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アサシンズ・トランジション ~引き篭りが異世界を渡り歩く事になりました~  作者: ユウキ
第一章 ファースト・ファンタジー・オンライン
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EP.12 帝国にハメられました

 追い付いて来たござる侍は、歴戦の勇士を感じさせる精悍な顔付き。漆黒の双眸を細め俺を睨む。髪は黒だが、ところどころ白髪が混ざる。それを首の後ろで束ねていた。

 戦いに特化したような、それでいて俊敏に動けるしなやかな肉付きをしている体躯。一筋縄では行かないと思わせる。


 特質すべきは、その身から醸し出す覇気と呼ばれるオーラ。覇気とは地道な鍛錬で内から沸いて出る闘気という体内エネルギーの事を差す。それが俺以上だ。

 闘気が強いと攻撃力、防御力、素早さなど、その者がどれに特化させているかによるが、通常より強力になる。


 ヤバい……額から汗が流れる。こいつは舐めてかかると手痛いしっぺ返しが来るな。


「拙者ムサシ=ガーランドでござる」

「………」


 何言ってるんだこいつ? とりあえず斬っておくか。違う意味でヤバい奴だ。

 カーン! カーンっ! と金属音を響かせ俺の両小太刀が防がれる。


 何っ!? 相当な実力者なのは、対面した瞬間にわかっていた。だから速攻決めようと斬り掛かった。だが、こいつ円を描くように刀を回しただけだぞ?


 上段からの右小太刀を弾き、そのまま刀を右に回して左小太刀を防いだ。やはりやるなこいつ。

 ムサシとか言ったか。舐めていたわけではない。だが、さっき以上に気を引き締めないとな。


「お主何をやっておるでござる?」


 また何か言ってるが、漆黒の双眸による睨みが更に強まる。そこにあるのは憤怒の光。


「……襲撃」


 一応答えておくか。


「そうではないでござる。こういう場合は名乗るのが筋でござろう?」


 知るか! アホか! 襲撃者が名を名乗るわけないだろ? こいつは戦いとは正面切って正々堂々とやるものだと思っているのか?

 そんなお綺麗な世界で、その俺の小太刀より大きな刀を振るって来たわけであるまいに……。


《アークスに激しく同意》


「……ダーク」


 仕方無い。合わせてやるか。尤も本名はアークスだがな。こんなとこで本名を晒す馬鹿はいない。

 ダークというのはダームエルと俺のチーム名(・・・・)だ。


「ダーク殿でござるな。では尋常にしょ……」


 煩いな。とりあえずまた斬り掛かるか。両小太刀を上段から振るう。


 ギーンっ!


「お主、礼儀を知らぬのでござるか!?」


 ムサシが胡乱げな目を向けて来る。煩いよ。っていうか知るかよ。


「……殺し屋にそんなもの求めるな」


 後ろに瞬時に回り込み両小太刀を右から振るう。


 ギーンっ! と金属音が先程より響く。

 こいつは刀を右に添えただけで、後ろも見ずに防ぎやがった。やはり強い!



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



 ちょ! ここで戦闘モード!? つまり俺が操作するのかよーーーー!!!!

 ムサシさんめっちゃ強いんですけど……。レベルが俺より10上だぞ。しかも闘気レベルも俺より高い。


 闘気Lv1でHPMP魔力以外一割アップだったかな? それがLv3になると五割アップ。つまり1.5倍だぞ。

 つまりこいつの力は600×1.5+武器の800で攻撃力1700だぞ。俺のHPが2200で防御力なんて雀の涙程度だしよ。一撃良いの貰っただけで瀕死だ。


 しかも体力が120(闘気Lv1により132)しかないから長時間戦闘をすると体力切れで動きが悪くなる。絶対的に不利だ。マジ何でこんなの戦わんといけんのよー!!!


