EP.40 初めては叔母さん
少し長いです
ダークは体が動くようになると、先に言った通り再びナターシャを狙わず去って行った。
仮に襲って来てもアークが万全な状態で戦えるようにナターシャは、中位回復魔法で治療しておいたの応戦は可能だったであろう。
また上位回復魔法で治療が必要が必要な程、酷い傷ではなくて良かったとナターシャは安堵した。ナターシャは、中位魔法までしか使えないのだから。
そして、まだ内心興奮が止まらない。まさかダーク同士の戦いが見れるなんて、と。
両者一歩も引かず良い戦いをしていた……筈。筈というのは、ナターシャの目には追えなかい程に二人共超スピードで動き回ていたのだ。
しかし、いつまでも余韻で浸ってる場合でないとナターシャはかぶりを振る。何故ここにアークがいるのかを確認しないとならない。
「それでアーク、あんた記憶が多少戻ったのかい?」
「全然」
あっさりと答える。
「じゃあ何であたいを『さん』付けで呼ばず普通に話してるのさぁ?」
「ナターシャにそうしろと言われたから」
はい? 思ってたけど言ってないけど? なんか要領得ないはねぇ。と、ナターシャは首を傾げる。
「……えっと、まずは俺から色々言って良いか?」
「どうぞ」
おずおずとアークが言い出す。
そうよねぇ。あたいとした事が焦ってしまったなぁ。まずアークから事情を聞いてわからない事を質問すれば良いのよねぇ。と、思い直しアークを促す。
「俺は実は最短で一週間、最長で二週間すると、俺の部屋のベッドで目覚めるとこからやり直してる。つまり同じ時間を繰り返してる」
なんですと? 最初からぶっ飛んだ事を言い出してる。そんな事あるのか。と、ナターシャは目を剥く。
「ちょっと待って? つまりその繰り返してる中で、あたいが此処にいる事を知り、あたいに『さん』付けや敬語を止めろと言われたのかい?」
「ああ」
「じゃあ何で目覚めて直ぐ言ってくれなかったのさぁ」
「俺の剣見ただろ? 得意と言われている小刀なんて拙いにも程があっただろ?」
「えぇ」
確かにあれは酷い。弓使いの自分が使った方がマシな方だった。と、思ったくらいだ。
ナターシャもいくつか武器を扱った事がある。弓が一番気に入ったってだけで、他の武器を全く使えないわけではないのだ。一流でないにしろどれもそれなり扱える。
「そんな俺がナターシャに着いて行くって言って同行を認めたか? 認めたとしても危険だからって魔導士の村に置き去りにしたのではないか?」
確かにそれはあったかもしれない。と、ナターシャは得心が行った。
「それもそうねぇ……あ、最初に言い忘れたけど助けてくれてありがとうねぇ」
「気にするな。さっきも言ったがエーコのためだ」
ブチ! ひっぱ叩きたい。矯正したい。でも我慢するのよ、あたい! と、ナターシャは自分に言い聞かせる。
「ふふふ……随分エーコの事を好いてるのねぇ?」
エーコなら仮に間違いがあっても、何とか許せると思った。でもさぁこう目の前で、はっきり言われると腹立つなぁ。と、内心かなり憤慨していた。
「おう。一度目の時、俺を文字通り命懸けで助けてくれたしな」
「え? アークの中の一度目ってエーコ死んだの?」
「まぁな。あの時の俺は自分の事で精一杯で戦いは全部エーコ任せだった。それで魔法が効かない魔物が出てな……俺がもっと早くこの体を使いこなす事を考えていればって今でも悔やむよ」
アークが哀しそうに天を仰ぐ。まぁ記憶をなくしていれば自分の事ばっかりになるし仕方ない。と思ったが、直ぐに何か引っ掛かる事を言ったので、ナターシャの思考がそっちに逸れる。それは……、
「魔物?」
「ああ。その話もしないとな。俺が目覚めて十日後に魔物が出現する。つまりもう出現してるな。サバンナではもっと早くに」
「なっ! じゃあ早く行かないと大変じゃないのよ」
ナターシャは慌てて踵を返し出口に向かおうとした。
「待った! 待った!」
それをアークが腕を掴み止める。
「最後まで話を聞けって……それをどうにかする為に此処に来たんだ」
