EP.42 アーク復活
中途半端になりそうだったので長くなりました
第九層
「ど、ドラゴン!?」
ナターシャは驚きの声をあげる。
決戦の間と言うべき、かなり広い部屋でドラゴンが待ち受けていた。
「これが最後じゃね? 広さは東京ドームくらいか?」
でもドームは分かるけど、東京って何さぁ? と、ナターシャは首を傾げる。
だが、そんな問答してる余裕は無い。先制と言わんばかりにドラゴンがブレスを吐いて来た。ダーク達はそれぞれ左右に飛び躱す。
ドラゴンが再びブレスを吐き出そうとして口を開けた。狙いは右に飛んだナターシャだ。
「<重力魔法>」
ドラゴンが立つ地面の重力を重力魔法で重くする。それによりドラゴンが地面に少し埋まり、ブレスの狙いが反れが天井に発射された。
次の瞬間、ドラゴンの口にナイフが三本入る。アークの投擲だ。
「ぐぁああぁん!!!」
ドラゴンは痛みによる叫びを上げながら、ナターシャに迫ってきた。そして爪で攻撃しようと腕を振り上げる。
「<重力魔法>」
重力魔法で自分の立つ地面の重力を軽くし飛ぶ。
「<下位氷結魔法>」
空中にいる時にアークがナターシャに向かって氷系下位魔法を唱えて来た。
ナイス! と、思いながらナターシャはそれを弓で受け止める。
「エレメント・フリージングランス」
ドラゴンの背中に魔法弓を放つ。
ピキピキ……!
しかし、少しだけしか凍らなかった。流石最強生物の一角だと、ナターシャは目を見張る。
ドラゴンは熟練した強者のパーティでも五人はいないと倒せないと言われている。そんなドラゴンにナターシャは初めて挑むのだが、今の攻防で厳しいと感じてしまう。
「<グラビ……>」
着地の衝撃を和らげる為に重力魔法を唱えようとしたがキャンセルした。
「よっと!」
アークが周り込んでいたからだ。やっぱりアークは素早いねぇ。と、感心する。
アークはナターシャを受け止め、そのまま地面に下ろす。ドラゴンは直ぐさま方向転換して迫って来る。
「エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス……」
魔力で構成された光の矢で牽制して、迫ってくるスピードを遅らせた。
……が、この程度じゃ効果低いよなぁ。と、内心ボヤく。
「よっと!」
アークはナターシャをお姫様抱っこして離れる。
ナターシャのスピードじゃ追い付かれるけど自分のスピードなら追い付かれないと判断したからだ。
ただ、お姫様抱っこされている方は恥ずかしがり頬を少し。それと同時にアークに抱えられ嬉しいと感じていた。
「エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス、エレメント・ランス……」
だが、喜んでいるばかりではない。アークに抱えられて離れる間も牽制し、倒す手を考える。
熟練した強者のパーティでも五人、だけど十一人の英雄なら二人いればで余裕で討伐できるらしい。でも、今のアークは記憶がないせいで本来の力を出せていない。困ったものさぁ。と、思うナターシャ。
「ドラゴンって強いな」
「そりゃ最強生物の一角だからねぇ」
アークは繰り返しているので、記憶がなくても色々知っている。でも、当たり前の事が知らなかったりもしてた。
なんともチグハグねぇ。と、思う。
「マジか。で、どうする?」
「アークがあたいにチューする」
「それするとどうなる?」
「愛のパワーで勝つ」
「……寝言は寝てから言え」
真顔でそう返されてしまう。酷いなぁ。そこまではっきり言わなくてもさぁ。と、思ってしまう。なので意趣返しをするで……、
「十一人の英雄なら二人で討伐できるらしいわ。頑張ってダーク」
と、言ってやった。
「……俺は記憶がないから、実力を発揮できない。それに二人いない」
五層ではダークが二人いたけどねぇ。さぁ軽口はこれくらいで真面目に考えるかぁ。そう思いつつナターシャは懐をあさり、お香を取り出す。
「アーク、これ嗅いで」
「これは?」
「素早さのお香と筋力のお香さぁ。素早さと筋力が上がるよ」
「ああ。エーコがナターシャは、そんなのを調合できるって言ってたな。と言うか、それもう薬師の範疇じゃなくね?」
それは良く言われる事だ。しかし、ナターシャの家系では代々受け継がれてきたものだったりした。それはともかくナターシャは、お香を取り出す時に思い付いた作戦をアークに伝える。
「……という感じでどう?」
「了解!」
そう言うとアークはナターシャを下ろす。その瞬間にはアークが消える。
ほんと速いねぇ。と、ナターシャは瞠目した。
バコ!