 仕方ない。とりあえずは様子見でムサシの周囲をぐるぐる回ってみるか。


「速いでござるな」


 とか言ってるが、お前の漆黒の双眸が俺を追い掛けているじゃんかよ。まぁ背中に目があるわけじゃないから、気配で感じ取ってるのだろうけど。気配察知もスキルに所持していたし。


 そして、俺がムサシの右側を通過しようした瞬間……、スっと刀を右に突き出して来た。

 あぶ、あぶねぇ~~~~。俺のスピードが乗ってる分、今の当たったらかなり痛かったな。寸前で跳んで避けて良かった。


「反応もなかなかでござる」


 今度は刀を上に突き出して来たので空中で両小太刀を思いっきり刀に当てて弾いて着地。そして瞬時に距離を取った。


「参るでござる!」


 参らなくて良いよ。いや参った(・・・)って言ってくれよ。マジで!


 つか、一気に間合いを詰めて来ないで……。

 だが上段からの攻撃か。侍は上段から攻撃が好きだな。ストーリーモードで見慣れているから見切れる。だがムサシは攻撃力1700もある力負けは必定。


 普段なら一振りは防ぎ、もう一振りで攻撃するんだがな……力負けは必定なので小太刀をクロスに構えた。


 ギーンと響かせた刀をクロスした両小太刀で挟み込む。


「秘剣・朧」


 はっ? な、何ぃぃぃ!? 刀が消えた……だと? 

 いや……右から来る! 後ろに下がり躱す。

 ふ~……危な。これがユニークスキル、刀ノ秘儀か。


「秘剣・月」


 シュシュシュシュシュシュっ!


 月とか言いながら突きの連打じゃねぇか。ギャグかよ。何が秘儀だ! 人を馬鹿にしてるのか?

 さっきの朧には驚かされたが、これはマジでアホ臭い。


 普通に見切れるので、右左右右右左右左左左……と躱して行く。


「奥義・扇」


 奥義で扇ってなんだよ!? 意味わかんねぇよ! ギャグ技しかないのか?

 はいはい上段からね。さっきと同じように両小太刀をクロスにして構えた。


 しかし途中で刀の起動を変えた。小太刀を避けるように、扇を描くように……。やっぱギャグじゃねぇかあぁぁぁ!!!


 しかも遅せえぇんだよ!

 肉を斬らせて骨を断つじゃないが、俺もそのまま攻撃してやる。俺が戦闘で良くやるパターン。

 両小太刀をクロスに構え、相手の攻撃を挟み込んだ瞬間、右の小太刀を右下に、左の小太刀を左下に振り下ろす必勝攻撃。


 今回は扇とやらで痛み分けになるが、長時間は体力切れで負けが確定してしまう。だったらやるしかない。

 おぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁ!!!!


 スっ!


 ちっ! 刀の攻撃を中断させ後退された。痛み分けは不服ってか?


「なかなかやるでござるな。ダー……っ!?」


 言わせないよ? 何か言ってる間に一気に距離詰めた。お前の好きな正面から正々堂々とやってやるよ。

 両小太刀を振り上げ……バンザーイのポーズだな。それをクロスするように一気に振り下ろす。俺からの攻撃で良くトドメに使う攻撃だ。名付けて……、


「<クロス・スラぁぁぁぁッシュ>!!」


 名前に意味などない。だが、そっちの方が気合と力が入る。それだけだ。

 ムサシの体に斜十字の傷が入る。よし! 追撃だ!



