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EP.10 ナターシャを泣かせてしまいました

「アーク、本当は何かあったんじゃないのー? もしかしたら難しい依頼なんじゃないー?」


 エーコが港町ニールから出航した船の甲板の上ででポツリ呟き、俺を気遣うように下から覗き込んで来た。

 下から覗き込まれるのがまた可愛い~。流石俺の娘であるな。肉体的には……ってカッコ書きになるのが悲しいけど……。

 それはともかく確かに今回は退路が絶たれる可能性あるし、生物実験をしてる可能性がある。

 でも、それは表に出せばエーコを、それにナターシャを不安にさせてしまう。


「そ、そんな事ないよ」


 やばっ! どもってしまった。


「どうしたんだい? 何かあったのかい?」


 そのせいかナターシャも話に加わって来た。さて、どう誤魔化すか。


「昨日アークが抱いてきたのー」


 どう誤魔化すか考えていたら、エーコが代わりに答えた。抱いてきたって……事実だけど捕らえ方によってはまずいって。


「なんだってぇ! アーク、どういう事だいっ!?」


 ほら誤解を受けたよ。ナターシャが物凄い剣幕で俺の胸ぐらを掴んできた。


「ちがっ! だ、抱っこ……」

「それも無理矢理でー、有無を言わさずキスもしてきたんだよー」


 おーい! エーコさん、態とですか?

 抱っこして寝ただけだって言おうとしたらエーコに遮られた。絶対これ誤解を招く言葉を選んでるだろ? 事実なんだけどさ……言い方がまずい。非常にまずい。


「アークっ!! あたいには好きとか言ってくれないし、あたいの事なんてなんとも思っていないんだねぇ?」


 それここで持ち出す? ナターシャは胸ぐら掴み、ぐいっと引き寄せ顔がくっつきそうな距離で言う。


「そ、そんな事ないよ」


 マジで、どうしよう。


「愛してるならわたしになら昨日寝る前に言われたなー」


 エーコが誰に言うでもなくそっぽ向いてニヤニヤしながら呟いた。絶対楽しんでるだろ? ほんと勘弁してくれ。


「娘だってのにエーコが良いのかい?」


 愛してるって言ったのは、昨日ナターシャも聞いていたよね? 怒りでそれどころじゃないのかな?


「中身は違うけどね……」


 って、俺も何でこんな言葉はスラっと出てくるんだよ。しかもこれ普段エーコに言われてグサってきてる言葉じゃんかよ。


「中身が違うから手を出したんだね?」

「あ~あ」


 エーコが呆れているのが視界の端に見える。誰のせいだと思ってるんだ?

 それにしてもナターシャはどうしよう……。どう説明しようか……。どう言ってもダメなら気がする。

 なら……、


「ちゅ!」

「んっ!?」


 顔が間近に迫ってるのを良い事にキスした。


「そういうのはー、わたしがいないとこでしてよねー」


 エーコが顔を赤くしている。可愛いのぉ~。


「……こんなので誤魔化されると思ってるの?」


 そう言ってナターシャは俺を突き飛ばす。やっぱ誤魔化されんかった。


「あたいとエーコ、どっちが大事なの?」


 何その究極の二択は? これが俗に言う『私と仕事どっちを取るの?』って奴か?

 まさか俺が似たような事を言われるとは……。だが、即答できる。


「エーコ」


 ……と。


「えっ!?」

「………」


 エーコは意外だったのか目を丸くし驚いてる。

 ナターシャは……。

 ……………………………………………………

 ……泣いてる。

 どうしよう? この場で言う事じゃなかったな。俺は、また失敗してしまった。


「……分かった。あたいは折り返しで帰るね。一緒に行く気分じゃないさぁ」


 意気消沈という感じで船内に戻ろうとしていた。


「ごめんねー。ナターシャお姉ちゃん、悪ふざけが過ぎたよー。だから待ってー」

「悪ふざけ? どういう事だい?」


 エーコは慌てて追いかけてナターシャの服を掴む。


「抱かれたってのは抱っこされたって意味だよー。だから変な事はしてないよー」

「………」


 ナターシャの顔が見る見る赤くなる。これは羞恥心からものではない。


「矯正っ!」


 ペッシーンっ!


 怒りからのものだ。勢いよく俺のとこまで戻って来てビンタをして来た。


「つまりアークは、エーコを抱っこして昨日は寝たって事ね?」


 エーコの方へ振り返り聞いた。


「そうだよー」

「それも無理矢理」

「無理矢理って言うか強く抱き着いてきたって感じかなー」

「矯正!」


 ペッシーンっ!


 またビンタされた。


「何で強く抱き着くのさぁ。あたいにはそんな事してくれないのにさぁ」


 それは俺がしなくてもナターシャからしょっちゅうしてくるからなんだけど。


「じゃあキスは?」


 再びエーコに振り返る。


「お、おでこにだよー。お、おやすみのチューみたいなのだよー」


 顔を真っ赤にして慌てて言う。恥ずかしいなら、最初からその話題を出さなければ良いのに。

 だが、それも可愛いっ!


「まあそれは良いわ。で、アーク」


 今度は俺の方を向いて来くる。


「え? な、何?」


 顔が怖い。誤解だって分かっても怒りは沈んでないようだ。


「エーコを取るってどういう事だい?」


 それか……。


「中身は違うけどやっぱ父親だし、なんと言うか責任とかよく分からないけど、嫁に行くまでは見届けたいかなって……」


 とか言ってるけど、俺が何も目的もなく生きてる時に現れた時の感動もあるのかもな。恥ずかしくて言えないけど。

 あの時は見るもの全てが灰色だった。エーコが現れて、一緒に暮らそうって言ってくれて色付いたんだよな。


「アークのくせに生意気ー」


 って、言ってる割には何でそっぽ向くのかなエーコ?


「そういう事かい。ならエーコが嫁に言ったら、アークはあたい一人のものかい?」

「あー……それで良いや」


 そうだ! なんてはっきり言えません。


「歯切れが悪いねぇ。まあ良いや。それならエーコ、早く嫁に行ってしまいな」

「酷いよー。ナターシャお姉ちゃん」

「さっきのお返しさぁ」


 エーコが目を剥き、ナターシャが悪戯な笑みを浮かべた。

 俺なんてビンタ二発だったんだけどな。


「あとあれだ……例の台詞言いたいしな」


 貴様にうちの娘はやらーんっ!! ってさ。


「は~……やっぱアークだ」

「だねぇ」


 何故溜息をつかれないといけない? 解せん。まあでも誤魔化せて良かった。

 不安にさせたくないから生物実験をしてるかもしれない屋敷だとは言いたくないし。

 それから暫くするとイーストックスに到着したので、下船しフィックス城に到着向かった。

 急いでいないので、イーストックスでんびりと準備の買い物をしてたので、フィックス城に到着した頃には日がとっくに暮れていた。

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