EP.08 第三次精霊大戦の予兆を感じました
「では、再会を祝してカンパーイ」
「この歴史では初対面だがな」
飲み屋に着き、早速乾杯を行う。
俺は、そう言うとエドのグラスに自分のグラスをカーンと当てた。
俺は酒は、あまり好きではないので、たぶん最初の一杯だけだな。それ以降は果実水でも頼もう。
「ん? どういう意味だ?」
エドが首を傾げる。
俺は全てを話した。サラとの事を説明する為に必要という事は勿論ある。
他にはダークがもう一人いる事。ダークとエドが出会ってしまったら俺は誰なんだ? となってしまう。
そして、もう1つ。エドがフィックスの王で、これから何かあった時に頼らないといけないという予感がしていたからだ。
港町ニールでの邂逅が何か意味があったのではないかと思っていまう。
この世に偶然は無い、あるのは必然だけ。と、どっかの魔女さんも言って事だしね。
「……信じがたい」
最後まで聞き目を見開き呆然と呟く。
「信じられないならルティナに聞くと良い。全てを覚えている」
「いや……アークスがエーコと一緒にいた時点で私は自分の目を疑ったのだ。その説明で納得がいく」
かぶりを振ると絞り出すように言う。
確かに絶対にダークは自分が父親だとは名乗らないだろう……。
自分には父親の資格がないと思い込んでいる。それでも娘を影ながら守ってはいたけど。
「そうだな……色々あって今は一緒に暮らしている」
「中身が違う……か。これが一番信じがたい。歴史改変よりも、よっぽどだ」
だよな。異世界がありますって言われて信じる人いないだろうな。ましてや異世界転移してダークの体を乗っ取ったなんて尚更。
勿論VRMMOのFFOの事は話していない。
それこそなんて言って良いか分からない。
俺はゲームであるFFOをプレイしダークというキャラをプレイアブルにした。それが理由でこっちの世界に来た。
まあ創作物である絵本のようなもので、ダークの事は知ってると説明したけど。フルダイブ型のゲームと言われても意味不明だろうからな。
「……だが、事実なんだろうな。ダークとは雰囲気が違う。勿論素のアークスともな。だから其方は、アークと名乗っているのだな?」
「まあこっちに来て真っ先にナターシャに付けられた名前だからな。前の世界では違う名前だった」
「そうか……途方もない話を聞いてしまった」
「悪いが俺の爆弾発言は、終わっていない」
「何!? これ以上に何があるのだ?」
俺がニヤリと悪い笑みを浮かべるとエドが目を剥く。
「監禁事件の被害者の事」
「ん? それが今の話と関係あるのか?」
「奴は、俺が前いた世界のダチだ」
「は?」
間の抜けた声を漏らす。
「奴は、運悪くどう言う訳か、そのままの姿でこっちに来たようだ。俺のように精霊に強制転移させられた訳ではなく、不慮の事故で」
「それで友人だったが故に連れて行ったと? そもそも友人だったから監禁事件だと城に伝えたのか?」
「そうだ」
「…………………………ここまで、話を聞いただけで、ドっと疲れた」
頭痛がするかのように頭を抑えながら呟きそれっきりエドは黙り酒を煽り続けた……。
「なぁダーク……いやアーク。最近野盗が多いと思わないか?」
何杯か酒を煽り、ポツリとエドが呟く。
「確かに最近多いな」
「実はな、人攫いをしてるらしいんだ」
「女を置いていけとは言われたな」
「いや、そのレディを食い物にするとこまでは今までと変わらないし、野盗が増える事もなかった」
ん? 要領得ないな。
「どういう事だ?」
「裏で人身売買を請け負ってるんだ。食い物にし、飽きたら売り飛ばす」
「クズだな」
「ああ。レディを食い物にするだけでも許しがたい事なのに、飽きたら別に場所に売るとか恥を知れと言いたいな」
「つまり、買い手がいるから野盗が増えたと?」
「それが理由だな。正確には人を集めているから野盗が増えた。野盗だけじゃない。ただの人攫いもだ」
なんか話がきな臭いなってきたな。
「奴隷にでもしようってのか?」
「それならまだマシだ。まぁレディの尊厳を踏みにじってる時点で最悪だがな」
ふつふつとエドから怒りが伝わる。
レディは口説くのが礼儀とか言ってるが、その実、大切にしてるからな。
「じゃあ何で集めてるんだ?」
「……生体実験」
怒りともに漏れた言葉は、信じがたいものだった。生体実験……だと?