アークが右小刀の峰で横っ面を叩く。
バキ!
しかし、あっさり小刀折れちゃった。それだけ硬い皮膚してるなのだ。
それでも、筋力が増強されているし、闘気が籠めらているので、それなりのダメージがある筈。
と、思う二人。
「ぐぁああぁん!!!」
事実ドラゴンが痛みで口を開けて叫ぶ。
その瞬間、アークはその口に左小刀を入れると、突き立てて口が閉まらなくする。
ナターシャは事前にアークに炎系下位魔法を放って貰った弓を構える。
「エレメント・ファイアーランス」
魔法弓を放ち、それがドラゴンの口に入り、アークはその場から直ぐ離れる。口の中で魔法弓が爆ぜ、次の瞬間、ドラゴンは爆発した。
「勝ったー!」
ナターシャは片手を挙げた。
「だな」
パシーン!
今度は確りとハイタッチをした。
それにしてもアークは機転が効いたなぁ。と、ナターシャは感心した。
二度目のブレス攻撃をナターシャが阻止した瞬間にナイフを投擲したり、ナターシャが空中にいる時に氷系下位魔法を放ったり、魔力を温存させる為にナターシャの着地地点に先回りしていたりと。
人を良く見てるわねぇ。引き籠りのコミュ症の記憶を失ってるお蔭かしら? と、思うがナターシャだが、翌々考えると記憶を失う前から、アークは人を良く見ているのだ。
ただ、コミュ症故にそれを上手く表現できていなかっただけなんだと思い直す。
「今日は此処で休むかい?」
「だな……ちょっと疲れた」
ナターシャの言葉にアークは賛同する。
実際アークは動き周ってた。ナターシャは途中から抱えられていたし、下ろされた後も、その場から動かず弓を放っただけだし、アーク程疲れていなかった。
そして次の日、最深部に到達した。
最深部
部屋の中央に魔法陣があり、その向こうに魔導書がある。その横に石碑があり、魔導書の更に向こうには別の魔法陣があった。
石碑には奥の魔法陣は帰還用とだけ書いてある。
ナターシャ魔導書を読み、暗記し部屋の中央にある魔法陣に向かう。
魔法を習得する為には精霊契約が必要。その精霊と契約するには言霊と媒体となる魔法陣が必要なのだ。
正確には言霊必要無い。ただ集中力を高め精霊と契約するんだと、自分に暗示を掛けるものだ。まあ言霊無しだと余程の集中力が必要で、早々に契約なんてできないのだけど。
そして真に重要なのは魔法陣。これは精霊と交信する為に必要。まぁ自分で地面に書いても良いのだが、お誂え向きにこの部屋に魔法陣があるので、ナターシャは其処の中心に立った。
「<記憶を司る精霊に呼び掛ける。我が声に耳を傾け賜え……>」
魔導士に書いてあった契約の言霊を唱え始めると、ナターシャの周りの空間が蠢く。精霊の騒めきと呼ばれるものだ。
「<……記憶を呼び覚ます力を与え賜え>」
最後まで言霊を言い終えると、上昇気流が上がる。無事に精霊と契約ができた事を意味する。
「じゃあ、アーク。行くわさぁ」
「おう」
アークが少し緊張した声を出す。
「<記憶復元魔法>」
ナターシャはアークの頭に手を添え記憶復元魔法を唱えた。
「あ、ああ……」
アークが放心状態になったかのように掠れた声を漏らしながら、フラフラしだす。
「どう?」
ナターシャも緊張してしまい上擦る声が出る。
もし記憶が戻らなかったどうしよう。
もし記憶が中途半端だったらどうしよう。
もっと最悪なのが、魔法が失敗で記憶を余計に破壊してしまったらどうしよう。
と、ナターシャは悪い想像ばかり膨らます。そして、不安から先に口を開き……、
「記憶はもど……きゃ!」
いきなり腕を掴まれ引き寄せられる。そのまま強く強く抱きしめられた。
「……すまねぇ」
ただ一言アークは発する。
それだけで伝わり、ナターシャは大粒の涙を零し、暫くワンワン泣いてしまう。ナターシャが泣き止むと、ゆっくりアークが離れる。
「悪い……脳はかなり疲弊してる。やすまな……い………」
最後まで言えずアークは倒れその場で寝てしまった。次の日、目覚めたが記憶が戻ったばかりで、まともに会話ができずほとんど寝ていた。
いや、アークの感覚では記憶を戻ったと言うより、色んな記憶を頭に一気にぶち込まれたと言う感じなのだ。それ故に脳が疲弊し切っていた。
そして更に次の日、帰還用の転移の魔法陣の上に乗り地上に戻った。ナターシャが家を出てから十三日後の事だ……。