EP.06 野盗が多くなって来ました
すみません。
風邪で更新を一日休んでしまいました
「じゃ早速ー……<隕石魔法>」
「マジかよっ!?」
港町ニールに向かって暫く歩き、家から大分離れた瞬間これだ。
勘弁してくれよ。エーコの最強魔法隕石魔法により隕石が落ちてきた。
お蔭でこの辺の地形はクレーターだらけ。凹凸が激しい。
記憶を無くしていた時の俺は異世界って事もあり、これが普通だと思って気にもしなかった。
それがまさかエーコの魔法だと夢にも思わなかったんだよな~。
歴史改変前の地形は荒れていた。草木一本生えず、地形変動が激しく、突如島が浮上したり沈んだりもしていた。
歴史改変後は地形変動等は一切なく草木が少しづつ生えてきた。
それじゃなくてもラフラカが精霊王の力――正確には癒しの精霊だった――を取り込んだせいでラフラカは精霊達を支配し大陸を破壊した。
それだけで大陸は分断されて面倒になったってのに歴史改変前は更に地形変動が起きてめちゃくちゃだったらしい。
尤も俺は歴史改変前は一ヵ月も外を出歩かなかったので詳しくはルティナから聞いたのだけど。
「<隕石魔法>」
俺は必死に隕石を避けたってのにまた隕石魔法を唱えてきた。エーコさん勘弁してくれぇ~。
「うわぁぁぁ~~」
態とらしく声を上げて俺は必死に避けた。
「<隕石魔法>」
またかよ! 歴史改変後は草木も生え始め大陸異常は出なくなった。だけどこの周辺だけは酷い。
「<隕石魔法>」
って、好い加減にしろー! どんだけ魔力持ってるんだよ。
ルティナが半精霊化できなくなったのでエーコが大陸最高の魔力保持者じゃないかと思うんだが、それでも限度があるだろ。それにその魔力を俺に使うなよ。
「あれー? アークはー?」
「流石はアーク。速いねぇ。どこ行ったか分からなくなったよ」
俺だって伊達に歴史改変後に一年ちょっと過ごしたわけじゃない。それなりに鍛えた。
ダークの体に振り回されるのではなく、使いこなし、それ以上の事ができるように、と。それと闘気の使い方について重点的に……。
闘気は攻撃の時に斬撃を飛ばす事以外にも出来た。腕に集中すればガードする時にダメージを減らせたり。
足に集中すれば、速く動けたり。元々ダークの体は素早さに長けていた。それに加え、闘気により更に速く動けるようになったのだ。
「こっちだ」
俺はエーコの後ろに回り込んで、小刀を鞘に収めたままエーコの首に当てた。
エーコがビクっとなる。
「……流石はアークだねー」
「『流石はアークだねー』……じゃねぇ。殺す気か? 隕石魔法を連発しやがって」
「大丈夫だよー。私の指輪があるでしょー」
エーコの指輪……エーコの母であるグランティーヌの形見の結婚指輪。それがチェーンに入れられ首からかけらて服の中にしまっている。
エーコも同じだ。歴史改変前に俺がつけていたダークの結婚指輪とエーコの持つグランティーヌの指輪を交換した。
そして歴史改変後に俺とエーコが同じ指輪を持つという不思議な状態になった。
この指輪には死に至らせるような魔法が飛んで来た時に大地系魔法の防御魔法が自動発動するように付与されている。
尤も条件を増やすと効果が薄まるので、この付与されている防御魔法は、魔法には強いが物理には弱く、自動発動するようにされている。
「そういう問題じゃない」
俺は小刀を引っ込めエーコの頭にチョップした。
「いたーい」
「戯れが過ぎる。それに指輪に付与された防御魔法が発動してもエーコの最強魔法だろ? ぶち破るっての」
確実にぶち破る。ギリギリ受け止めても魔力多めの火の鳥バージョンの中位火炎魔法や氷系上位魔法くらいだろうな。
上位稲妻魔法は、対象が一体という効果範囲が狭い分、威力が高いのできっと防げない。と言うか試したくない。
下手するとエーコの魔力が高過ぎて上位系は全部ダメかもしれない。
「はーい」
エーコがチョップされた頭を撫でながら返事をする……が、どうせまたするんだろうな。だからこそ、ここ等一帯はクレーターだらけなのだ。
そうして俺達は再び歩き続けて昼頃に港町ニールに到着を目前にした。
「ふ~……やっともう直ぐ着く。誰かさんのせいで疲れた」
言うまでもなくエーコだ。
「アークが悪いんだよー」
ぶーたれてるし。そこがまた可愛い!
「いやいや、やり過ぎだから」
「私の……ひ、ひ、秘事を覗くのが悪いんだよー」
耳まで真っ赤にして何言ってるの? しかも覗いたんじゃない。扉が開いていたから見えたのだ。
「そうだねぇ」
おいナターシャよ。君も見たんでしょうが。
「ほんとアークってスケベだよねー」
「だねぇ」
二人とも酷くねぇ? 毎回こうだ。二人に言われたい放題言われる。
それにしても今向かっている港町ニールは、それなりに活気があるんだよな。尤も歴史改変前と比べてだけど。
歴史改変前は、ギリギリの生活で精力的に頑張ろうと言う気力もなかったのだろう。
それに下手に町の外に出れば、ルティナ曰く地形変動に巻き込まれたりもしたらしい。
ルティナ程、歴史改変前と歴史改変後を詳しく知る者はいないだろうな。
俺は一年ナターシャの家で療養を行い、外に出て一ヵ月もしないうちに過去に飛んだ。だから、外の事は詳しく知らない。
そして歴史改変後は、多少マシになっており精力的に頑張っている感じがした。
それでもやはり資源不足は否めないのが、町の住人……いや、大陸全土で苦しいとこなのだろう……。
「ひひひ……よー! にーちゃん、金になりそうな物と女を置いていきな」
港町ニール直前で下卑た笑いをする者達が現れた。野盗だ。人数は七人。
ほんと歴史改変後は多いんだよな。歴史改変前は大半の人が悲惨な生活で、そんな事しても実にならかった。が、歴史改変後は、少しマシな生活になったので実になるだろう。
さてどうするか……?