それじゃラフラカとか一緒じゃないか。動物を魔物に変える事から始まり、人工魔導士を作りだしたりとか。エリスがその被害者だ。
「まさか第三次精霊大戦が起きるとでも?」
「第三次……ああ、歴史改変も入れたら第三次か」
エドが一瞬キョトンとする。
「どっちでも良い。第二次でも第三次でも」
俺もその話にイラっときて、ぶっきらぼうに返してしまう。要は精霊大戦が起きるのが問題だ。
「最悪その可能性があるって事だな。実は港町ニールに私が来たのはそれが理由だ」
「買ってる奴がこの町にいるのか?」
「いや、最近特にここで野盗が増えてるからだ。色々調べているが確証がない。だから捕まえて少しでも情報を吐かせようと思ったのだ」
「なるほどな」
そこまで言うとエドの言葉が途切れる。
そして今手元にあるグラスの酒を一気に煽り、また話始めた。
「ところでアーク。その肉体はダークという事は、ダークと同じ事ができるのか?」
ん? 話が変わったぞ。
「ああ……可能だな」
「気配察知もダーク並みに可能なのか?」
「ああ」
何だ? 何が言いたいんだ?
「なら依頼しても良いか?」
「依頼? 野盗を縛り上げ情報を吐かせるのか? 残念ながら尋問は得意じゃない。ダークならできそうだがな」
「いや確証がないので、攻め込めなかったが、本丸を調べて欲しい」
「つまり買い取り先は、一応掴めてるのか?」
「ああ」
なるほど。
ダークの気配察知能力なら、そこに忍び込んでも人に見つからないように立ち回れると考えたわけか。それにダークは気配を隠すのが上手い。
勿論俺もこの半年で、それを上手く使いこなせるようになった。
「とある屋敷に忍び込んで欲しい」
そう言ってドカっと袋を置く。やっぱり忍び込むのか~。まあ別に良いけど。
依頼って言ってたし、その袋は依頼料かな?
中身を確認した。ふむ……500000Gか。って、どんだけ出すんだよ!!??
かなりの大金だぞ。三人家族が贅沢しなければ三、四ヶ月は遊んで暮らせる金額だ。流石王様パネェな~。
「良い情報を掴めたら更に同じ額を出す。依頼を受けてくれないか?」
「良いぜ」
どうせ俺はこういう事でしか金を稼げないしな。って言うか、成功報酬もあるのかよ。マジで王様パナイっす。
「それで場所はどこだ?」
エドは地図を広げ、ある島を指差した。
「ここに生体実験の研究所があると目されている場所だ」
「こんなとこに島があったんだな」
「ああ……だが前までは無人島だった。しかし今は大きな屋敷が建っている。だからこそ尚の事怪しい」
確かにそれは怪しいな。俺もこんなとこに島があるとは知らなかったしな。
VRMMOのFFOをプレイしてる時もこんな島はなかったしな。
無人島という事はゲームに関係ないから星々とやらはゲーム制作者に島の事を流さなかったのか。
星々とは元の世界では神のような存在で、このユピテル大陸を救う為にゲーム制作者にここの大陸の事を流した。
ゲーム制作者は、そうとは知らず、あたかも自分が思いついたと思い込みゲーム制作をしたらしい。
おっと思考がズレた。
「分かった……行ってみるよ。だが、どうやってこんな島に行くのだ?」
まさかこの為に態々飛空船ファルコンを引っ張りだそうってのじゃないよな?
「船を手配する。エルドリアの東に停泊させる」
ああ、船か。
「了解……ん? 待てよ?」
返事はしたは良いが一つ気になってしまった。
「なぁ……船で上陸するとこを見られるリスクがないか?」
見られたら、その時点で潜入失敗だ。
「それなら平気だ。島の西側は岩山になっている。そこから回り込めば、岩山の影で見られる事なく上陸できる。尤もその岩山まで見回りに来てる者がいたら終わりだけどな」
そう言ってエドは肩を竦めた。
「岩山か。分かった。じゃあ行ってみるよ」
そう言って依頼を受けたは良いが、大陸から離れた島だもんな。いざって時に逃げ場がない。俺一人だと危険かもな……。
その後、エドと軽く雑談をしながら飲み交わし――酒は最初の一杯しか飲んでいないが――ナターシャ達が待つ宿屋に向かった……。