そう言われナターシャは足を止めアークのに桃色の双眸を向けた。
「ナターシャってあわてんぼうさんだね。話を最後まで聞いて欲しいな」
ナターシャの顔がカーっとな赤く染まる。話の腰を折ってばかりで、色々焦っていると思い知らされたからだ。
「ちなみに今は六回目のやり直しなんだけどさ、それまでのやり直しで色々分かった事があって、ラフラカを倒した英雄のうち何人かが危険な状況だったんだ。俺……正確にはダークとエーコ以外で、ナターシャが知ってるのはエドくらいかな? そのエドが危険だったりとか」
そうナターシャが直接知っているのは、ナンパ王と内心呼ぶエドくらい。それと家で何かと話題に上がる動物避けのお香を渡しているルティナは名前くらいなら知っている。他の面々は名前を聞けば思い出すだろうと言う程度にしか話題上がっていない。
「勿論全部手を打った。エーコには大変な役目を押し付けたけどエーコに動いて貰って全員助けられるように考えた。でも、ただ一つ厄介な事があるんだ。それをどうにかするには、恐らく俺の記憶が必要」
「それは何だい?」
「記憶がないから、正確じゃないかもしれないが、魔物発生の原因になってる山よりも大きい生物の存在」
なっ!? 山より大きい? そんな生物どうやって発生するのさぁ。と、再びナターシャは目を剥く。
「にわかに信じられないねぇ……勿論アークの言う事だから信じたいけどさぁ。それで、それがアークの記憶にどう関係してるのさぁ?」
「さっき話に出てた生体実験をしてる屋敷。爆破前にダークに依頼を出したか、その準備をしてたようだけど」
「なるほどねぇ。其処でアークは何か重要な手がかりを知ったと?」
「何回も繰り返すうちにその可能性に行きついた。だから俺も此処に来た」
「分かったさぁ、アーク。じゃあ一緒に最深部まで行くかい」
実は一人は寂しかったのよねぇ。エーコの方を気に入っていてあたいの事をなんとも思っていなくともアークが一緒にいるのは嬉しいねぇ。と、内心喜ぶナターシャであった。
「じゃあ出発するか」
「でも方向がわからないさぁ」
現在森の中の階層。木ばかりでゴールが見えない。
「ゲームでさ、毎回思う事なんだけど……」
またげえむとやら? とは、思うが、その知識はバカにできない。ナターシャもそれで抜けて来た階層あった。
「何でこう言う森で木に登れないんだって」
そう言ってアークは木をピョンピョン飛び、木々を登り始めた。そして暫くして下りて来た。
「登れれば方向が分かるのに……と言うわけでこっち」
アークが指を差す。その方向に進むと暫くして六層への梯子が見えた。ちなみにアークは捨てた剣を確り回収していた。
流石アークねぇ。げえむとやらの知識は凄いなぁいや、今回は違うかぁ。げえむにケチを付けた結果ってわけねぇ。と、内心感心やら呆れを感じるナターシャ。
第六層
最初に目に入ったのはベンチ。どうやら庭園のようだ。左側に閉まった扉……七層に繋がってると予想できる。
ベンチの三mくらい前に剣、盾、槍、斧を模したオブジェがある。
何で弓がないのさぁ。それだけでナターシャは、イラっとして壊したくなっていた。
そのオブジェの前には木々が生い茂ってる。ベンチの横に石碑がある。
アーク達は、それに気付き読み始める。『兎を作れ』と、描かれていた。
それだけ? どういう事? と、首を傾げるナターシャ。
アークは、それに気にする事なくスタスタ歩き出し……、
「ふ~」
そしてベンチに座る。
そうかと思ったら立ち上がりオブジェをイジり始める。するとゴゴゴ……という音を響かせ木々が動き出した。
結論から言えば、ベンチから見て木々の並びから兎を見えるようにすれば良いのだ。
「ゲームではド定番の仕掛けだな」
最後にそう言って、七層への扉が開く。其処に例の如く梯子が掛かっていた。
その梯子をアークが先に下り始めるが、顔を赤くしていた。どうしたのだろうかと、ナターシャは思ったが、自分がミニスカートだと言う事を思い出す。
ナターシャは、アークの後を追うように梯子を下りているので、下にいるアークはチラチラと、スカートの中を覗いていたのだ。