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「ストーーーーップっ!!」


 制止の言葉を発したのは、唐突に現れたダームエルだ。


《あれ? 戦闘モード終了? え? 何? 一撃入れれば終わりのイベント戦闘だったわけ? 実際ムサシに付けたX字の傷が綺麗さっぱり消えているしよ。


 イベント戦闘……特定条件を満たせば強制終了。基本的に絶対に勝てない。勝ったとしても勝っていない扱いになる戦闘。


 もしかして負けてもOKだった? いやいやいや、初期のクソゲーっぷりを思い出してみろ。絶対負けたらゲームオーバーコースだ。


 まぁ良いや。終わった事だし、ストーリーを楽しむとするか》


「ん?」

「何でござる?」


 俺は首を傾げ、ムサシは目を丸くした。


「俺達は騙された。そこの侍! ……早く城に戻れ。手遅れになるぞ!」


 ダームエルが大声で叫ぶ。そこに怒気がかなり孕んでいる。ダームエルが本気で怒る時はアレ(・・)が絡んでる時しかない。まさか……。


「何を言ってるのでござるか?」


 ムサシが胡乱げな目を向ける。それはそうだろ。誰かも知らず現れて城に戻れとか勝手な事言ってるのだから。


「早くしろっ! クソっ! ラフラカ帝国め……毒ガスをばら撒く気だ」


 ダームエルの怒気が強まる。もしダームエルが闘気を扱えていたら、今に爆発していただろう……。


「それは真でござるか!?」


 ムサシが驚愕の面持ちをしだす。


「ああ。だから早く戻れ」

「承知したでござる」


 そうしてムサシが城に引き返して行った。


「毒ガスってどういう事だ?」


 俺もとりあえず聞いて見た。


「魔導士を皆殺しにして回復できなくしてから、一気にエド城を攻め落とす気だったんだ」


 やり方がエグいな。という事は、やはり……。


「クソっ! ガキも巻き込まれる」


 やっぱり。ダームエルが一番嫌う仕事だ。


《ほほう。流石は子供の守護神の称号を持つダームエルさん。やはりキレますよね。にしてもラフラカ帝国のやり方、ほんとエグいな。アークスに同意だな》


「悪いなアークス。今回は手を切りたいから、金は貰わない」

「まあ良いさ」

「二度とラフラカ帝国の仕事はするか。クソっ! クソっ! クソっ!!」


 ダームエルの茶の双眸がエド城の方を睨み何度も毒づく。


 そして、後から聞いたがエド城はムサシを残して全滅していた……。


《ふは~~。全滅かよ。悲惨だな。で、ここで二章終了ね。さて三章までアップデート待ちか……》



               ▽▲▽▲▽▲▽▲▽



「……っと……るの……」


 あのストーリーを振り返り大爆笑したものだ。刀ノ秘儀とかいうユニークスキルはギャグだったわけだし。戦闘中に笑ってたら負けていたな。


「……きい……」


 にしても此処はエド領のわけだけど、あの事件で壊滅して、復興の話が出る前にエンディングまで行ってしまったし、誰が治めてるのだろうか? 無法地帯のままか?


「ちょっと聞いてるのかい!?」

「え!?」


 感慨に耽っていたらナターシャちゃんに怒鳴られていた。桃色の双眸に怒りが滲んでる。


「え!? じゃないさぁ。手が止まってるけど、美味しくないのかい?」

「……いや」


 そう言えば今、食事中だったな。


「なら美味しいのかい?」

「……ああ」


 香辛料無しじゃ味気ないが女が作ってくれたってだけで最高のスパイスだ。これを不味いとか言う男がいたらどつくな。


「ほんと、ああ、しか言えないのかねぇ」


 ナターシャちゃんに嘆息した。ごめんねぇ~暗殺者ロールプレイしていなとまともに話せないからさぁ。

 え? 暗殺者ロールプレイしても。まともに喋れないって? これでもマシな方なんだよ。


「もう良いさ。さっさと食べておしまい」


 ナターシャちゃんの双眸が揺れる。憂いを帯びている。もっと気の利けた事を言えたら良かったんだけどな……。

 まぁ引き籠りのコミュ症にハードル高いしな。

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― 新着の感想 ―
突起すべきは、その身から醸し出す覇気と呼ばれるオーラ。 >特記って言いたいのはかな?でも「記」ってあるように記すことだからニュアンス的におかしいかも?
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