EP.02 悪徳かもしれない商会を追いました
同じ時間を何度も繰り返す奇怪な事件に巻き込まれる一週間前くらいの事だ。俺はいつものように仕事をしていた。
俺の仕事の大半は護衛だな。ダームエルが、かつてダークに護衛の仕事が合うと勧めていたが、俺がダークの体を乗っ取ってから、その仕事をするなんて皮肉な話だ。
他にはたまに荒事もある。野盗を退治したりとか。勿論殺しはしないがな。勢い余って殺してしまうなんて事は、たまにやってしまうが。
ゲーム時代に残酷描写を散々見て来たしFFOはリアルなので、ぶっちゃけ忌避感は薄れている。なので、記憶を失ってた時みたいにゲーゲー吐き散らかす事はない。
それでも俺は引き籠りのコミュ症だ。最初は戸惑いばかりで、まともに仕事なんて出来なかった。
なので、ナターシャの薬の売買の手伝いとかやっていたな。
しかし、ナターシャやエーコと暮らすようになり少しづつ改善され、今では護衛もまともに出来るようになって来た。
でだ、護衛と言ってるが何の護衛かと言えば商人だな。たまに雇われ商人を護衛し危険な動物や野盗から守る仕事だ。
最近じゃ気配完知で、危険なものから極力避けるようにしてる事が、商人通しで話題になり商隊を組み護衛をさせて来たりする。金払いが良いから別に良いんだけど。
その護衛で港町ニールから船でイーストックスへ――航路は安全だけど――イーストックスからツートックスへと護衛をしている。
今はツートックスへの道中だな。
「止まって。人の気配がする。野盗とは限らないが、面倒を避ける為にやり過ごした方が良いだろう」
前方数百mで人の気配が数人したので、商隊長に制止の言葉を掛けた。
「了解だ。全員止まれ」
商隊長は即座に全体に指示を出す。
「いつも助かるよ、アークさん」
「いや、仕事だからな」
「アークさんを雇える時は、商隊でまとめて移動出来るから、安上がりなんだよな」
「俺もその分の金貰えるから有難い」
「お互い儲けて良い感じですな」
「ウィンウィンだな」
「うぃんうぃん?」
「お互いおいしいって事だ」
「そうですか」
「さて、念の為に後ろを見て来る」
俺はそう言って後方へ歩いて行った。とは言え馬車での移動ではないので、最後列なんて数m程度だ。
この資源不足のご時世で馬車なんて持っているのは、よっぽどの金持ちの道楽だけだ。商隊とは言え商人が十数人列になって歩いてるだけである。
「問題ないか?」
「ええ」
最後尾の者にも声を掛ける。元引き籠りコミュ症には、最初ハードルが高かったが、今では仕事として割り切り声を掛けられる。
全員確り護衛しきって町から町へ移動しないとお金にならないからな。もし足を痛めたとかで遅れても困る。
やがて前方数百m先の人の気配がなくなった。
「よし! 進もうか」
「了解だ。全員進むぞ」
商隊長に声を掛けて再び歩き出す。
それから四時間くらいでツートックスに到着した。もう日が沈み掛けている。
「到着だな」
「ああ。いつもありがとうよ」
「仕事だしな」
「リリックさん」
「ん?」
リリックとは、たった今まで俺と話していた商隊長だ。その商隊長に一緒にやって来た他の商人が声を掛ける。
「あれ」
その商人が指差す。
「またか」
「どうした?」
気になり聞いてみた。
「ああいや、アークさんに言ってもしょうがないんだが、最近レディック商会が幅を利かせていてたな」
「悪徳商会なのか?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ最近やたら利に聡くて必要な物資をどこよりも用意しやがるんだ。まぁギリギリ売れるような高値で売ってるから、そういう意味では悪徳だがな」
そう言って肩を竦める。
「つまり、商売上がったりって事か?」
「ああ。こっちより物資を早く調達されるもんだからな。噂じゃ目端の利く者を迎え入れたとか」
「そうなのか」
そんな会話を最後に護衛代を貰い商隊とは別れた。
にしてもレディック商会か。少し気になるな。悪徳ではないと言っていたが、もし何かインチキしてるなら潰して起きたい。
まあ商人はどうでも良いのだが、此処はフィックス領。エドに不利益になる連中は好ましくない。とは言え、エドに俺の存在を教える事は今の所ないのだけど。
それでも歴史改変前は世話になったしな。
が、リミットは三日か。まあ一日や二日余計な事をしていても問題ないな。此処から全力で帰れば一日で帰れるし。少し調べるか。
そんなわけでレディック商会とやらを張った。露店販売をしてるようだし拠点は此処ではないのだろう。
そうして夜になると店仕舞いをして宿を取り始めた。俺も同じ宿を取る。
そして早朝宿に併設された酒場で果実水をチビチビ飲みながら再び張る。酒は好きじゃないしな。
やがて商会の連中が宿を出て行く。俺は気配を消し後を着けた。するとツートックスを出て南東に向かって行く。
南東に何かあるのか? 東南東ならイーストックス、北東ならエルドリアがあるけど南東には町はないんだけどな。
そう思っていたら、一軒の建物が有った。こんなとこに私有地か? まあ良いや。気配を消し侵入して見るか。
目端の利く者とやらがいるなら拝めるかもしれないしな。所詮噂だが、煙のない所に火は立たないって言うしな。
そうして、とある人物を発見した。丸眼鏡をしたモジャモジャ頭の青年を。目の下に大きな隈を作り、ひたすら大量の木札と睨めっこしていた……。