・たたかう
・にげる
・さくせん
・アイテム
では、にげるを選ぶか。
「分かった。女を置いて行く。好きにしな」
好きにできるものならな、と胸中ほくそ笑む。
俺は汚らわしいものを見る目をしてるエーコと軽くキレてるナターシャの肩を掴み前に出す。
「へっへっへ……にーちゃん、物分かり良いじぇねぇか」
にしても噛ませにしか思えない台詞を吐くな。
「や~っておしまい。スケさん、カクさん」
「何を言ってるんだい?」
「まーたアークがくだらない事を言ってるよー」
ナターシャとエーコに呆れられた。うん、分からないよね。このネタは。
「なーにウダウダやってるんだ! 女共こっちこいやー!」
野盗さんよ、キレるの早いよ?
そうしてドカドカ大股で歩きエーコの前まで来て腕を掴む。
「ぎひひひひ……オレは若い方が好みだな。叔母さんはてめぇらにくれてやる」
また下卑た笑いをしている。てか若いの十歳だよ? ロリコンですか? いくらこの世界は成熟が早いとは言え、せめて成人した十五歳にしなさいよ。
しかも叔母さんって……ナターシャが怒るよ? てか、もう般若のような顔になってるし。怖っ!!
でも、エーコの腕を掴まれているし、ナターシャはエーコの獲物だと考えて、グっと堪えているのかな?
エーコとは言うと尚、汚らわしいものを見る目になっている。まあ年頃だしね。
「<中位氷結魔法>」
いきなり中位かよ!! 手を掴んだ野盗を中位氷結魔法で凍らせる。
「き、貴様! 何しやがってるっ!?」
他の野盗が怒鳴る。
「何って見て分からない? 言われた通り女を差し出したんだけど? その女を捕まえられないお前らが無能なんじゃない?」
「んだとぉー!」
ふふふ……伊達に一年引きニートやってたわけじゃない。ネットだからって調子乗ってイキってた頃もあった。その癖で、ついこういう時に煽ってしまう。
「なーにドヤ顔しいるのさぁ。あたいらに押し付けておいて」
「そうだよー。アークもこの人達もえっちなのは変わらないしー」
二人とも酷いな。特にエーコ。君は何かとそれだな。性欲は今ではナターシャのが強いんだから、ほんと勘弁してくれよ。
エーコにそう言われるとなんかヘコむ。だが、それがまた可愛いっ!!!
「野郎ども、やっちまえ!」
残りの野盗が動き出す。
「エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス……」
ナターシャが矢のない弓を構え魔力の光の矢を六連射した。三人の野盗の両足に突き刺さり、すっ転ぶ、
「「「ぎぁああああ……」」」
「うるさいねぇ。男だろ?」
いや、あれは痛いって。
「下位火炎魔法、下位氷結魔法、下位稲妻魔法」
エーコは下位火炎魔法、下位氷結魔法、下位稲妻魔法を連続で撃ち出す。三属性使う意味あるのかな?
下位火炎魔法が当たった野盗は燃え盛り倒れる。
下位氷結魔法は、氷の塊が顔面に直撃して気絶して倒れる。
そして、下位稲妻魔法が直撃した者は、感電して倒れた。
一瞬で七人片付いたな。
「まったく最近多いねぇ」
「だねー」
ナターシャとエーコが嘆息した。確かにここ一ヵ月くらい野盗や人攫いが多い。
「おい! 何が目的だ?」
一応聞いてみるか
俺は唯一意識があった下位火炎魔法を食らった野盗の襟首を掴み問いただす。
ちなみにナターシャがやった三人は痛みからなのか気絶してしまっていた。
「だ、だから……金と女」
「あっそ!」
まあまともに答えないよな。俺、尋問とか得意じゃないし。と言うわけで、そいつを小突き気絶させた。
「よし! トドメを刺したぞー」
「あんた何もしてないじゃなかい」
「アークっておいしいとこ取りしようとしてせこいよねー」
軽い冗談なのにマジ返し勘弁してください。そうして野盗達を縛り上げ、全員ひとまとめする。
最初に中位氷結魔法で氷漬けにした野盗はエーコが下位火炎魔法で溶かした。
流石に野盗ごときを殺しても仕方ないしね。で、引っ張りながら港町ニールに運ぶ。
「何で俺一人?」
俺は一人で七人を引っ張ってる。
「男なんだから力仕事は任せるさぁ」
「お願ーい! アークお兄様ー」
これが二人の弁。
エーコのお兄様というのは三ヶ月前に、たまにそう呼んで欲しいと俺がお願いしたものだ。エーコにそう呼ばれると天に昇るようなウキウキになってしまう。
お兄様と言われながらねだられると、何でも言う事を聞いてしまうなと言ってしまったばっかしに、こういう時にばかり言ってくる。
だが、それが良い!!
俺はヒャッホーとか思いながら港町ニールに野盗七人を引っ張って歩き出した……。