EP.12 ロボットがいました
「手筈通り頼む。エーコはここで待機」
「分かったよー」
俺達は例の屋敷に上陸していた。帰りの船を沈められたら、例え屋敷をくまなく調べたとしても目も当てられなくなるかもしれない。従ってエーコを船の見張りに残した。
時刻は昼間。
こう言うのは闇夜に紛れる夜がセオリーなのだが、岩山に隠れられると言う事もあり、とりあえず昼間でも来てみた。どうしても見張りの問題とかで、潜入が無理そうなら出直すと言う手筈だ。
「じゃあナターシャは、俺と行くぞ」
「分かったさぁ」
そうして屋敷まで歩を進める。やがて屋敷が目の前に迫ったので、岩陰に隠れながら様子を伺った。
「おかしいな」
「そうだねぇ」
俺が呟くとナターシャが同意の声を漏らす。明らかに見張りが少ない。いる事はいるが、そんなに多くはいない。
普通の金持ちの屋敷に配置されるような人数だ。それだけ重要ではない屋敷なのか?
ここで生物実験をしてると言うのはガセか? いや、こんな孤島に誰も来ないと踏んでるのかもしれない。
「依頼は依頼だし、一応調べるか」
「お金は貰ったしねぇ」
「じゃあ気配を探るから、待っていてくれ」
「分かったさぁ」
俺は目を瞑り、気配察知に全神経を注ぐ。屋敷の周りを巡回してるのが感じ取れる範囲で十人程。
正門と思われる南門に五人。西門に三人。ちなみに現在一番近いのは西門だ。
東門は……遠過ぎて正確ではないが五人前後。
「北門に移動する」
目を開けると、そう発する。北門の見張りゼロだったからだ。
そう言う訳で、俺達は北門側に岩陰に隠れながら移動する。
「裏門ってさぁ、普通厳重にするもんじゃないかい?」
「俺もそう思う」
ナターシャが指摘した通り裏門は表と同等かそれ以上配置するのはセオリーだ。それが誰もいないとはおかしい。
「……罠か?」
誘われている?
「どうするんだい?」
「例え罠でも、流石に重力魔法で飛んで上から、調べられるとは思っていまい。裏をかける筈だ」
「じゃあ予定通りね」
「ああ。巡回の切れ目を狙う」
そう言って俺は再びを目を瞑り気配察知に集中する。数分後、目を開けた。
「次の巡回が通り過ぎたら頼む」
「分かったさぁ」
次の巡回が過ぎれば、暫く人は来ないと感じた。それでも北門を通り過ぎる巡回者と巡回者の間の切れ目が一、二分長いってだけだ。
「今だ!」
巡回してる者が通り過ぎた瞬間、俺は屋敷に向かって走り北門を通り抜いた。
「<重力魔法>」
俺が屋敷の前に到着するとナターシャが重力魔法を唱えて、俺の立つ地面の重力を軽くする。それと同時に俺は飛んだ。
「よっとっ!」
俺は最上階の外壁にナイフを突き刺し、それに左手でぶら下がった。そして、再び目を瞑り気配を探る。
「どう言う事だ?」
目を開き思わず声が漏れてしまう。下の階は人が何人かいるのが、気配で分かる。
しかし現在いる最上階には、人の気配が全く感じない。巡回といい、この階といい、どう言う事だ? やはり、ただの屋敷? または最上階は使用していないのか?
