此処はラスラカーン世界と呼ばれているサ。にわかには信じらないって感じかしら?」
「ああ、その通りだ」
「なら、着いて来るサ。外に出れば嫌でも理解するサ」
そう言ってパルサは踵を返し、歩いて行く。アルフォードはそれに着いて行く事にした。
……
…………………
………………………………………………………………………………
のだが、どうしても気になってしまった。目の前でユラユラユラユラと揺れるものだから。引き寄せられるままにアルフォードはそれを掴んでしまう。
「キャ! あんた何するのサ?」
凄い形相で振り返って来た。
アルフォードは、尻尾を掴んだのだ。そしてその尻尾が逆立ち始めた。
「悪い。アクセか何かと思ってな」
「本物サ」
「……そうなのか」
「アルは亜人を見るの初めてかしら?」
「亜人?」
「簡単に言えば動物の特徴を持った人族サ」
「そんなのがいるのか」
「なら忠告サ。女性亜人の尻尾に触れる行為は、お尻や胸を触るのと同義サ」
「それは知らなかった。すまない」
アルフォードは、頭を下げる。
ちなみにだが、本当は猫パンチの一発や二発をかましたいのをパルサは抑えた。尻尾を触られたからってだけではなく、強く握られたからだ。
亜人種の尻尾は、女性の局部のようにデリケート。触るなら優しく触って欲しいのだ。勿論触って欲しい訳ではないが。
「意外に素直かしら? 筋肉ムキムキだから威圧してくると思ったサ」
「ガハハハハハ……俺はそんな事しないぜ」
「これはまた豪快に笑うサ。じゃ外に行くサ」
そう言ってパルサは踵を返しまた歩きだした……。
パルサに着いて行き外に出た。だが、それまでが長かった。階段を昇ったり降りたりと……。
たぶん昇ってるのが多いから大分地下だったのだろうかとアルフォードは考える。
途中で気になり聞いたみた。
「なあパルサ。何で昇ったり降りたりを繰り返してるんだ?」
「此処は、あたしが暴くまで秘匿されていた場所サ。言わば迷宮のようにさているのサ」
暴くまで……つまり此処はパルサのもしくは関係者の敷地ではなかった。
「それなら侵入者を撃退する奴がいるのではないか? いくら迷わす場所でも時間さえかければ、誰でも暴けるだろ?」
「ああ、それならタケルが全て撃退したサ」
あっけらかんと答えるが、アルフォードは首を傾げた。さっきもタケルって名前が出たからだ。
タケルって人物を知らないか……と。
そこから推測すると……、
「さっきの異世界がどうのって話が事実だとすると、タケルってのは、もしかして俺の世界に侵攻して来たって事はないよな?」
「武道派と思いきや意外に鋭いサ」
「待て……そう言うって事は本当侵攻して来たのか?」
「逆サ」
「逆?」
「まずタケルの事を話すとバランスが崩れるのを嫌う」
バランス? と、意味不明な言葉が出るが先を聞く事にする。
「例えばサ、アル。剣や槍等で二ヶ国が戦争してるとするサ。そこに別に縁も義理もないのに第三者が片方の国に魔法を教えるサ……これどう思うかしら?」
「そいつの目的は?」
「混乱サ」
「それなら気に入らないな」
「そうサ。混乱を招く為に身勝手にもバランスを崩す。タケルはこういう輩をただじゃ済まさないのサ」
「なるほど。つまり此処の本来の所有者は俺の世界に混乱を招きに行った。タケルもそいつを潰す為に俺の世界に来た……と?」
「そうサ」
タケルってのは良い奴なんだなとアルフォードは感じた。が、その顔から考えを読まれ……、
「今、タケルってのは良い奴なんて思ったかしら?」
見透かされた。
「そうだな」
「本当に良い奴なら、戦争を止めるサ。それどころかタケルは戦争をしたければ勝手にしろという考えサ」
「まぁ普通の奴ならそうだな。自分に関係ないとこで戦争が起きていれば勝手にしろと思うだろうよ。ただ何故バランスが崩れるのを嫌う? 戦争を長引かせ商品を売る死の商人なのか?」
「死の商人とかきたかしら。いっさい関わらないのがタケル…サ。」
「なら余計に良く分からない奴だな」
「タケルの事はこれ以上は言えないサ。もし君がタケルの協力者になってくれるなら話しても良いのだけどサ」
それはまだ分からない。ただ……、
「どんな理由にせよ俺の世界で起きようとしてる混乱を止めるてくれるってなら協力するぞ」
「その為には、ここが本当に異世界かを知る事サ。まだ完全に信用していないかしら?」
「だな。あ、そう言えば、最初に俺の前に現れたのは転移陣から飛んで来たのか?」
もう一つ気になる事があったので確認してみた。
「転移魔法サ」
「俺の世界にはない魔法だから凄いなそれ。ただそれならその魔法で外出た方が早くないか?」
「アルは転移魔法で何処かも分からない場所に飛んで此処は、『この世界の外です』って言われて信じきれるかしら? この構造物から自らの足で出た方が信じられるのじゃないかしら?」
「……言われてみればそうだな」
そうこう話してるうちにアルフォード達は外に出た。その瞬間にアルフォードは、固まってしまう。いや、意識が追い付いていないのだ。
町の作りからして何もかもが違うが故に思考が固まってしまう。暫く茫然としていた。
まず細長い円柱上のものが上に延び、その上に傘のように半円球のようなものがくっ付いてる。例えるならキノコのようだ。それが見当たす限り、いくつもある。
他にも卵型の物体が外を飛びまくってる。それも速い速度で移動していた。服装も明らかにアルフォードの世界のものとは違う。