エーコばかりと思ったけど、あたいもちゃんと意識してるのねぇ。ちょっと……いや、かなり嬉しいかも。と、ナターシャはニヤけてしまう。
第七層
この階層は単純。人が四人くらしか並べられない狭さの通路をひたすら歩き、一定間隔にいるガーディアンを倒すというだけの仕掛けも何もない階層だ。
三体くらいアークと一緒にガーディアンを倒した後、今日は此処までにしようという事で、休息を取る事にした。
「ねぇ、アーク?」
「ん? なんだ?」
「さっきスカートの中見てたでしょう?」
「はっ!? なななな、何言ってるんだよ? んなわけないだろ?」
顔真っ赤にしちゃって可愛いなぁ。中身は15歳だけあり純朴なんだねぇ。と、増々ニヤけてしまうナターシャ。
「良いさぁ……見ても」
そう言ってナターシャは、スカートをたくし上げた。
「良くないだろ? スカート下ろせよ!」
アークは、目を反らすがチラチラ見ている。あまりに初心な反応に可愛いと思い、そこでナターシャの理性は吹っ飛んだ。アークを押し倒してしまう。
アークが四日寝込んで、ずっと我慢してた。それ以降も記憶がないし、エーコに目が行っていたので更に我慢した。
そしてダーク。死ぬではなかと恐怖が沸き上がていた。これも吊り橋効果って言うのかもしれない。死を感じる極限状態でアークが来てくれたのだから。
アークはあたいよりエーコのが良いと思ってる。と、ナターシャは分かってはいる。それでも我慢できなかった。
「……初めてが叔母さんかぁ」
コトを終えた後、ボソりアークが呟く。
DT意識が強いアークだが、ナターシャとコトに及んでいたのなら、その記憶はあって欲しいと思った。しかし、襲われるとなると話は別だ。例え達したとしても自分からは何もしていないのだから。
ペッシーン!
ナターシャは、思いっきり平手打ちしてしまう。
ナターシャは分かっていた。今のアークに取っては叔母さんだって事は。それでもコトを終えて夢心地だったのに気分を台無しにされ、手をあげてしまった。
「いってー ……事実だろ? 一回りは年上なんだぞ」
はっきり言うな。それに一回りじゃない、10歳だ。と、更に腹が立ちナターシャは、アークに馬乗りしてしまう。
「どうせあたいよりエーコが良かったんでしょう?」
あーあ。あたいも何言ってるんだかぁ。頭では分かっているけど、色々ぶちまけたくなってるわねぇ。と、そう思いながらナターシャは、ボロボロと涙を溢す。
「ああ、そうだよ。肉体が父親だから手を出せないのは分か……ぶへっ! ぐっ!」
今度はグーで殴った。それもタコ殴りだ。
「ぐへっ! ごはっ! ぐふっ!」
どうしてもナターシャは、止められなかった。涙も止まらない。
「やめろ!」
アークは、殴られないようにナターシャの両手首を掴まむ。
「もうアークはあたいとの関係分かってるでしょうっ!?」
そこで堰を切ったように叫ぶ。魂から叫んでいるように、魂からアークを求めているように。悲痛の叫びが七層の通路に木霊する。
「……ああ。ダークとの会話で察してる」
「ならっ!」
「でも、俺には記憶がないんだ。心が着いて行かない。他の周回でもお前は俺との関係を教えてくれなかった。心からそう思えないなら言いたくないって」
「分かってるさぁ。それでもあたいはあたいは……」
そこでアークが優しく頭を引き寄せ胸元で抱いた。
「悪いと思っている。でも、もう少しだろ? 此処で俺の記憶が戻るんだろ?」
「それでもあたいは我慢できなかったの!」
「………」
「………」
それ以上お互い何も言わなかった。いや、次の言葉が見つからなかったのだろう。
ただ……、
「ねぇアーク? これ何?」
硬くなってるものが当たってる。
「……生理現象だ」
顔を赤くし、そっぽ向きながら答える。またそんな可愛い顔させられたら我慢できなくなるじゃない。と感じるナターシャ。
「は~~~」
二回戦後、大きな溜息を付いて、げっそりとしたアーク。
それに比べナターシャは、お肌がツルンツルンになるような気分で眠りに付き始めた……。