まあ良い。何かあるとしたら、下の階だろう。最上階から中に入り、軽く探ったら下に降りよう。
そう決めた俺は右手でもう一本ナイフを取り出し、窓を斬り咲く。割ると音が漏れて侵入がバレるからな。
斬れた窓ガラスは下に落ちた。下ではナターシャが待機していて重力魔法で地面の重力を軽くし、窓ガラスが割れずに地面に到達する。
その窓ガラスをナターシャは回収し、岩陰に隠れた。俺はそれを確認すると斬って空洞になった窓から室内に侵入を果たす。
「ん?」
何だ此処は? 普通の屋敷とは違う。
いや、この世界には無いものがある。
それは電気だ。天井に照明がある。この世界の灯はランプの筈なのに……。
と言うより、何で昼間っから電気付けてるんだよ。これはあれか。面倒だから一日中点けておけーってやつか。俺も引き籠りの時は、やってたな。
って、今はそんな事は良い。何故この世界に電気があるんだって話だ。
まあ自家発電を作れば照明は作れない事もないだろうが、この世界にそんな技術はない筈だ。
そんな事を考えていたら、俺の中で直感による警戒音がなった。背後から張り付くような異様なものを感じた。
俺は考えるよりも先に前方に飛び振り返った。
「なっ!?」
視界に入ったのは自律人型機械……つまりはロボットだ。ロボットが手にした剣を振り下ろしていたとこである。
殺気が全く感じなかった。それどころか気配すら感じない。
いや、そもそも魔物か? キラーマシンと言う魔物もいるしな。
だが、魔物は元は動物。キラーマシンも外装は機械に成り果ててしまったが、核はまだ生物の名残りがある。
そのせいか気配が確りとあった。しかし、こいつには、それがない。
そもそも魔物が存在してるのがおかしい……いや、此処で本当に生体実験をしてるなら、いてもおかしくないか。
それにさ、こう言うのって何で赤い一つ目なんだろ? 明らかに不気味で怪しいだろ。
「おっと」
再びロボットが斬り掛かって来た。それをバックステップで躱す。考えている場合じゃないな。
「<下位稲妻魔法>」
ロボットなら下位稲妻魔法でショートさせてしまえば良い。
キラーマシンは初級程度じゃ効かないが、これが本当に機械だけで作られたものなら効く筈だ。
帯電外装をしていれば別だが、ロボット自体が存在しない世界なのだから、そこまで進んだ技術のものが作られていない……筈。
「ギギギ……」
目算通り煙を上げショートした。しかし、あまり余って天井の電気までショートし、照明が消える。まあ問題はないだろ……。
俺はショートしたロボットに近寄りざっと調べる。
「灰となって消えない……やはり魔物ではないな。何故この世界に自律する人型の機械なんてものがあるのだ?」
グサーっ!
「っ!?」
背中が火傷したかのような熱を感じる……斬られた? 直ぐ様、前方に転がり振り返る。
ロボットが三機。ミスった。こいつら気配がないんだ。完全に油断してた。
「<下位回復魔法>」
俺は距離を取りつつ斬られた背中を下位回復魔法で治療を行う。 下位回復魔法程度じゃ直ぐに完治しないな。
まあ動き回れる程度に回復したら、残りはナターシャかエーコに頼もう。
ロボット三機を見据えていたが、またこれが油断となって後ろを取られるかもな。気配がないのは面倒だ。なので念の為に振り返った。すると……、
「はっ!」
案の定、二機いやがったよ。そのうち前にいたロボットが俺を斬り掛かろうとしていたので、回し蹴りで吹き飛ばす。
これで大破なんて都合が良いだろうし時間稼ぎがせいぜいだろうな。前後に挟まれたままではやりづらい。
そこで下位回復魔法をかけながら窓側を背にロボット五機を見据える。これで後ろを取られるなんてヘマはしないだろう。
「<サン……>」
ある適度に回復したとこで下位稲妻魔法を唱えようとしたが止めた。電気といい、ロボットといい、この世界にはあり得ないものだ。
他にもそう言うのがあるだろう。それを下位稲妻魔法を唱えてロボットと一緒にショートさせるのはまずいかもな。
いくつか押収したいところ。さっきもロボットと一緒に照明がショートしたしな。
「くっ!」
考えていたら右から斬りかかって来た。それを躱す。
ガッシャーンっ!
「あ!」
勢い余ってロボットの奴、窓突き破って落ちたぞ。これ侵入が完全にバレただろうな。
「おっと!」
今度は左から来た。
「ちっ!」
気配がないのも、ほんと厄介だ。避けきれずに掠り傷を負う。
下位稲妻魔法は使えない。じゃあ斬る? 何処を?
下手すると腕がなくなろうが首なくなろうが動くだろうな。動力部が分からない。
「ちぃ!」
左右から同時か。前に飛ぶが、やはり気配のないせいで目算が上手く取れない。掠ってしまう。
そうして手をこまねいていたら、更に次々にロボットどもが現れた。ロボットだけに警報装置みたいなのがあるんだろうな。
電気信号を味方のロボット送っている。だから、次々に来るのだろう。
これは逃げるしかないか? 一機が下に落ちた事で侵入がバレているだろうしな。
いや、そもそも一機目のロボットに見つかった時点でアウトだっただろう。
だが、何か一つでも押収しておきたい。
色々考えながらロボットの剣を避けていたら、体中浅い傷だらけになってるな。
それに数がどんどん増えている。めんどくせ~~っ!!!!